読解スキル
狼とまともに向き合ったのはいつぶりだろうか。
初めての動物園で一つ一つに時間をかけて回っていたとき以来かもしれない。
ガウゥゥゥゥ
白銀の狼が一歩踏み出すごとに俺の鼓動が速くなる、すると目の前の狼はその真っ赤な目をこちらに向けた。
『どのようにしてここまでこれた?』
不意に頭の中で声が響く。
その声の主が目の前の狼だと気づくのには時間がかからなかった。
「言語を理解できる魔獣か…ここには『神の加護』があるはずなんだが、なぜここにいる?」
精一杯強がってみる、ここで怯えると相手にこちらの力量が知れてしまう。
『お前こそ、ここには神の手により強力な幻術がかかっているはずだが、どうやってここまできた?』
『神の手により』と言ったな。となるとこいつは神獣か、神はこんな場所に何を隠したんだ?
「俺はただ光を追ってきただけだ。その神は何を隠している?」
『光だと、お前は見えるのか?』
「ああ、ついでに言うとお前からも見えるぞ、普通の人間のスキル使用時よりも濃く洗練されたものがな。」
『そうか、先ほど一緒にいた小娘たちも見えるのか?』
「琴美は……髪の短い方は感じることができるらしいぞ。」
『神気を感じることのできる小娘か……お前ら何者だ?』
「こちらこそ聴きたいな、お前は何を守っている?」
『答えられないな。だがまあ、こちらとしてはあれをみられるのはまずい。主人より人族には見せるなと言われているんでな。残念だが、あの二人を含めてここで死んでもらう。』
『死んでもらう』か。ここで普通だったらチート使って勝つんだろうが、俺は強くないからな。手を引くのが賢明か。
「俺はこの件には手を出さない、あの二人と一緒に帰るから命はやめてくれ。このことも口外しない。」
『こちらはそんなに簡単に人族の言葉は受け入れない。悪いが、死ね。』
そう言い終わると姿勢を前かがみにし、目に追えない速度で突進してくる。
治は狼が前かがみになった瞬間に危機を感じて横にずれたが、右腕には切り傷が出来ていた。
「ッッ!」
ほんの少しかすっただけなのに腕が燃えたと錯覚するほどの痛みが襲う。
切り傷に目を凝らしてみると、かすかに『あの光』を帯びていた。アイツのスキルだろうか?
魔獣というのは魔力を体内に宿している獣のことをいう。
前にも言ったが、スキルというのはこの世界にいる全ての魔力を宿すものが持っている。
そのため、『スキル解放』を持つ職業:魔獣使いはテイムさせた魔獣のスキルを解放してパワーアップさせることがある。こいつは神獣っぽいのできっと主人様の加護を得ているんだろうが。
考え事をしていると狼が口を開く。
『痛むか、やはりお前は何者なんだ?』
「何言ってんだ、傷つけられて痛まない方がおかしいだろ。」
『違う、かすり傷程度でそこまで痛むか、という意味だ。』
「お前が細工したんだろ、俺がまだ知らないスキルで。」
狼がまた動き出した。今度は高くジャンプし、俺を上から襲う。俺はとっさに木に隠れるが、それは無意味だった。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
木を爪で切断し、治に飛びかかった狼は横腹に食らいつく。
治は今まで感じたことのない痛み、生暖かい液体の感触にのたうち回った。
やはり傷口はあの光を帯びていて、言いようの無い痛みに治は何も言えなかった。
『この程度、お前は違うんだな。』
狼はそう言い残し、楓たちの方へ走っていく。
「まて……まてッ……」
遠くで獣の嗎が聞こえた。
「くそっ、ここでも俺は肝心な時に行動できないのかよ。」
思い出されるあの時の後悔。
「楓、ごめんな。」
治はそっと意識を手放した。
走馬灯をみた、目の前にあるのは幼い治と父の姿。
なぜか思い出せない父の顔。だが、どこか安心する雰囲気ですぐに父だと判断した。
『お父さん、僕ね、将来は小説家になるの!』
(俺は小説家になりたかったのか。よかったな、夢が叶ってるぞ。)
自分の幼い姿を見て皮肉しか出てこないのはどうかと思うが、その職業のせいで死にかけているんだから仕方がない。
『そうか、だが小説家になるには絶対必要なスキルがあるんだぞ。』
『スキル?』
『そうだ、スキルというのは力を意味する言葉でな。小説家には『読解』と『執筆』のスキルが必要なんだ。』
『どっかい?』
『『読解』はな、読んで理解する力だ。だが読解の本質は理解の先にある。読解とは理解したものを自分で使いこなす、自分のものにする力なんだ。』
『自分のもの?』
『そうだ、小説家は『読解』でものを理解して、それをもとに頭で思い描いたものを文字という形に『執筆』する仕事なんだよ。』
『難しいよ。』
『そうだな。簡単にいうと、『読解』は本に書いてあるものを自分のものにする力、『執筆』は頭の中で思ったことを形にする力だな。』
『僕も使えるかな?』
『早く寝た子には、神様がつけてくれるかもしれないぞ?』
『え!僕もう寝る!』
『そうか、おやすみ。』
『おやすみ!』
やり取りを見ていた俺は少し誇らしくなった。
(そうか、俺はこんなにすごい小説家になりたかったんだな。)
また白く染められていく意識を前にそう思うのだった。
意識が戻るとそこは例の森だった。
すると、違和感を覚える、傷が治っていた。
「なんだ、この光は?!」
そしてもう一つ、治のクリスタルが強い光を帯びていた。
慌てて確認する。
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治
職業:???
ユニークスキル:『読書』→『読解』
『作文』→『執筆』 etc.
エクストラスキル:『全言語理解(バント王国語理解は融合済み)』
『読書内容絶対記憶』 etc.
スキル:『睡魔耐性』
『速読(+EX)』 etc.
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職業が???になっている。
さらに、走馬灯でみたスキルもついている。『etc』と書いてあることから、読解スキルは父さんが言っていたような能力なんだろう。
傷が治ったのは『超速回復』あたりのおかげだろうか?
だがまあ、俺は十分チートだった、さあ楓たちの救助だ。
俺は『迅速』スキルを使い、走り出した。
なにこのチート、僕も驚いてます。
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読んでくれてありがとうございます。




