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074 アリッサムの先制攻撃


薬草茶をルル嬢がゆっくりと注ぐ。

ここは王都のギルド。

ウジェーヌ枢機卿がいきなり訪ねて来た。

だいたい要件の方は判っているから帰って欲しい。


「アリッサムを亡ぼしましょう」

「何で急にそんな話になるんです」

「街で噂になってますよ。アポロニア山脈の猫の獣人狩りを行おうとした奴隷商人が虐殺にあったと。やったのは山脈に住む死神のようですが……」


吟遊ギルドはちゃんと仕事しているようだ。

アリッサムにも同じ噂が流れているだろう。


「それ自体は良いのです。アポロニア山脈まで接近したのはアリッサムの挑発行為ととらえるべきです」

「何故そうなる」


アレはギリギリの線を奴隷商人が攻めて来ただけの話だろう。

アポロニア山脈はあくまでアリッサムの領地――干渉地帯だ。

戦争には発展しない。


「簡単に一国を亡ぼすと言わないで下さいよ。大体理由が無い」

「理由なんぞ――スズナリ殿が、泥団子をうまく作れなかったのが悲しかった。だからアリッサム亡ぼす、その程度の理由一つで結構。後は教会が適当にでっちあげます」

「そんな理由で戦争できるか!!」


大体33にもなって泥団子なんか作るか。

子供か私は。

大体うまく作れるわい泥団子くらい。

最高峰の土魔法使いだぞ私。


「できますよ。だいたいあそこ教会も無い国ですよ。前から気にくわなかったんですよね」

「完全に教会の都合で亡ぼせ言ってますよね、それ」


まあ奴隷商人国家に、この世界の教会が建つわけもない。

むしろ完全に敵対している。


「とにかく、戦争はしませんよ。面倒臭い」

「そこをなんとか。アリー嬢付けますから」


身体の線の見えるシスター服に身を包んだアリー嬢が、肩にしなだれかかってくる。

媚薬混じりの香水の匂いで偏頭痛が酷くなる。


「香水にアイアンタートルの血を混ぜてみたんです。如何でしょうか?」

「死ね」


私は一言でアリー嬢のすべきことを告げた。

はあ、とため息を吐き、薬草茶を啜る。


「大体、私にそんな権限ありませんよ。アルバート王に言ってください」

「言いましたが、山脈超えて統治するの面倒臭い、と」

「でしょうね」


アリッサムは砂漠の王国だ。

とはいえ、その王都や都市のオアシスからは十分な産物がとれる。

国民全員を十二分に食わすだけのスペックは十分にある。

だが枯死する国民――奴隷となって売られる国民がいるのは。

全て、何もかも独裁的な統治者の政治が悪いのだ。

奴隷商人国家として立国しなくても、別にやっていけるのだあの国。

ゆえに支配するメリットは十分ある。

――今は錬金素材の一つでしかないが、将来的には価値が出る油田もあるしな。

だが。

アルバート王に進言したところで帰ってくる言葉は「めんどい」の一言でしかないだろう。


「スズナリ殿が次代の王としてオーケーを出せば戦争しても良い、とも仰っておられましたが」

「断固拒否」


私は窓に視線を移す。

今日も晴れ晴れとした空だ。

その空には騎鳥便が今日も高速で飛んでいる。

あれは――ちょうど今話していたアリッサムの方角からか。

一体何の要件だか。

私はその騎鳥便が一羽ではなく、10羽も居ることに訝しみながら――

すぐさま、アカデミーや城への直通魔法通話――それを可能とする水晶玉に叫んだ。


「アリッサムより騎鳥便10羽。警戒態勢をとれ!! 高射砲準備! 塔へ登れ、早くしろ!!」

「「りょ、了解!!」」


アカデミーや城の衛兵室にたむろしていたであろう、衛兵の返事を聞き、望遠鏡を――


「ルル嬢! 望遠鏡!」

「はい!!」


ルル嬢が私に向かって望遠鏡を投げ渡す。

私はそれに魔力を籠め、望遠鏡の倍率を無理やり高めながら騎鳥便を視認する。


「スズナリ殿、何を慌てているのです。確かに騎鳥便が10羽もやってくるのは変ですが――」

「アリッサムとは国交がありません。よってアルバート王から毎年の威圧も受けていない」


ウジェーヌ枢機卿の言葉に返答する。


「だからドラゴンバスターにも平気で喧嘩を売ると? どれだけ暗愚――」


言い指して、ウジェーヌ枢機卿はアリッサムの国家情勢を思い出したようだ。


「間違いなく暗愚ですね、あの国家の国王ならば」

「先日のアポロニア山脈の虐殺を、アポロニア山脈に住む謎の死神ではなく、アポロニア国家によるものと判断したなら――」


アリッサムからの先制攻撃も、有り得る。

私はそう判断した。

望遠鏡の倍率がやっと合う。

騎鳥便の抱える荷物に眼がうつった――アレは、樽?

