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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編3
64/113

064 ギルド内紛

会議場――ギルドのエントランスホールを抜けてすぐ二階の一室に設けられたそこには、十数人のギルド員が集まっている。

全く、何故こうなったのか。


「そもそも領主がギルドを運営する形となるのが不満である。何故見過ごされたのか」

「見過ごしたわけではない。関りを『拒否』されたのだ。根本的なところを勘違いしてもらっては困る」

「何故拒否されたのだ。ビンボー下級貴族が拒否などするはずもない」


ギルド員の質疑応答に答える。

七面倒臭い事この上ない。

あの話は世間話で終わったはずだろうが。


「領主にではない。王室へのダンジョン調査報告義務の際に、アルバート王から拒否されたのだ」

「何故?」

「知らねえよ、脳味噌ついてんだろ、文句つけるなら自分で考えろ」


ぶっきらぼうに答える。

今日の私は酒を飲んでいない。

少々不機嫌なのだ。

――激しい、頭痛がする。


「その言い方は――」

「文句付けんなら自分なりの考えで、何が問題か不満を述べろっつってんだ。二度も言わせんな」


ぶち殺すぞ。

今日の私は本当に不機嫌なのだ。

何せ――今日は私の誕生日だ。

嬉しくも無い、33歳の誕生日だ。

何故このような嬉しくも無い日を、くだらない不快な連中と雁首揃えて話し合わなければならない。

もっとも、後でギルド員の中に混じっているアルデール君とオマール君とターナ君。

ついでにアリーナ・ルル嬢も祝ってくれるらしいがね。

正直嬉しくない。

嬉しくないが、誕生日会のために酒は飲まずにいる。

頭痛が激しい。不機嫌度が増す。

これは宜しくない事だが、こいつら相手にはちょうどいい。


「……」


私の不機嫌度数に従って、ギルド員一同が少し静まり返る。

このまま終わっちまいそうだ。

だが、普段反抗的なギルド員の一部が、なんとか頭を回転させて声を発する。


「ダンジョンが冒険者ギルドの運営ではなく、領主や――ひいては国家に運営されるのが問題なのです。これを契機に、他の冒険者ギルドの――『地方ギルマス』のギルド幹部が領主とつるんでグループから抜け出すやも」

「そんな奴は干からびさせて殺す」

「……は」

「殺すと言ったんだ。何度も言わせるなよ」


馬鹿かお前は。

冒険者ギルドを握るとは、商人への流通の一部を握るという事だ。

そんな抜け駆けをするギルド幹部とつるむ商人など、冒険者ギルドグループは今後相手にしない。


「そんなもんに加担する商人へは、今後物資の売却も買い入れも行わない。それだけで相手は死ぬ」

「しょ、小規模な商人ならばそれでもやって――」

「小規模な商人? 加担したらそれこそ軽く弾き殺す」


大体、ダンジョンの探索物の売買に加担する小規模な商人?

そんなものがいたらお目にかかりたいね。

全ては大規模な商人が絡んで、そこから小商人に流通が回るのだ。

それに――


「ホードがある。モンスターの大量発生が」


ホード。

文字通り、大群、大群衆の意で、普段真面目に間引きを行っているダンジョンでも時折発生するモンスターの大量発生。

ダンジョンのある町や村に大量のモンスターが流れ込むのだ。

その発生条件は未だ誰も知らない。

最も発生は稀だが。


「そのホードの危険性を理解してて冒険者ギルドグループから抜ける? もしもの時、冒険者ギルドグループしか抑えられないのを理解してて? 代わりに国軍の力でも借りるのか? いいか、そんなバカはいない。いても――裏切る前に、その場で首にする。根本的なところを忘れるなよ、各冒険者ギルドのギルド幹部、地方ギルマスへの任命権は私にあるんだぞ」


だから、反抗的なギルド員、お前はギルド幹部にはなれないし、させないんだよ。

そこのところ理解してるのか。


「……」


また静まり返る。

これで終わり。

そう思いたいが、また反抗的なギルド員は口を開く。


「……今回のアルバート王の最終的な目論見は、国家によるダンジョンの運営と考えます」

「おそらくな、そうだろうさ」


だから何だ。

そんな事は知った事じゃないね。

私は今回のダンジョンが湧いた土地の領主――カーライル殿の事は知らない。

だからこそ言うが、おそらくは「失敗する」。

途中で冒険者ギルドに丸投げすることになるだろうさ。

私はせいぜいその時を待って、失敗した時の領主殿の弁明に立つだけだ。


「それを座視するのは、ギルドマスターとして――このアポロニア王国の冒険者ギルドグループを統括するダンジョンギルドのダンジョンマスターとして、ふさわしい行為ではないのでは」

