第三話 城塞都市イミンドゥン戦
「不思議なのはさ、ブークモールでも日本語が話されていることだよな」
城塞都市イミンドゥンに攻め込むことが発表された翌日のこと、何気ない会話の中でチャゲが話した。
「俺もそれ、気になっていたんだ。このー木なんの木気になる木〜♪」とシマダ。
「ああ、俺たちが以前戦っていた世界、惑星ババロアでは科学機器で自動翻訳して会話していたからな」
ダイゴが真剣そうに目を細めて言う。
そんなこと考えてもなかった。少し考えれば疑問に思うことなのに、なぜ僕は今まで考えてこなかったのだろう。
「それからブークモールでは、魔法石いらずで魔法を打てることも謎だね」
チャゲが首をかしげて言う。
「謎だらけのブークモール。
そして、謎だらけの男、シマダ」
「シマダには何も謎なんてないよ」
シマダの冗談にダイゴが笑う。
そして、イミンドゥンに攻め込む一日前。サトルの寝室で――
「明日はイミンドゥンで戦うのね」
リンゴが緊張した声で言う。
抑えたその声は、余韻を持って部屋に響いた。
「ああ。僕も初めての対人戦で緊張するよ」
「でも、サトル君の魔法があれば大丈夫よ」
「そうかな。
可愛いよ、リンゴ」
リンゴが僕の顔を見上げながらはにかみを見せる。
顔を赤らめているリンゴが愛おしくて、僕はそっと大切に抱いた。
そうして迎えたイミンドゥン戦の日――。
「私も今日から戦えるわ!」
リナが元気いっぱいに言う。
「回復魔法を使ったといっても、産後間もない身。
無理はするなよ」
背中に大剣を背負ったスミスが忠告する。
「私はジェット!」
リンゴの魔法により、魔王軍征伐隊のメンバーは高速で飛行しながらイミンドゥンに向かった。
リンゴは高速飛行、回復系、開錠魔法などを持っている便利屋さんだ。
「あーあ、惑星ババロアの時は、科学機器で瞬間移動して行けたのにな」
ダイゴが残念そうに言う。
確かに、高速飛行は身体にかける負担が重い。
「ぜいたく言わないの!」
リナがたしなめた。
向かう途中で、哨戒中の魔王軍兵士6人に出くわした。
「たいしたことないな」
僕の賢人の蒼き閃きで一撃だった。
6人の魔王軍兵士は風に切り刻まれ、地面に落っこちていった。
僕の手持ちの特殊魔法は3つある。全体攻撃に便利な賢人の蒼き閃き、一体を強力に攻撃する雷帝の紅き咆哮、接近戦で用いる勇者の斧は黄金色だ。
リナからは魔法の死角がないと褒められている。
また、特殊魔法を覚えられるのは一つか二つまでが普通で、三つも覚える人は稀であるとのことだった。
まあ、チャゲもその知力を活かして、シマダとの合体魔法と併せて3つの特殊魔法を覚えているそうなのだが……。
城塞都市イミンドゥンに着いた。
5メートルを超える高い城壁で周囲を囲まれ、防御が堅固な都市だ。
「よし、ここからは地上に降り、20チームに分けて攻めるぞ!」
張り上げたスミスの声が大空に響き渡った。
「開錠呪文!」
リンゴの魔法で大門の扉を開錠し、20チームの合計200人以上もの征伐隊メンバーがイミンドゥンに攻め入った。
ここでも僕の魔法は圧倒的だった。
雷帝の紅き咆哮や勇者の斧は黄金色を使うまでもなく、賢人の蒼き閃きでほとんどの敵を倒すことができた。
「これで制圧だな。
俺の出る幕がほとんどなかったな」とスミス。
「地球からブークモールにサトルを召喚した私も鼻高々だわ」
リナが陽気に言う。
他のメンバーも口々にサトルを持ち上げた。
「そこまでだ……」
背後から声がした。
「この声は……ユウト?
ユウトなのか!?」
ダイゴが叫ぶ。
ユウトは、シマダ,チャゲ,ダイゴの3人が惑星ババロアで共に戦っていた仲間であり、高校のクラスメイトだ。
「俺は黒騎士……」
黒騎士と名乗る黒ずくめの男は、次の瞬間、こちらへ向かって走り始めた。
スミスは抜刀し、黒騎士めがけて剣を振ろうとした。
「遅い!
核心烈撃!」
黒騎士による心臓を射抜く衝撃波によってスミスは吹き飛ばされた。
あの威力では、スミスは再起不能だろう。
「ユウトは洗脳されているんだよ!
目を覚ませ、ユウト!!」
ダイゴがありったけの声で咆哮する。
「俺は洗脳などされていない……」
黒騎士はゆっくりとリンゴに近づいてきた。
しかし、リンゴは攻撃魔法は不得手だ。
「やだ……、助けて……」
リンゴが怯えながら言う。
近くにいたリナがサポートに回って「熱情よりも熱い火」を唱えた。
だが、炎が燃え盛り、消えた後も、黒騎士はびくともしない。
ダメージはゼロだろう。
「すまない。
死んでくれ。
神・雷撃!」
次の瞬間に僕は自分の目を疑った。
リンゴは凄まじい轟音の雷に打たれ、半身が焼失していたのだ……!
「リンゴ!?
リンゴ! リンゴ!」
気付くと、僕は錯乱し、泣いて喚いていた。
「痛みを感じるんだ、サトルさん。
痛みがあるから、俺達は地球の人間なんだ。
そして、ここはブークモール。
アイスランド語で“本の言語”の意味。
このイミンドゥンという地名は、同じくアイスランド語で“想像”の意味だ」
黒騎士は小さな、しかし、しっかりと響く声でサトルに話しかけた。
「何を訳の分からないことを!
洗脳がどうとか知ったことか!!
雷帝の紅き咆哮!!!」
僕が魔法の名前を言い終わるや否や、「道化の臨終!」と黒騎士は魔法を唱和した。
激しい雷が黒騎士の身体を貫通したはずなのに、黒騎士はノーダメージだった。
黒騎士にダメージを与えるすべはあるのだろうかとサトルは一瞬考えたが、リンゴがああなってしまい錯乱した頭では冷静に考えられなかった。
「くっそ!
勇者の斧は黄金色!!」
僕は魔法で斧を取り出してサトルめがけて走り始めた。
「道化の臨終は攻撃型の特殊魔法を自分に限って無効にする魔法。
武器現出型の特殊魔法は無効にできない……。
さすが、良いセンスをしている」
黒騎士が何やらぶつぶつ言っている隙を斧で襲いかかる僕。
しかし、次の瞬間、黒騎士はリナのところへ瞬間移動していた。
今度はリナが危ない――!!
「やめろ、ユウト!」とシマダが声を振り絞る。
「この子はさらっていく……」
1秒後、黒騎士はリナと共に忽然と消えた。
「リンゴ!!
リンゴ!!
リンゴ!!!
僕はあいつを許さない!!!」
黒焦げになって残されたリンゴの死体を前にして、僕は激しく叫びわめいた。
僕の喚声が城郭都市の広々とした空に長い間響き渡っていた。




