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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
スズナリの過去編
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081 スズナリの過去


アリッサムの冒険者ギルドでの残務処理。

幸い、冒険者ギルドのギルドマスターや冒険者は奴隷兵に組み込まれていただけで生き残っていた。

助けられた礼にと、アリッサムギルドからアポロニア王国ギルドへの併合を申し込まれたが――

なんとか嘆願して、それはアルデール君の代にしてもらった。

私の代でこれ以上の面倒事は御免だ。

アルデール君は苦労するだろうが、それは知ったこっちゃない。

他人の苦労は蜜の味とはよく言ったものだ。

で、なんとかいつものダンジョンギルドに帰り着くが。


「それで、何の用なんです。アリエッサ姫。まだアリッサムにいると思ってましたよ。アルバート王の手伝いでもしてなさいな」

「御挨拶ね、いいもの持ってきたのに」


そう言いながら、アリエッサ姫は妙なチューブがそこかしこに付いたヘッドギアを取り出す。

何か近未来的なデザインだな。


「……アカデミーで見た事ありますね、それ」

「あれ、ひょっとしてスズナリも関係してるのこれ」

「いえ、見た事あるだけです」


確か、人間の脳内から過去の記憶を引きずり出すアイテムだったか。

脳内からの映像出力機は私も使ったことはあるが――あのチューブはそれと合体させている。


「そんなものどうして持ってきたんです」

「これでスズナリの過去が知りたくって」

「お帰りください」


何が悲しくて自分の過去を他人にさらけ出さなければならんのだ。

私は溜まっていた書類を片付けながら、ため息を吐くが――


「これを被ると、先代の事を思い出せるんでしょう。スズナリにとっても悪くない話よ」

「……仮にそれを被るとしても、何故私の過去を貴女に見せる必要が?」


先代との過去。

すでに記憶も薄れてしまっている部分もあるが、あのヘッドギアはそれを鮮明に思いださせてくれる。

それには興味があるが、映像出力機は余計だ。

何故自分の過去を他人に見せなければならん。


「姫様がいないときに使いますので、それ置いといてくださいよ」

「駄目、使うなら私達が居る時に使いなさい」

「なんでまた、私の過去になんか興味あるんです」


プライバシーの侵害だ。

とはいえ、正直見せたところで恥ずかしい内容なんぞ何処にもないが。

私はこれでも正義に背を向けた事もないし、真面目に生きて来た。

胸を張ってそう言える。

――たとえそれが暗殺者としての過去を含めた物であっても、だ。


「好きな人の過去が気になるってそんなにおかしなこと?」

「ストーカーって知ってます?」

「ストーカーって何?」


知るわけないか。

自分のアホな発言にコホン、と咳をしながら、考える。

――あのアイテムは貴重だ。

おそらく私でもアカデミーからは借り受けることができない。

アリエッサ姫がどうやってアカデミーから引っ張ってきたのか判らんが、正直言って――欲しい。

ここらへんで薄れかけた先代との過去を思いだすのは悪くない。

ううむ。


「……」


正直、悩む。


「そんなに悩む事? 思いだすのはスズナリなんだから、変な事は思いださなきゃいいじゃない」

「……」


そう都合よく見られたくない事をザッピングできるものだろうか。

まだ開発中の装置なのでよくわからん。

ううむ。


「……仕方ありません」


折れた。

まあ、アリエッサ姫に過去がバレたところで何も困るものではない。

むしろ――私の暗殺者としての過去や、残飯漁りの惨めな姿に幻滅してくれた方が良い。


「やった!!」


アリエッサ姫はヘッドギアを放り投げ、それを私がキャッチする。

――まあ、この姫様がそんな私の姿に幻滅してくれるとは、無駄な期待かもしれないが。


「でも付けるのは夜ですよ。昼は時間がありません」

「ていうか、寝ながら付ける装置みたいよこれ。夢の中から過去の記憶を引きずりだしてくるらしいわ」

「ほう」


どういう原理かさっぱり判らんが、それなら都合がいい。


「そうそう、マリーやアンナも呼ばないと」

「全員呼ぶおつもりですか?」

「そりゃ呼ぶわよ。大イベントだし。一夜漬けで済むかどうかも判んないけど」


姫様はそう呟いて、部屋から出ていく。

勿論護衛のパントライン嬢とモーレット嬢を引き連れて。


「じゃあ、スズナリ。楽しみにしてるわ」

「私も……まあ楽しみにしておきますよ、アリエッサ姫」


私はなんとなくスポっとヘッドギアを被り、アリエッサ姫に別れの挨拶をする。

さて、仕事だ。

書類に向かって私は大きくため息を吐きながら、ペンを片手に持った。








「みんな揃ったわね!」


私の寝室には、アリエッサ姫とその護衛のモーレット嬢、パントライン嬢。

アンナ姫に護衛のジルとエル。

王宮魔術師のマリー嬢。

教会からシスターのアリー嬢。

ギルドからルル嬢。

そしてエルフのウォルピス嬢。


「揃わせんなよ」


私は愚痴を吐いた。


「何よ、ここまで全員の婚約者候補を揃えるの難しかったのよ」

「ウォルピス嬢はよく来れましたね。仕事で忙しいでしょうに」

