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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
オデッセイ編
49/113

049 王たる自信


エルフを一人一人治療していく横で。

ボナロッティは夜も眠らず、各貴族に出す手紙を書いている。

内容は全てこうだ――


『今の領地の安堵は確約してやる。俺の味方につけ。エルフにはフィナルとその騎士団の首を持って戦争を防ぐ。――追伸、アルバート王はこちらについた。馬鹿につける薬は無いとの事だ』


実に分かり易い。

これで抵抗する貴族はいないだろう。

内心はともかくとして、だ。


「葬儀は三日後ですか、その席でフィナル王子を殺してください。予定通りでしょう?」


目にクマが出来ているボナロッティに言葉を投げかける。


「それはいいが、アルバート王は? 騎鳥便で飛ばしても一日半から二日はかかるぞ」

「そのまま、騎鳥便に乗ってこちらに来るでしょう。三日で間に合います」

「……ロック鳥にまで乗れるのか、アルバート王」


ドン引きした表情でボナロッティがコーヒーを喫する。


「私も乗ったことありますよ。ボナロッティは」

「無いよ! あれ普通十何年も訓練積んだ乗り手しか扱えないだろう」

「操る事はできませんよ。ただ乗せてもらうだけなら度胸があればなんとかなります」

「……なるほど、俺には無理だ。怖い」


コーヒーを飲み干したボナロッティが素直に恐怖を言葉にする。


「海戦では連戦連勝の男が?」

「アルバート王に比べれば海の男達もゴミのようなもんだ。所詮はカトラスや短筒ぶん回してるだけの雑魚だ。正式な剣術を身に着け、冷静さを保ってれば余裕だ」

「そう言ってのけられるだけで、十分強いと思いますが」

「その丁寧語はやめてくれないか。スズナリとはもっと友好的になりたい」


ボナロッティが全員分の手紙を書き終わったのか、大きく伸びをしてペンを置く。


「将来のアポロニア王とはな。もっとフランクにいきたい」

「まだ、決まったわけじゃない。というか遠慮したい」


フランクに返せというなら、ハッキリ言ってやる。


「アルバート王の息子何て御免だぞ」

「そうか……まあ、そうだよなあ。俺なんかビビって小便漏らして命乞いまでしたもんなあ」


ボナロッティが笑いながら自分の恥話を語る。

すでに過去は乗り越えたようだ。


「ボナロッティ、ハッキリ聞くが、王になるってどんな感じなんだ」

「なんだ、急に」

「仮に――仮にだが、私がアポロニア王になるなら……その覚悟を聞いておきたくてな」


私、なんか変な質問してるな。

アポロニア王になんかなりたくないのに。

そんな事を考えながら、私はボナロッティの回答を待った。


「王になるってどんな感じ?か。正直言うと、俺が継げるとは思ってなかったけどなあ。昔はだが」


だから必死になって、遠国のアポロニアまで行って――結果、笑い物になったわけだが。

ボナロッティが苦笑しながら、呟く。


「海戦で陣頭切り出したのも、王になりたかったわけじゃないからなあ。ビビりのヘタレ野郎としての汚名を返上するためだけだったし」


過去を思い出すように、遠い目をしながら喋る。

そんなボナロッティが何故か眩しい。


「気づいたら、連戦連勝の海賊王子として国民や兵に扱われていた。その時だな、兄上を廃して――自分が王になろうと思ったのは。兄上は知っての通りボンクラだ。別に俺がこの国乗っ取ってもいいだろ、そんな感じだったな」


眩しく感じるのは、自分で何かを成し遂げたからだろう。

私には――何か成し遂げた事があるだろうか。

いや、無い。

この世界に来て、自分で行動して何かを成し遂げたことがない。


「これからは――三日後には、おそらく真に王になる。そういう意味では、国民にせいぜい責任を感じてるって事ぐらいか? 知ってるだろ、教会の炊き出しに並ぶ孤児ども。あれがこの国の現状だよ」


他人に私はこれを成し遂げた、と言えるものが何もない。

アルバート王に評価されているレッサードラゴン退治も、先代に言われたからやっただけの事。

私には何もない。

今の仕事も、先代から引き継がされただけ。


「アポロニアに一度行って驚いたぜ、スラムも孤児も浮浪者もいやしねえ。急には無理さ。だが、海の外には――資源と、働き口がある。俺が王になるからにはアポロニアのように、オデッセイを何とかして見せるさ」


