069 ギルドの階級
王都の冒険者ギルド。
その私室にて、書類と向き合っているアルデール君に対し唐突に発言する。
「今更だがギルド内の階級について説明したいと思う」
「本当に今更ですね」
「いや、言う機会が無かったからな。今までたまに手伝ってもらってたが、これからは本格的に関わる事になるし」
私は言い訳がましくアルデール君に呟く。
といっても大した内容ではないのだ。
「というか、知ってるだろ。なにせ四種類しかない。一般冒険者とギルド員とギルド幹部と――ギルマス、つまり最高責任者の私だ」
「大体わかってますけど、もうちょっと詳しく一度説明してもらえませんかね」
「うむ。そう思って口にした」
コホン、と咳をつき、言葉を一旦切った後に、また喋りだす。
「まずは最下位の一般冒険者だ。ギルド運営とは何の関係もない、ただの冒険者だ」
「別名、死人ともいわれていますね」
「そうだな、あまり冒険者以外の口からは出ない呼び方だが」
というか、言い出したのは冒険者だからな。
自嘲と誇りをこめてそう呼ぶ奴はいる。
「次、ギルド員、全員が「名持ち」あるいは元「名持ち」――吟遊詩人にも謳われたことのあるような、いわゆる冒険者としての実力者だ。発言力は一律ではなく、差がある」
「単純に冒険者としての実力がそのまま発言権になる、とまではいかないですが、かなり影響されてますね」
「そうだな」
ただ単純にギルド員としての経歴が長いというだけで私に偉そうに反発する奴もいるがな。
この間、土に埋めて殺しかけた奴とかがそうだ。
「発言力、と口にしたように、ギルド員になるとギルドの方針に少しばかり口を出せるようになる。その他にも、モンスターの緊急討伐時のため街での待機制度、徴用義務などが課せられる」
「ギルド員、ぶっちゃけ、ほぼメリットないですよねえ」
「ないな」
ギルドの方針に口を出すことに意欲的なギルド員など、私への反発者以外に見たことが無い。
みんなどうでもいいのだ。というか、意欲的な奴はそのままギルドの運営側に回ってくれる。
あんまりアホな事言う奴は、私が絞めることになるし。
メリットと言えば、街での待機義務や徴用の際に、少しばかりの謝礼金が出る程度か。
「まあぶっちゃけ名誉税と思え」
「納得はいきませんが、そう解釈していますよ。で、次、ギルド幹部については私良く分かっていないんですが」
「アリーナ・ルル嬢みたいなギルドの事務員がそうなる。いわば一般で雇われた受付嬢や酒場のウエイトレス等ではなく、ギルド員になってからギルドの運営に加担することを望んだ場合は自動的に幹部だ。中にはアポロニア王国内にある地方支部ギルドそのものを管理している『地方ギルマス』と呼べる奴もいる」
幹部にも格差はあるが、そこら辺は各冒険者ギルドによって異なるので詳しく知らん。
『地方ギルマス』がうまく給与や役割を配分しているだろう。
そこまで細かい人事に口は出してない。
ちなみに、アリーナ・ルル嬢の地位は、私の次に高い。
私の代わりにギルマス代行も務めているから当然なんだがな。
「次、ギルマス」
「私だな、今回旧フロイデ王国領を吸収し、完全体となった」
「本人は完全体どころか、仕事の量で弱体化してませんか」
その通りだ。
旧フロイデ王国領のギルマスが「もうやだ」と仕事をうっちゃって、ただのフロイデ侯国領にある冒険者ギルドの『地方ギルマス』となった。
そのため旧フロイデ王国領に存在する十個の地方支部ギルドの決裁書類がウチに今後回ってくる。
それを今、ちょうどアルデール君が決裁しているところだ。
「本気で面倒くさい。アルデール君が引き受けてくれてよかったよ」
「今後は王都に駐在することにします。ところで――一つ質問が」
「何かな」
私はアルデール君のペンの動きを眺めながら、質問に応じる。
「何故、ギルマスはダンジョンギルドに滞在しているんです。何か秘密でもあるんですか?」
「知らんのか? 実はドラゴンが居て、封印してあるんだ。その防衛のため、滞在している」
「……初めて聞きましたよ」
「意外と知ってる奴は多いんだがなあ」
隠している事ではないのだ。
ダンジョンを封印した経緯では騎士団も動員されているから、アカデミーで歴史学でも学べば知る事はできる。
だいたい300年前だったか、封印されたのは。
「色々と話しておかねばならん事があるな。暗部と言うほどではないが、キリエみたいなマッドサイエンティストもギルドは飼っているし」