ロック鳥の身体に幾重もの樽が並び括り付けてある。

内容物は判らない。

だが、騎鳥便が一路城へ目掛けて飛んでいるのだけは判る。


「爆撃の可能性がある――高射砲の照準を合わせろ!!」

「まさか! アルバート王への進物の可能性の方が高いでしょう!!」


水晶玉の相手が怒鳴り返してくる。

その可能性が普通は高いんだろう。

その判断は判る。

だが、この嫌な予感は――


「撃ちなさい!! これは命令よ!!」


期せずして私の案を押す言葉が水晶玉から響いた。

これは――アリエッサ姫。

好奇心が生じて現場まで来てたか。


「直感よ! あれは爆撃だわ! 油脂焼夷弾よ!!」

「結論は出た! 責任は私が取る! 全騎撃ち殺せ!!」


魔法のサイレンが鳴り始める。

鐘の音を増幅させた緊急警報の――全員建物へ避難のサイレンだ。


「高射砲、撃ち方始め!!」


アカデミーと城に設けられた塔から、高射砲の発射音が水晶玉を通して響く。

城に迫ろうとしていた騎鳥便が銃撃を受け――樽が割れ、その液体がこぼれるとともに引火し、一気にロック鳥を騎手ごと燃え上がらせた。

――姫様の直感が正解だ。


「撃ち方続けろ!!」

「はい!!」


騎鳥便達は被害も気にせず城への突撃を続ける。

あれは何かに操られた動きだな。

鴨撃ちにしてやる。


「あんなものあったんですね。爆発魔法ですか?」

「魔力を燃料にした巨大な砲弾による狙撃だ。アカデミーと私が開発した」


ウジェーヌ枢機卿の質問に返答する。

高射砲なんてあるのはどこの国を探してもウチだけのはずだ。

……エルフの国ルピーアは長弓兵が余裕で撃ち落とせるので例外だが。


「判断はよかった。だが――」


城に辿り着くことも出来ず、全ての騎鳥便が騎手ごと炎の塊として街に落ちていく。

放っておくわけにも行かん。


「ルル嬢! ギルド員に通達! 騎鳥便の落ちた周囲の建物を破壊! 消火活動に努めろ!」

「はい!」

「水は掛けるな! 燃え広がるぞ!!」


我々が動く前に、この国の優れた衛兵たちが先に動いてくれてるだろうがな。

初期消火が被害の分岐点だ。

祈るような気持ちで騎鳥便の落ちる場所を見つめていると――


「スズナリ! アンタも王宮に出頭しなさい! 出来るだけ早く!!」

「現場が先です!」


騎士団の治癒班も現場に派遣されるだろうが、私以上の癒し手はこの国にいない。

先に現場を優先すべきだろう。


「早くしなさいよね。それから水晶玉は持ち歩くこと!」


そう言って通信が一度プツンと切れる。


「スズナリ殿、私達も治療の心得が」


ウジェーヌ枢機卿とアリー嬢が、歩き出した私の行く手に立ちふさがる。


「では着いてきてくれ」


私は肩を叩いて、それに答えた。


「ルル嬢、ギルド長代行を頼む」

「判りました。行ってらっしゃいませ」


ルル嬢が深々と頭を下げるのを目にしながら、私は一路現場へと向かった。









救いきれなかった。

首を斬られていても短時間なら蘇生できる。

全身大やけどでも生きてさえいれば治癒できる。

――生きてさえいれば、だ。

それが私の――生物魔法の限界点だ。

先ほどまで抱きかかえていた赤ん坊の亡骸の感触が、今も手に残っている。

――撃ち落とすのは私の判断ミスだったか?

いや、城への攻撃を許す方が被害は広がっていた。

第一、撃ち落とさずに再攻撃を許す方が問題だ。

どうしようもない犠牲だった。


「スズナリ」


アルバート王が珍しく、こちらの機嫌を伺うような顔で私の名を呟く。


「死傷者は何人であった」

「83名です。街の南側――住宅街に落ちたのが致命的でした」

「そうか」


アルバート王は黙り込んだ後、立ち上がり、座っていた玉座を思い切り蹴飛ばした。

そして二言だけ呟いた。


「ぶっ殺すぞ。アリッサムをな」


それは宣言であると同時に、私への確認だった。


「それは変わりません。ですが、先にやる事がたんまりと」

「何だ」

「今回のような行為――武力行使を世界中で禁じていた騎鳥便ギルドへの詰問。アリッサムへの宣戦布告――各国が邪魔しないように釘指し。それに――」

「一つ一つやっていこう。騎鳥便ギルドへの詰問だがどうする。我が国の騎鳥便ギルドに罪は無いし、潰すわけにもいかぬ」

「今回の死傷者への金銭的賠償の全てを被せましょう。それにアリッサムへの全ての協力拒否を」


もっとも、こちらから言わなくてもあちらから言いだすだろうが。

騎鳥便ギルドのギルドマスター達は愚鈍ではない。

賠償額はしれてるが、それがどれだけ巨額でも――全世界の騎鳥便ギルドから金を集めてでも支払うだろう。


「騎鳥便ギルドに戦争への協力を強要させることは?」

「可能ですが、アリッサムと同じことはやりたくありません」


今回落とした10羽の騎鳥便の騎手は全員死んだ。

死骸からは隷属の首輪が付けられているのが発見された。

彼等も彼等で哀れだ。


「各国への釘指しはこちらでやっておく。ついでだ、騎鳥便ギルドにその使者をやらせよう」

「それでよろしいかと」

「次は?」

「戦力をかき集める――戦争準備ですよ。判っているでしょうに」


私は言うまでもない事を口にし、アルバート王の顔をじっと見据えた。







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