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サイラの戦い

『逃げろ治!』


サイラからの一言。

当然困惑するしかない、突然すぎる。


『王国兵が攻めてきたんだ!』


もっとわからない、だが心当たりがないわけでもない、いま『覚せい剤』騒動があったばかりだ。


『信じてくれ!』


「ああわかった。こちらにも心当たりがある。周防を治療しているからサイラは入ってこい。」


『治、鍵は7重にかけられている。開ける時間なんてない。幸い俺は『交渉』スキルを持っている。

 足止めしている間に逃げろ。』


サイラの声には有無を言わせない迫力があった、こちらには攻撃要員が一人もいない。それを考えると頼れるのは

『交渉』スキルだ。だが交渉スキルはあくまでも交渉なので命令と違い、相手も呑むことのできる条件でなければならない。危険すぎる。


「サイラ!危険だ、わかってるのか!」


『あぁ、承知している。裏口は王城外に繋がっている、行け!』


「何言ってんだ!今鍵を解除するから待ってろ!」


『無理だ!早く逃げろ、もうここまで迫ってるんだぞ!』


「やってみなきゃ分かんないだろ!」


『すまない治この手は使いたくなかったが、『交渉』……対象:治、楓、琴美…交渉材料:僕が軍を食い止める…報酬:治達の無事。』


「おい、何言ってーー」


『交渉成立』


迂闊だったサイラの『交渉』は覚醒済みであり、当然『強制交渉』も使える。

覚醒後の力『強制交渉』は、報酬が少しでも嬉しいと感じてしまうと強制的に交渉が成立してしまう。


『逃げ切れよ…』


「おい待てサイラ、行くな、サイラ!」


スキルの力で裏口に吸い寄せられるなか、必死にサイラに呼びかける。


(くそッ、俺は…肝心な時に何もできないのかよ!)


サイラは最後にこちらをちらりとみて微笑んだ。

弱々しい細い腕で重そうな剣を持ち、図書館にもしものことがあった時のためだと笑って教えてくれた大砲を準備し、一発撃つ。


ドオオォォォン!!


『いつ使うかわからないけどね』なんて笑ってたサイラの顔が脳裏に蘇る。


(なんだよ……すぐじゃねぇか。)


サイラは剣を構えて突進していく。

図書館の管理人を任せるために剣術を教えられたらしく、普通の兵なら倒せると言っていた。

俺は必死に目を凝らし、サイラの動きを追う。

5人倒した、その時だった。


「サイラッ!」


サイラの左の横腹を真紅の柄を持った王国兵の槍が貫く。サイラの横腹は柄よりも深い紅に染まる。

何もできないことへの苛立ち、王国軍への怒り、負の感情が自分を飲み込んでいくのがわかる。


サイラは歯をくいしばると槍を引き抜き柄の部分で兵士の頭を殴打していく。

が、相当の深傷らしく動きがふらついている。そんなサイラを次々と兵士が襲っていく。


兵士一人一人と戦えば戦うほど傷は増えていく。

左の横腹をかばった左腕を切られ、背中を切りつけられ、さらに右腕までも使えなくなった状態でも噛み付いていく。まだ階段を登れた兵士は一人としていない。利き腕でない上に傷を負った左腕で剣を持ち、兵士たちを切りつけていく。


一進一退の攻防が続く、俺の体が裏口に引っ張られ、サイラから離れていく。

サイラは左腕も使えなくなり、剣を避けつつ突進することしかできない。血が少なくなってきたのかフラフラなまま突進するが、当然すぐに立てなくなる。


そこに理不尽がやってくる、あの時の執事だ。

執事は目の前のもの全てが邪魔とでも言うように兵士たちを戦闘用の斧で一瞬で横薙ぎにし、道を開いてから倒れているサイラのところへ行く。すると、執事は手に持っていた戦闘用の斧を背中に戻し、15センチほどの刃渡りの小太刀に持ち帰る。すると、ただでさえフラフラだったサイラを切りつけていく。急所を外して(・・・・・・)、いたぶるように。


苦痛に歪むサイラの顔。防音であるはずの図書館にいながら、サイラの叫びが確かに聞こえる。

そんなサイラとは対象的に、喜びに歪む執事の顔。吐き気を覚える高笑いが聞こえてしまう。

執事のサイラをいたぶる姿に、何もできない俺は唇を噛み締める。口の中に血特有のサビっぽい匂いが広がる。


すると、サイラが輝き始める。

読唇術は使えない、だが俺はサイラの発した言葉がわかった。


ーー 『交渉』……対象:スリフ…交渉材料:僕の命…報酬:スリフの命 ーー


それがサイラの最後の言葉だった。

喜びに満ちていた執事がサイラに重なるように倒れる。


「クッソォォォォッ!!」


俺は走る、裏口に向かって。

後ろでは生き延びていた兵士が鍵を開けようとしている。


裏口を出たところには何も知らない楓と周防がいた。

途端に俺は涙を抑えられなくなる。


「なんだよッ…戦闘スキルもないくせにッ…俺と一緒のくせにッ…死んだら何も残らねぇじゃねぇかよぉッ!!」


裏口を出たすぐのところには森があり、治たちの姿を隠してくれた。サイラの最後の気遣いだった。

だが、その森には、友を失った者の悲痛な叫びを隠すほどの力はなかった。

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