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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
スズナリの過去編
93/113

093 アリエッサ姫の宣戦布告


「と、言うわけでモルディベートは私が殺すから!」

「どういうわけなんです」


ビシィ、と効果音が付くように堂々と私に指を付きつけながら、アリエッサ姫は叫んだ。

何なんだ一体。


「別にいいでしょ? どうせスズナリは殺したがってるんだし」

「……」


その言葉には何とも返事のしようがない。

愛しているが殺したい。

私の気持ちはアルバート王に読まれ、アリエッサ姫に伝えられたか。


「……貴女には無理です」


率直に結論から告げる。


「やってみなければ、何事もわからないわ」


ぐっ、と力こぶを作りながら、アリエッサ姫は元気よく答えた。

そして急に真顔になった後、両手を腰に回して。

ドレスの両裾をつまみ上げながら、優雅に礼をする。


「スズナリは賭け事が嫌いかしら」

「ギャンブルは嫌いですね」


親が負けるたびに私は殴られた。

そんなイメージしか賭け事にはない。


「そう。では一つ賭け事をしてみましょう」


話聞いてんのかこのガキ。

思わず舌打ちをするが、アリエッサ姫は気にせず言葉を紡ぐ。


「私がモルディベートを殺したら結婚して頂戴」


それは実に血にまみれたリターンだ。

鼻で笑う。


「その賭け、失敗したら逆に何を私はもらえるんです」

「諦めてもいいわよ、スズナリの事」


それは魅力的な提案だった。

私はくすくすと笑う。

まるで先代のモルディベートのように。


「いいですよ。貴方が勝ったら私を好きなようにしてください。結婚でも何でも。何なら犬にでもなりましょうか、御姫様?」


いくらアリエッサ姫が先代に突っかかったとしても。

先代はアリエッサ姫を殺せない。

背後にいるアルバート王が怖いからだ。

アリエッサ姫を殺しでもしたら、アルバート王はアポロニア王国が滅んでも先代を殺すだろう。

だからこれは安全な――とてもセーフティな賭け事だ。

例え何があってもアリエッサ姫は死なない。

だから受けよう。


「言ったわね! 確かに耳にしたわよ!}


アリエッサ姫の口橋が吊り上がり、にやりと笑う。

そしてどかり、と先ほどドレスの裾を持ち上げた優雅さの欠片もなく。

私の机の上に片足を乗せ上げて――スカートの中身が見えそうになりながら。

視線を逸らす私を無視して、叫ぶ。


「これは私の宣戦布告よ! アンタをくっそくだらない因縁事から解き放ってあげるわ! その時、スズナリは私のモノになるのよ。いいわね!!」


室内に響き渡るデカい声だ。

淑女らしくない。

私はそんな感想を抱きながらも、何か微妙な感情を抱く。

この感情は何だろう。

私は不可思議なそれに不審を抱きながらも、アリエッサ姫に言葉を返さなければならない。


「はいはい。わかりましたよ」


いつもの、主体性を感じられない返事。

それを為した後、アリエッサ姫はその返事に笑顔で「うん」と呟いた。

そうして足を、私の机の上から下ろし、背を向けてドアから立ち去ろうとする。


「パントライン、王宮に帰るわ。稽古の続きよ」

「はい、姫様」


パントライン嬢は何か清々しいものみた、といった風情で笑いながら、私にぺこりと頭を下げた後――アリエッサ姫の後ろに付いて行った。


「……」


沈黙する、私。

嵐のような女の子――そう、まだ女の子なんだよな。

私はため息を吐きながら、まだ16歳の少女について少し考える。

私はアリエッサ姫の事が好きではない。

美少女だとは思っている。

いや、美少女なんて言葉では言い表せないぐらい可憐な少女だ。

なんでまた、私なんか好きになったんだろう。

感想はそれだけ。

考えることは、本当に少しだけだった。


「……」


私は私が大嫌いだ。

この主体性の無い、人に言われなければ何事も自分から動けないような。

この性格が大嫌いだ。

陰と陽。

アリエッサ姫の、何事も自信満々に、粗ぶりながら自力で進んでいく性格とは正反対だと思う。

そう考え、少し笑う。

全く釣り合わない。


「……」


アルバート王から貰ったワイン瓶の残りがまだ残っている。

私はそれを口にしながら、考え事を止めたく思う。

酒を飲めば、嫌な事は忘れられる。

だが――


「ふむ」


人間は進歩しなければならないとも思う。

そうだ、私は進歩どころか、文字通り”進化”しなければならない。

そうでなければ――とても”不死の魔女殺し”など達成できはすまい。

これからは自分の内面とも向き合いつつ、前に進むとしよう。


「でもまあ、のんびりとだな」


先代が返ってくるまではまだ時間があるだろう。

いや、そもそもいつ帰ってくるかどうかわからんのだが。

いつかは必ず帰ってくる。

私は取り戻した記憶で確信した。

彼女は、私を目当てに必ず帰ってくる。

”私の脳味噌”を見当てに。


「――さて、と」


私は書類の決裁の続きを、まずはすることにした。

空気を読んで、部屋のドアの前で突っ立ってるであろうルル嬢に、手伝うように声を掛けながら。









「”神のお告げを”」


祝詞が響き、不思議な微光が私を包んだ。

私の身体を包む不思議な微光がいよいよ強くなり、幻想性すら覚える程に光が眩くなる。

そして、厳かな声が私室に響いた。


「”我が使者アリーよ。よく聞きなさい。スズナリがモルディベートに勝利する可能性はありません”」


そして、予想通りの答えが私の耳に伝わった。


「”我が使者として、スズナリ殿に力を貸してあげなさい”」

「有難うございます。神様」


私を包む、不思議な微光が収まった。

私のスキル――”シスターのインチキ”。

それを使っても、スズナリ殿が勝利する可能性は無いと出た。


「駄目か」


まあ、判っていた。

あの映像中にはモルディベートが素手でスカイドラゴンを殴り殺す映像やら、サラマンダーの炎を受けても無傷の姿やら映っていた。

スズナリ殿が勝利するイメージがまるで浮かばない。

あれは魔女だ。人ではないのだ。

……魔女の強さは、この世界の人間なら誰もが分かっている。

定命を棄てた者。

その中でもモルディベートは格別の強者だろう。

……確実に勝てると言い切れるのは、アルバート王かエルフの女王様ぐらいのものだ。


「スズナリ殿」


名を呟く。

アリエッサ姫から一応の話は聞いた。

アルバート王による討伐は無理。

スズナリ殿自身がモルディベートと決着をつけるつもりだと。


「……」


おそらくはその結果が敗北の可能性が強いと、それを知ってかつ挑むのだろうが。

私はそれを望まない。


「こうなったら、教皇様に頼みこもうかしら」


アリッサムの統治には教会が助勢する。

その際には教皇も御出でになる事だろう。

相談してみるのも良いかもしれない。

教皇様の強さがどこまでかは知らないが、この世界有数の知恵者であり強者であることは間違いない。


「そうしたら、良い知恵も出るかもしれないわ」


アルバート王からスズナリ殿にアポロニア王国が引き継がれる。

それが教会にとっても一番望むべきコースだ。

元々大国ではあったが、いまやフロイデ王国やアリッサム王国を飲み込んだ超大国だ。

そこに教会が補佐役の位置を確保する。

そして教皇領を得るべく、スズナリ王の時代に他国に攻め込むのだ。

――もはや、私にとってはどうでもいいことだが。

教会も。

シスターの立場も、もはやどうでもいい。


「スズナリ殿、お慕い申しておりますわ」


アリー嬢はそれだけを呟いて、瞑目した。





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