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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編2
38/113

038 王宮出頭命令


「アンタね、王宮に来なさいよ」

「はあ? 何でですか」


ダンジョンギルド本部の私室。

椅子に座りながら、私はアリエッサ姫と対峙していた。


「第二王妃であるアンナにちっとも会いに来ないじゃない!!」

「いや、そりゃそうでしょう。私嫌われてますよ、多分」


結婚相手が32と聞いて納得する12の少女がいるかよ。

私はよくよく姫様に言い聞かせようとするが。


「そんなこと知るか! フロイデ王国の民が不安になるのが問題なの。世情不安よ、世情不安!」

「ああ……絶対こういうロクでもない依頼が来ると思ってた」


あの日、アンナ姫に会った時から嫌な予感はしてたんだ。


「依頼!? 義務よ!義務!! 暫定婚約者としての義務よ!!」

「ギムレットが飲みたい」

「何の話してるの!?」


酒に意識を飛ばす。

ドワーフの冒険者から先日手に入れた火酒ジンがあった。

それを使おう。


「一緒に酒を飲んで全てを忘れません?」

「事が大きすぎて忘れられるか!!」


常識的な回答をする。

あのエキセントリックな演説をした姫様はどこに行ったんだ。

というか、全部お前のせいじゃないのか。

あの演説が無ければ、併合はもっと遅かったはずだ。


「姫様が慰めてあげればいいじゃないですか」

「私、アンナに嫌われてるのよ」

「姫様、誰からも嫌われますね」


もはや嫌われる事に関しては達人級ではなかろうか。


「うっさい!! とにかく、一度王城に来なさい」

「行くのはいいです。でも話すことは何もないですよ」

「菓子でも宝石でも買って会いに行くだけでいいから。金はあるでしょう!?」


確かに、金ならあるが。

……仕方ない。


「では、明日には必ず……」

「今日来なさい、今日。馬車は用意してあるんだからね」

「……」


強引だな、姫様。

国政に関わることだから仕方ないか。


「ほら、モーレットとパントライン、スズナリを取り押さえなさい」

「よっと、失礼するぜ」

「失礼します」


私は両脇をモーレット嬢とパントライン嬢に抱えられ、連れ去られていく。


「ルル嬢」


私は扉の向こうに絶対いるに違いない名前を呼んだ。


「はい、スズナリ殿。ギルマス代理はしっかり務めておきますので……」


どうやら助けは来ないようだ。

諦めて、モーレット嬢の乳に埋もれた腕を離し、姫様に言う。


「自分で歩きますよ。とにかく、アンナ姫に会えばいいんですね」

「最初からそうしてくれればいいのよ」


アリエッサ姫は腕組みをしながら、何時もと変わらぬ表情で言った。










「菓子と宝石です。好きなものが在りましたらどうぞ」

「えっと……どうも有難うございます」


私はテーブルの上に、とりあえず選んできた菓子と所有している宝石類を大量にぶちまけた。

アンナ姫はその行動にためらっている。


「いらない物は私たちが貰っていいんですよね。何かください」

「アタシ、この宝石が欲しい」

「いいわけあるかボケども」


パントライン嬢とモーレット嬢の物欲しそうな視線に反論する。


「そんな乱雑に扱うくらいなら、くれてもよいかと」


パントライン嬢がむー、と不服そうに言う。

金に換金するのも面倒くさいので持っていた宝石類だ。

くれてやっても良いが、それを奇貨として私から宝石をもらった等と触れ回ってもらっては困る。

また婚約者が増えたのかと噂され、面倒が増えるのは御免だ。


「とりあえず、お菓子は全て頂きます。日持ちしそうですし」


むー、と何か不満げな顔をしながらも、アンナ嬢は菓子を全て受け取ってくれた。

やはり食欲か。

アポロニア王国の食卓は不味いのかな、と勝手な推測をしながら、踵を返す準備をする。


「では、これにて」

「待てい」


がしっ、とアリエッサ姫が私の肩を掴む。


「話し合いなさい。アンナ姫と」

「話し合うも何も、32のオッサンが12の子供と何と話し合えと」


正論で言い返すが――


「12の子供でも、第二王妃候補です。話し合う必要はあるかと」


アンナ姫がまた正論で返す。

面倒な。話し合う必要など、こちらにはもう無いのに。


「アンナ姫、あくまで暫定の話です。形さえ取り繕えばそれでよいのでは?」


要は、アンナ姫――第二王妃候補を大切にしているという体裁さえ取り繕えばよいのでは。

そう提案するが――


「私たちはお互いに理解し合う必要がある。私はそう考えています。次代の王は――スズナリ殿は違うのですか?」


必死な表情で、アンナ姫が訴える。

私は王になるつもりはない。

だが、アンナ嬢の不安ももっともだ。それだけは解消しておく必要がある。


「……」


私は深くため息をついた後、黙ってアンナ姫を見つめる。


「では、まずアンナ姫の事からお聞きしましょうか。大事な事です。私の他に――アポロニア王国に来る前に、婚約者はおられなかったのですか?」


私にとっては非常に大事な質問だ。

可能なら――ソイツが有能なら、アリエッサ姫もそれに押し付けてしまおう。

そう企みながら、アンナ姫に質問を投げかけるが――


「それ聞きますか? 第一候補はデライツ伯爵でしたよ。話を壊してくださって有難うございます」


