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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編2
34/113

034 魔法の素質


「やっぱり、人間って素質が物を言うんですかね」

「10代でレッサーデーモンを切り殺した人間が何を言う?」


ルル嬢の言葉に、思わずツッコミを入れる。

私は呼んでた本を閉じ、ルル嬢の顔を見た。


「というか、いきなり何を言う、ルル嬢」

「いえ、田舎から先日弟が出てきましてね。市井の学問所でスズナリ殿と同じ生物魔法を学んでいるのですが――これが一向に進展がなく。簡単な治療術もまだ使えないのですよ」

「本人の努力にもよるし、師匠の質にもよるさ。素質が全てというわけではない」


私は言葉もロクに通じない世界で生きる術を身に着けようと必死だったし――

師匠である先代もスパルタだった。

治療術が使えなければ、死ぬという環境下に何度も置かれた。

――いざとなれば、助けてくれるつもりだったと思いたいが。

おそらくは、そのまま見捨てられていただろう。

だからこそ必死だった。


「ルル嬢の仕送りで、暖衣飽食な生活なんだろう。それではな……」

「やはり、厳しい環境下でなくては能力は育ちませんが」

「才能だけで全てを凌駕する存在もいるがな。私自身、才能が無かったとは思わん」


5年で土魔法と生物魔法を”ほぼ”極めたしな。

ほぼ、というのは基礎的な呪文を学んだ後は創意工夫の領域に入るからだ。

100の魔法を使えるよりも、1の魔法を100通り使える奴の方が偉いと言ったのは誰の台詞だろう。

とにかく、魔法は使いどころにもよるから、その微妙な”センス”が非常に重要となる。

ルル嬢の弟は、まだそこにすら至っていないが。


「まあ、簡単な治療魔法を使えるようになるだけでも使いどころはあるんだ。勉学に励むよう応援してやれ。足の一本でも斬って、”頑張って治せ”、そう励ますだけで死ぬほど努力するぞ」

