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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編3
71/113

071 求道者



「20年前は私と死闘を愉しんでくれたではないか」

「ありましたね、そんな事も」


全てが懐かしい、という風情でカバラ殿がガードナー殿の言葉に頷く。


「しかし20年前は20年前、私は気づいたのですよ。別に闘う事は好きではなく、ただ私は鍛えることが好きなのだと」

「その武を試したいという気は無いのかね」

「昔はありましたが……私はかつて見たのですよ」


遠い目をして、カバラ殿が空を仰ぐ。


「見た?」

「18年前、ドラゴン相手に立ち向かう、現アポロニア王アルバートの姿を」


18年前のドラゴン戦の参加者か、カバラ殿は。

そりゃ武の求道者というぐらいだから、その時ぐらいは山から下りてきてたか。


「アレは人ではありません。私が一生涯かけて鍛えても追いつけないでしょう」

「アルバート王は規格外だ、それは仕方ない。私も先日規格外の相手に負けたばかりだ」


ガードナー殿が腕組みをしながら語る。

確かに先日、武闘大会でアルデール君にボコボコにされたばかりだ。


「だが世の中、自分達より強い奴ばかりだからと言って、闘わない、鍛えないわけにもいくまい」

「ええ、そうですね。ですから、私はあの時アルバート王に一生勝てないと知ったとき、気づいたのですよ」


カバラ殿がガードナー殿の眼を見据えて、呟く。


「あ、私、別に闘うのが好きじゃなくて鍛えるのが単に好きなんだと」

「……それは」

「それから18年、山籠もりを続けて鍛え続けていますが、この武を何かに使おうと今更思いません」


カバラ殿が炭と野菜の交換を終え、猫の獣人にペコリと頭を下げる。


「単純に好きでこの生活をやっているのですよ。以前に何人か、私を召し抱えようとする物好きな貴族の方もおられましたが……全てお断りしています」


カバラ殿はその理知的なブルーアイズを曇らせながら、ガードナー殿の眼を覗き見る。


「それに……正直言いまして、20年前とは違い、私とガードナー殿では実力に差があり過ぎるのではないかと。試合にすらなりませんよ」

「何を急に」

「失礼ながら、このような生活を続けていると、ある程度その人の実力を見分けられるようになります。ガードナー殿と比べると、そこの御仁の方が余程恐ろしい」


ス、と滑らかな動きでカバラ殿が私を指さす。

私か。

まあ、間違ってはいない。


「そして、そこの御仁も闘いには興味がないご様子です。まあ、有ったところで私は逃げますが。先ほどから申し上げている通り、何度も言いますが闘いはお断りいたします」

「むう、カバラ殿とはもはや、そこまで実力差があるのか……」

「残念ながら」


ガードナー殿も物をわからん人間ではない。

武道馬鹿だが。

そこまで言われれば、試合にすらならない実力差がある事はわかるだろう。


「しかし、ここまで来たのだ。では試合とは言わん。言い方を変えよう。一手指南頂きたい」

「本当に言い方が変わっただけですね」


カバラ殿の言うとおりである。

結構しつこいな、ガードナー殿。


「しかし、そこまで言うなら……致し方ありません。わざわざ来られたわけですし」

「受けてくれるか?」

「はい。ですが獣人の里を荒らすわけにはいきませんので、山頂まで来ていただけますか?」


カバラ殿がしつこさに折れた。

何か平和に暮らしてた場所を土足で踏み入るようで申し訳ない。

そんな考えの私を尻目に、やったーと万歳するガードナー殿とアンナ姫。

遠慮をしらんなコイツら。


「では、山頂にてお待ちしています」


そう呟いて、カバラ殿は野菜かごを背負い、山頂への道を登って行った。

それを黙って見送る私達。

さて、出立の準備をするか。


「アリエッサ姫、いい加減ペロー殿の腹から離れてください」

「んー、もうちょっと」


私はずっと気になっていた事を口にし、ため息を吐きながらメンバー全員を集めることにした。

なんで私が引率のような事をしなければならないのか、疑問に思いながら。









「山頂って言われても途中から道ないじゃない」


アリエッサ姫が断崖を目前にして、蹴りを入れながら吐き捨てた。


「ここからは断崖を登っていきます」


ガードナー殿が当然のように答えた。

馬鹿なのかなこの人。


「はあ? 私、断崖なんか登った事ないわよ!!」

「私は修行であります。よくフロイデ山を登っていました」


はい、と手を挙げるアンナ姫。

どんな修行与えてたんだ、ガードナー殿。


「最初に私が登りますので、後のメンバーは私と同じルートを辿ってください」


やはり平然と当たり前のように言うガードナー殿。

