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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
キメラ編
28/113

028 ダンジョン襲撃


ワインを嗜む。

酔うほどではない、ほんの一口だ。

警戒は緩めていない。


「来るなら、そろそろかな……」


感性で、ダンジョン襲撃のタイミングを計る。

私ならば、そろそろ攻めてくる頃――


「ギルマス! ダンジョン内にキメラが出現しました!!」


ノックもせず、慌ててルル嬢が私室に飛び込んできて叫ぶ。

――来たか。


「全員、ギルド内で待機だ。出撃しようとする阿呆どもを止めろ」


冒険者はどいつもこいつも向こう見ずだ。

キメラが出現したとあれば、名声と報酬目当てで殺しに行きかねん。


「ギルマス、私も」

「ルル嬢はギルド内で冒険者たちを守ってくれ。連れは――彼一人でいい」


ガシャ、と骨の音を立ててファウスト君が動く。

アルデール君とオマール君は本日いないはずだ。

街のギルドで大繁殖の対応に追われている。


「さて、久々の出陣となる。たっぷり働いてくれたまえ」

「……」


ファウスト君は喋らず、私の頭の中のアンテナに従い、槍を握る。

武器は業物の魔槍だ。

一つ目巨人だって一撃で仕留められる。


「ギルマス、お気を付けを」

「無意味な心配だ」


今日の私は現役に近い。

バイオリズムは最高潮だ。

私室のドアを開け放ち――少しだけ懸念を払う。


「ルル嬢! 無いとは思うが、ドラゴンの所まで侵入者が来たら排除しろ。迷わず殺せ!」

「はい」


もっとも、犯人の目的はアポロニア国家の弱体化だ。

周辺国家まとめて亡ぼすことを目的とはしていないから余計な懸念だろうがな。


「では行こうかファウスト君」

「……」


骨は喋らない。

ただ私の命令に答えるのみだ。


「……」


私も同じように沈黙して、歩みを早めた。











「……これは」

「……」


うじゅる、と触手を生やす生命体。

それは複数の眼を持ち、触手に覆われた醜悪な姿で、体中が粘液で覆われていた。

酷い悪臭を放っている。

元の世界であえて例えるならば――


「モルボ――いや、違うか?」


昔やってたRPGで出てきたモンスター、その姿に近しい。

違いは、あの特徴的な大口がない事ぐらいだ。

何てもの造りやがるんだ、敵方の生物学者は。

ファウスト君の魔槍が通じるかどうか。

一時、攻撃を止めさせる。

ファウスト君の攻撃には触手が邪魔だ。

そもそも、弱点が分からん。

一つ目巨人の眼のように、ハッキリしていれば攻撃も楽なのだがな。

――私は鼻で呼吸をするのを続け、その悪臭に慣れようとしながら思考を続けた。

一撃。

それで仕留められるか。


「”泥濘よ、踊り狂って火を灯せ”」


口は無い――呼吸はしていない生命体。

よって無酸素化は無意味。

そもそも、あれは長期戦用の呪文だ。

代わりに、数多の泥濘の手を踊り狂わせる。

その全ての手が、モルボ〇もどきのキメラのその身体を包み込み――、その身を弾け飛ばすように溶解して火を灯す。

キメラは、一瞬にして燃え上がった。


「”燃え盛れ”」


無酸素化の逆。

酸素供給を生物魔法により行使する。

だが――心の中で懐疑点が消えない。

私の呪文対策ぐらい、しているであろう。

キメラは触手の全てで自分の身を覆い尽くし、燃え盛る泥濘の全てを消し散らした。

そう来るだろうな。

あの体を覆う粘膜も耐火性を備えているだろう。

だが。


「――今、ではないな」


ピクリ、とファウスト君を動かそうとするが止めた。

今のキメラは触手で自分の身を覆っている。

一撃で仕留める事のできる心臓部――キメラの”魔核”までは槍がおそらく届かない。

面倒臭い敵だ。

耐久力性で今回は攻めてきたのか?

