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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
スズナリの過去編
96/113

096 男会議



ギルドの酒場ではない。

とある秘密のクラブ――高級酒場での個室で。

私ことアルデールとオマール、そしてロキ君にガードナー殿の四人で酒を酌み交わしながら話す。


「――であると、私は王様から聞きました。単体でのモルディベート嬢討伐にこだわっているような幼稚な有様では、スズナリ様を次の王様候補には押せないと」

「有難う、ロキ殿」


騎士団長補佐であるロキ殿の告白を集まった全員で肩を叩いてねぎらいながら、代表して私が答える。

これは王宮でも極秘中の極秘の情報であったはずだ。

――なにせ、他の貴族に聞いても、アリエッサ姫に聞いても、吟遊ギルドに調べてもらっても、どんな情報源からも――スズナリ殿がアリエッサ姫の婚約者候補から外れた理由が誰も喋らない。

ギルマス本人に聞いても「私が幼稚だから」の一点張りだ。


「そう言う事かよ。つまり、ギルマスは単体でのモルディベート討伐に拘ったわけだな」

「そうです。お気持ちは判らんでもないのですが……」


これは婚約者候補から外れたのも仕方ないですよ。

ロキ君が諦めたかのように呟く。


「ということは、お前のチャンスじゃないか、ロキ君よう。アリエッサ姫の婚約者候補に名乗り出るチャンスじゃないかね」


オマールがからかうように、ロキ君のジョッキに杯を合わせる。

木製のジョッキはカチ、といい音を出してぶつかり合った。


「冗談でもないですよ。私はあの日、この命をスズナリ殿に救われた時から、スズナリ殿を王に押し上げると決めております」

「なんだよ、つまらねえな。……まあわかってたけどもよ」


ロキ君の焦るような反論に対し、オマールがつまらなそうにジョッキの中のエールをあおる。

そして私に矛先を向けた。


「アルデール、この件に関してお前はどう思う」

「そうですねえ……」


正直言ってしまうと、なんだ。


「アルバート王の判断は正しいと思いますよ。ギルマスが幼稚すぎる」

「いや、そうかもしれんが……というか、俺もそう思うが」


オマールが言い淀んだように口を濁す、というか濁しきれないでいる。

本当にあの人は幼稚なところが昔からある。

なにせ、人類の唯一成功した錬金術は「酒造り」なんて、錬金術師の私の前でからかうように発言してしまうのがギルマスだ。

はっきり言ってしまえば、あの時はコイツ一度殺してやろうかと思った。

錬金術と言う体系だった学問に対し、テキトーな言い分にも程がある。

――いや、これはただの私の愚痴だが。

とにかく、酒を飲みながらとはいえ、その専門の研究者に対してそう言う事を平然と呟くほどに幼稚なところがあの人にはある。

王が忌避してしまうのも仕方がない。


「しかし、なんだよアルデール、裏切り者か」


オマールはすでに酔いが回っている。

相手にするのは面倒だ。

ガードナー殿をぶつけてしまおう。

私はガードナー殿を腰をポンと押す。


「まあオマール殿も落ち着いて。オマール殿がスズナリ殿を王座に押したい気持ちも分かりますが」

「そうだろ? 分かるだろ? ていうか、ギルマスが継がなくて誰が継ぐんだよ王座」


オマールの意見は正しさを含んでいる。

誰が継ぐんだ、この国。

スズナリ殿が婚約者の座から退いた立場となった今、後継者争いはまた勃発するだろうが。

事実上は、スズナリ殿がアリエッサ姫の婚約者の一位である事に変わりはない。

というか、本来はアルバート王の代理できる奴なんかいない。

それでもあえて代わりを推すとすればのギルマスなのだ。

ギルマスとしての経験と処理能力、また強さが相まっての候補であったはずだ。

それよりもなによりも。

未だにアリエッサ姫自身がギルマスに執着しているのだから、難しいところだ。


「アポロニア王国をギルマスが継いで、俺は騎士団長になるの。そう決まってるんだよ」


オマールが肘をテーブルにつきながら、身勝手な夢を語る。

かなり酔いが回ってるな、オマール。


「で、ロキ殿の話も聞いたことだし、どうする?」

「どうするって、どうしようもねえだろ」


オマールが渋面になって呟き捨てる。

まあ、どうしようもないな。


「ギルマスの幼稚さはどこから来るんだ。もういい歳したオッサンだろうに。アルバート王にモルディベートを殺してもらって、アリエッサ姫を嫁にもらってエンディングを迎えろ。そして俺を騎士団長にしてくれえ」


