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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編
21/113

021 アリー嬢とのデート


アリー・クロレットとのデート中。

私はいつものデートコースをなぞった後、アリー嬢が教会に行きたいというので

孤児院の様子でも見ようと着いてきたのだが。


「それでは教会に入りましょうか」

「これのどこが教会に見えるんですか?」


私には如何わしい連れ込み宿――ラブホテルにしか見えない。


「この十字架のネオン辺りがまさにチャペルを表しています!」

「いや、教会としては怒るところだろそこ」


ビシッとシスター服の袖音を立てながら叫ぶアリー嬢。

何がチャペルだ。

怪しい魔法光ネオンサインを放つ十字架を見て思う。


「そういうわけで、ほら。入りましょう。今日で私もシスター卒業ですわ」

「そういうわけでじゃないし、入りませんから」

「えー」


アリー嬢は不満げな言葉を漏らしながら、こちらの腕にしがみついてくる。

違法薬物の匂いで頭がクラっとする。

これは……マンドレイク以外にも何か混ぜてるな。ベラドンナ?


「入りましょうよ。ね。入ったらスズナリ殿が『ごめんね、ごめんね』と私の女体に懺悔して、私は『がんばれ、がんばれ』って応援しますから」

「何のプレイなんだよ!」


ズリズリと身体が引きずられる。

拙い、このままでは身体能力の差で引きずり込まれる。


「シスターを卒業したら、小さな白い家を買って、愛しい淫楽の日々を過ごしましょう……フフフ」

「お前本当にシスターか!」

「こっちは禁欲的な生活で妄想シュチュエーションだけはバッチコイなんですよ! 今日を年貢の納め時にぃ!」


ボカン、と頭骸が凹んだような音がアリー嬢の頭から鳴った。

倒れ伏すアリー嬢の背後から、ルル嬢が現れる。


「ルル嬢! 助かったがどうしてここに?」

「今日はアルデール君に一日ギルド長代理を頼みました。そろそろ慣れて行ってもらわないと困りますし」


それはいい事だ。

今日は特に私にとって。


「……」

「……ルル嬢?」


アリー嬢を打ちのめしたルル嬢は、じっとラブホテルを眺めている。

そうして私の腕をつかみ、中に引きずり込もうと。


「ちょっと待った! ルル嬢、二年は待つ約束だろう!?」

「二年!?」


ルル嬢は驚いたような顔をする。

その目は血走っていた。


「そう、二年だ。二年は待ってくれる約束のはずだ……」

「二年、ですか……そう確かに約束しました」


モンスターのように警戒色を示していたルル嬢の顔の朱がスッと消え、その瞳が冷静さを取り戻す。


「二年たったら私をお嫁さんにしてくれるって約束でしたよね」

「……」


いや、そこまでハッキリとは言ってないが。

場合によっては逃げるつもりだし。

だが、否定すると食われそうなので、しない。


「承知しました。今日は見逃しましょう」

「助かるよ……」


心からそう言いながら、横で倒れ伏しているアリー嬢を眺める。


「コレ、どうします?」


アリー嬢を指さして呟くルル嬢に、私は答えた。


「教会まで送り届けよう。こんなモンスターを作り出した教会も一度見ておきたい」


好奇心は猫をも殺すと申しますが……

そんな苦言を聞きながら、私はアリー嬢を背負って歩きだした。









アリー嬢を背負いながら歩いて30分。

我々は教会にたどり着いた。

教会は豪華絢爛、というわけではないが荘厳とした面持ちでそこに建っている。


「デカイな。初めて来たが……」

「孤児院の施設も兼ねてますので、これくらいのサイズは必要でしょうね」


二人、お互いの感想を言い合いながら歩く。

人がいない。

背中のアリー嬢を引き渡す受付口はどこだ?


