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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
オデッセイ編
46/113

046 オデッセイ到着


潮騒が耳に聞こえる。

懐かしい。

アポロニア王国の海には行ったことが無いので、本当に懐かしい。

いや、異世界に来てから全く海に来たことが無いわけではないが。

あれは――先代と放浪していた8年ほど前であろうか。

海に来たことがあった。

あの時はクラーケン一匹を殺すにも手間どって――


「スズナリの旦那、着いたぜ。ここがオデッセイだ」


モーレット嬢の言葉が、私の感傷を黙らせる。


「ああ、ここがオデッセイだな」


海洋国。

その名の通り、国土の大部分が海に包まれた国。

過去のキメラ事件にも深くかかわった国。

ここがオデッセイだ。


「まずはどこ行く、旦那は第一王子と第二王子の二人に出会うのが目的なんだよな」

「最終目的は人となりを知る事、だから出会うまではいかなくても良いのですがね」


トントン、とブーツの先を整える。

今回は完全装備で来た。

レッサードラゴンのブーツに、ズボンに、ジャケットに、そしてマスク。

傍から見れば全身黒ずくめで怪しい事この上ないが、身分をバラすわけにもいかない。

何、内乱で治安が荒れている――というか周辺国から様々な文化を取り入れた格好の冒険者どもが集まっていて、違和感がない。

私はさすがにマスクが目立つが。

なに、衛兵に呼び止めさえされなければいいのだ。


「第二王子なんだが、アタシの一声で会えるぜ。元々、アタシを貴族にしようと目論んでたのが第二王子だからな。強力な冒険者を連れてきたと言えばそれで会える」

「嘘は言ってないしな。では先に第一王子か」


私の格好にツッコミを入れないモーレット嬢。

彼女は久々の故郷の雰囲気を愉しんでいるようだ。

ウミネコの声が辺りに響く。


「さて、ではどう動くかが問題になるが……まだ衝突には至ってないんだよな」

「内乱が決定的になっただけで、まだ衝突には至ってないね」

「そういえば、今回衝突のきっかけになったのは――」

「王様の死去、言わせるまでも無く知ってるだろう?」


知っている。

それで、第一王子派と第二王子派の内乱が確定となった。

お互いの派閥が将来の地位を決定づける、死に物狂いの戦が。

全く、ロクでもない時期に死んでくれるものだ。

私はため息をつく。


「じゃあまず、第一王子派への接近方法を考えようか」

「王様からの紹介状は? 使者が王に来たんだろ?」


不思議そうにモーレット嬢は呟く。


「あるが……演技無しの状態での第一王子派が見たい。アルバート王にペコペコしている状態の連中を見ても仕方がない」

「またややっこしいこと言うねえ」


モーレット嬢は耳の穴をほじくりながら、おっ、と声をあげる。


「じゃあスズナリの旦那は実力を示せばいいんじゃない? それが一番早い」

「実力?」

「ちょうど募兵してるんだよ。この決闘場で」


ほら、と指さされた掲示物に目をやる。

確かに、そこには人差し指を突きだした絵柄の徴兵ポスターが、国の決闘場に貼りだされていた。









「勝者、ファウスト!」


ジャッジの勝ち名乗りとともに、私は右手を上げる。

