帝国
目の前に帝国が見えてきた。
道中これといったことはなかったのでスムーズに帝国まで来ることができた。
かかった時間は約二日。まあ最高速度で飛ばしたわけではないので距離が遠いわけでもなく、近いわけでもなく、至って中間な感じの道だった。
「治くん、あれ見て、お城の周りに人が集まってるよ。」
「ほんとだ、あの色合いから見るに楽しげな雰囲気は感じ取れるが……」
楓が言った方を見ると、少し小高いところに建っているお城の周りがピンクや黄色で染まっているのが見える。一瞬何事かと思ったが、よく見ると人々の持っている紙で作った花の飾り、それもかなり大きめのものが大量に飾られているのが見えた。
「確か今日は満月の日なので、毎月恒例の望月祭じゃないですか?」
「……私も、そう、思う。」
琴美とルピナスが続けて発言する。
この世界では満月というものが重要視されている。
なんでも、昔魔族と人族の全面戦争が起こった時に満月の日は戦わないという約束が結ばれたほどだとか。
理由は様々言われているが、とにかく、この望月祭というのはそれほど重要な祭りだということだ。
「今日は帝国に入り次第自由時間としようと思うんだが、いいか?」
「それがいいと思います。この人混みの中を全員で歩くのは少し大変でしょうし。」
「私も賛成!!これで自由に屋台で食べ歩きができるしね。」
「……私はどちらにしろ治と一緒にいる。」
「じゃあひとまずはそれで決定な。」
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ようやく俺たちの番がきた。
関所では身分の証明できるものを提出した後、入国料を払うだけでいい。
ここで大抵の人は神殿でもらったクリスタルやギルドのカードを使って身分を証明するらしい。
「ようこそ帝国へ、身分を証明できるものと入国料の提示をお願いします。」
鎧を纏い、槍を構えたTHE門番な感じの人が声をかける。
入国料は一人当たり青銅貨二枚。非常にお得なため帝国には商人がたくさん集まり、経済も潤っているらしい。
ここから分かるようにこの国は経済的に非常に豊かで、絶えず新しいものが生まれ続けているらしい。
流行の最先端たるこの街には他の街とは違い、商会や商業ギルドと言ったような商売組織が多数存在する。が、お互いが邪魔することや市場を独占するといったことは法律で禁じられており、どれも素直に他の店より売り上げをあげることを目指しているので、互いに切磋琢磨するような関係にある、というのもこの国を豊かにする一因としてあげられる。
以上にあげた二つの法律または制度だが、書籍にはこれらが作られたのは去年のことで、現第1皇女が夕食の際に呟いた案が元となっていると書いてある。
いや、どの世界にも雑学辞典ってのはあるんだな。
まあ何がともあれ、俺はこの制度について非常に引っかかっている点がある。
だってこれ日本で織田信長が施した政策とかぶってるから。
結構有名な織田信長は、戦争の面ではもちろん、経済の面でも色々した。
代表例が『関所の撤廃』と『楽市楽座』の二つ。
これと同じことをするということは第1皇女は相当頭が切れる、もしくはこの政策を知っていたということになる。
もし後者だった場合、俺たち以外の地球出身の人がこの世界にも存在することになる。
これは警戒しておく必要があるだろう。
やはり、この国についての情報は本で取り入れたものだけだとつかめていないものが多くありそうだ。こういう場合はギルドに行くのが正解なんだろうか。
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◇視点リアナ
顔いっぱいに風を受けながら馬車が走る。
最新型の補助魔道具をつけた馬が引くこの馬車はあっという間に王都を抜け、従来の馬車だと一週間かかる帝国までの道をわずか3日で渡ってしまう。新聞によるとどうも効率のいい魔力の使い方が発見されてこれまでの約2倍の魔力を空気中から取り込めるようになったとか。
魔術の進歩は目覚しいものがある。
さまざまな研究者がさまざまな魔術を研究し、その結果として私たちの生活が豊かになっていく。
でも、一つ忘れてはいけないことがある、と私は思う。
その研究者が必ずしも報われるわけではないのだ。
研究の途中で命を落とすもの、本質を理解してもらえずに捨てられるもの、
そして、
他の人の嫉妬から命までも狙われてしまうもの。
「はぁ〜」
昔のことを頭から追い出すかのように大きくため息を吐く。
その後、両方の頰を2回ほど叩くと、気持ちを入れ替えるかのようにピシッと背を正す。
が、3秒も経たずに次の不安が頭を横切り伏し目がちになってしまう。
次の目的地である帝国はそれほどに億劫な場所だった。
ギルドは一つの国の組織というわけではない。そのため沢山の国に支部があり、唯一例外である魔人の国を除けば、どんなに争いが続いている国同士だとしても、ギルドは存在する。それほどに国という組織から独立しており、ギルド自体が領地を持たない国と言い換えてもいいだろう。
でも、国に縛られないギルドだからこその面倒ごとがある。
例えば国を渡るとき。
今の王国と帝国の仲は過去最悪と言っても過言ではない。そして、そんなトップ同士の仲が悪い両国だからこそ、国民もお互いを嫌っている。そんな関係の中、組織に縛られないギルドは遠慮なく私を王国から帝国へ派遣した。
もう、いじめられる未来しか見えてこない。
この時のために買っておいた『プロ直伝!!リア充になるための会話術!!』をもう一度開いて自己紹介の練習をする。
「はじめの自己紹介が肝心……頼むから自己紹介中はでてこないでねお姉ちゃん達……」