「お、あった」

「ギルマス、そこは告解室ですよ。罪を告白するところです」

「……もうここでいいだろ」


私は暗幕で閉ざされた部屋に入り、アリー嬢を引き渡すことにした。


「貴方の犯した罪は何ですか?」


神父のしわがれた声が室内を包み込む。

不思議な魔法の力――遮音性のあるそれのせいで、おそらく暗幕の外にいるルル嬢には聞こえていない。


「実は背中のアリー嬢を引き渡しに来ました」

「気絶するまで責め抜いた? それは罪ではありませんが責任はとってもらいますよ」

「違うわアホ」


糞真面目に応対する神父に愚痴を吐く。


「無理やりラブホテルに連れ込まれそうになったから、気絶させてこちらに運んできたんですよ」

「アリーめ、失敗しおったか」


ちっ、という悪役みたいな舌打ち音。

お前の目論見かよ。


「わかりました。アリー嬢は引き取りましょう。しかし、忘れないでください。第二・第三の刺客が貴方を待ち受けているという事を」

「待ち受けるな」


本当に悪役みたいな台詞吐くな。

その時、話声のせいかアリー嬢が目を覚ます。


「うーん、ここは……」

「アリー、目が覚めたか」

「私は確か、スズナリ殿に愛の尊さを教えようとしていたはず……」


教えられようとしてないわ、そんなもの。

私はアリー嬢を背中から下ろし、別れの挨拶を告げる。


「さようなら、アリー嬢。次のデートの機会はありませんからね」

「そんな、スズナリ様。私の愛を弄ぶだなんて」


愛を侮辱されてるのは正直私の方だと思うが。


「アリー、お前は失敗したのだ。次の刺客はもっと巨乳でハレンチなシスターを用意する」

「そんな神父様! この朴念仁にそんな即物的なエロでは通用しませんわ!!」

「誰が朴念仁だ」


普通に性欲ぐらいあるわい。ただ制御できるだけだ。

私はアリー嬢を背負っていた温みが薄れているのを感じながら、そう呟きたいのを抑える。


「もうどうでもいいけど、教会内を案内していただけませんか?」

「はて、教会に何か疑念でも?」

「せっかくお金を出しているんです。孤児院の様子も視察させてもらいますよ」


どんな教育してるか心配になってきたからな。

私は内心ため息をつきつつ、アリー嬢の手を引いて告解室から抜け出した。









「こちらが孤児院となっておりますわ」


ワイワイガヤガヤ、と子供の群れの騒がしい喧騒が木霊している。


「元気そう、ではあるな」

「変な洗脳教育は受けてなさそうですね」

「そこを心配してたんですか」


私とルル嬢の会話に汗をかくアリー嬢。

それくらい心配して当然の事してるからなお前ら。


「おじさん誰ー?」


アリー嬢と一緒にいる姿を見咎めたのか。

てくてくと、10歳ぐらいの少女が子供たちの塊から離れ、私に話しかけてくる。


「この国のギルドマスターだよ。スズナリと言う」


私はしゃがみこみ、少女に視線を合わせながら言う。


「あ、肉の人だ」


少女が、私の顔を指してそう呟く。

なんだ、そのハムの人みたいなネーミング。


「お肉の人だ」

「お肉の人だ」


ドヤドヤと足音を立てて子供が集まってくる。

何なんだ一体。


「ごはんにお肉をつけてくれてありがとうございます」

「ありがとうございます」


一斉に頭を下げる子供たち。

……そんな御礼、初めて聞いたわ。

アリー嬢を黙って見つめる。


「その……教会ではスズナリ殿はご飯にお肉をつけてくれた人と教えておりますので」

「そりゃ、寄付を始めたのは私の代になってからだが……」


ギルドは膨大に蓄積した富を、あまり外部に吐き出したがらなかったんだよな。

先代のギルドマスターから自分に代わるまでは。

富が停滞していく一方で、ロクなことにはならんのに。


「まあいい、肉を食って立派な大人になりなさい。ちなみに冒険者になるのはお勧めしないぞ」

「私、アリーさんみたいに胸が大きくなって金持ってる男に嫁ぎたい」

