もう一人の楓
「楓か?」
そこにいたのは楓と全く同じ顔の少女だった。髪の毛はピンクに、瞳の色は日本人離れしたヒスイ色になっていたが、見間違えることはないいつも見ている顔だった。
「あなた……だれ?」
少女は呟く。俺は当然困惑するわけで、間抜けなことに自己紹介をしてしまう。
「俺は治、村上治って言うんだ。君は?」
確かに間抜けだが、名前を聞き出すのに自然な流れで持って行けたのはファインプレーだな。
「……ルピナス」
「ルピナスって言うのか?」
「私はルピナス、今井菫の娘。」
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俺はすぐにルピナスを野営地の楓のところに連れていく。
(今井菫……なんで楓の母親の名前が出てくるんだよ!)
治は混乱していた。今井菫とは楓の母親で10年前の事件で行方不明になった人だからである。
(こいつの言ってることが本当だったら楓の母さんはどうやってこっちに来たんだ?)
俺は野営地に戻ると、すぐさま目覚まし用のブザーを鳴らす。どうってことないと思う人もいるだろうが、実際に経験してみるとわかる。これは脳に神気の波動を送って音を感じさせるものだから、周りの人には迷惑をかけずに狙った人だけピンポイントで目を覚まさせる。ブザーのボタンはハンドル近くにあるので女の子の部屋に入らなくても起こせるという優れもの。ベットと連動して起き上がったら止まるという目を覚まさせるのに特化したもので、音の大きさは大体だが蒸気機関車を5台ほど耳元で走らせた感じだろうか。
今は大体1時半(夜中)なので、当然起こされた方は迷惑だ。楓は不機嫌さを一生懸命アピールするために懸命に頬を膨らませる。可愛いだけである。
「もう、今眠ってたんだけど?」
「すまん、だがお前に関係があることだ。」
そういって俺はルピナスを呼ぶ。最初は不機嫌だった楓もルピナスを見た途端に表情が変わる。
「嘘……私?」
「こいつはルピナス。今井菫の娘だそうだ。」
そう言った途端に楓の驚きは頂点に達した。
「お母さんが……お母さんがここにいるの?!」
楓はルピナスに聞く。どこか希望のこもったそんな声音だった。
「お母さん?あなたのお母さんは私のお母さんなの?」
「私は今井楓、今井菫の娘だよ!」
すると今度はルピナスの顔色が変わる。
「楓……あなたが楓?お母さんのもう一人の娘?」
ルピナスは驚きの混じった声をしている。
「あなたはどうやってこっちにきたの?」
「勇者として召喚されたんだ。まあ今は色々あって王国から逃亡してるけど。」
「楓、私はあなたについてきてほしい場所がある。」
「え、どこいくの?」
そういうとルピナスは森に向けて走っていく。そのスピードは常人離れしており、楓は神気による脚力強化をしてから追いかけていく。『迅速』でも持っているんだろうか。
俺は琴美を起こし、『ムラクモ』で走っていく。万能カーナビで楓の位置は把握しているので、追いかけるのは簡単だ。琴美は最初ひどく混乱していたが、非常に優れた理解力ですぐに思考を追いつかせてきた。琴美は地頭はすごくいいのである。
障害物透過のおかげで楓に追いつくのは容易だった。まあ、ルピナスには驚かれたが。
俺たちはそのまま30分ほど走る。楓は途中で『水龍』を使い出し、少しルピナスが可哀想になったのでサイドカーを出し、乗ってもらった。
「驚いた。これはあなたが作ったの?」
「ああ、かっこいいだろ?」
「あなたもこれが作れるのね。」
「他にも作った人がいたのか?」
「職業:錬成師だったお母さんが。あっちの世界では有名な移動手段だって言ってた。」
これにはすごく驚いた。錬成師が執筆は持っていないだろうから、チートスキルを使わずにエンジンからフレームまでを一から作り上げていたんだろう。
「あなたも錬成師?」
「いや、俺は『錬成』スキルを持っているだけの小説家だ。」
「小説家もこんなものが作れる?」
「俺は作れたが他は知らんな。」
「そう」
ルピナスは少し感情が乏しい気がする。まるで人形を相手にしている気分だ。楓はそれとは正反対なので、少し新鮮で面白いと思ってしまう。
「ここら辺」
ルピナスが言う。俺たちは乗り物を止め、髪留めや時計に変形させる。
おりた場所は森の中にポツンとある木々の全く生えていない更地だった。が、不思議なことにここには神気が全く存在しなかった。
「ここには気を寄せ付けない特殊な結界が貼ってあるの。お母さんの研究所が魔法で無理やりこじ開けられないように。」
そう言ってルピナスは手を更地の中心にかざす。するとかざした部分が上昇して人が一人入れそうなエレベーターのようなものが現れる。
「一人ずつ。」
ルピナスはそれだけ言うと手招きをする。俺たちは楓→俺→琴美の順に乗り込むことを決め、一人ずつエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターは随分深い場所で止まった。エレベーターのモニターに書かれている深さの表記は日本語だった。
エレベーターのドアが開く。そこにあったのはたくさんの魔道具だった。
「ようこそ、お母さんの研究所へ。」
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