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ユーガリア戦記  作者: さくも
第2章 虹色の眼
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2-6「ダークエルフは血の気が多いと聞いたが、その通りのようだな」

 反乱軍の中でも、エリザについては一切の情報が秘匿された。もしルージェ王国側に、黒女帝の力を継ぐ者が現れたと知られれば、すぐにでも正規の軍が派兵されるだろう。それもクイダーナ地方の貴族たちなどではなく、王国の主力と戦うことになる。それに対抗する力はない。


 レーダパーラの虹色の眼(アース・アイ)に関しては隠しようもないので、スッラリクスは彼を兵の士気向上に役立てていた。とは言っても、砦の外にレーダパーラの存在が大っぴらに漏れぬように注意も払っていた。商人たちなど外部の人間が入っているときにはレーダパーラの話をさせないようにする、という程度ではあったが。


 スッラリクスとの話し合いで、ルイドの存在は明るみに出すことになった。ただし、レーダパーラと同様、砦の内部だけに情報は留める。虹色の眼の噂同様に、反乱軍に背徳の騎士が合流したという噂はすぐに広がるだろうが、それはルイドにとってはかえって好都合と言えた。魔都クシャイズの周辺で、部下が兵を集めているのだ。ルイドが存命で、何か事を起こそうとしている――。そのくらいの噂が流れた方が、魔都で兵を集めやすいはずだ。


 慎重に動いている。ルイドは反乱軍に関してはそう思った。慎重すぎるほどだ。

 そもそも反乱の発端は、税の取り立てに来た役人を打ち殺してしまったことにあるという。魔物に田畑を荒らされ、農地を捨てた賊が町を襲う。だというのに、役人は税を取り立てるばかりで、何度掛け合っても兵を出してはくれない。住民は税を払うのをやめ、冒険者や傭兵を雇うことにした。自衛の為である。魔物を倒し、賊を討ってもらい、彼らに報酬を払う。それで何とか回っていたところに、役人が税を取り立てに来る。


「税がなんだ、領主と言うが、リズ公が我らに何かしてくれたのか」


 町の若者が立ち上がり、それに雇われていた冒険者や傭兵が加わり、役人を打ち殺した。彼らは指導者を求めて、虹色の眼を持つレーダパーラを祭り上げた。スッラリクスは反乱に巻き込まれたのだ、という。黒樹(コクジュ)が百人余りのダークエルフを率いて反乱軍に合流したので、反乱軍の内部で、スッラリクスとレーダパーラの立場は確固たるものになった。


 魔物の討伐には兵を出してはくれなかったのに、反乱に対する討伐軍はすぐに派兵された。雇われ兵ばかりだった。ダリアードの町は何度も傭兵に魔物討伐の依頼を出していたので、彼らの一部を仲間に引き入れるのはさほど困難ではなかった。一度目は取り込む前に傭兵の裏切りが発覚し、討伐軍内で戦闘になってしまったが、二度目の際には親ダリアードの町派の傭兵たちに金を払い、指揮官だけを暗殺することで事なきを得たという。


 スッラリクスのやり方は慎重だが同時に狡猾だった。そして適切だった。

 討伐軍を二度にわたり撃退したという実績は、現在の統治に不満を持つ人々を集めるのに十分だった。家族ごとダリアードの町に移住しようとする者や、兵として志願を申し出る者が出てきた。ダリアードの町の人口は二倍以上になり、戦力として数えられる兵も五百人に増えた。町全体を砦化する時も得ることができた。ダリアードの町は柵で覆われ、その様相はまるで砦だが、その内部は恐ろしいほどに平穏だ。すでに町の人口は五千人を超えているはずだ。

