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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編3
70/113

070 アポロニア山脈と猫の獣人


「そこに山があるからじゃない。ここに私がいるからよ」


アリエッサ姫はふん、と鼻息荒くアポロニア山脈の登山ルートに足を一歩踏み込んだ。

そして振り向いてこうつぶやく。


「飽きた」

「早いですね」

「はええよ」


パントライン嬢とモーレット嬢が思わずツッコミを入れる。


「登山ってそれほど趣味じゃないのよねえ。しかもこれから標高5000mまで登るの? 馬鹿じゃないの」


最初からそういってくれれば、私は来ないで済んだ。

というか、今更そのセリフは何だ。

来たいと言ったのはお前だろうが。


「武の求道者は高いところに住んでいるのですよ」

「おまけに山間民族までいる、と。敵じゃないのよね」

「わかりませんよ。私も登るのは20年ぶりなもので」


カリカリ、とガードナー殿が頭を掻きながら呟く。


「本当に居るのね、山間民族、猫族の獣人達が」


わきわき、と手を動かしながらアリエッサ姫が呟く。

――それが目当てか。

というか、猫族となると私も気になる。

「長靴をはいた猫」のような猫族がアポロニア山脈に入るのだろうか。

凄い撫でたい。


「だから、判りませんよ。住処をもう変えてるかもしれません。なにせ猫族の獣人は気まぐれですから」


ガードナー殿はそういうが、街中で猫族の獣人等見たことが無い。

ということは、山脈を降りてはいないということだろう。

ならば、まだいるはずだ。

撫でよう。

尻尾の付け根とかを叩くのだ。

私はコクリ、と頷いて決意した。

そんな仕草をしていると、アンナ姫と目が合う。


「アンナ姫も猫族目当てですか」

「いえ、私は修行に来たのですが……」


アンナ姫は稽古着のような装束に身を包み、拳はバンテージで覆っている。

ガードナー殿と同じような格好だ。


「スズナリ殿は猫族が目当てで」

「いえ、本来の目的は護衛です。ですが山間民族が猫族だというならば不要でしたね」


モヒカン頭に奇妙な仮面をつけた男たちがヒャッハーと叫んでるイメージしか無かったよ、山間民族。

獣人ならこっちを襲ってくる理由もないだろう。


「いえ、必要ですよ。武の求道者に負けでもしたら、どんな辱めをうけるか――」


そういってアンナ姫は身を震わす。

武の求道者っていうぐらいだから性的な事にはもう達観して興味ないんじゃねえかなあ。

まあもしあっても。


「エルとジルの姉妹を身代わりに差し出せばいいでしょう」


私は冷たく答えた。


「「何故そんな扱いを!?」」


そういう扱いだからだ、君たちは。

私ははあ、とため息をつきながら、両脇を挟んで身体を何故か押し付けてくるエルとジルの姉妹を鬱陶し気に払いのけた。


「ガードナー殿、さっさと登りましょう。話が進みません」

「はあ、ではそうしますか」


またカリカリと頭を掻きながら、ガードナー殿は先頭に立って歩き出す。

殿は私が務める。

こうして、私とガードナー殿。

そしてアリエッサ姫とモーレット嬢、パントライン嬢。

加えてアンナ姫とエル・ジルの双子姉妹。

その珍奇なパーティーはアポロニア山脈を登る事になった。











ギロリと、そのドングリまなこが私を見た。

デカい、3mぐらいはあるだろう。

その体躯は猫と言うよりも熊をも彷彿とさせるが、その愛らしさと可愛らしさはやはり猫である。

ギュッ、と抱きしめたい。

しかしそれは失礼――


「モフモフさせなさい!」


ビシィ、と音を立てながら、アリエッサ姫は指を付きつけながら猫の獣人――猫の村の庄屋に命じた。

度胸有るなアリエッサ姫、だが一遍死ね。

失礼にも程があるわ。


「……どうぞ」


しかし庄屋は怒る事も無く、承諾した。

嬉々として庄屋の胸に飛び込んでいくアリエッサ姫。

ほんと死ねばいいのにコイツ。

私もやりたい。


「御客人、こんな山奥まで何の用でしょう。ここは猫の獣人の村。正直何もない村ですが……もしや税を納めろと?」


不思議そうに我々を見る庄屋――名をペローと言ったか。

その屋敷に案内されて、我々の身分を名乗り挨拶を終えたところであった。


「アリエッサ姫、私もモフモフしたいです」


アンナ姫が手をワキワキとさせながら、アリエッサ姫に続くように待ち構えている。


「どうぞ、お嬢さんも」


ペロー殿は動じない。

アリエッサ姫と同じようにアンナ姫を受け止め、モフモフさせている。

ちなみにペロー殿は短毛種のようだ。

――どうでもいい。いや、猫好きの私にとっては重要な事だが。

長毛種もいるのだろうか。

それより、庄屋殿はアポロニア王国への納税について気にしているようだ。


「それは誤解です、ペロー殿。確かにアポロニア山脈はアポロニアの名を冠していますが、領土外となっております。――独自の村を築いている獣人族に税を強いる気はありませんよ」