「アカデミーから飛び出した生物学者でしたっけ? キメラ造ってるって本当なんですか?」
「法には触れない範囲でな」
地味に役に立つ男だからクビに出来んのだ。
モンスターの死骸から得られる情報は馬鹿にできん。
「まあ、アルデール君が嫌なら首にすればいい」
「雇ってるってことはそれなりに理由があるんでしょう? 基本的に人事をいじくる気はありませんよ」
「そのほうがいいだろうな」
私は話を終え、アルデール君の決済を手伝うべく、書類の半分を持ち上げた。
◇
「アポロニア山脈を登る?」
「はい」
何があった。
アリエッサ姫が、そこに山があるからじゃない、ここに私がいるからだとでも言いだしたか。
それにしても、甲冑姿ではない平服のパントライン嬢は珍しいな。
そう思いながら、決済書類にサインをする。
アルデール君は不審そうな顔でパントライン嬢を見ている。
「ガードナー殿がアンナ姫の強化訓練を実施したいとの事で、アリエッサ姫も同行することに。是非スズナリ殿も一緒にと」
「私はガードナー殿の身体強化術には興味ないぞ。仕事もある」
「スズナリ殿の仕事の最優先事項は、アリエッサ姫のワガママに付き合う事です」
いつからそうなった。
勝手な事を言うパントライン嬢を睨みつけながら、私は最後の書類にサインした。
アルデール君も同じように最後の書類を片付けながら、口を開く。
「別に行ってきていいですよ。ただ、ギルマス代理のアリーナ・ルル嬢は置いて行ってくださいね」
「いや、話聞いてたかアルデール君」
私は行きたくないんだ。
何が悲しくて33にもなって山登りなどせねばならん。
オッサンはしんどいんだ。
「パントライン嬢、私は行きたくない。護衛は君たちで十分だろ」
「ダメです。アポロニア山脈には交流の無い山間民族もいますし、強力な求道者がいるとの噂。強力な護衛役がいります」
「求道者?」
モンスターや山賊ではなく?
いや、モンスターはともかく人も通らん山脈に山賊がいるわけもないが。
「武の道を極めんとする求道者です。山に登るのも、それらとガードナー殿の対決がメインで――姫様も楽しみに」
「お前らアホだろ」
何が悲しくて第一王女とフロイデ侯国領の一人娘連れて、求道者に闘いを挑みに行くんだよ。
というかガードナー殿、実は相当なアホだったんだなあ。
そもそも、何をアンナ姫に仕込んで、どこの方向性を目指しているんだ。
「じゃあもう最初から行くなよ!それかヨセフ殿でも連れていけ!!」
「我が父は騎士団長の仕事があります。自由に動きを取れるのはスズナリ殿しかいません」
「何で私そんなに暇だと思われてんだ」
「何だかんだ、姫様達の要求に付き合ってるからじゃあないですか。一回も断った事ないでしょう」
「……」
返す言葉もないわ。
アンナ姫に二週間に一度会いに行ってるしな。
この間、アルデール君に言われたように何でもかんでも引き受けすぎなんだよ。
だが――
「アルバート王は?」
「スズナリと一緒に行くなら行っていい、との事です」
「基本反対じゃねえかよ」
ならば最初から断固反対してくれればいいものの。
ここで断った場合を想定する。
ガードナー、アンナ姫、アリエッサ姫の馬鹿集団がやかましくギルド内でわめきたてる。
……仕方ない。
「行くよ! 行けばいいんだろう」
「それでこそスズナリ殿です」
お前は私をどう捉えているんだ、パントライン嬢。
そんな思いを抱いていると、パントライン嬢が私に抱き着いてきた。
ふくよかな胸の膨らみが、私の偏頭痛を起こさせる。
彼女を振りほどくために私は近くの花瓶に手を伸ばし、それをパントライン嬢の頭に打ち付けた。
「はぐぁ!」
「やめなさい、女性がはしたない」
「あ、やっと女性として認めてくれましたね」
そんな事気にしてたのか。
わざわざパントライン嬢が平服で来たことと、抱き着いてきたことの理由に気づく。
「女性としては認めています。好きでないだけです」
「そんな非道な事を! 父上は私を貴方に嫁にやるつもりなんですよ!!」
「断ればいいでしょう」
「別にー、私もそこまで悪い気しませんし」
私は顔を両手で覆いながら、なんで私の周りにはこんな奴らしかいないんだ。
そう小さくつぶやき、そして私の周りどころか、この異世界そんな奴ばっかだと気づき、深い悲しみに陥った。
了