ファウストは偽名だ。ファウスト君から借りた。

さすがにスズナリのままというわけにもいくまい。


「さあ、土魔法使いのファウストの五連抜きだ! 次の相手は!!」


ジャッジが声を張り上げるが、名乗り出る人間はいない。

それもそうか、全部適当にゴーレムでボコった後に闘技場の床に埋めたもんな。

実はまだ全員生きてるんだが、しばらくは埋めたままにしておこう。

ビビッて名乗り出る連中がこれ以上でないように。


「誰も名乗り出ない! ならば、今回の闘技会はファウストの優勝で決まりだ!」


ワァ、という歓声の声に私が包まれる。

セコンドではパチパチと眼帯をつけたモーレット嬢が拍手していた。

彼女もあれで変装しているつもりらしい。

乳がデカすぎて、知り合いには一目で本人が誰かバレると思うが。


「素晴らしい戦いだった」


私はそう告げて、床から5人の決闘相手を引きずり出す。

ほっ、とため息が聞こえたのは決闘相手の縁者のものだろうか。

殺す気はない。必要が無い限りは。


「優勝者には賞金と――この後、開催者である伯爵との食事会があります」


ジャッジが耳打ちをしてくる。

私は小さく頷き、それに答えて閲覧席の方を見る。

そこでは肥えた伯爵が私に拍手を送っていた。

私は右手を振ってそれに答えながら、モーレット嬢に尋ねる。


「彼の伯爵の名前は?」

「モジューレ伯爵、嫌な野郎さ。私を妾にしようとしてきたこともある」

「ということは君の正体は」

「バレてるだろうね。なあ、食事会には行くが、旦那をアタシの夫ということにしてもらえるかい」


モーレット嬢がボソボソと私だけに聞こえるように返事をする。

問題ない。

一時、モーレット嬢を妻として扱おう。

オデッセイでは今後そうした方が、お互いのためにもよさそうだ。


「了解した。君の身は完全に守るから安心してくれ」

「信じてるさ、”旦那”」


モーレット嬢は私の言葉にコクリと頷き、閲覧席を眺めた。

閲覧席では、好色そうな目で伯爵がモーレット嬢を見つめている。

私はモーレット嬢の前に立ち、それを遮った。


「さて、ここからどうやって第一王子まで近づくかだが」


伯爵まではトントン拍子に話が進んだが、上手く侯爵、公爵へとつなぎ第一王子へとお近づきになれるのだろうか。

私は思索しながら、闘技場の床を降りる。

そしてモーレット嬢と手を繋ぎながら、観客の拍手へと手を振りながら答えた。









「まさかモーレット嬢が結婚されていたとは。残念ですが、これほど強力な魔法使いとあれば致し方ないですな」

「無理やり第二王子に貴族にされかけて逃げてたけど、今回は内乱で稼ぎどころだと聞いてね。慌てて他国で結婚した旦那と戻って来たってわけさ」


モジューレ伯爵とモーレット嬢が和やかに会話を交わす。

もっとも、話す内容は剣呑だが。


「と、言う事は我が第一王子派に、ファウスト殿と一緒に加勢してくださるということですかな」

「勿論、と言いたいところだけど、それは報酬次第だね」


モーレット嬢は上手くやっている。

このまま、無口な人間を装っていた方が良いか?

そんな事を考える。


「報酬! それはもちろん望みのままに。貴族位でも金でも何なりと。第一王子派の勝利はすでに確定していますが――貴方達を第二王子派には取られたくないのでね。どうですかファウスト殿」