私がスープにした人物と聞いて、その目論見は淡くも崩れ去った。


「デライツ伯爵? フロイデ王はどれだけ見る目が無かったんです?」


私はフロイデ王――今は侯爵の見識に疑問を覚える。

まともな目ん玉してたらアレを婚約者候補には選ばんだろう。


「仕方なかったのです。銀山が伯爵領にありましたから」


要は金目か。

いや、マネーイズパワーであるから仕方ない事か。

私はあんなのが第一婚約者候補であったアンナ嬢に同情を寄せる。


「だいたい、アポロニア王国もそうではないですが。スズナリ殿は王様の次にお金持ちでしょう?」

「失敬な事言わないでよ。ウチは実力主義。お父様の次に強いからスズナリなのよ」

「それもどうかと思いますが……」


アリエッサ姫とアンナ姫のやりとりを横で聞くが、確かに。

強さで王位が決まるってどこの蛮族だよ。

やっぱアポロニア王国どっかおかしいのではないか。

だが、所詮は王族など、一番強かった蛮族の末裔とも言うし……いや、山賊だったか?

私はなんとも言えないまま、口を閉じる。


「本音を申しても良さそうなので、喋りますが。私から見て現在のスズナリ殿はデライツ伯爵よりはよっぽどマシ、という程度でしょうか……」


アンナ姫の評が下る。

アレと比べられるのは屈辱だが、アンナ姫から見ればその程度だろうな。


「ですから、スズナリ殿との相互理解を深めたいのです。今後より良い関係を築いていくためにも」


姫様の言う事は分かるが、二年後には崩れる関係だ。

少なくとも私にとっては。

だが――12の少女を不安にさせるのは、私にとって本意ではない。


「判りました。何か話でもしましょうか。お互いに質問に答える形としましょう。先ほどは私が質問しました――」


何、全て戯れと思えば丁度良い。

全ては滑稽な夢の戯れ。夢の内――


「アンナ姫から私に何か質問は何かありますか?」

「私からですか!? えっと……」


アンナ姫は困惑しながら、えーと、えーと、と呟く。

その年相応の可愛らしさを愛でながら、私はふと先代の事を思い出す。

――先代との会話も、このような形式を用いて行われていた。

まるで全ての――異世界の情報すべてを抜き出すような質問の応答。

いや、実際に先代は抜き出したかったのだろう。

私がかつていた、今となっては不可思議な世界の全ての情報を。

――少し、意識がそれた。

だが、アンナ姫の質問によって現実に戻る。


「モーレット嬢には、やはりもう手を出されたのですか!?」

「私は童貞です」

「……童貞ってなんです?」


アンナ姫の質問に、特に誇り高く無い回答を成し遂げながら。








「帰ってしまいましたね、スズナリ様」

「そうね」


アンナと私が、スズナリの持ってきた菓子を頬張りながら茶を啜る。


「結構、話した感じでは温厚のような方のようです」

「そうよ、時々怒ると怖いけど」

「それはアリエッサ姫が怒らせるのが悪いのでは」

「怒らせたのは元フロイデ王国でしょうよ。私は怒らせたことないわよ」


呪いを掛けられてからは自重してるのだ。

だが、そろそろ弾けてしまっても良いかもしれない。

王宮生活はストレスが溜まるのだ。


「そういえば、アンナ。貴女、パントラインとモーレットみたいな傍付きの騎士はいないの?」

「おりますが、併合の混乱中のため国に一時置いてきております」

「そう……混乱が収まったら連れてきなさいな」

「よろしいのですか?」

「よろしいも何も、傍付きの一人もいないと不便でしょうよ」


パントラインが、私たちの飲み干したカップに茶を注ぐ。

こういったことを一人でしろと言うのか? それは面倒くさい。


「判りました。お言葉に甘えて……と言いたいところですが。強制的にスズナリ様の側姫候補に含まれたりしませんよね。モーレット嬢とパントライン嬢はそうだと伺っていますが」

「含まない含まない。この二人は特別」


私はモーレットとパントライン二人に指を指し、そもそもスズナリへの好意が前提としてある弁を述べる。


「スズナリ様のどこがいいんですかね」


その弁を聞いて、アンナが不思議そうに言う。


「そりゃアンナ嬢ちゃんは、歳が離れているから疑問に思うだろうけど。25のアタシから見れば魅力的なもんさ」

「私の代わりに、面倒臭い事をやってくれるからです」


モーレットとパントラインが二人して反論する。

パントライン、私の世話はそんなに面倒臭いか。


「はあ……12の立場としては判りませんね」

「私だってまだ16なのに嫁がされるのよ」


年齢を理由にするアンナに、今度は私が反論する。


「一応聞きますが、他に候補は?」

「他国のイケメン美形の年頃の王子様が急に求婚に来る? ないわね」


御父様の威圧で小便漏らして命乞いするのがオチだ。

というか以前に一度あったのだが、その類は。

遠国から国を継げない第二王子が、この国目当てで求婚に来たがあっさり蹴散らされた。

さすがにそんな情けない奴を、この国の王にするわけにはいかない。

結局、強い奴が王になるのが正しいのがこの国の在り方なのだ。


「12と……32、年齢離れすぎですよね。もはや親子ですよ。というかお父様がその年齢なのですが」

「諦めなさい、貴族の宿命よ」


私はしつこいアンナを慰めようとはせず、いかにテーブルの上の菓子を多くせしめるかを考え始めた。




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