私は断崖を登った経験があるが……それよりも、いや、止めておこう。


「そういえばスズナリ、アンタ土魔法の使い手じゃない。道作ってよ」

「糞、気づいたか」

「はあ! アンタ気づかなかったらそのまま登らせるつもりだったの?」

「いえ、気づかれても登らせるつもりです」


私は腕組みをしながら、断固拒否をする。


「何でよ。楽した方がいいでしょう」

「いや、今回修行できてるんでしょう。断崖ぐらい登ってくださいよ」

「イヤよ、身体のそこかしこを岩にぶつけて傷がつくもの」

「自力の生物魔法で治せるでしょうに」


断固として拒否する。

そんな会話を続けているのを無視して、ガードナー殿。

そしてそれに続くようにアンナ姫、ジル嬢、エル嬢が断崖を登っていく。

アンナ姫はともかく、ジル嬢とエル嬢も毎回こんな修行やってたのか。

だから馬鹿になるのだ。

私は彼女達の頭の悪さの理由を、修行内容に求めた。


「モーレット、パントライン、貴方達は反対よね」

「いや、面白いじゃん。私はやるよ」

「姫様、反対しているのは姫様だけです。諦めて登りましょう」

「こ、コイツら……」


アリエッサ姫は頭を抱えて蹲る。

そんなに登りたくないのか断崖。

別に断崖絶壁というわけではない、たかが傾斜度50度程度ではないか。

……まあ、岩がゴロゴロしてて十分キツイか。


「スズナリ、手をつないで」

「イヤですよ」

「じゃあ勝手につなぐ」


がし、と私の左手に自分の右手を預けるアリエッサ姫。

……仕方ない。


「手を引くだけですからね」

「よし。では出発」


何がよし、なんだか。

私は急に機嫌がよくなったアリエッサ姫を訝しみながら、二人連れ立って山を登って行った。









「よし、山頂ついたー。私は地球を踏んだ」

「言ってなさい」


私は呆れ気味に、ぴょこんと両足で山頂を飛び上がったアリエッサ姫に呟いた。


「で、カバラ殿はどこに?」

「ここです」


山頂には稽古着姿のカバラ殿が佇んでいた。


「で、私はそこのお嬢さんからお相手すればよろしいのですか?」

「はい、お願いします。全力は出さないでくださいね」

「勿論出しませんよ」


アンナ姫は、ひゅーと息を吸いながら、ぱん、と両手を合わせた。

そして、そのまま体を折って礼をする。

カバラ殿も同じくそれに答えて礼をした。

それ以外の面々はというと、辺りに散らばって観戦している。


「姫さまー、頑張ってくださいー!」

「婚約者のスズナリ殿にいいところ見せてくださいー!」


ジル嬢とエル嬢の声援が飛ぶ。

いや、ここで善戦したところで私は何とも思わんが。

というか、本当に今更だが何でアンナ姫こんな事してんだ。

修行?

いや、根本的にどっかおかしい。

姫様と言うからには、護身術程度でよいのではないか。

何でガチで修行してるんだ。

そう思う間もなく――アンナ姫の正拳突きがカバラ殿に突き刺さった。

10mの距離を飛ぶその間、1秒もなかったであろう。

アンナ姫の身体からは身体強化魔法の黒墨の煙が上がっている。


「はい、効きません」

「くっ」


インパクトの瞬間、綺麗に鳩尾への攻撃を外した。

やはりカバラ殿は只者ではない。

というか、所詮アンナ姫の技術はガードナー殿の劣化版と言っていい。

師弟だしな。

そんな事を考えるが。


「五段!!」


正中線五段突き。

金的・丹田・鳩尾に綺麗な、素早い突きが繰り出されるが。

同じくカバラ殿が掌を回転させながら、一手一手を綺麗に受け流す。

そして――ガツン、とカバラ殿の後頭部に拳大の岩が衝突した。

思わず崩れるカバラ殿。


「むう!」


いきなりどこからともかく岩が飛んできた。

思わず姿勢を崩したカバラ殿の喉笛と顎に、アンナ姫の拳が撃ち込まれる。

しかし、からくもカバラ殿はそれを無理やりスウェーして逃れる。

なんだ、今の岩は。


「念動力ですか。普通の相手ならこれで崩れているでしょう。若いのに大したものです」


カバラ殿が私の疑問に答える。

アンナ姫、念動力も使えるのか。

その証か、瞳が赤銅色に光っている。

だから12歳の癖に何でそんな無駄に多芸なんだよ。

一体どんな修行を?

ガードナー殿のアホは一体何を仕込んだんだろう。

そんな疑問を抱くが――その間も拳蹴が繰り出される。

今度はカバラ殿からだ。

アンナ姫はガードするのではなく、捌こうと両手も身体もきりもみ状に回転させながら立ちまわるが。

まあ、実力差は明らかだ。


「ですが、ここまでです」


一手、隙を見せたアンナ姫の鳩尾に軽い手刀を埋め、悶絶し崩れ落ちるアンナ姫を前にして、ピタリと踏み込みの蹴りを止めた。

まあ、よくやったほうだよ。

というか12歳の女の子だし。

私はため息をつきながら立ち上がり、介抱に向かった。




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