「ああ、それはよかった。何分、食い扶持以外は誰一人真面目に働く気のない者ばかりでして。財と呼べるものが食料しかこの村にはないもので」


アリエッサ姫とアンナ姫にしがみつかれながら、ペロー殿は額をハンカチで拭う仕草をする。

税なんか仮に徴収することになっても、その肉球で私の背中でもマッサージしてくれたら、代わりに私が払ってあげていいがな。

というか、アリエッサ姫とアンナ姫、早く替わって欲しい。


「では、どのようなご用件でこんな山奥まで?」

「ペロー殿は、武の求道者をご存知かな?」


ペロー殿にしがみつく、アンナ姫を優しく見ていたガードナー殿が口を開く。


「はあ、存じております。たまに炭や薬草と、食料を交換に来られますな」

「求道者と言っても、食料無しでは生きていけんか」

「この山脈には食べれる動物が少ないですからね。特に野菜を好んで交換されていきます」


ペロー殿が詳しく説明する。

私はといえば、もう武の求道者というぐらいだからモンスターの臓物を生で喰らってビタミン補充してるような連中のイメージしか無かったが、随分牧歌的な光景である。

筋肉モリモリの変態マッチョマンが、猫の獣人相手に炭と野菜交換してんのかよ。


「この里で待っていれば、そろそろ来られますが……」

「ならば待たせてもらいましょうか?」


アリエッサ姫がとりあえず満足するだけモフったのか、こちらを振り向いて呟く。

もう山昇るの面倒臭くなっただけだろお前。

だが悪い話ではない。

私も、もう猫の獣人をモフりながら武の求道者とやらを待ちたい。


「むうう、山登りも修行の一環なのですが……会えなくては本末転倒。待たせてもらいましょう」


ガードナー殿が苦渋の決断をした顔で呟く。

それでいい。


「山登りはその後という事で」


ガードナー殿が真面目くさった顔で呟く。

やっぱ登るのか、アポロニア山脈。

もういいじゃねえかという気分になるが仕方ない。


「それでは、私もそろそろモフらせてもらってもよいか、ペロー殿」


さりげなく、自分の主張を混ぜる。


「……男性の方はちょっと、匂いが」


素で断られた事に衝撃を受けるが。

ペロー殿は女性にしか懐かないタイプの猫だと考え、他の獣人を当たってみることに今決めた。









あれから三日が過ぎた。


「金なら払う。だからモフらせてくれ」

「男性の方はちょっと匂いが……」

「糞、君もダメか」


あれから村中の獣人――猫を当たってみたが、誰一人として承諾してくれない。

どうも人族の男性の匂いが嫌いらしい。

風呂にでも入ればいいだろうと言いたいが、風呂も嫌いらしい。


「旦那、もう諦めて私でも抱きしめなよ」


モーレット嬢はそのこぼれんばかりの乳房を腕で強調しながら、誘惑してくる。

普通の男性なら喜んで飛びついたであろうが。


「モーレット嬢は黙っていてくれ」


しかし、今の私には猫をモフる以上の欲望しかないのだ。

猫、猫、猫。

並べると何かの暗号略号みたいであるが、とにかく猫なのだ。

本来ならば猫を飼いたいのだ。

だがギルドで飼うわけにはいかん。

特に王都ギルドとダンジョンギルドの往復生活に付き合わせることになるし、猫が可哀そうだ。

だから猫成分をこの里で補充するのだ。

そんなくだらない事を考えていると――


「スズナリ殿、もういいかげん諦めては如何ですか」

「ペロー殿、一生のお願いだ。抱き着かせてくれ」

「止めてください。本当に苦手なんですよ、人族の男性の匂いは」


ペロー殿がわざわざ止めに来た。

そこまで嫌わんでもよかろうに。

加齢臭か? 加齢臭がするのか? オッサンなのが悪いのか?

その腹に張り付いているアリエッサ姫は何故許されているのか。

憎い。アリエッサ姫が。


「それより、お探しの求道者殿が山から下りてこられましたよ。今、炭と野菜を交換してるところです」

「そうか、ガードナー殿は」

「今、求道者殿と話をしているところです。――求道者という言い方も慣れませんね、カバラ殿というちゃんとした名前のある方なので」


カバラ殿か。

名前を口の中で呟いて覚えながら、ペロー殿の案内についていく。

そこには遠くからでも分かる、2m近い体躯の屈強な肉体を誇る、ボロボロに綻びた稽古着を着た男性が居た。

ガードナー殿とアンナ姫が、何やら話をしている。


「だから頼む。アンナ姫や私と一度手合わせを願いたいのだ」

「何度も言いますが嫌ですよ。私鍛えるのは好きですが、闘うのはあまり好きじゃありませんし」


カバラ殿は素でガードナー殿に断りを入れていた。

その目は理知的な瞳をしていた。






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