九尾の狐
「魔獣……じゃないな、妖怪か?」
出てきたのは金色の綺麗な毛並みをした九本の尻尾を持つ狐で、ルビーのような澄んだ紅の瞳が美しい。有名な九尾の狐だった。妖怪とは、自身のコアが妖気でできている獣で、霊気だと霊獣、神気だと神獣と言うように名前を変えるのである。妖怪ほどの存在になると言語を理解できるようになり、念話などで話しかけてくることもある。まだ発動していた神眼でぼんやりと影って見えるので、闘気より強く魔力より弱い影の存在と推測し、妖気だとわかる。
『せっかく天災級の魔獣を見つけ、それを隠れ蓑にして人間たちから逃れてきたのに、お主はなぜ我がここにいることがわかった?』
あれ……この人(獣?)なんか勝手に説明始めたよ?
『どうせお主も我の肉を食らう為に来たんだろう……我の肉が強い浄化作用を持っているからという理由で……』
「え、そうなの?」
ガチで知らなかった。まだ妖怪に関する文献が読めてないんだよ……賢者の書もちゃんと有効活用しなきゃな……
『え、知らないの?それ目当てで僕のところに来たんじゃな……来たのではないか?』
少し口調が乱れたな。別に無理して謎の強キャラ感出さなくていいんだけど……
「とりあえず、俺は銀狼の試験でこいつを討伐しろって言われただけで、別にあんたを狙う気はないから安心して。」
『え!銀狼さんの試験なの?!』
「ああ、銀狼にストーンタイガーの討伐を依頼されたんだ。」
俺が何気なく答えるが、途端に九尾の狐は震えだす。
『銀狼さんの依頼……もしかして銀狼さんにバレたとか?いや、ちゃんと妖気は消してるし天災級の魔獣という隠れ蓑も利用したし……でもあの化け物のことだから気づいたのかな……銀狼さんには会いたくないなぁ……よし!ちょっと君、じゃなくてお主、ここで見たことは決して他言するでないぞ。』
もしかして銀狼の知り合い?相当怯えてるけど、銀狼が何かしたのかな?でもそれよりもいちいち口調が面倒だな。
「あの……無理して口調変えなくていいよ?」
この言葉を後で後悔することになる。答えた途端狐の目がクワッと開かれたのだ。
『ならば力尽くで黙らせる!』
「会話しろよ!言葉のキャッチボール!」
少し訂正。きっと他の言葉でもこうなっただろう、こいつに届く言葉はもうない。なんて面倒な……
『ゆくぞ!』
突如始まる戦闘。俺は『ハバキリ』を構え、触手のようにうねうねとそれでいて正確な尻尾の攻撃を迎撃する。その尻尾は妖気をまとっており、いかに本気で俺を黙らせようとしているかがわかる。
(本気のこいつに今の俺は勝てるのだろうか?神気を広げている分もう妖術は使えないはずだが、単純な戦闘能力でも天災級は軽く超えるだろう。安心してはいられないが……)
『そうか、お主は我が妖術を使えないと思っているのだな。』
俺の心の声に答えるような声が狐から放たれる。俺は神眼を凝らして狐を睨むと、その答えがわかったような気がした。奴はスキルを使っていた、能力から考えると『読心』あたりだろうか。
そう俺が考えていると狐の口角がつり上がる。次の瞬間だった。岩壁が粘土のような柔らかい動きをして一本の触手が生まれる。そしてそれは一瞬のうちに『ハバキリ』を持つ右手の自由を奪い、治は武器を手放してしまう。
俺は妖術が使えないことから、すっかり注意を怠っていた。だが狐は神気を使い壁を操作した。考えれば簡単なことで、人が修行をすれば神気を扱えるようになるように妖怪も修行をすればいいのである。さらに、妖怪の場合、潜在的な神気(妖気)の力は闘気よりはるかに神気に近いので、修行の期間は人間より短くていい。『直感』を使っていなかったのは迂闊だった。
『銀狼さんの修行を20年耐え抜いたんだ、神気ぐらい使えて当然だ。』
兄弟子ということか。じゃあ尚更負けたくないな。
『じゃあ、少し眠っていろ。殺しはしないから安心するがいい。』
狐はゆっくり近づくと尻尾をこちらに突き出してくる。まだだ、後少し……
「いまだ!」
俺は叫ぶ。すると、バイクとサイドカーを改造した腕時計が変化する。青と黒の長針と短針が伸び、やがて一直線になると、それは手首からふっと消え、俺の左手の中に現れる。その頃には文字盤もベルトも無くなっており、青色の刀身に黒色の柄という色が時計だったことを伝える。『ムラクモ』である。
俺は神気で強化された尻尾を軽く受け止め、切り裂く。
『ッッ!!』
『ムラクモ』で手にまとわりついていた岩をきり、『ハバキリ』を拾い上げると俺はいまだに不思議そうな顔をする狐に言い放つ。
「『ムラクモ』のモデル、『アマノムラクモ』は草薙剣とも言われててな、炎を容易く切り裂いたんだ。そこでこれには『気を切り裂く』が付与されている。」
『それじゃあ、僕の神気は……』
「これの前では意味をなさない!」
俺は『二刀流』を使い、尻尾を撃ち落としながら狐に近づく。
『僕も終わりかな……』
狐がつぶやく。当然だ、圧倒的な不利なんだから。だが俺は無益な殺生を好まない。俺は『ハバキリ』を構え唱える。
「銃形態」
すると、『ハバキリ』は光に包まれて銃に姿を変える。俺は弾を確認すると狐の首筋に向けて放つ。距離が近かったのでそれは狙いどうりにあたり、狐は静かに眠り始めた。この弾は『赤鈴蘭』の汁を入れたゴム弾で、簡易麻酔弾として作り上げた。勘違い(?)が過ぎたこいつも悪いが、殺すほどでもないだろう。俺はまだ回収できていない虎の素材を回収しようとして
『治!大丈夫か!』
過保護な銀狼さんに事情を説明しなければならなくなった。
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