プロローグ
――――ねぇ、君は覚えているかな。
僕にとってはすべてが輝いて見えたんだ。
ずっと色褪せることなく、心の中で輝き続けている。
ふと目が覚めて窓の外を見ると、小雨が降っていた。
外は朝日が昇り始めていて、時計を見ると六時を過ぎたところだった。
僕の横には浅見が寝ていた。
浅見の柔らかい髪の毛をそっと撫でた。
キッチンに行き、換気扇をつけて僕は煙草に火をつけた。
「…恭介くん?」
浅見が目をこすりながら僕を見ていた。
上半身を起こし、何も身につけていない浅見の胸が露わになっていた。
数時間前まで僕はこの胸に顔を埋めていた。
「ごめん、起こした?」
「大丈夫、あたしも吸おうかな」
浅見は僕のTシャツを着て、隣に寄り添い、煙草に火をつけた。
僕と浅見の煙草を吸う音と雨の音だけが聞こえる。
そうだ、
あの日もこんな雨だった。
あぁ、
だから雨は嫌いなんだ。
僕は煙草の火を消した。
「大丈夫?」
煙草の火を消しながら、浅見は不安そうに僕を見ている。
「大丈夫だよ」
「ふぅん、それならいいんだけど」
僕のとりあえずの返事に浅見は少し口を尖らせた。
彼女の瞳の奥に僕が映る。
すべて、見透かされていそうな瞳が苦手だった。
僕は目をそらし、再び煙草の火をつけた。
浅見は僕のTシャツを脱いで、リビングに無造作に置かれたチェックのストライプのシャツを着始めた。
昨日の夜、浅見はそれを着てきた。
「帰るの?」
「仕事。一回帰って洋服着替えないといけないの。
今日、授賞式でしょ?ちゃんとスーツで着てよ」
「あー、そうだった。忘れてた」
浅見はふっと笑いながら鞄を肩に掛けた。
「恭介くん、まだ雨が怖い?」
また、あの瞳。
「そんなんじゃないけど」
「…ならいいんだけど。そんなんじゃいつになっても彼女できないよ」
浅見は僕の言葉を待たずに扉を閉めて、出て行った。
玄関の外で浅見のヒールの音が聞こえている。