056 幕間 スズナリの頭痛をなんとかしようの会
王宮。
赤い絨毯が敷き詰められた王の間――ではなく。
ここはアリエッサ姫の私室。
そこに数人の女性が集まっていた。
「それでは、第一回チキチキ、スズナリの頭痛をなんとかしようの会を始めるわ!」
「チキチキ?」
「お約束みたいなものだから気にしなくていいわよ、アンナ」
姫様がアンナ姫に優しく言い聞かせる。
それにしても、何とかしようと言うが――今回の主催はアリーナ・ルル嬢だ。
「とにかく、ルル嬢の話を聞くわよ」
「はい。おそらくスズナリ殿は――先代のギルマスに頭を弄られて、先代への疑問や反抗、また他者への性的な感情を抱くと強烈な頭痛がするようになっています」
「……聞いといてなんだけど、そんな事ってできるの?」
「当代随一のマジックキャスターと呼ばれた先代なら」
可能かと。
そうルル嬢が呟き捨てる。
「それって、つまり私が近づくと頭が痛くなるって事ですかね」
身体のラインが見える、いつものシスター服に身を包んだアリー嬢が呟く。
「いえ、そんな話は全く。興味持たれてないのでは? 香水の匂いで頭が痛くなるとは言ってましたが」
「何故!? あんなに誘惑したのに!!」
アリー嬢は憤りを隠せないようだ。
だが、アリー嬢に性的な興味を覚えないというのも妙な話だ。
「今はここに居ませんが……エルとジルを近づけると無茶苦茶顔顰めてましたよ、スズナリ殿。ひょっとして性的な興味が?」
「あの二人、明らかに淫売の雌の匂いまき散らしてますからね、スズナリ殿にその気がなくても頭痛くなったんじゃないですか?」
アンナ姫に、マリー嬢が答える。
マリー嬢、あの二人の事そんなに嫌いか。
まあ個々の相性の悪さを一々咎める気はないが。
それともエルとジルの姉妹が、マリー嬢の事をこの間「やーい、行き遅れ」呼ばわりしたのが悪いのか。
きっとそうだ。
「質問あるんだけど?」
「どうぞ」
挙手したモーレット嬢に、ルル嬢が発言を促す。
「アタシとのオデッセイへの旅路の最中、スズナリの旦那、頭痛めたりしてなかったぜ。女として傷つくんだが」
「いや、そんな事言われましても」
ルル嬢が困ったような声を返すが――続けて発言する。
「正直言って、他の女性に性的な興味を覚えなくするように手術されてないか? なんかそんな気もする」
「私たちの名誉的にはそうあって欲しいですね」
モーレット嬢とルル嬢が顔を見合わせながら、呟く。
だが。
「さーれてないわね、多分」
「どういう理論で?」
「直感。多分、アイツ先代の事愛してるってだけで、”ただそれだけで”、アタシたちへの性的な興味殆どないのよ」
ぐしゃ、とテーブルのクロスが姫様の手で握りつぶされる。
「そもそも、先代への愛とやらは本物なのか?」
「……刷り込みみたいなものでしょ? スズナリ、10年前は浮浪者として苦労してたみたいだから。私に言わせれば、そこを拾い上げられて『わざと執着するように』仕込まれただけで、愛じゃあないわよアレ」
シーン、と場が静まり返る。
だがしばらくして、はい、と手を挙げてマリー嬢が答えた。
「先代を殺したいです。何処ですか?」
「今は行方不明です。それに、アルバート王でも無いと殺せませんよ」
ルル嬢がそれには同意したいが、という顔で答えた。
「チッ」
マリー嬢が舌打ちした。
よく舌打ちするのよね、この人。
「で、結論から言うけど、スズナリにまだ手術を受けさせる必要はないわね」
「何故ですか――姫様になら賛同していただけると。もっとヤバいものを仕込まれている可能性もあるんですよ! ギルマスの頭の中は!!」
全員で、無理やり生物学者であるキリエの元に引きずっていけば――
いっそ、アルバート王に無敵のドラゴンキラーの力でなんとかしてもらえれば。
そうルル嬢が呟くが。
「いいバロメーターじゃない。先代から私達へ心が傾けば、頭痛がするって事でしょ」
「そう解釈します?」
「そう解釈するわ」
姫様は冷静だ。
熱く冷静だ。
今まで、興味の一つも持たれていなかったことを自覚して――熱く燃え上がる心を抑えつつも冷静である。
「振り向かせてやろうじゃない。先代だか何だか知らないけど、今ここにいない人間に何ができるものか!!」
姫様が大喝する。
素晴らしい。
それでこそ私の姫様だ。
姫様が、落ち着いたのか息を大きく吐いた。
「解散。以後、随時開催するからちゃんと集まるように!!」
全員、バラバラと姫様の部屋を出ていく。
パントラインはアリエッサ姫の覚悟に感動しながら、どうスズナリを姫様のベッドに引きずり込むか。
そして、そこにどう混ざるか。
そんなエロ妄想だけを考えていた。
了