この分ではゴーレムを召還しても意味がない。

あの柔軟な体躯には打撃によるダメージを与えることが恐らくできない。

対策を、打たれている。


「――しかし、炎上だけが私の持ち芸ではないのだよ」


ファウスト君の背後に身を隠す。

しばらくは、時間を稼いでもらう必要があるがな。

キメラの触手がその身体から解かれ、こちらに伸びてくる。

――ファウスト君の魔槍が、その触手を薙ぎ払った。

薙ぎ払われた触手は地面をミミズのようにのたうつが、その触手の大本はすぐに再生を始めた。

またすぐ新しい触手が生えてくるのだろう。

強力な再生能力。

まあ、それは別にいい。意識を集中させる。

先代との共同研究の成果。

主に泥濘とゴーレムを主流とする土魔法を、文字通り”鋭利化”させたもの。


「”薔薇の棘に突き刺さって死ね!!”」


完全に先代の嗜好で造った祝詞を、叫ぶように告げた。

周囲、360度の全てが暗転する。

だが今、この瞬間にも私の視界は暗闇全ての空間をじっと見据えている。

振動。

ダンジョンの振動だ。

周囲全てが岩でできているダンジョンが振動し、その代わりに棘が生えた。

全ての壁に、数センチの棘が生えて――キメラに向かってゆっくりと宙に浮かんで突き進んでいく。


「……」


口を持たぬキメラは言葉を発することもなく、必死に触手を用いて棘を払い落とす。

その行為は無駄ではなかったが――幾万にも至る棘を払いのけるまでには至らない。

ゆっくりと、棘が突き進む。

そしてキメラの触手に、複数の眼に、体中を保護する粘液を突き破って、棘が突き進む。

軟体のキメラの身体に、それを防ぐ術は無い。

この呪文に対抗できるのは、強力な弾力性と硬度に富む鱗甲を持つレッサードラゴンのような生物だけだ。

呪文の対象になった時点で死は確実となる。


「……」


キメラは防御を諦め、私の身体を捉えようと触手を伸ばすが――もう遅い。

ファウスト君に魔槍を振り回させて、力勝負で触手を抑え込ませる。

単純な力勝負ではアルデール君にも勝る竜牙兵の膂力だ。

千切れ飛ぶ、私を襲う触手。

もはや勝負は決した。


「……」


棘のどれかがキメラの魔核に到達して――破散するような音を立て、キメラは沈黙した。









ギルドに戻り、まずはルル嬢の声が辺りを包み込む。


「ギルマス、ご無事ですか!?」

「余裕だったさ。あのキメラによる犠牲者は?」

「最初の発見者が全力で警戒を呼び掛けながら逃げてきたので、被害は出ていません」

「――その冒険者には、特別報酬をあげるとしよう」


恐れていたのは、ウチの冒険者が巻き込まれる事態だったが。

どうやら無事だったようだな。


「死骸を回収する。死骸回収班を組んで――後はキリエを呼んでおいてくれ」

「わかりました」


ザワザワと冒険者たちで騒めく酒場の喧騒を無視して――

ローブを脱ぎ、酒場の椅子に掛ける。


「キメラは――あの一匹だけか?」

「私が見た限りでは、そのようですが。報酬を頂けるって本当ですか?」


最初の発見者に声を掛ける――よく見れば、以前に話した事のあるターナ君だった。

良い判断をした。

借金返済が早まったな。


「本当さ。キメラが一匹というのも本当だな」

「間違いありません」


一応、後でドラゴンの様子を見に行っておくか。

そう思いながら、酒場の店主に声を掛ける。


「店主、ここにいる冒険者全員に一杯奢ってくれ。私の金でだ」

「承知しました」


酒場中から歓声が上がった。

私はローブを肩にかけ、私室に戻ろうと立ち上がる。


「ギルマスは、飲んでいかれないんですか?」

「やることがあるからな」


あれだけのキメラを造れる生物学者が市井に埋もれている?

もっとよく考えるべきだった。そんなはずはない。

危険視されて――学会から追放された生物学者ぐらいから当たってみるか?