「……」


沈黙する。

口を開こうとするが、その気になれない。

失敗する――その可能性を読めないアホの相手をする気にもなれん。

いや、仮に成功してどうだというのだ。

その時はダンジョンギルドの――役割が終わったというだけの話だ。

中央集権国家――絶対王制、いずれはアポロニア王国にもその時代は訪れる。

民間ギルドの時代が終わる。それだけの話だ。

おそらくは、数百年も後の話だがね。

今の冒険者ギルドを解体するのは、それだけ時間がかかるのだ。

そしてその数百年後には企業がダンジョンを運営する世の中になるかもしれない。

地方分権の時代が来るかもしれない。

そんな未来の事は誰にも判らないが、とにかく私には関係ない。


「そもそも先代――モルディベート殿の失敗だったのです。貴方をダンジョンマスターにするのは――」

「今何つった、そこのカス」


怒りの沸点があっさり超える。

プツ、と頭の配線が切れる音ともに、不機嫌度がマックスをあっさり超える。


「今、先代――モルディベート殿を侮辱したか?」

「ぶ、侮辱などしていない。私が気にくわないのは――」

「私の事が気にくわなくても、今の発言は許さん」


椅子から立ち上がる。

急に怯え始めるギルド員に、一歩一歩歩み寄る。


「なあ、死にたいのか?」


泥濘を相手の全身に張り付かせる。

そのまま覆って、後は床を突き破って土の中だ。

5分も経たずに死ぬ。

準備は整った。


「死にたいのかと聞いてるんだ! 早く返事に答えろ!!」

「死にたくない!!」


泥濘を解いてやる。

あえて完全にではない、今日はそのまま泥まみれで家に帰ると良い。


「じゃあ、口にチャックして黙ってろ。今日は二度と私の前で口を開くな」


踵を返し、自分の席へと戻る。

そして椅子に座る。


「何かほかに意見のある方は?」


私は手を挙げて、挙手を求める。

手を挙げるものは、誰もいなかった。









「何であんなにキレてたの? 酒飲んだら大人しくなってね! オマールとの約束だよ! ギルドマスターの誕生日会を始めたいと思います!!」


イエエエエエエエエエ、とターナ君が一人盛り上げ役になったかのようにヤケになって叫んでいる。

私そんなにキレてたか?

酒を飲んだ今となってはわからん。


「何で乾杯プロージットの前に酒飲んでるのギルマス!?」

「めんどい。何か全てがめんどい」


そもそもあんなもん――乾杯プロージットを流行らせるなよお前ら。

私はルル嬢をジト目で見ながら、ワインをグビグビとやる。


「ギルマス、アレは拙くないけど拙かったですよ。恐怖政治となってしまいました。個人的にはアリだと思いましたが」

「もう覚えて無いよ。私何かしたか?」


アルデール君の言葉に上の空で返す。

もはやさっきギルドで話したことなど、忘却の彼方だ。


「……これはさっき行えなかった質問ですが、もしカーライル領でホードが起こったらどうします?」

「なんだ急に」

「いえ、ギルマスの事だから見過ごせないと思いまして」

「見過ごせないが、そもそも間に合わんぞ。辺境過ぎる」


ホード対策の冒険者グループを組んで、出発してあの辺境まで何日かかるんだ。

いざとなれば私が単体で一人助けに行く案もあるが。

ロック鳥を使っても一日かかる。

その間に村が滅んでもおかしくない。


「そもそも、ホード対策を組むのは予算が掛かりすぎて、カーライル領のような辺境は半ば対策を無視されている状態だ。ギルマスとしてはもちろん気にくわんが、費用対効果がな」

「分かります。……しかし、やはり見捨てるはめになりますか」

「心配しても杞憂だぞ。ホードなんぞ間引きさえ真面目にやってりゃ滅多に起きん。心配するだけ損だ」


ワイングラスを片手に、私が断言する。

今のところは、モンゾ・パリタンの一党を間引きに向かわせている。

そうそう問題が起こるとは思えん。


「……私の村が、ホードに襲われたことがあるんですよね」

「……村はどうなった?」

「その時は、熟練の冒険者グループ一党がたまたま村に滞在していたのでなんとかなりました。……多数の村民の命が犠牲になりましたが」

「それでも、運が良かったな」

「はい」


実際に起こった身としては、杞憂では済ませられないという事か。

気持ちはわかる。

そうか、それで……


「それでアルデール君は冒険者を志したのか?」

「いや、家の本業忘れて錬金術に傾倒しただけで冒険者はついでです」

「そうか……」


何かいい話になると思ったがならなかった。

私はそれを残念に思いながら、何か盛り上げ役に必死なターナ君がエールを一気飲みしようとしてそれを吐いたので、ぶん殴った。


「酒を無駄にするな!」

「はい! え、そんな事で殴られたの!?」


そんな事だと!

酒を一滴でも無駄にする奴は殺していいとアポロニア王国法にも明記したいくらいだぞ。


「私が王になったら、酒を無駄にする奴は殺す法律に変えよう」

「……やっぱり、王になる気あるんじゃん、ギルマス」


オマール君が横から余計な事を言う。


「あくまで可能性の話だ」

「可能性ねえ……」


イマイチ納得していないオマール君を後にして。

私は次のワインを、自分のワイングラスに注ぎながら。

ルル嬢がニコニコしながらその様子を見守っているのに気が付き、妙に恥ずかしくなった。






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