「我が夫殿の重要な案件と聞いてな。さすがに駆けつけるさ」


ひらひらと手を翻しながら、ウォルピス嬢は私の目を見ながら呟く。


「というか、ルピーアとアポロニアの定点貿易で十分儲けてるしなあ」


ウォルピス嬢はどうやらかなりいい貿易ルートを手に入れたようだ。


「はいはーい、そこら辺はどうでもいいのよ。ほら、スズナリ、ヘッドギア被って。さもないと全員で襲うわよ。腹上死チャレンジだからね」

「……」


アリエッサ姫の恐ろしい脅迫に背筋を凍らせながら、私はヘッドギアを被る。

そうしてベッドの中に入り、意識を夢に落とそうと試みる。


「むしろ襲っちゃダメなの? 何で駄目なの?」

「いや、今回の主題はスズナリの過去を見るだけだからね。襲っちゃだめよモーレット」


モーレット嬢の恐ろしい発言を聞きながら、私の意識は闇に溶暗していった。








「はい、始まった―」


姫様がパチパチと拍手をする。

真っ白い壁にはスズナリ殿の夢の中が――過去が描写されている。

アリエッサ姫はそれを見ながら口でクッキーを齧り取り、喋る。


「いきなり残飯漁りからスタートか。マジで浮浪者やってたのねスズナリ」


画面では、繁華街の裏路地で残飯を漁る姿が映し出されている。

よく残飯の画像を見ながらクッキー食えるな姫様。

満腹になったのか、ふらり、と立ち上がり、裏路地を歩く。

雨が降っていたのか、その水たまりの姿からスズナリの顔が映し出された。


「若いですわスズナリ殿。この頃御会いしたかった」


マリー嬢がスズナリの年齢に感想を寄せる。

およそ11年前――スズナリが被るヘッドギアの目盛にはそう表示されている。


「で、ここで現れるのがあの先代ってわけね」

「ギルマスからはそう聞いています」


ルル嬢が画面を見つめながら答えると――出て来た。


「コイツが先代? 確かモルディベートだっけ」


スズナリ殿の視線――映像の中に。

胸元を大きく開いた黒ローブにウィッチハット。

魔女然とした姿に大きく違和感を感じるのは、その背に背負われた巨大なハルバードだ。

通常の品ではない。

魔法の品であろう精気を帯びているせいか少し青く光っている。

その魔女の容姿は――


「……ムカつくけど超美人ね、そう言い様しかないわ。私には劣るけど……あれ? 先代ってこの時点で確か40超えてるわよね。御父様にはそう聞いたんだけど」

「姫様、相手は生物魔法をスズナリ殿に仕込んだ"不死の魔女"と呼ばれる存在ですよ。年齢操作なんてちょちょいのちょいです」


マリー嬢がそうアリエッサ姫に答える、が。

疑問が湧く。


「ならなんでスズナリは年齢操作してないのよ。コイツ――先代がいない今、生物魔法の第一人者でしょう」

「知りませんよ。延命長寿程度なら簡単だと思いますが……そういえば、アカデミー長を代表とする、魔女とは違う男の長寿魔法使いは全員老人姿ですねえ」

「男と女で違いがあるのかしら?」


くだらない疑問。

今は別にそれはいい。

それよりも、だ。


「先代の奴、いろんな言語でスズナリに話しかけているけど、何一つ通じて無い?」

「スズナリ殿も色んな言語を喋っているようですが、何一つ通じてませんね」


映像では何やら会話を試みようとしているようだが、まるで結びつかない。

埒が明かない。

そう判断したのであろう。

映像の中のモルディベートはハルバードの柄の部分を一閃し、スズナリの頭をぶっ叩いた。

一瞬、溶暗する画面。

意識は失っていないようだが、激痛で身動きが取れないようだ。

抵抗もできないスズナリの足のズボンを掴み、ずりずりとそのまま引きずっていく。


「……いきなり何してんのコイツ」

「……エキセントリックなところは姫様と似てますね」

「似てないわよ!!」


そうしてモルディベートは他のパーティーメンバーに話しかけ、スズナリを引きずって行った。


「これ拉致って言わない?」

「言いますけど……路頭に迷っていたギルマスは感謝しているようでしたよ」

「ほっとけば衛兵が保護して、普通の人生今頃送ってたって聞いたわよ」


この社会制度が整ったアポロニアでは浮浪者なんぞいない。

すぐつかまって保護施設に送られ、後の労働力として確保される。


「まあ……そうしてたらアリエッサ姫との出会いもありませんでしたよ」

「まあ、それもそうね」


ルル嬢が一応モルディベートを擁護する様に発言する。

ギルマスがこういう目に遭っていなかったら、今頃ここにはいなかった。

それを考えると少しくらいの擁護はいいだろう。


「これで出会いは判ったわ。けど、何で言葉が通じなかったのかしら?」

「どこか遠い異国から転移してきたんじゃないんでしょうか?」

「ジパングよりも遠い異国? 世界の反対側より遠い異国ってどこよ」


アリエッサ姫が両手を広げてハテナマークを頭に浮かべる。

とはいえ、まさか別世界から来たというオチはあるまい。


「ま、いいわ。しばらくは言語と魔法でも仕込まれてるんでしょうし、時間飛ばすわよ」

「できるんですか」

「早送りならね」


アリエッサ姫がスズナリが被るヘッドギアのボタンを押し、映像の早回しを始める。

画面ではひたすらハルバードの柄で殴られながら勉強を続ける姿が、しばらく映し流されていた。







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