他国のギルドにもすぐ通達を出さねばならん。

幾らでも、やることは思いつく。


「酒を飲むのはそれを終えてからだ」


独語して、椅子を正しい位置に戻してルル嬢に声を掛けた。


「ルル嬢、キリエは街か?」

「ええ、ダンジョンではありません」

「では、先に書簡から書くようにしようか」


私は黙って私室に戻ることにした。







「どういうことだ? 今回の君のキメラは? 自信作ではなかったのかね」

「知る限りの情報では殺せるはずでした。隠し玉で殺されたと考えるべきですね……」

「隠し玉だと」

「誰しも、名持ちクラスになれば切り札の一つも持っているものですからね」


初見殺しのキメラであっても、それが対象の対策を練りに練ったものであっても。

その対策に穴があっては仕方ない。

全ての情報が手に入るわけではないから仕方ないが。


「言い訳は良い。結局失敗したのだろう」


言い訳ではない。

原因を説明しただけだ。

このアホはそれすら解さないのだ。

ああ、敵方の生物学者――キリエが羨ましい。

きっとあのギルドマスターの加護の下で、自由な研究ができているのであろう。


「次の案をさっさと考えろ! 無能が」


私は何も違法な研究がしたいわけではなかった。

制限されてもいい、自由でなくてもいい。

ただ、人に認められたかっただけだ。

傍らにあるアリザ、ビスクドールのような肌色をした少女を見つめる。

新人類――人間の新たな身体的発展への可能性を導き出したかった。

だが、現実はアカデミーを追放されて――今ここまで落ちぶれて、このような無能の下で働いている。

どうしてこうなったのだろう。

生物学者は心の底で、自分の環境を呪った。


「自分で――考えては」

「なんだと?」

「――なんでもありません」


思わず自分で考えろと言いそうになったが、目の前の男の考える案など失敗するに決まっている。

その結果、連座で捕まるのは御免だ。

あのギルマスの殺し方が残酷なのは裏社会では有名だ。

――楽に殺してもらえない。

凄惨な死体で発見される。

自分の行為の罪深さを理解しているからこそ、それは御免だ。


「仰せの通りに」


表向き、私は頭を垂れ、再び次の策を考案することにした。

全ては、自分の研究のためだけに。








ダンジョンギルドの地下室。

回収した死骸をダンジョンギルドまで運び、キリエと一緒に解剖を行う。


「クラーケンを複数重ね合わせたキメラですね。それにトロールの体液を粘液として合わせて。耐火性に加え、強力な再生能力を持っていたようです。よく倒せましたね」

「魔核さえ砕いてしまえば、再生能力など関係ないからな」


大抵の冒険者だと、ジリ貧になって触手に縊り殺されて死ぬのがオチか。

全く、ロクでもないキメラを造ってくれるものだ。

オマール君やアルデール君でも倒せない相手じゃなかったか、と思うが。

彼らも切り札の一つぐらいは持っているだろう。

まして、ソロで戦うわけでもないだろうしな。

余計な思考だ。

それを打ち捨てて、キリエと会話を続ける。


「犯人に心当たりはあるか」

「残念ながら、アカデミーから飛び出して冒険者となって久しいので。ただ、私と同じようにアカデミーを飛び出して、或いは追放された生物学者と考えていいでしょう」


キリエは丸縁眼鏡を光らせながら、マッドらしく笑う。


「アカデミーで研究されているような、それではないと?」

「基礎は、もちろんアカデミーで学んだ者の、それですが。そもそも、アカデミーのキメラ研究は大型のモンスターを造る事自体を禁止しているので――秘匿されている個人の技術で造られたものですね、このモンスターは」


何と名前を付けましょうか。

キリエがどうでもいい事を口にする。

名前なんぞ何でもいい。モルボ〇でも。口にはしないが。


「この解剖体は頂いても?」

「またお前の研究材料の夕飯になるのか?」

「いえ、より詳しく調べてみますよ。前回と癖が一致していないかどうか等」

「癖?」

「キメラ配合の癖です。生物学者ぐらいにしか分かりませんがね」

「癖が一致していれば同一犯という事か」


もっとも、同一犯だと確信してはいるが。

こんなモンスターを造る奴が複数いられては面倒だ。仮にいたら困る。

それより、私はミスを犯した事に気づいた。


「敵の仮拠点は、橋にある関所からダンジョンまでの間にあったようだな」

「そうなりますね。こんなモンスターが関所を通れるわけがない」


”シスターのインチキ”で場所を聞いた時点で気づくべきだった。

あの時点で調査を開始すべきだったな。

すでに犯人は逃げてるだろう。

足跡一つ、証拠が残っているとは思えん。


「……」


こめかみに指をやり、ぐりぐりと自分の阿呆さ加減を呪う。

私の精神の不安定さがミスを生んだ。

ぶち殺すにはこれ以上無いタイミングだった。

しかし――ダンジョンから私が動くわけにはいかない状態でもあったわけだし。

下手にダンジョンを動けば、その間にダンジョンがあのキメラに襲われていた。

雑多な思考。

まあいい、念のためギルド員に調査させておこう。

何も見つからんのは分かっているが、まだいる少ない可能性を考えると放置もできん。


「私は疲れたので休むことにするよ。キリエもほどほどにしとけ」

「まあ、解剖体を持ち帰ってゆっくり調べますよ。運搬係は用意しといてくださいね」


私は了解、との言葉とともに、地下室を後にした。




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