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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編2
36/113

036 フロイデ王国の降伏


「と、いうわけでフロイデ王国が降伏してきたから一緒に行くわよ」

「なんでやねん」


思わず元の世界のお国言葉が出た。

まさか、設立記念日のアレで――姫様の演説で降伏を決意したのか?

冗談抜きで?

いや――もう抵抗は不可能だから、潔く諦めた方が今後の扱いもいいだろうが。

随分屈辱的な経緯で降伏を望んだもんだな。


「なんでやねん? 何それ」

「いえ、なんでもありません。とにかく、フロイデ王国が何故か降伏してきたんですよね」

「何故かじゃないわよ! 私の演説が国民とフロイデ王国に響いたのよ」


少なくとも、国民には響いてなかったぞ。

私はそう思いながら、ただアルバート王の威圧はフロイデ王国に響いたと考える。

それに――自分がやったことではあるが。

誰しも、死体としてスープにはなりたくないだろう。

私はそう考える。


「そういうわけで、私がパントラインとモーレットと、騎士団連れて乗り込むから。スズナリも一緒に来なさい」

「何故私が?」

「私の護衛でもあるけど――今回の立役者でしょうが!!」


立役者、か。

少なくとも暗殺を――そう呼びたくはないが。

いや、呼びたくないではない、認めたくない。


「私の行いを、立役者としては認めて欲しくありませんね」

「なんでよ!?」


不思議そうな顔でアリエッサ姫が問い詰めるが、それは壊れた倫理観の。

私のカルマの譲れない点だ。

だが――


「姫様、本当に行かれるつもりですか? いくら護衛連れとはいえ、相手は敵国ですよ。呼びつければいいのですよ。こっちは勝戦国ですよ」


戦らしきものは幸いにして起こらなかったが。

それでも勝戦国であることに変わりはない。


「フロイデ王国が持っている資産の監査――どういう風に、具体的にはあのキメラの資金の流れについてもマリー達が調べるのよ。相手の国に行かないわけにはいかないわ」

「……」


黙り込む。

理由によれば依頼を蹴っ飛ばしたが、その理由だと別だ。

場合によっては――アリエッサ姫に危害が加わる前に、フロイデ王国の人間を、”密かに消す必要がある”。


「……」


ぐに、と私の頬肉がつかまれた。


「その顔、私の前では二度と止めなさい」

「……どんな顔、してたんですかね」

「二度と見たくない顔よ」


死んだ豚を見つめる顔が、目だけギラギラとしてんの。

アリエッサ姫が呟く。

それは確かに――見たくないな。元々ツラに自信は無いが、あまりにも醜い。

顔をバシッと自分ではたき、帳尻を合わせる。


「……仕方ありません。行きましょう。ただし、今回の立役者なんてものではなく、暫定的な婚約者として護衛するためです。これは譲れません」

「……私もそっちの方がいいから、何にも言わないけどね」


一旦、妙な考えは止めることにして、とりあえず正式な理由をつくる。

何故か私に色っぽい視線を注ぐ、パントライン嬢とモーレット嬢を無視しながら。









「悪くないな、あの顔」

「でしょう?」

「どこがいいのよ」


あの死んだ豚を見つめる顔が、目だけギラギラとしてる顔。

それをモーレットとパントラインが褒めるので、それを否定する。


「獲物をしとめる前の猛禽類みてえな顔してたな」

「私が面倒臭い事をやる前に、私の代わりに片付けてくれる顔をしてました」

「……」


目ん玉腐ってるのか。

そう言いかけるが、三者三様。

あまりにも違う感性をしているのだ。

だから、納得しよう。

私はスズナリと出会ってから、随分成長したのではないかと思う。

特に我慢ができるようになった。呪われるのは二度と御免だからだが。


「私はあの顔、気にくわないわね」

「殺し屋の顔だからか?」

「殺し屋の顔でしたよね」


判ってるじゃない。

判ってて、何でそれに欲情するのか。

とんと私には理解できない。


「少なくとも――私の婚約者としては相応しくない顔つきだったわ」

「それはまあ……」

「そうでしょうよ」


だから、判ってるなら欲情するなよ。

二人に言いたいが、我慢する。

我慢できる子のはずだ、頑張れ私。


「えー、姫様は欲情しないの、あの顔。悪く無かったじゃん」

「そこのところは同意します」

「――このダメ人間どもめ」


ついに罵りとなって口にした。

いやさ、仮にも仮とはいえ惚れた男が殺し屋の顔をして――場合によっては躊躇いなく、自分のためにそれを実行する決意を固めた顔をしているのに――欲情するってどうなのよ。

