第五話 スルドサガ城戦
城塞都市イミンドゥンからスルドサガ城へは、レーンのボディサポートの魔法によって、走って二日で移動できるという。
「ボディサポートを使うとはいえ、走って行くのはかったるいぜ」
ダイゴがボヤく。
こないだ、私はジェットでイミンドゥンに行った時は、瞬間移動じゃなくてダルいと言っていたくせに……。
しかし、ボディサポートは便利な魔法だ。
弱い効力で良いなら、レーンがそばにいれば効果は一日中続く。
足を中心とする筋肉を強化して通常の3倍速で走ることができる。
戦闘でも使える強力な効力を発揮することもできる。
腕力を鍛えて殴るのもよし、脚力を鍛えて逃げるのもよし。
ただし、強い効力を発揮する場合は、3分で効果が消えてしまう。
ボディサポートで走った後は、チャゲの歩数×回復の出番だ。
その日の午前0時からの歩数分、回復効果が増す魔法だ。
傷も治癒できるし、体力も回復できる。
ボディサポートで増やした歩数分回復できるので、この二者の魔法は相性が良い。
3時間走って、歩数×回復を使って10分間体力を回復する。
このサイクルを繰り返してスルドサガ城へ向かった。
途中で魔物に会うこともあったが、僕の賢人の蒼き閃きや雷帝の紅き咆哮で一撃だった。
「今日は野宿だな。
原宿はいいけど、野宿は嫌だな」
陽が落ちてきて、シマダがつぶやく。
「なに、つまんないダジャレ言ってんだよ」とダイゴ。
「ところでさ、僕が不思議に思うことは、話されている言語が日本語であること以外にもあって……。
なぜ、ブークモールも地球と同じで一日が24時間なのかってことなんだ。
太陽にあたる惑星との関係や、自転の周期で、24時間からずれてもおかしくないのに」
秀才のチャゲが秀才ぶりを発揮する。
「そんなこと考えたこともなかったなー。
24時間、戦えますかー♪」
シマダが歌い始める。
「それ、何の歌だよ」とダイゴ。
「昔のテレビCMだよ」と僕。
そうか、今の世代はこのCMソングを知らないのか……。
「ジェネレーションギャーップ!!」
シマダが必殺技風に叫ぶ。
「シマダはなんでそんな昔のCMを知ってるの?」とチャゲ。
チャゲでも知らないことがあるのか。
「インターネットで昔の歌謡曲の動画やテレビCMを観るのが趣味でね」とシマダ。
シマダはゲームや楽器も趣味だし、多趣味なんだな。
「ふぁーあ、そんな話はいいから、そろそろ寝ましょうよ」
地球に関する話についていけないレーンがふっくらとした唇を開け、可愛くあくびをしながら言う。
次の日の夜、一行はスルドサガ城に着いた。
「深夜に奇襲するわ。
午後11時半にサトルの雷帝の紅き咆哮で城門を破って突破。
来る敵はサトルの賢人の蒼き閃きとシマダとチャゲによる合体魔法魔法集積弾で片づける。
傷を負ったら、チャゲの歩数×回復で回復。
ただし、歩数×回復は午前0時になると無力になるから気をつけて」
レーンが作戦を話した。
青い目が光る。
熱情家のリナと違い、いつも冷静で用意周到なのがレーンだった。
そして、作戦通りに事が進んだ。
ただし、サトルの賢人の蒼き閃きが圧倒的すぎて、回復魔法を使うことはなかったのだが。
スルドサガ城の最奥部にある玉座の間にたどり着いた一行。
「来たか……」
「黒騎士!!」
玉座にいる魔王の息子“ザラキ”のそばに静かに立つ黒騎士がいた。
黒騎士の後ろには縄で拘束されているリナが眠らされていた。
「ええぃ、早く追っ払わんか」
ザラキが苛立って言う。
「有無を言わさず、先手必勝だ!
雷帝の紅き咆哮!」
リンゴを殺した黒騎士。
必ずこいつを殺してやる。
その意気で魔法を唱えた。
「道化の臨終……」
黒騎士がそうつぶやくと、僕の魔法は無効化された。
先ほどまでのテンションが萎えてきた。
勝てる気がしない……!
「サトル、勇者の斧は黄金色よ!
イミンドゥンの時もあの魔法は効いたから!!」
レーンが叫ぶ。
僕は勇者の斧は黄金色を唱えて、黒騎士に走り寄り、斧で殴りかかろうとした。
「激・疾風撃!」
黒騎士は即座に魔法を唱え、猛烈な風でサトルの身体は吹き飛ばされた。
「それならば……!
ボディサポート!」
レーンが補助の特殊魔法を使う。
身体がパワーでみなぎる……!
これならば!
黒騎士はもう一度、「激・疾風撃」を唱えるが、サトルはその風の中を黒騎士目がけて一直線に突き進んだ。
「くっ、接近戦は分が悪い」
黒騎士は防御の姿勢を取る。
僕の斧による一撃が黒騎士の肩に炸裂した。
本当は頭を真っ二つにしたかったところだが、黒騎士の瞬時の動きにより、頭ではなく肩にヒットした。
「うぐっ!」
黒騎士の肩からは赤黒い血が大量に流れていた。
「仕方ない」
そう言うと、黒騎士は空間跳躍で消え、リナのもとに現れた。
「この子の命がどうなってもいいのか!」
黒騎士がポケットから短剣を取り出して叫ぶ。
「えー、それは悪役の手法として古典的すぎるでしょ」
シマダはこんな時にも冗談を言うが、続けて……
「過去の自分を思い出せよ、ユウト!
お前は洗脳されているんだ!」
シマダの熱い思いがユウトにぶつかる。
「俺は洗脳などされていない……。
リナを人質に取ったことで勝負あったな。
サトルさんは大切なリナを傷つけられない」
「くそっ!」
「サトルさん。思い出してくれ、本当のあなたを。
何も無かった頃の偽りのないあなたを」
黒騎士が謎めいたことを言う。
「そうか。
やはり……」
何か腑に落ちたような表情のダイゴ。
「ダイゴ、俺についてきてくれるか?」
黒騎士が問いかける。
「分かった。
予想通り、ユウトは洗脳されていないようだ」
ダイゴはそう言い、黒騎士のもとに歩いて行った。
正気か、ダイゴ……?
「チャゲとシマダはサトルさんをサポートしてくれ。
俺は魔王のもとで待っている。
それと、リナはそちらに返す」
黒騎士はダイゴを連れ、空間跳躍によってその場を去った。
「黒騎士を倒せなかった……」
「でも、リナが返ってきたんだし」
膝を着いてうなだれる僕にレーンの手が触れる。
僕を好きになってくれる女の子は……!
レーンもリナもリンゴもなんでこんなに優しいんだ……!
シマダが寝ているリナの顔をはたき、リナを起こした。
「う、うん、私の前にいるのはサトル?
ちぇっ、シマダか……」
「ちぇっとは何だ」
シマダが口を尖らせる。
「でも、サトルたちがきっと私を助けてくれるって信じていたんだよ…」
リナはそう言って、弱弱しそうに微笑んでいた。




