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プロローグ

初めてです 緊張してます。

楽しんでいただけたら幸いです。

あぁ、俺は死ぬのか。


あたりは暗闇、たまに聞こえる獣のいななき、脇腹から流れる生暖かい液体、

その全てが自分の死を確信させるのには十分すぎるものだった。


「くそっ、ここでも俺は肝心な時に行動できないのかよ。」


頭をよぎるのは日本での暮らし、


「楓、ごめんな。」


俺は、愛する人の名をつぶやき、意識を手放した。

ほんと、ついてない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一週間前…


「楓!先に行ってるからなー!」


第一高校2年、ラブコメのネタにちょうどいい高校二年生の俺、村上治(むらかみおさむ)は、最愛の彼女さんに出発することを伝える。


「待ってーー‼︎」


彼女というのはこのひと今井楓(いまいかえで)

黒長の髪に色白の肌、整った顔立ちに淡いピンクの唇。

読者モデルとかやってても不思議じゃないほどの美貌の持ち主。

ほんと、なんで俺なんかの彼女やってんだろ。勿体無い。

そうこうしてるうちに後ろから走ってきた。


「もぅ、待っててくれたっていいじゃん。」


慌てていたのか、少し髪をはねさせ、

少し頰を膨らませながら言う。めっちゃ可愛い。


「何言ってんだ、お前体力測定で女子トップだったんだろ?

 中の小みたいな立ち位置の俺が全速力で走っても追いつくんじゃないか?」


はねた髪を手で整えてあげながら俺は言う。

そう。楓は頭脳明晰、運動神経も抜群。

それに比べて俺は全てに関して中の小。

ほんとにほんとに、なんで俺の彼女なんてやってんだろ。


「はぁ、完璧な彼女を持つと彼氏としてのメンツがなぁ」


「あー!またそんなこと言ってる!この前だって白鳥園で国語教えてくれたじゃん!」


あぁ忘れてた。国語科教師だった母、小説家の父を持つ俺は国語だけは満点を

逃したことはない。

『だった』と言うのは俺の母が10年前に起きた、『A市内高校同時爆破事件』に

巻き込まれたからである。母思いだった父は、幼い俺を育てることはできないと考え、

俺を孤児院である『白鳥園』に預け、一人で事件の真相を確かめに行った。

楓と出会ったのも白鳥園で、楓の父と母も『A市内高校同時爆破事件』の犠牲者だったりする。この事件は奇妙なことに一つも死骸が出ていない。さらに爆破の直前に大きな地震が発生したこともあり、A市民は恐ろしい、気味が悪いと言い、関わりたがらなかった。


「いい?私は学校の違う治くんと少しでも長く一緒にいたいの!だから二人で登校しようって行ったのに。先に行くなんてもう許さないからね!」


「はいはいわかりました。ところで第三高校は次の三校合同祭では何すんだ?」


楓は成績もいいので無事に第3高校へ入学できた。第三高校はA市内一位とも言われ、

簡単には入れない。それこそ普通の中学なら、トップ10には入らないと厳しい。ほんと彼氏を軽々超えてくる。


「ふふん♪な・い・しょ♪」


三校合同祭と言うのは同じ系列の第一高校・第二高校・第三高校が集まり屋台を出したりする、いわゆる文化祭だ。


「おいそれはずr「かえでちゃーん」」


おい神様、反論ぐらいさせてくれ。

こんなナイス(?)タイミングで声をかけてきたのは左右のツインテールを八の字に

振り回して走ってくる楓の親友でクラスメイト、ついでに俺の幼馴染の鈴木美嘉(すずきみか)