 そして魔都クシャイズまで、騎馬でたった五日の距離である。歩兵でも十日で着く。

 最高の条件だ、と、ルイドは思った。

 後は、どうやってスッラリクスと黒樹を取り込み、魔都クシャイズを攻める軍勢に変貌させるかだった。


 エリザはレーダパーラと仲が良い。年頃が同じということもあるのだろう。町の中で良く駆け回っている。

 ルイドは虹色の眼に関してはあまり関心がなかった。変わった瞳だとは思うが、それだけだ。風王が認めようとも、虹色の眼をしているというだけで、レーダパーラには何の力もない。精霊を見ることもできないというし、反乱軍の実権を握っているのはスッラリクスである。ただ、レーダパーラが存在しているだけで、ダークエルフ部隊が味方に付くなら、利用価値は十分にある。

 ルイドにとっては、黒女帝ティヌアリアの力を継承したエリザが忠誠の対象だった。


 ダリアードの町についた翌日から、ルイドは練兵に付き合うことになった。スッラリクスに頼み込まれた形である。

 調練に当たっていた黒樹も、ルイドが練兵に参加することに異論を挟まなかった。


「英魔戦争のときは、同じ戦場で戦えることがなかったからな。ちょうどいい、腕試しをしよう」

 黒樹は、練兵場に顔を出したルイドにそう言った。


 ダークエルフは風の精霊術を得意とし、気を操る。人間離れした身体能力を持つ上に、精霊術が使え、その黒い肌は闇に溶け込みやすい。そういった特徴を持つことから、クイダーナ帝国時代、ダークエルフの部隊は皇帝直属の諜報部隊として活動していた。

 前線で戦い続けていたルイドたちとは違う戦場にいたのである。


「一騎討ちか、それとも集団戦か」

「一騎討ちで人間に勝ったところで自慢にもならん。たとえ英雄であってもだ」

「なるほど。ダークエルフは血の気が多いと聞いたが、その通りのようだな」


 睨む黒樹に、ルイドはどうやって兵を分けるつもりか訊ねた。


「ダークエルフ部隊と、それ以外で分ける」

「ダークエルフは百人ほどしかいないはずだが」

「百対四百。そのくらいのハンデがなければ戦いにならんだろう」


 ルイドは少し悩んだ。いくらダークエルフの方が人間や、人間と魔族の混血よりも力が優れているとはいえ、四倍の兵力差では勝って当然、負ければ良い笑い種になる。


「半分で良い。その代わり、人員はこちらで選ぶ」

「後で吠え面をかくなよ」


 勝負は翌日、昼の鐘を合図とする。刀剣類の使用は禁止で、代わりに棒を用いる。矢は矢じりのついていない物のみ。砦内での市街地戦とするが、屋内の利用は不可。そういうことで、話はまとまった。


 ルイドは四百人の兵士を集めた。ほとんどが人間と魔族の混血だった。中には魔族だと言い張る者もいたが、精霊術は使えないという。精霊術が使えないのなら、少しばかりガタイのいい人間と変わらない。


「いくら騎士様だって、たった倍の兵数でダークエルフだけの部隊を相手にするのは分が悪いんじゃないですか。あいつら、本当に強いんですよ」

 意見してきた兵もいた。ルイドは「それじゃあ、お前は参加しなくていい」と言って数から外した。


 まずルイドは馬に乗れる者を集めた。二十名いた。彼らを連れて厩に行った。

 厩には三十頭ほどの馬がいた。反乱に際して、町中の家から馬をかき集めたという感じだった。老いて走ることさえできそうにない馬もいる。ルイドはその中から、マシな順に兵に与えていった。


「騎兵は組織していなかったのだな」

「戦うにしても、防衛戦になるだろうからと、弓の訓練ばかりしておりました」

「なるほど。今日から騎馬隊を組織する。もし守りに入るにしても、最初からこの砦に拠って戦うのではなく、敵の本陣を崩しにもいける、そういう姿勢を見せる必要はあるだろう。そのために騎馬隊は必須だ」

「そんな、黒樹様に断りもなく」

「騎兵の必要性は明日認めることになるだろうさ。さあ、全員、騎乗で武器を扱えるように訓練だ」


 ルイドは即席の騎馬隊に騎乗での武器の使い方を教えると、反復して練習するよう指示した。残りの百八十人を選ばねばならない。

 指揮をするのは久しぶりだ、とルイドは思った。

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