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外に出た彼女の腕を僕は掴んでいた。
「きゃっ」
彼女の言葉に僕は我に返り、
ごめん、と言ってすぐに手を離した。
「…えっと、片桐恭介さん、ですよね。なにかありましたか?」
彼女は驚きと戸惑いの表情をしていた。
先ほど、会話ととれるかどうかぐらいなのを交わした男が息を切らして追いかけてきたのだ。
その反応は当然だろう。
僕は深呼吸をして、ゆっくりと言った。
「あの、名前を聞いてもいいかな」
僕の言葉に彼女は笑みを浮かべた。
「ハルです、雨宮晴香」
ハルと名乗った彼女は僕の目をじっと見ていた。
「晴れるに香るで、晴香です。ハルでいいですよ」
やっぱり似ていると思った。
もちろん、高さは多少違うが話し方がどことなく似ていた。
心地よいソプラノの音がゆっくりと僕の中に入ってくる。
「片桐さん、は?」
「え、あ、恭介でいい」
「恭介さん、なにかあったんですか?」
「いや…、えっと、…ハルと話したいと思って」
何年ぶりだろうか。
自分から女性に話しかけるなんて。
「じゃぁ、LINE交換しませんか?」
ハルは携帯を出した。
僕らはLINE交換をして別れた。
手を振るハルを僕は姿が見えなくなるまで見ていた。
会場に戻ると、浅見が慌てて僕のところに駆け寄ってきて、
心配したと言っていたような気がしたが、僕は適当な返事をしただけだった。
僕は先ほど別れたハルのことを思い出していた。
似ているが、違う。
ハルは別人だ。
だけど、仕草ひとつひとつに面影を感じた。