005 幕間--アリエッサ姫とアルバート王--
「ねえ、お父様。スズナリってなんで名持ちじゃないの」
「ギルマスなんか強くて当たり前だからだよ」
身も蓋もない台詞が返ってきた。
別に、そんな台詞を聞きたいわけではないのだが。
父さまは、目の前の資料から視線を外さない。
「そうじゃなくて、レッサードラゴン殺した事あるって聞いたことあるわよ。なんでそれなのに吟遊詩人に謳われたりしてないのかなって」
「ギルマスなんか強くて当たり前だからだよ」
父さまは全く同じ返事を返した。
壊れたゴーレムだろうか。
一発ひっぱたいてやろうかと思いながら、少し考え直す。
そして呟いた。
「強くて当たり前すぎて、冒険者としての名声につながってない?」
「まあそういう事だな。奴がレッサードラゴンを倒したのはギルマス就任時の最終試験となったと聞いている。何かの試練ではない、試験に合格したのが吟遊詩人の詩になるかって話でもある」
「ふーん」
わざと興味なさげな感じで答える。
それは――あまりにあんまりではないか。
別に山奥に平和に暮らしてるモンスターをわざわざ殺しに行ったのではなく、民を襲い脅威となっているレッサードラゴンを単体で緊急討伐したのにだ。
パントラインが調べた詳細な話を聞く限りではそうだった。
「で、スズナリって強いの?」
「強いとはいえん。一人ではレッサードラゴンを死にかけながら討伐できる程度だ」
十分強いじゃない。
そう言いかけたが、なんだかスズナリの味方をしているようで止めた。
だいたい父さまの比較基準がおかしいのは昔からだ。
「まあ、そもそも役割が違うからな。アイツは土魔法と生物魔法を中心とした後衛の魔法使いだ。接近戦では専門には遥かに劣る」
「生物魔法?」
「文字通り生物を弄り回す魔法だ。特殊過ぎて説明しがたい」
ワキガの手術とかもできるぞ。
私の門番への行為をあげつらいながら、父さまは答える。
だって――本当に臭かったのだ、あれは。
職場でも問題視されていたのではないか、アレ。
私は問題を燻り出して解決に導いたに過ぎない。
そう考えよう。
「後衛職と考えると――仲間に欲しいやつだな。まあ昔の俺から見ればだが」
「今の父さまから見れば?」
「ギルマスとして小回りの利く奴」
やはり、父さまからの評価はなんだか低く感じるのだ。
別にスズナリを認めて欲しいわけではない、と思うのだが。
なんとなくモヤモヤとする。
「なんだ、アイツでいいのか?」
「何が?」
「お前の婚約者だよ」
「冗談。年齢ダブルスコアよ」
二十台前半にして竜殺しとして名を挙げた父さまと、今は亡きお母さまならお似合いだったかもしれない。
しかし、スズナリと私では実績と年齢が違い過ぎる。
「年齢のこと以外は言わないんだな」
「勝手な解釈しないで欲しいわね」
私はぷく、と頬を膨らませながら父さまに背を向ける。
そしていつも通りパントラインの名を呼び、スズナリに文句をつけに行くことにした。