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「スピーチ散々だったね、なにかあった?」
スピーチが終わり、椅子に座り水を飲んでいる僕の元に浅見は心配そうな面持ちで来た。
「…まぁね」
僕はそういうと、また水を飲んだ。
「どうしたの、恭介くんらしくないよ。スピーチ苦手じゃないのに」
「あぁ…、まぁ、そうなんだけどさ」
浅見の言う通り、人前に出るのが苦手なわけではない。
昔はバンドを組んでて、MCをしていたこともある。
スピーチの原稿は事前に考えてきていたのにもかかわらず、僕の頭の中は真っ白になっていた。
原因はわかっている。
彼女だ。
彼女は僕を見ていた。
もちろん、彼女だけが僕を見ていたわけではない。
大勢の人が僕のスピーチを聞いていた。
だけど、僕はすぐ彼女を見つけた。
いや、彼女だけが僕の目に飛び込んできた。
彼女は、途中で噛み、しどろもどろになる僕をじっと目を逸らすことなく見つめていた。
僕はそのたびに彼女から目を逸らした。
「浅見さん、ちょっといい?」
審査員の河本先生が浅見に話しかけてきた。
「あ、河本先生。今日はお忙しいところ、来ていただきありがとうございます」
浅見はそういうと、河本先生にお辞儀をした。
河本先生はテレビの出演もしていて、美人カメラマンと世間の認知度も高い。
浅見は今日の主催者側で来ており、二人は奥へと行った。
僕はため息をして、辺りを見渡して彼女を探した。
彼女はすぐに見つかった。
いや、先ほどと同じで遠くにはいたがすぐに目に飛び込んできた。
隣にいる女性と親しげに話していて、時折、笑みを浮かべていた。
やっぱり似ているな、と思った。
二人は手を振り、彼女は出口のほうへと歩いて行った。
あ。
その瞬間、僕は走って彼女を追いかけていた。
身体が勝手に走り出したのほうが正しい。