そんな事を口にする。


「仮にも仮って……」

「もういい加減に諦めましょうよ姫様」

「仮っつってんでしょうよ!?」


モーレットとパントライン。

二人して、呆れたような顔をする。


「いやさあ、”アリエッサ姫のためだけに”に行動しようとしてるんだぜ。スズナリの旦那。本当はフロイデ王国なんて行くのも嫌だろうに。女として何か思うところ無いの?」

「こう、疼いたりしませんか。子宮の辺り」

「疼くかボケェ!!」


モーレットは脳味噌筋肉の癖に理論だっているから、まだいい。

パントラインは、ガン、と拳で頭を殴る。

だがパントラインは殴られ慣れているせいか堪えた様子も無く、


「姫様。今が認める時ですよ。もう面倒くさいからスズナリ殿に『好きよ』って言いましょうよ」

「言えるか――第一、まだ好きじゃない」

「”まだ”って事はいつかは好きになる――ぐえぇ」


私はパントラインの首を両の手で締め上げた。

とにかく――まだ好きではないのだ。

それを否定する奴は容赦しない。


「姫様、パントラインの奴死んじゃうからその辺にしてやれ」


モーレットの言葉。

頭のどこかまだ、冷静な部分であったそれが言葉をくみ上げ、私は手を離した。









「と、いうわけでフロイデ王国に行くから、お前らも準備して護衛任務に就いてくれ」

「いいけどさあ」

「別にいいんですけどねえ」

「何だよ」


不満げな顔をするオマール君とアルデール君に、私はその意を尋ねる。


「それってアリエッサ姫のためにだろう?」

「それでいいんですか、ギルマス?」


良いも糞もあるか。

お前ら状況判ってるのか。


「16歳のガキの命がかかってるんだ。守ってやるのが大人の務めだろう」

「オッケー、理解した。それでこそギルマス」

「命に代えても」


私の言葉に二人は意を翻し、嬉々とした表情で頷いた。

何なんだ一体。


「いやさあ、イザとなると、やっぱりあの姫様はギルマスに似合わない気がしてさあ。あの乳神様やアリー嬢の方がエロくて、押しが強そうでギルマス向きじゃね? 完全に俺の好みで言ってるけど」

「それで夢が叶わなくなるのは、言っとくけどお前だからな。オマール」


夢?

何のことだかさっぱりわからん。


「お前、それは黙っとけよ。ギルマスには判らなくてもいい事だ」

「すまん、ついな」


二人の秘密らしいし、聞かなかった事にしておくが。

まあいい。


「出立に関しては問題ないんだな?」

「報酬は特別に出るんだろ?」

「パーティーメンバーの休暇費用も含めてお願いしますよ」


そこら辺は事前に考えていた事だから問題ない。


「報酬は王宮から特別に出る。それを分けるから心配無い」

「に、しても相手の国まで堂々と出向くか。度胸あるねえ姫様も」


呆れ半分にオマール君が呟く。


「責任感の表れ、として受け取っているがな、私は」

「そうでしょうか?」


アルデールが顔に疑問を浮かべる。

何故か、えらく姫様に反発的だなこの二人。


「いやさあ、ギルマスの疑問も判るぜ。なんで俺たちが姫様をそんなに嫌がるのかって事だろ?」


オマール君が私の疑問に、言葉を交わさずに察する。


「市井の評判あんま高くないし、それにしたって貴族の頂点だろ。市井の民としては憧れよりも、多少ないし反発あるよ。三男坊の俺にとっては特に。成り上がったアルバート王は憧れだけど」

「私も……市井の評判を鵜呑みにするわけではありませんが、姫様の良い評判は聞きません。最近はマシになったとは聞いてますけど」


姫様の市井での評判が、アダとなっているのか。

自業自得であるので仕方あるまい。

アルデール君やオマール君だって好悪の感情はあるだろうしな。


「そこら辺は私を信じてくれ」

「信じるさ。だからついて行くんだろ」

「姫様の制御、お願いしますよギルマス」


……私は、そこまで悪い人間には思えないんだがな、アリエッサ姫。

少なからず、マシにはなってるはずだし。

いや、その頃から会ったからか。

もしくは、姫様が――私に好意を抱いているからか。

よくわからない。

良くわからない事には、一時蓋をしておく。

うん。

私は一つ頷いた後、とりあえず二人の了承を得たことに、安堵のため息をついた。








部屋に戻り、ため息をつく。


「はあ」


ダンジョンの私室。

ファウスト君が屹立しているだけの個室で、私は今日の事を思い返す。


「やっぱり評判悪いんだな姫様」


なんとなく落ち込む。

私はそこまで、あのけったいな性格の姫様を嫌ってはいない。

あの開放的な性格の――実際に面したこともあるオマール君に嫌われるとはよっぽど世間の評判が悪いんだろうが。


「いや、実際に面した事があるから嫌ってるのか」


酷い見合いの断り方だったもんな姫様。

よくよく考えれば無理もない。

新しいワインのコルクを開ける。


「護衛は……パントライン嬢とモーレット嬢。それにオマール君にアルデール君か」


あの4人が組んでいればもしもの事は無いだろう。

私が――”もしもの時に”独自に行動しても問題ないはずだ。


「……」


黙ってワイングラスにワインを注ぐ。

今日はファウスト君を頼る気にならない。


「調査は、マリー嬢がすると言ってたな」


ならば、私が行くのはそっちの方だ。

もし――フロイデ王が、ゲーサーズの研究資料通りに”何十人もの孤児達”を実験台として使い捨て、キメラを造ることを知っていたら


「その時は一思いに殺そう。その罪をフロイデ王宮全体に叫びながら」


知らなかったら、どうする?

それでも責任はあるのではないか?


「……」


この思考は、よくない。

また何かに操られているような気がする。

頭がジクジクと痛む。


「先代」


言葉を口にする。ピクリ、とファウスト君が反応する。

先代から譲られた財産の一部。

今日は触れたくもない。


「……」


私は倫理観を破壊されている。

どうやって?

ジワジワと壊されていった?

それとも――脳を直接弄られた?

どうもその辺が、よく、把握できない。


「……」


頭を押さえる。

眩暈と吐き気が止まらない。

ワイングラスの中身は既に床に転がっている。


「……」


私は酩酊することも無く、軽い眠気を感じながら、ただ床に突っ伏したまま夜を過ごしている。

そしてそのまま、身体を丸め、まんじりとして動かなくなった。

夜が明けるまで、ずっと。




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