ボナロッティの所信表明は聞き心地が良い。

ウジェーヌ枢機卿が聞いていたらスタンディングオベーションをしてくれたであろう。

だが、私には眩しく見えるだけだ。


「どうした、スズナリ」

「なんでもない。君は素晴らしいよボナロッティ」


そして、私が必死にアポロニア王になりたくない理由。

先代の事は別としても、絶対になりたくない理由。

その一つがハッキリした。

私は私が”王にふさわしい人物ではない”と見限っている。


「大変、参考になったよボナロッティ」

「それならいいんだがよ、何か暗い顔してるぜ」

「そうか」


それは一人のキメラの嫉妬のようなものだ。

だから気にするなボナロッティ。

そう心に思うが、口にはしなかった。

私には――確固たる自信が存在しないのだ。

そんな事を考えた。







「夜通しぶっ続けで治療してたからねえ、スズナリの旦那」

「御礼の一つもまだキチンと言えてないのだが」


膝枕。

自分の膝で眠るスズナリの旦那を見ながら、アタシはエルフの頭目に呟く。


「起きてからでいいだろう。しばらくは眠らしてやんな」

「もちろん、そのつもりだ。しかし、この男が有名なスズナリか」


エルフの頭目が、じっとスズナリの旦那の顔を覗き込む。


「レッサードラゴンを殺した男とは、とても思えんな」

「アタシも、こんな穏やかな顔をしている旦那は初めて見るよ」


寝てる時の顔だ。

あの死んだ豚を見つめるような普段の顔でも、酒に酔って笑っている顔でもない。

ボナロッティ王子と喋って、何故か少し意気消沈していた後の寝顔。

ひょっとしたら、この寝顔が、これが本当の素の表情なのかもしれない。

アタシはそんな事を考えた。


「まあ、何にせよ話は聞いた。我々の仲間を殺したアホどもは、第二王子が代わって死をもって誅するから戦を取りやめろと言いたいんだな」

「要は、そういうことだな」


スズナリの旦那の髪を撫でる。

惚れた男が膝の上というのは、何かむずかゆい。

自分にも、こんな女らしいところがあったのかと思う。


「我々はそれで矛を収めよう。金は返してもらうし慰謝料も貰うが。だが国との交渉は無理だぞ。エルフの女王様を止めるなんて無理だ」

「無理か。まあしゃーないわな」


アタシはあっさりと返事をする。

逆にエルフの頭目は虚をつかれたような顔をする。


「それでよいのか?」

「それでいいよ。私はスズナリの旦那に迷惑がいかなきゃそれでどーでもいい」


そう、どうでもよくなった。

故郷の事なんだが、いっそ滅んでも仕方ない。

そんな気持ちに、今なっている。

ああ、子が欲しい。

この男との子が。

眠っている間に、襲っちまおうか。


「……モーレット嬢、何か良からぬこと考えてないか」

「そうかい? 悪い事じゃないと思うんだがね」


自分では、慰めの気持ちも含めている。そのつもりだ。

なんでスズナリの旦那は、あんな意気消沈してた顔をしたんだろう。

ひょっとして、ボナロッティ王子に何か敗北感でも感じたのだろうか。

負けてる点なんかないのに。


「……」


私は黙って、スズナリの旦那の髪をなぞる。

うん。

自分はこれでも女だ。

今、実感した。

早く子が欲しい。


「エルフの頭目さんよ、ちょっと部屋から出て行ってくれないかい」

「そうしたいところだが、そうするとスズナリ殿から何か文句言われそうでな」

「出ていかなきゃ、アタシが文句言うぜ」

「それは怖いな」


エルフの頭目が、笑いながらドアから出ていく。

私は黙ってスズナリの旦那の髪をなぞる。

結局――ずっとそうしていて、旦那の寝込みを襲うのは止めておいた。








御父様はスズナリの手紙を一読みした後、それを握りつぶして燃やした。

そして笑顔で叫んだ。


「でかした、スズナリ!」

「ねえ、お父様。何が書いてあったのか早く教えてよ」

「時間がない。後でな」


そう言って御父様はロック鳥に飛び乗る。

騎手は一瞬驚いた顔をしたが、然もあらんという表情に変え飛び立つ準備をする。


「後でっていつよ!」

「わからん! すべて事が解決してからだ!!」


私は庭で――ロック鳥の羽ばたきの風圧に押されながら、文句を言う。


「結局、スズナリはいつ帰ってくるのよ!!」

「姫様、危ないからしゃがんでください!! ロック鳥に轢かれます!!」


パントラインが私の身体を押さえつけて、無理やり地面にしゃがみこませる。

ロック鳥は到着して数分で、お父様を載せて再び飛び去って行った。


「……何なの!? 何が起こってるっていうのよ!!」

「……アルバート王の反応を見る限り、決して悪い事では」

「私にとっては悪い事よ!? もう2週間も経つのよ!!」


感情的になって叫ぶ。


「オデッセイに到着するまで10日以上かかりますから。致し方ありません」

「手紙は? 旅先でも出せるでしょう!?」


自分でもよくない事だと分かっているが、パントラインに当たる。


「……便りが無いのが良い便り、とも申しますし」

「私には手紙無しでも良いって? そーですか。そーですよね」


何か、イライラが止まらない。


「どうせ暫定的な婚約者ですもんね、そーでしょうよ」

「アリエッサ姫、落ち着いてください」


アンナ姫が落ち着かせるように飴玉をポケットから取り出す。


「……もらうわ」

「どうぞ」


飴玉をしゃぶりながら、自分を何とか落ち着かせようと試みる。

――無理だ。

スズナリが――自分の事をどう思っているのか?

それを考え出すと、イライラが止まらない。

手紙一つ無しと言うのは婚約者としてどうなのだ。

何か――行動しなければパントラインを殴りそうだ。

また、昔の陰険な自分に戻ってしまう。


「こっちから手紙出して、届く?」

「教会経由でなら……素早く届くかもしれません。あそこは専門の通信使が居ますから」

「出すから、書くわよ。他にも出したい奴は呼びなさい」


そっちがそのつもりなら、こっちから書いてやるわよ。

そしたら返事くらいだすでしょうよ。


「……でも、何書こうかしら」

「私はジルとエルの双子姉妹は多分どうしようもない淫乱ですと書くつもりです」

「「姫様!?」」


アンナ姫がアホな事を言う。

私もパントラインのアホなミス全集でも書こうかしら。

そんな事を考えながら、苛立ちは少しずつ収まっていった。




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