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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
スズナリの過去編
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083 9年前


師匠がギルドマスターとして請け負った依頼、その達成を裏路地でこなす。

私が暴力を加えていたウスラボケは命乞いを始める。


「俺が悪かった。――もう二度と彼女には近づかな――」

「もう遅い。貴様には前科もある」


強姦の前科がな。

性犯罪者は反省することを知らない。

面倒臭いから全員死刑にしてしまえばよかったのに。

アポロニア法は甘い。

いや、実際のところアルバート王がそうしようとしたらしいが、なんか官僚に止められたとか聞いたな――まあ、どうでもいい。

大商人の令嬢をストーキングしていた男の首根っこを摑まえながら、私はその両手両足を泥濘の手で摑まえる。

土魔法を操るのも、もう慣れた。

初歩中の初歩の魔法だが、この呪文は魔法の熟練度により強化されるため、非常に使い勝手が良い。


「刑罰は――"首無しの刑"だ」

「――――」


男の首を、生物魔法で溶かした。

声帯から溶かしたため、男の悲鳴は聞こえない。

こんな夜更けだ、人様の眠りの邪魔をするのは良くない。

死体は――このまま放っておく。

翌日には王都の衛兵が発見して騒ぎとなり、依頼者もようやく安らかに眠れるようになるだろう。

身元判定は国家に提出されている血液の照合を持って為されるだろう。


「さて、帰るか」


殺しにはもう慣れた。

――ウチが本当に冒険者ギルドなのかという疑問はまだ抱き続けているが。

こういうのは暗殺者の仕事ではないのか?

いや、暗殺ギルドなんかアポロニア王国には無いのは知っているが。

せめて国からの依頼なら判るが、商人からの依頼で殺人を?

情報の精査も行い、嘘偽りは無かったので実行したが――


私のしている事は本当に正しい事か?


まあいい。

師匠のためだ。

私はかぶりをふって疑問と遺骸を裏路地に打ち捨て、その場を去った。








「只今帰りました」

「早かったわね」


師匠はいつものようにダンジョンギルドのギルドマスター室の椅子に座り、書類の決裁を下ろしている。


「楽な仕事でしたから」


捕まえさえすれば溶かすのは一瞬だ。

私は許可を得て、師匠の前の椅子に座り込む。

師匠は私に眼も合わさず、書類を片付け続けている。


「楽な仕事……ね。随分暗殺業にも慣れたみたいだけど、そろそろ冒険業にでも出かけてみない」

「冒険業、ですか?」

「そうよ、冒険業。そろそろ旅に出かけるのもいいかと思ってね。もちろんアンタも連れて行くわよ」

「誰が代わりに書類仕事するんです?」

「さあ?」


誰かが代わりにやるんじゃないかしら。

師匠はそうテキトーな事を述べた。


「……誰か、代わりを適当に見つけてください。師匠はギルドマスターなんですよ」

「そう簡単に見つからないからほっぽって出て行こうとしてるんじゃない」


師匠はこういういいかげんなところがあるから放置できない。

……仕方ない、各ギルド幹部に頭を下げに行って協力を募るか。

またギルド員の老害どもが偉そうな面するんだろうが、殺すのは我慢しよう。

師匠のためだ。


「ドラゴンの警備は?」

「お前の名付けたファウストがいるじゃない」


ギギ、とファウストと名付けられたスケルトンが魔槍を握りながら音を立てる。

まあ、そうだが。

彼をドラゴンの警備に当てておけば間違いは起きないだろう。


「まあいいです。……ギルドの方も私が手回ししておきます。で、旅? どこに?」

「いろんな所へよ。メインのパーティーメンバーも連れて行くわ」

「パーティーメンバー?」


そんなのいるのか?

