033 幕間 オマールの夢
ダンジョンギルドの酒場。
いつものように依頼を達成した後の打ち上げで。
オマールと一緒に酒を飲んでいる。
「結構、最近は真剣に悩んでるんだよな。冒険者止めて騎士団入るか」
「はあ?」
お前、騎士団なんか嫌だって以前の会話では言ってなかったか。
いや、確かにそう言っていた。
金と自由が欲しいから、騎士団入りなんてウンザリだと。
「言っておくけど、今すぐ――アルバート王の時代にじゃないぜ。ギルマスの時代になったら、だよ」
「ああ」
やっとオマールの言っていることを理解する。
要は、ギルマスが王になったら、今の生活を捨て騎士団入りもやぶさかではないと言いたいのか。
コイツ、何かギルマスの事好きだよな。
私自身、ギルマスの性格は好ましいものと思っているが。
「騎士団長まで割とすぐだと思うんだよなあ、実力的にも親密的にも」
「最近の騎士団長候補は有望株だと聞いたが……ギルマスに絞められてからだが」
なんで騎士団長候補がギルマスに殺されかけた話が、市井まで伝わっているのだろうか。
貴族――王宮のお喋り雀たち、うるさすぎやしないか。
まるで、もっと酷い何かを隠しているかのようだ。
「別に騎士団は一つじゃないぞ、当国は。そいつ無視しても騎士団長にはなれる」
「騎士団長になりたいのか」
「ガキの頃の――三男坊で鬱屈してた頃の夢だったんだよ。忠誠を誓った男に――王に認められて、騎士団長にまで引き上げられるのが」
「……」
初めから市井の出で、医者の長男だった私には、よく分からん話だ。
思えば――親の仕事も継がず、錬金術に傾倒して冒険者となり、親不孝をしているものだ。
ふと田舎の故郷を思い出す。
「おい、聞いてんのかアルデール」
「聞いてますよ、オマール」
大分酔ってるな、オマール。
そこまで胸襟を開いてくれるのは嬉しいが、絡み酒は好きじゃないぞ。
私は眉をしかめる。
「お前はどうするんだよ」
「私? お前には言ってなかったか? 次のギルマスになるよ」
確か、一度オマールだけには酒飲んでる最中に言ったはずだぞ。
ギルマスに指名されて、次のギルマスになると。
「それは知ってるよ。その後だよ、その後」
「ギルマス辞めてその後か? その後は――そりゃ錬金術に没頭するさ」
すまん、親父。
何、長男は親不孝してるが、次男が後を継いでくれるからいいだろう。
私は勝手な事を想いながら、オマールに答える。
「王宮錬金術師にならねえの?」
「王宮錬金術師?」
想像もしてなかったオマールの言葉に、疑問符をつけて答える。
「ほらさあ、国家で秘匿されてる錬金術の類にも触れられるから、お前向きじゃないかと思って」
「そりゃ、確かに興味はあるが……」
考えもしなかった選択肢に、心が揺らぐ。
「俺、お前と同僚なら上手くやっていけそうな気がするんだよなあ」
「今も上手くやっているだろう」
「そりゃそうだ」
オマールは笑いながら酒を飲む。
……王宮錬金術師か。
それもアリだな、ただ……オマールの奴、ギルマスが王家を継ぐ前提で話してるよな。
ギルマスが国から逃げる可能性を考えていないのだろうか。
そこだけを気にしつつ、アルデールは同じように酒を飲んだ。
出来れば、オマールの夢が叶うように祈りながら。
了




