053 幕間 アリエッサ姫の憂鬱
私は頭を抱えながら、自室の机で呻いていた。
そしてハッ、と気づき、顔を上げて叫ぶ。
「暗殺者を雇いましょう。そして手紙を奪うの!!」
「どれだけの脚力の暗殺者でも、もう間に合いませんよ。姫様」
もうモーレット嬢も帰ってこられたではないですか。
手紙も、もうおそらく読まれてますよ。
そうパントラインが呟く。
そうか、もう手遅れか。
「どーしよー、変な内容の手紙出したわ」
「何だってんだ一体。カニを直通便で送ってくれとでも書いたのかい」
アホか、モーレット。
そんな内容ならこんなに悩みはしない。
ええい、この際ぶっちゃけてしまおう。
「貴方が好きです。早く帰ってきてくださいって書いたわ」
「……」
「……」
パントラインとモーレットがお互い顔を見合わせて沈黙する。
そして同時に口を開いた。
「「何の問題が?」」
「私にとっては大問題よ!!」
ドン、と机を強くたたく。
あの恥ずかしい手紙がスズナリに読まれていると思うと、もう心のどこかがたまらない。
「別に婚約者だからいいじゃん」
「そうですよね……」
ええい、この二人には何を言っても判ってもらえない。
何と言うか、その、なんだ。
「つい告白しちゃったじゃない。これって拙くない」
「いいじゃん。別に。本気なんだろアリエッサ姫」
「そうですよね。嫌いとか本意でないならともかく……」
判ってない連中め。
というか、繰り返すが、その、なんだ。
「愛している、はスズナリから私に言うべき言葉じゃない」
「そんなもの夏に雪が降るくらいにあり得ない事だろ」
「スズナリ殿の姫様への感情は、ライクの可能性はあってもラブでは絶対にありません」
「殺すぞお前ら!」
シャー、と歯をむき出しにしながら叫ぶが、二人は動じない。
というか、ものすごく冷静な顔をする。
「もうこっちから攻めて攻めて攻めまくるしかないぞ姫様。ぶっちゃけ押し倒す以外に方法無いタイプの男だアレ。オデッセイへの旅の途中も女として意識された記憶ないもの」
「そうですよね、二、三人で一斉にかかって捕まえて犯すしかありません。アリー嬢がこの間言ってました」
おっそろしい事言うわねコイツら。
そんなシュチュエーションで満足なのだろうかコイツらは。
いや……心のどこかがそれで正しいと頷きもしているのだが、無視する。
「もういいわ。アンタらに話すだけ無駄だった。それにしてもスズナリが帰ってきたらどうしよう」
「駆け寄ってしがみつけば良いんじゃないか」
「そしてそのままキスです」
「できるか!」
本当にどうしよう、スズナリが帰ってきたら。
あの手紙を見て、どんな反応を示しているのだろうか。
スズナリの帰りは待ち遠しいが、反応が怖くて永遠に帰ってきて欲しくない気持ちもある。
私は頭を両手で抑えながら、スズナリが帰って来た時の対応を考えていた。
了




