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過去と今の違いと決意

楓たちにはサイラの死に様を隠すことなく伝えた、自分の愚かさも全て。

楓は涙を流し、周防は悔しさ故か自身の愚かさ故か唇を噛み締め、爪の跡がつく勢いで手を握っていた。


「治くん、私でも治せないのかな?」


涙まじりの声、一瞬希望を持った顔を向けてくる二人。知らなかったら俺もこういう顔をするかもしれない。

だが俺は知っている、無駄だと言うことを……


「サイラは……自分の『命』を交渉材料にしたんだ、この世界の命は『魂』のことをいう、つまり器が治っても

もう中身がないんだよ……」


楓の顔に再び影がさす、それは昇ってきた朝日によるものではない。


治は後悔しかなかった。

自分が夕飯を王城で食べていたら…自分が強かったら…そして、自分が『逃げたい』と思わなかったら……


愚かにも自分は逃げたいと思ってしまった。『強制交渉』の強制力は命令とは違い、逃げたいなんて思わなければ

発動しなかった。治はサイラの死に激しく後悔した。今までにないほど自分を呪い、その目は光を失っていた。


(友よりも自分を選ぶなんて……最低だよな……)


わかっていたはずだった、日本にいた時からわかっていたはずだった。


(俺には誰も守れない……俺は守るべき人を持つことすら許されないんだ……)


10年前のあの日、俺は俺を守ってくれた人を失った。

途端に守ることが怖くなった。誰かのために行動することができなくなった、やらなくなった。

自分が弱いことを知っていたから……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

治は図書館で読んだ地図を記憶から呼び起こし、地球で読んだサバイバル術と太陽の向きを頼りに進んだ。

散々泣いた後、俺は楓たちと話し合い今後の方針を決めた。まずは隣の国を目指す、亡命だ。

バント王国の周りには3つの国が存在する。

陽昇の方角(この世界の東)にあるのが今回目指すホーガ帝国である。


「治くん、この実は食べれる?」


「……ああ」


露骨な場を和まそうという考え、楓はこんなところでもいつもみんなに安らぎを与えようとする。


(俺はこいつも守らなければならないのだろうか。)


守れるわけがない。出会って2日ほどしか経っていないのに、親友といってもいいほど仲良くなったサイラを守れなかったんだ。出会って2日ほどしか経っていない親友に守られていたんだ。


(楓を守るなんて、俺にできるわけがない)


10年近く共に過ごした大切な人、俺には荷が重すぎる。

周防と一緒に楽しそうに食べ物を集める楓の姿。いつもそばにいたその姿が、今日は少し遠いところに見えた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕食は木の実が中心で、肉はない。

この森には『神の加護』と言う結界が張っており、魔の者と人に危害を加えるものは近づけない。そのお陰か、獣類が見つからなかった。サイラの配慮かと思うと、胸が痛くなる。


「これ、治くんの分ね。」


焚き火で軽く炒ったどんぐりのような実を渡してくれる。

サイラの一件があってから楓の顔を直視できない、その無邪気な笑顔が罪の意識を吹き飛ばしてしまいそうで。


「治くんは優しいよね、いつも人のことを考えてて。」


「何言ってんだ……俺は、サイラを置いて逃げたんだ……親友よりも自分を優先したんだ……」


何言ってんだ楓、俺はそんなにできた人間じゃない。


「サイラくんはきっと、今の治くんと同じ気持ちになっていただろうね。」


「何?」


「治くんは気づいてないけどさ、じゃあなんでサイラくんは治くんを守ったのかな?」


決まってるだろ、そんなの、そんなの、


「サイラくんはきっとね、治くんがいなくなったら今の治くんぐらい自分を責めたと思うよ。」


「サイラは……俺の親友になったんだ……この世界、いや俺の人生で初めての親友なんだよ!それを俺は……俺は守れなかったんだ!俺には守る義務があるのに!」


「じゃあサイラくんも治くんを守る義務があるよね?」


親友だからじゃないか……


「私はね、自己犠牲は反対なんだ……大切な人を残して自分は死ぬ。そんなの、残された人が割り切れるわけないじゃん。本人にとっては本望かもしれないけど、残される側からすればただのエゴなんだよ。」


いつも見ているはずの楓の顔。

どこかいつもと違う楓の顔。

どこか懐かしい楓の顔。


(10年前と同じだ…)



10年前、

白鳥園で一緒になった女の子。両親を『あの事故』で亡くしたらしい。


『治くんって言うんだ、よろしくね。』


それが初めて交わした言葉。

なぜか人と関わりたがらない俺を必死で友達にしようとする。


『ねえねえ、なに読んでるの?』


『堕落論……』


『漢字もう読めるんだね、私なんて今日初めて漢字ドリル開いたよ。』


『本読んでるんだけど……』


どんなに冷たくされてもめげずに毎日話しかける。

ある日聞いてみたことがある。


『どうして……どうして俺なんだ?』


『君が私を読んでくれたから!』




今も、

「どうして……どうして俺なんだ?」


「それはね……君が私を読んでくれたから!」


とびっきりの笑顔。

無邪気で、なぜか俺が頑なに見ようとしなかった顔。


(なんだよ、何やってたんだよ俺、こんなにいい彼女もってるくせに、何に悩んでたんだよ……)


頰を伝ったものは、少し暖かかった。

評価ありがとうございます。

感想とかもどんどんお願いします。 ※私の心は脆いです。お取扱いにご注意を。

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