罪滅し
「ルピナス、今のは……」
不意に意識が現実に戻ってきた。私はすぐにルピナスに問う。
「私の記憶……ごめんなさい、私はお母さんを助けられなかった。私のせいで……」
ルピナスは俯く。何かを堪えるような口調はルピナスの思いを察するのには十分なもので、楓はそっと抱きしめる。
ルピナスは少し驚いた後、すぐに私にもたれかかるような姿勢になった。
「私もね、あっちの世界ではお母さんが死んでたことになった時はすっごく苦しかったの。私がその場にいても何もできないことはわかってるんだけどね、なんか一人にされたような気がして寂しくって苦しかったんだ。でもね、お母さんが言ってたんだよ。『自分を責める時は自分ができることをやらなかった時だけにしなさい』ってね。あっちの世界で『自責の念』って言うのは一般的には後悔とか罪悪感の意味を持つんだけど、お母さんはそうは考えなかったんだ。」
幼い頃にお母さんから聞いた話。
「……どうやって考えてたの?」
「お母さんはね、『できないことはできるようにすればいい』って言う言葉が好きでね。できないことに対して責めるのは筋違いだって言うことを言ってたんだ。お母さんは常にそのことに心がけていてね、誰に対しても同じ姿勢で向き合った。自分に対してもね。だからお母さんはできないことをできなかった自分を後悔はしても責めることは全くなかった。つまりお母さんにとって『自責の念』って言うのは後悔とは違って罪悪感から自分の中で自分を責めて罪滅ぼしにしようと考えてるだけなんだよ。」
塞ぎこむのは実に簡単なこと。でも、塞いだところを開くのには力がいる。
「……でも、私はできることをやらなかった。すぐにポーションを持っていけばよかったかもしれない。」
「だったら責めてもいいかもしれない。でもね、『責めてもいい』と『責めなきゃだめ』は全く違う。私は、どうせ罪滅しをするなら目に見える形でやったほうがいいと思うな。」
「目に、見える?」
「責めて得るものは自分の中でしか役に立たないし根本的な解決にはなっていない。だったら、自分の犯した罪の犠牲になった人のために動こうよ。」
私は願う。お母さんが私に残した女の子が、私の妹が、ルピナスが幸せに暮らせることを。だから笑って言う。
「お母さんの力になってあげようよ、私たち娘だよ!」
ルピナスのあげた顔はもう影なんて存在してなかった。目尻に雫をためているけど、そんなのはこの子の笑顔には何のマイナスにもならない。自分で言うのもアレだけど、私と瓜二つなんだもん。
「うん!」
ルピナスの涙が、誰かを潤すことを私は願う。
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(『自責の念は罪滅しでしかない』か、楓のお母さんには会ってみたかったかもな。)
治は楓の言葉に感激した。楓の言葉には不思議と重みがある。この前のサイラの件の時もそうだった。
「ルピナス、行くあてがないなら俺たちと来るか?」
少なくとも俺とルピナスには共通点がある。『大事な人を守れなかった』と言う共通点が。別に傷の舐め合いがしたいわけではない。ただ、一緒に自分の罪と、後悔と向き合いたいだけだ。
「ルピナスがさっき楓に使わせた魔法、アレはお前のオリジナルだろ?」
少し感情が豊かになったかもしれないルピナスがキョトンとする。うちの彼女さんと同じ顔なだけに少し危なかった。
「何でわかった?」
「仲間になるなら詳しく教えるが、俺はこの世界の全ての魔導書を読破した。そしてお前の使わせた魔法、と言うか記憶操作系の魔法は存在が確認されていない。古代の魔導書も全て見たがなかったぞ。『魔法創作』でも持ってるのか?」
「私が持ってるのは『魔法改造』、お母さんの『魔法創作』を『譲渡』してもらったから少し劣化しちゃった。」
「確か『魔法改造』は骨組みを変化させることはできないんだろ?せいぜい形を変えたり威力をあげたり程度だと思ってたんだが。」
「私は骨組みは変えてない。闇属性精神操作系の<洗脳>を改造しただけ。」
「どうやってやった?」
「<洗脳>は術者が絶対だと信じ込ませるために自らの思う感情を植え付けて相手のそれ以外の感情とくに嫌悪などを切り捨てる。お母さんの書庫から感情は脳で生まれると言う記述を見つけた。そこで私は闇属性は脳に影響を与えられるのではないかと仮説を立てた。<洗脳>の感情を植え付ける部分を記憶を植え付けるように上書きして感情を切り捨てる部分を削除した。」
天才かよ、誰も思いつかなかったぞ。
「それなら<挑発>魔法とか作れそうだな。ルピナス、やっぱ一緒に来ないか?」
こいつを仲間に入れるのはでかいぞ。
「琴美ちゃん、琴美ちゃん。治くんがうちの妹をナンパしてるよ。」
「そ、そうですね?」
「おい、聞こえてる。ダメージが大きいから影でこそこそしててくれ。」
「そっちの方がダメージは大きいのでは?」
と言う俺の『対時空神計画』は仲間には理解してもらえなかった。
「まあうちの妹は私と同じ顔だからね。違うのは性格ぐらいかな?あれ、もしかして私ピンチ?!」
ほら。
「オサムの仲間?」
「ああ、絶対に楽しいぞ。」
「なる、楓の仲間になる!」
思ったより食い気味だな。まあ、期待の新人ゲットってところか。
「そうだルピナス、お母さんの部屋に言ってみてもいい?」
「いいけど、96年前から片付けてないよ?」
今ナンテイッタ?
「お母さんが転移させられてから100年は経ってるし結構埃かぶってるだろうから、マスクはつけてったほうがいいよ?」
「「「100年?!」」」
もうちょっと謎は残ってるらしい。
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