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周防の奇行

「周防ッッ!!」


俺は急いで周防そばに行き、万年筆を取り上げようとする。

だが、周防手首を握ったとき、いつもと違うことを感じる。


「クッソ、なんだこの力!」


決して治が弱いだけというわけではない。案内の途中で10冊以上の本を持つこともできなかったいつもの周防とは比べものにならない。


治はギリギリで軌道をそらし、周防の腕に刺さることを避けた。万年筆は、とんでもない力で机に刺さり、机はその力に耐えられなかったのか足を折り、上に乗っていた花瓶とともに派手な音を立てて崩れる。


「何をやってたんだ?!」


少し怒号混じりで質問した。

あのまま刺さっていたら腕一本使い物にならなくなり、最悪の場合は出血多量で死んでいただろう。

せっかく同盟を結んだばかりだ。死なせるわけにはいかない。

だが周防は質問に答えるわけでもなく叫んでいた。


「来ないでッ……来ないでッ……来ないでぇぇぇ!」


周防は自分の体をかきむしり、何かを拒絶する。何度も引っ掻いたのか、首筋には少し血が滲んでいる。


「やめて…来ないで…やめてッ!」


耳を抑えてしゃがみこむ。まるで見えない何かに怯えるように。


「周防!何がどうなっている!お前には何が見える!」


「やめて……やめて……入ってこないで……」


先ほどの叫びとは違う消え入りそうな声、激しく腕をかきむしる音。


考えろ!考えろ!俺の持っている知識の中に何かないか!


俺の頭がうなりをあげ、すごい速度で記憶の中を探し始める、

その中で一つの記述を見つける。


“幻覚や幻聴、幻臭など五感に異常が現れる…”


周防は今なんらかの幻覚、幻聴を聞いている。可能性はこれが一番高い。


『覚せい剤』

幻覚や幻聴の症状が現れる、腕の中に虫が入ったと言い、アイスピックで自分の腕を刺すなんてこともあるらしく、先ほどの万年筆の事例、『入ってこないで』という証言と一致する。


これにより不可解だった力の増幅の謎もすぐに解けた。

この世界には『毒の森』というものが存在する。毒の森は汚染された魔力の溜まった場所で、そこで育つ植物を摂取すると体になんらかの変化が現れる。それは痛みが取れるというものから成長が止まるというものまで。

その毒の森で育った植物をもとに作った覚せい剤には力を大幅に増幅させるという特徴がある。


一体どこで?という疑問も生まれるが、その前に周防をどうにかしよう。

完治させるには最上級の毒ポーションが必要になる。だが、そんなものが手元にない今は気を失わせるのが最善で最速だ。


(何か眠らせる方法は……あれしかないか。)


思いついた瞬間、俺は花瓶に刺さっていた花を手に取り、口元をもう片方の袖口で押さえながら周防の顔の前で真っ赤な花を握りつぶす。

『赤鈴蘭』この世界にしかない花。握りつぶした際に出てくる水分は気化しやすく、少し吸い込むだけで深い眠りにつく。この世界の植物図鑑の記述である。

握りつぶしたあと、周防はすぐに倒れこむと規則的な寝息を立て始める。赤鈴蘭の液体は吸い込むと4日は眠るので、少しやりすぎな気もするが。


でもいつ周防は覚せい剤を摂取したのだろうか。勇者たちは城の外に出たことがない。さらにこの覚せい剤は摂取する時間にもシビアで同じ時間に摂取し続けなければならない。この混乱具合から2回は服用したことを踏まえると……


「楓が危ない!」


覚せい剤は夕食に混入されていたことになる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「楓!」


「どうしたの?治くん。」


拍子抜け、今の状況を的確に表した言葉である。夕食には入っていなかったのだろうか?

念の為聞いてみる。


「お前、なんか変なものが見えたりしなかったか?」


「あぁ、見えたけど『疲れてるのかな?』って思って治癒術の練習がてら本に書いてあった状態異常を治す術を使ったら治ったよ。でも、どうかしたの?」


あったわ、毒ポーションより効くのが。

俺はとりあえずの流れと、俺の推理を伝えた。自分が結構ピンチだったことを知ると、楓は青ざめた。と思ったら、


「じゃあなんで治くんは何もないの?」


楓と周防が同じ時間に同じものを食べていたことから、俺の推理に間違いはないはずだ。じゃあなぜ俺には何もないのか。確かに謎だ。


「とりあえず、今眠ってる周防を治すついでに起こしとこう、治癒術で。」


治癒術の状態異常回復は赤鈴蘭に対しても有効である。急いで周防を治療しに向かった時だった。


ピーンポーン


「楓、先に行っててくれ。」


誰だろう、サイラは今いないのだが……


「はいもしもs『逃げろ治!』」


まさかのサイラだった。

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