「そうか、アリー嬢が何を狙ってるか教えてくれてありがとう」


ポンポン、と少女の頭を優しく撫でながら、アリー嬢が何を狙ってるのか分かった。


「金目当てか」

「違いますよ!? 確かにスズナリ殿は王様の次に金持ってるって噂ですけど。私は性的な欲望をその身体に抱いてですからね!?」


なお悪いわ。

ぞっ、と悪寒を体に感じながら、子供の前で話す内容ではないなと思う。


「この先、次のギルドマスターに切り替わっても肉がなくなることは無いから、安心して食べなさい」

「やったー」

「おかわりもいいの?」

「おかわりもいいぞ」


教会が妙な贅沢してなけりゃ、それくらいの金は払っているはずだ。

アルデール君に引継ぎの際は、孤児院への寄付金を止めないようによく言っておかねばな。


「それでアリーお姉さんとは結婚するの?」

「今まで何人のシスターに手を付けたの?」

「教えて、おじさん」

「はっはっはっ、全部嘘だぞコノヤロウ」


私は朗らかに笑いながら、帰り際にあの神父のヒゲを思い切り引きちぎってやろうかと考え始めた。










シスター服を脱ぎ、寝間着へと着替える。

今日は生まれて初めてのデートだった。


「あと一息だったのよねえ」


独り言を呟く。

あと一息で、スズナリ殿に愛を教えてやれた。

全く、アリーナ・ルル嬢の存在が疎ましい。

あの脳筋がいる限り、私の計画は失敗を遂げるだろう。


「それにしても、あと二年って何の事かしら?」


気絶したフリをしていたが、二人の会話はバッチリ聞いていた。

アルデールという冒険者へのギルマス交代であることは知っている。

しかし、ルル嬢との結婚への区切りではない。

それはスズナリ殿の顔色を見れば分かった。


「ギルマスの交代――つまり、姫様との結婚?」


その可能性は高い。

神父様からもよく言われているのだ。

側姫にシスターを一人送り込む必要があると。

随分俗世的だが、何分教会は金がいるので仕方ない。

孤児院の経営も全て国と市井、そしてギルドからの浄財で成り立っているのだから。


「とにかく、担当替えだけは阻止しないと」


神父様にはよく言っておかなければならない。

スズナリ殿を――あの朴念仁を落とすには、即物的なエロだけでは駄目なのだ。

あの強力な理性では耐えきってしまう。

エロに加え、頭の判断能力を狂わせる非合法薬品。

後は力づくで押さえつけるパワー。

これ以外に道は無し。

それが私の判断だ。


「ていうか、スズナリ殿は何故あそこまで私を拒むのかしら」


スタイルには自信があるのにねえ。

自分の寝間着姿を見て悩む。

こういう時は神に答えを求めるべきだ。


「”神のお告げを”」


週に一度だけ私が使える神の祈り。

このスキルを使えるシスターは数少ないが、私はその一人だ。

内容にもよるが、神様が答えを教えてくれるという「シスターのインチキ」とも呼ばれるチートスキル。

時々――他人に言わせればかなり間違っている答えを得ることもあるが、神様もたまには間違えるのだ。

それは仕方ない。

何にせよ、神のお告げを聞くべきだ。


「”我が使者アリーよ。よく聞きなさい。スズナリは童貞をこじらせています”」

「童貞をこじらせている……?」

「"使者である貴女が治療してあげなさい"」


神が仰るなら間違いない。

これだ。

スズナリ殿はとても重い病にかかっていたのだ。

これはぜひとも私が治療してあげなくてはならない。

具体的にはベッドの上で。

教会が何百年と蓄積した性知識が火を噴く時だ、頑張れアリー。


「そうと決まったら寝ましょう」


夜更かしは美容の大敵なのだ。

アリーはエロ妄想たくましく、スズナリを押し倒す夢が見られることを神に祈りながら、ベッドへと潜り込むことにした。










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