去年のエルフの救出時にエルフと組んだり、一時的なパーティーメンバーなら居た事はあるが。

師匠のメインのパーティーメンバー等知らない。


「ワルキリア王国のクラウスに、グラルブ王国のイルー。お前も名前ぐらいは知ってるんじゃないかしら? 前衛に吸血鬼とドワーフの戦士を置く、完璧な布陣よ。後衛のアンタも安心できるんじゃないかしら」

「戦闘面では確かに。但し、そのお二方の立場は? 私の知る限りだと――」

「どちらも王の立場よ。最近暇だから冒険に出たいって」

「……」


私は頭を押さえて蹲る。

アホかコイツら。

いや、師匠に対して不敬だ。

私は頭を振り、考えを外に追いやる。

――考えるな。

私には冒険者ギルド以外は関係のない埒外の話だ。


「いいですね、旅」

「いいでしょう」


くすくす、と笑う師匠。

これは上機嫌の時に出る癖の笑い方だ。

私はその笑い声に僅かに癒されながら――しっちゃかめっちゃかになるであろう、ワルキリア王国とグラルブ王国の官僚団に想いを馳せた。









「それにしても、これ、凄い装置よね。スズナリの心の声まで聞こえるなんて」

「脳内情報を垂れ流しにしてますからね。そりゃ聞こえますよ」


私はクッキーをボリボリと齧りながら、映像とともに流れるスズナリの心の声に耳を傾ける。

それを無視したように、マリー嬢が言葉を続ける。


「……造ったのは"不死の魔女"モルディベートと聞いています」

「え、コイツ?」


くすくすと上機嫌のままに映像で笑っている女――モルディベートを指さす。

マリー嬢はコクリと頷いた。


「なんでもできんのね、コイツ」

「そりゃスズナリ殿の師匠ですから。生物魔法から土魔法どころかあらゆる魔法学を修めていますよ。アカデミーの首席卒業生です。……アカデミー始まって以来、不世出の天才と言われています」


ちなみに私も主席なんですけどね。

この人には到底敵いませんわ。

そうマリー嬢はため息を吐きながら呟き捨てた。

と、同時に質問する。


「ところで、どうやってこのヘッドギアを入手してきたのですか? モルディベート――そう、モルディベート嬢と呼ばせて頂きますが、彼女の製作したアイテムは全て門外不出のはずですが?」

「アカデミーったって所詮王立じゃない。アルバート王の命令なら従うわよ」

「王様の命令書を使ったんですか! また勝手な事を!?」

「後付けでもお父様の許可取ったから問題なーし」


口煩いマリーの声を無視しながら、スズナリの心の声に耳を傾ける。

今とは少し違う、若々しいスズナリの声。

――嫌いではない。


「なーあ、アリエッサ姫」

「なによモーレット」

「スズナリの旦那が頭弄られたのっていつ頃だと思う?」


モーレットの言葉に、この過去の映像を見ている真の目的を思いだす。

主題は三つ。


『スズナリはいつ頭を弄られたのか?』

『どんな風に弄られたのか、その内容は?』

『スズナリは本当に先代――モルディベートを愛しているのか?』


――今のところ、スズナリの言うところの「先代を愛している」の挙動は見られない。

頭を弄られている様子もない。

一体いつだ?


「こうやってスズナリの過去を見るの、嫌いじゃないんだけどね」

「本当の目的じゃないんだろう。早く飛ばそうぜ」

「わかったわよ」


私は少し残念ながら、スズナリの頭についているヘッドギアの目盛を回す。

映像は早送りになる。

――旅に出た馬鹿3人組とスズナリのパーティー一党。

船旅でクラーケンに襲われて海に引きずりこまれそうになるスズナリ。

バックアタックを受けて、半死半生でミノタウロスを窒息死させたスズナリ。

助けたサキュバスの群れに捕まって腹上死チャレンジされそうになってるスズナリ。

酒を飲んでいるスズナリ。

――吸血鬼のクラウス王に絡まれてワインを飲み干しているスズナリ。

――ドワーフのイルー王に絡まれてエールを飲み干しているスズナリ。

本格的な酒好きになったのはこの頃からなのかしら。

私はくすり、と少し笑いながら、目盛を回すのを少し緩めた。







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