それがオマールの意見の全てだ。

テーブルにへばりつきながら――もう完全に酔っぱらってるなオマール。

私は小さくため息をついた。


「つまり、その愚痴を吐いて終わりと」

「いや、違う」


オマールは私の言葉を否定し、そのまま言葉を続けた。


「要はギルマスが幼稚でなくなればいいんだ。大人になってもらおう」

「どういう風に」

「――そりゃ決まってるだろ」


ずい、とオマールは私の顔に近づき、小さく呟く。


「ギルマスには童貞を棄ててもらう」


オマールの意見は分かった。

私は私の意見を言おう。


「アホだろお前」

「アホじゃないでーす」


オマールはグビグビとエールをあおりながら、私の言葉を否定する。

完全に酔っぱらいきっている。


「快楽を知らないから、性の悦びを知らないからギルマスは幼稚なんだと思わんかね」

「いや、童貞三人衆の私らが議題に挙げていい事なのかという疑問がまず先に立つが、それは」


それだとオマールや私まで幼稚だと認めることになるぞ。

童貞とスズナリ殿の幼稚さは関係ない……と思う。


「具体的にはどうしたいんだ」

「皆、それぞれのこれはと思う候補を推して脱童貞させよう!!」


アホだなコイツ。

いや、確認せんでもアホな事は知ってたが。


「俺はモーレット嬢を押す。あのパワー、具体的には巨乳で押し切ってもらって、責任取らせるような事案に持ち込めばオーケーだ。子供でもできれば完璧だな。スズナリの旦那もそんな幼稚な事言ってられなくなるだろう」

「まあ、それは一理あるが」


子供でもできればギルマスの意識も変わるかもしれん。

だがそんなに時間あるのか?

時間。


「モルディベートとスズナリ殿の対決までそんなに時間があるのか?」

「ていうか帰ってくるのか? その暴力陰険魔女。北のマスデバリア大陸――未踏破大陸行きだろ」


もう今頃死んでんじゃね?

そう呟くが、その可能性は乏しいと言える。


「アルバート王やエルフの女王様でもない限り殺せない相手ですよ――その希望は薄いかと」


ロキ君が残念そうに――どうせなら本当に死んでて欲しいのだがと言った風情で呟く。


「だろうなあ。いつ来るか判らない相手ってのは怖いわ」


オマールがまたエールをあおる。

飲み過ぎにも程がある。

ギルマスの酒量に合わせてるうちに少しおかしくなったんじゃないかオマール。


「ガードナー殿は誰よ。誰推しよ」


オマールが、吟遊ギルドの人気歌手グループのメンバーの誰が好き?みたいな口調でガードナー殿に尋ねる。

無論、答えは決まっているだろうが。


「ジルエル姉妹ですな」


ちと、予想と外れた。


「……アンナ姫ではなく?」

「何分、孕むには12歳と歳が……ジルエル姉妹はその点私が保証します。見事に淫売です」


知らないところで弟子と言ってもいい姫様の傍付き女騎士姉妹を淫売呼ばわりする師匠。

嫌な光景だ。


「ロキ君は?」

「アリエッサ姫、と言いたいところですが性格が悪すぎます。オマール殿と同じくモーレット嬢を推します。あの巨乳になんで靡かないんでしょう、スズナリ様。大変不思議です」


この会合、本音が出過ぎである。

ロキ君はキリリとした顔つきをしているが、巨乳好きである事は分かった。


「そりゃ未だに陰険暴力魔女モルディベートの事が好きだからなんだろ」


オマールがもう完全にぐでんぐでんの状態で、テーブルから木のジョッキを落とした。

それでも引き続き会話は続く。


「アルデール、お前は?」

「……もう婚約者候補全員で捕まえて輪姦すればいいんじゃないですか」


どうでもよくなってきて、ギルマスが自害しそうなことを呟く。


「それだ!」


ゴツン、と握り拳をテーブルに叩きつけるオマールに対し、冷静に答える。


「あくまで冗談だ。それではない」

「いや、それしかないだろう。もうギルマスの幼稚さを治すにはそれしか手が無い」

「輪姦したって治るわけねーだろ」


口調が投げやりになる。


「試してみるだけ罰は当たらんだろう。作戦はこうだ。ぐでんぐでんに酔っぱらったギルマスの部屋に婚約者全員で押しかけさせて……」


もうやだこの会合。

私は頭を押さえてオマールの寝言を聞きながら、仮に自分が推すとすれば――

やはりモーレット嬢になるかな、と。

その推しの原因は、自分の性癖から来るのか、客観的に見てアプローチが友好的な点にあるのか。

くだらない思考に頭を落としていった。

オマールがテーブルからずり落ち、地面に墜落していくのを見ながら。







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