「おはよう美嘉ちゃん。」


「おはよう楓ちゃん。」


少し茶色がかったツインテに大きな目、少し子供っぽいところは否めないがそれなりの美少女。元気系女子。


「美嘉、走ってくるのはいいが朝なんだから声をもう少し落とせ」


「あんたには関係ないでしょ!この文学男子!」


「頼むからそのちょっと真実をかすってくる、なんとも言えないあだ名で呼ぶのはやめてくれ。」


はぁ、これだから幼馴染は扱いにくい。嫌がるところを徹底的に攻撃してくる。

俺が受けた傷を気にかけていると後ろから救世主の声がする。


「美嘉、やめてやれ。」


「おぅ、孝介か。」


高見堂孝介(たかみどうこうすけ)一言で言えばイケメン。

心も顔立ちも全てが美しい。

イギリス人の祖父の血を濃く受け継ぐその姿は金髪青目のザ・イケメン。

第三高校にファンクラブもあると言う、これまた楓のクラスメイトで俺の幼馴染。


「孝介が言うなら仕方ない。」


しぶしぶだが、美嘉も引き下がる。

さすがイケメン。やっぱり違うな。なんかこう、漂うものが。


「治くん、もう歩道橋だよ。」


分岐点の歩道橋についたことを楓が伝える。早いもんだな。


「じゃあ、また三校合同祭の打ち合わせでな。」


「じゃあな、治」


「じゃあね、治くん」


「……」


はぁ、なんか悲しいな。

いや美嘉が無言だったことを言ってるんじゃなくてだな。絶対にそうじゃなくてだな。

なんかこう、一人だけ違う学校だと寂しいんだよ。


「はぁ〜」


盛大なため息を吐くと嘘のように重くなった足を進める。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一人の時は絶対読書だ。本ってなんでこんなに魅力的なんだろう。

トボトボ歩いていると校舎が見えてくる。

俺は急いで下駄箱に行き、上靴にはきかえる。今日も少し濡れている。

ここにはさっきまでの楽しかった空気はもうない。


楓たちには黙っているが、俺はいじめを受けているんだ。


「おい村上ぃ、今日も彼女ちゃんと仲良く登校かぁ?羨ましいなぁ」


坂口龍太(さかぐちりゅうた)、もといボウズゴリラ。

あだ名のとうりの風貌。いわゆるガキ大将。

クラスに入った途端に俺の目は色を失う。


「犠牲者の分際でいい思いしてんなぁ、早く別れて俺に紹介しろよ」


犠牲者というのは『A市内高校同時爆破事件』で死んだ人や家族を失った人を差別する言葉である。本当に理不尽であるが、あの事件の直前に発生した大地震で遺族をなくした方は、あろうことか怒りの矛先を事件の犠牲者に向け、差別したのである。

楓の場合は人気があるため、いじめられることはほとんどないが、俺は違う。

こいつは、俺が犠牲者であること、美人でそこそこ名の知れた楓と付き合っていること、この二つを理由に俺をいじめている。ここはさすがガキ大将というべきか、それはみるみるうちに伝播し、今ではクラスのほとんどの人がいじめに加担している。


「坂口くん、そういうのは感心しませんよ。」


唯一味方をしてくれるのは、学級委員長を務める周防琴美(すおうことみ)

ふんわりと毛先のカールしたショートカットの黒髪に大人っぽい美人顔、というか色々なところ(どことは言わないよ!)から大人っぽい色気を醸し出す。

人当たりがよくとても優しい。

面倒だからという理由で押し付けられた三校合同祭の実行委員のペアを快く引き受けてくれた人でもある。なぜか俺を気にかけてくるが、周防自体がそこそこの美人であることが災いして、より一層いじめをひどくしている。もちろん本人はそのことに気づいていない。


「村上くん、今日の実行会議ですが、3・4限目に自習の時間が設けられ、その間に行われるそうですよ。」


「そうなんですか。ありがとうございます。」


坂口の舌打ちが聞こえたが、周防の相手をする。周防の大人っぽさが、なぜか俺の使う言葉をいつも敬語にさせる。


「初めてですから顔合わせもあると思いますし、失礼のないよう頑張りましょう。」


「はい。」


この嫌な空間から逃れるという意味でも、早く楓に会いたいな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は今、大好評落胆中。

第三高校に行けば嫌な時間は終わると思ってたのに。


ーー あれ第一の生徒だぜ ーー


ーー えっほんとだ ーー


ーー バカで有名な? ーー


ーー 聞こえちゃうよぉ ーー


ここまで扱いがひどいんだな。どうせこの状態で楓に会ったらもっと陰口叩かれるんだろう。




はぁ、この世界に俺の居場所はあるんだろうか?




ドゴオオォォォン‼︎‼︎






それは俺が楓たちのいる教室に入った直後だった。慌てて周防を抱きかかえた。

目の前には楓たち2年A組の生徒32名と第二高校の実行委員6名がいた。

俺たちを囲む橙色の炎を前に俺はバカなことを考えた。



ーーー どうせ一緒に死ぬなら腕の中にいるのは楓が良かったな。 ーーー




視界が白く塗りつぶされていくことに不思議と恐怖は感じなかった。


この日、A市内の第三高校のある教室が爆破された。

それはまるで、10年前の事件と全く同じものだったという。


誤字脱字、文法上の誤り等々はご指摘ください。


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