「さすがにやりすぎかもしれませんが、考えておきます。ところで……ギルマスにご兄弟は」

「? いないぞ」


というか、両親も他界している。

そのはずだと「代わりに育ててくれた人」から聞いた。


「問答無用で、天涯孤独の身だ」

「そうですか……面倒が無くて、何よりと言うのは失礼な話でしょうか」

「そうでもない。気軽な物だ」


もし元の世界に心残りがあれば、こう、のんのんとはしていないだろう。


「姫様にもお伝えしておきますね」

「……なぜそんなことをするのかね」

「? いえ、必要でしょう?」

「……」


何が?と言いたいところだ。

何故か、ルル嬢はアリエッサ姫と情報の交換を行っている。

というか、情報の交換会が知る限りの女性間で行われている気がする。

何故そんなことをするのか私には分からないが、ツッコム勇気もない。

だから、黙り込むことにした。








「私? スズナリ程じゃないけど、生物魔法一通り使えるわよ」

「意外ですね」


縦ロールを揺らしながら、肉を齧りつつアリエッサ姫がいつものように訪ねてきて回答する。

屍のように疲れ切ったパントライン嬢が後ろに続いていた。

だから、パントライン嬢を休ませろ。


「……姫様、オデッセイの冒険者ギルドに、姫様の護衛役の募集掛けといたので雇ってくださいね」

「募集をかけた? どんなのよ」

「応募者の中で一番強い奴が、姫様の護衛役になります」

「完全に実力主義で選んだのね。いいわよ」


本当にいいのか、と言いたくなるが。

今のコイツとパントライン嬢に必要なのは、脳筋だと思うのでいいだろう。


「話を元に戻しますが、何で生物魔法? アルバート王は雷魔法を主軸としていたと聞きますが」


アルバート王は魔法剣士だったと聞く。

魔法の属性は才能を受け継ぎやすい。

才能が受け継がれているなら、雷魔法を選択すべきだと思うが。


「美容にいいから……他に理由なんかいるの?」

「いりませんね」


女性らしい回答だ。

そういえば――パントライン嬢も魔法が使えたはずだ。


「パントライン嬢は何を? 以前に見た魔力注入は御見事でしたが」


大分昔の話になるな。

あれは……マリー嬢と初めて会った日になるか。

懐かしすぎて、思わず苦笑する。


「光魔法が使えますよ」


ふわり、とトーチの呪文で灯りが浮かぶ。

それと同時にゲホ、ゴホと咳をついているが大丈夫だろうか。

オデッセイの冒険者ギルドよ、早く姫様のお守役を見つけてくれ。


「で、何で急に魔法の素質なんか聞いてるのよ」

「一通り、聞くことにしたんですよ。緊急時に相手の事も知らないなんて拙いでしょう」

「緊急時? スズナリ一人でどうにでもなるでしょう」

「どうにもならない時もありますよ」


先代から与えられた最終課題。

レッサードラゴンの時は本当にどうしようかと思った。

勝ち筋が全く見えなかった。

レッサードラゴンが呼吸を三日せずとも死なないなんて知らなかったし。

初見殺しもいいところだろう、あんなの。

予備知識にしても、過去の対戦記録が少なすぎる。


「スズナリ、無茶苦茶渋い顔してるけど、本当にどんなケース考えてるのよ」

「体験した限りで最悪のケースです」

「レッサードラゴン戦を基準に考えるの、いいかげん止めない? それだけ衝撃的だったんでしょうけど」


言っとくけど、そんなん来たら逃げるからね、私。

アリエッサ姫は冷たい事を言う。

いや、逃げてくれた方がいいのだが。


「その時は、私も姫様を連れて逃げるのでよろしくお願いします」


もう一度、この国がレッサードラゴンに襲われることなんて無いと思うがな。

少なくとも私が生きている間には。

だが、どうしても考えてしまうのはトラウマが原因だろうか。

私はこめかみをぐりぐりと弄った。









「と、いうわけで二人を呼んだわけだが」

「どういうわけだよ」

「いや、どういうわけなんですかギルマス。一切の説明なしでは……」


オマール君とアルデール君が困惑の表情を浮かべる。


「今説明する。二人とも、そこそこ長い付き合いだ、切り札を教えて欲しい。私も教えるから」


要するに、アリエッサ姫と話していて、そういえば二人の切り札――イザという時の隠し札を知らないと気づいただけだ。

結構長い付き合いなのにな。

今後も組む事あるだろうから、知っておいた方がいい。


「そういってもギルマスの切り札なんて一つじゃないでしょう。釣り合いませんね」

「そうだよな、俺たちの切り札なんて一個だけだぜ」

「教えて減るもんじゃないだろう。決して口外はせん事を誓う」


ちなみに教える私の切り札は、モルボ〇もどき戦で使った”薔薇の棘”だ。


「まあ、それなりに長い付き合いになったからいいか。今後も組むことがあるだろうし……」


先に納得したのはオマール君だった。


「俺の切り札は――”雷鳴一撃ライトニングスピア”。雷魔法と組み合わせた槍の一撃だよ。ジャイアントラット戦で使おうとしてたんだがな……その機会を逸した。使うとしばらく疲労で動けなくなるから、よく覚えておいてくれ」

「……アルバート王に憧れて覚えた雷魔法との組み合わせか?」

「御名答」


オマール君の微妙に屈折してた過去を慮っての予想だったが、当たったようだ。

アルデール君が、続いて口を開く。


「オマールが言ったなら……私の切り札は”無呼吸撲殺乱撃”です」

「待て」


それ切り札の名前か。

どういうネーミングセンスしてんだ。


「ギルマス、俺見たことあるぜ。ネーミングセンスはともかく酷かった。とにかくひたすら無言で殴り続けて、ミノタウロスがただの肉塊になるんだもん」

「奥歯に仕込んだ薬草――錬金術との応用で、一時的に呼吸を不要とします。後はひたすら全身全霊の力で敵を殴り潰すだけの切り札です。吸血鬼の王族もこれで仕留めました」


怖いわお前。

そこまでされると、生物魔法でも治療に時間がかかるんだよな……。

アルデール君と対人戦した場合、ひょっとして私負けるんじゃないか?


「俺たちの切り札は言ったぜ。次はギルマスの番な」

「あ、ああ……言うより見せた方が早いだろうな」


私は椅子から立ち上がり、オマール君とアルデール君を連れてダンジョン内部へと出かける。

適当なモンスターに出遭えることを祈りながら。









「酷い言われ方をされた。一回唱えられたら対処できないとか、まあ普通のバリアとか張られても貫くからそうなんだが」

「はあ」


オマール君とアルデール君からえげつない魔法と罵りを受けた後、ダンジョンから帰ってきた。

なので、ひとまずはルル嬢に愚痴る。


「私は見ていませんから何とも言えませんが、そういえば私の切り札はお聞きになりませんの?」

「いや、基本ルル嬢を闘わせる気は無いから。デスク希望だろう」

「そうは言っても、避けられない時もあるから教えておきます。といっても技名などは無く……絶叫しながら捨て身での大上段からの一撃を加えるだけです。田舎で一人稽古での練習中に、いつの間にか身に付きました」

「……」


それ、示現流って言わないかな?

ちょっとルル嬢が怖い。

何故そこに至った。


「弟に、一度寸止めでかましてみましょうかね……。どうもギルマスの台詞じゃありませんか、暖衣飽食の生活で世の中舐めてる気がしてきました」

「そうしろ」


一番いいのは、さぱっと腕の一本でも落とす事だが。

私はそうされたし。

やはり”必死”さが無いと上達しない。

私は世の中舐めてるっぽいルル嬢の弟に心中で辛く当たった。


「しかし、田舎から出てきたか。やはり冒険者になりたくてか」

「多分、そうじゃないですか? 儲かりますしね、冒険者」

「金だけは儲かるけどな」


別に、社会的地位がそう高いわけじゃないんだけどな。

名持ちクラスに至れば名士扱いではあるが。

なにせ、死ぬ危険性が高い。

そんなにお勧めできる仕事ではないのだが……実際、ルル嬢は文官職を選んでるし。

ターナ君のような若くして名持ちでも、パーティー半壊に至ることはよくある。


「そういえば、ルル嬢の昔のパーティーメンバーはどうしているのかね?」

「今まで組んだパーティーメンバー全員、という意味でしたら……1/3は死に、1/3は違う道を行き、残りは未だ冒険者としての道を歩んでいますね」

「やはり、そんなもんか」


人は死ぬ。

慣れたダンジョンでも、容易く人は死ぬ。

この毎日人が訪れるダンジョンギルドにだって、到着できず死に至る冒険者はいる。


「アリエッサ姫の護衛、早く見つけないとなあ」


本当に、なんでパントライン嬢を酷使してまでここに来るんだあの姫様。

肉か。

肉がそんなに食いたいのか。

もう街で食えよ、肉ぐらい。


「そうですねえ……まあ、来週には来られると文書に書いてありましたよ」

「なんだ、もう向こうでは決まってたのか」

「ええ。元パイレーツの女性だそうですが」

「海賊!?」


きっと筋肉モリモリのアマゾネスが来ると思ってたのに。

いや――ある意味、似たようなものか。

私は笑ってルル嬢の報告を受け入れた。






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