「有難い」


一言、それだけを口にする。

侯爵や公爵には会わせてもらえないだろうか、と発言しそうになるがそれを抑える。

無謀な主張だ、それは。

まるで伯爵を相手にしていないような発言にもとられる。


「旦那は乗り気みたいだけど――実際のところ、どうなってるのさ」

「どうなってるとは?」

「アルバート王のことですよ」


単刀直入に、その名を口に出す。

ピクリ、とその名を聞いてモジューレ伯爵が、ワイングラスを持つ手を震わせる。


「も、もちろん、アポロニア王国のアルバート王は私たちの味方ですとも」

「そうかな。まだ立場を決定していないようにも見えますが」

「公爵から伯爵まで、一丸となって第一王子を盛り立てようとしているのです。正義は明らかですとも。必ずや、かのアルバート王もこちらに参戦してくださいますとも」


そう信じたいだけだな、これは。

アルバート王の恐怖は遠国のオデッセイにまで響いている。

実際には第二王子派として参戦したら、モジューレ伯爵は降伏の一手を打つだろう。

いや、最初から第二王子派だったと寝返りをするかもしれない。


「公爵から伯爵まで、本当に一丸となっているのですか。モジューレ伯爵を疑うわけではありませんが」

「それは間違いありません。あんな戦好きの第二王子にこの国を――オデッセイを渡すわけにはいきませんからな」


モジューレ伯爵がワインをあおりながら答える。

アルバート王の情報自体は間違っていないようだ。

さて、ここからだ。


「私の関わる事ではありませんが――決起集会のようなものも行われたのですか?」

「決起集会? それはまだですね、なにせ――王が死んでから葬儀もまだ行われておりませんゆえ」

「そうですか」


決起集会――公爵から伯爵まで集まるであろうそれに、何とか参加できないか。

私はそう思考を巡らしながら、伯爵と同じようにワインを飲むことにした。








食事会を終え、館に泊まっていく招待を固辞し。

酒に少し酔ったまま、モーレット嬢と夜道を歩く。


「今回の食事会だけでは、第一王子の人柄はわかりませんね」

「まあ、伯爵一人捕まえてどうこう言っても仕方ないだろねえ」


モーレット嬢の言う通りだ。

ポイントは決起集会になるな。

そこに参加できれば――第一王子がただの傀儡か。

公爵から伯爵までの人柄が大分読み取れるはずだ。


「さて、どうやって参加するかだが……」

「何か妙案はあるのかい」

「あるには、ある」


それには、ある権威を使う必要があるが。

問題は、あまり使いたくないくらいだ。


「ウジェーヌ枢機卿は知っているか?」

「あのステゴロが強そうな? 王宮で見たことあるけど」

「ステゴロ……」


確かに強そうだが。いや、実際ステゴロなら私より強いだろう。

アルデール君とどっちが強いだろう。

いや、それはどうでもいい。


「丁度今、そのウジェーヌ枢機卿がオデッセイに来ているはずだ」

「オデッセイに何しに?」


モーレット嬢が疑問符を浮かべる。

これは答えるに窮するが、正直に答える。


「内乱のドサクサに紛れて亜人の奴隷の解放に」

「あー、いつもの教会の活動か」


そう、”いつもの教会の活動”だ。

ドサクサに紛れて、その国の法を無視して、教会の正義をゴリ押しで実行する。

半ばテロリズム――といっては活動内容的に失礼だが、本当によくあることなのだ。

なんであの教会、それでも権威と地位を保ってられるんだろう。

民衆からは絶大な人気があるから、教会の否定は国家として自殺行為に繋がるからだろうが。

ようはパンとサーカスのサーカス、国民のガス抜きなのだ、教会の活動は。

残念ながら、その段階までにしか至っていないとも言える。


「まずはウジェーヌ枢機卿を探しだすことだな。一緒に決起集会に参加してもらおう」

「第一王子派として決起集会に? 無理じゃね」

「いや、第一王子派は教会が味方となるとあれば、絶対に参加を許可する。ウジェーヌ枢機卿の行為を見て見ぬふりをしてでもだ」

「そうじゃなくて、ウジェーヌ枢機卿に決起集会に参加させることがだよ」


……。

モーレット嬢の言葉に、少し思考する。

ウジェーヌ枢機卿を決起集会に参加させることは可能か?

そう言われれば、疑問に思えてくる。


「豪華な晩餐会――決起集会に、あの枢機卿か。確かに似合わんが」

「だろう。弱者から搾り取った富をこんな無駄な事に、て暴れだしそうだぜ」


この国、オデッセイは弱者の扱いなんて酷いものなんだぜ。

モーレット嬢は、腕に作った力こぶを私に見せながら呟く。


「……そこは私が説得しよう。とにかく、ウジェーヌ枢機卿を探さねばな」

「まず教会から当たってみるか?」


私とモーレット嬢は、相談しながらも宿の前に立つ。


「念のためモーレット嬢に言っておくが、演技のため部屋は一緒だがベッドは別だからな」

「わかってるさ。でも忍び込んできてもアタシは一向に構わないよ」

「私は構う」


私は大きくため息を吐きながら、宿の中へと入っていった。




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