表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏の夜の夢  作者: 佐倉 真愛
2/6

「アイスコーヒーお待たせしました」


笑顔の店員が僕の席にアイスコーヒーをおいた。

会釈をしていっきに喉に流し込んだ。

苦みが喉を通り抜けていく感覚がなんともいえない。

煙草を取り出し火をつけた。


はぁ。


僕はため息をついた。

久しぶりに袖を通すスーツの感覚に慣れない。

着慣れないというのはもちろん、授賞式というのも憂鬱の一つだった。

もちろん、僕の授賞式ではない。

「全国高校生写真コンクール」の特別スピーチだ。

十年は前になるが、僕はそのコンクールで審査員特別賞を受賞した。

それからフォトグラファーとして活動をしている。

もちろん、名が知られているわけでもないからたいした稼ぎはなく、毎月ぎりぎりな生活をおくっている。

それでも、サラリーマンと違い人とあまり関わらなくてすむから僕には助かっていた。


「恭介くん、お待たせ」


浅見が息を切らして入ってきた。

走ってきたのだろうか、髪の毛が乱れていた。

浅見は今朝と違うピンクのカッターシャツを着ていた。


「ほら、行くよ」


浅見が僕の手を引っ張った。

ふと、視線を感じて僕は窓の外を見た。



――――片桐恭介くんでしょ?

初めて会ったときのあのにっこりした笑顔が浮かぶ。



え?

まさか?


「せんっ…」

「恭介くん、なにしてるの?」


浅見が僕の言葉を遮り、顔をのぞきこんだ。


「いや、なんでもない」


僕は視線をそらし、再び視線を感じた先を見てみたが窓の外には誰もいなかった。

そんなことがあるわけがない。

僕は頭ではわかっていたが、とっさに浅見の手を振り払い、外に出た。

辺りを見渡したが、はやり誰もいなかった。


「恭介くん、どうしたの、急に」


気がつくと浅見の外に出てきていた。


「いや、なんでもない…」


「…ねぇ、千咲に似た人でもいた?」


千咲――――

久しぶりに聞くその名前に僕は口を噤んだ。


いまでも、目を閉じると笑顔が浮かぶ。

屈託ない幸せそうな笑顔。

それは今の僕にはあまりにも眩しかった。


浅見は僕の肩を叩き、

僕たちはなにも言わず、会場へと急いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