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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編
16/113

016 怪奇、血の涙を流す先王の肖像画


王宮。

いつもの赤い絨毯を敷き詰めた王の間で、招致されてすぐさま本題に入る。


「と、いうわけで先王の肖像画がフォールン化している」

「はあ……その件は先日伺いましたが」


どうやら噂話などではなく、先王の肖像画が血の涙を流しているのは本当らしい。

だからといって、どうして私に依頼を頼むんだ?


「いや、知ってるなら依頼するから何とかしてくれよ。気味が悪い」

「気味が悪いって……一応、先王に対する敬意とか無いんですか」

「私が王になる前に死んでたからな。面識がない」


ドラゴン討伐に失敗して、とうに死んでた。

あっさりと死因を説明する。

どうやら、亡き王妃への愛はあっても、先王の対する敬意というものは無いらしい。


「そこらへんの敬意の無さが、血涙を流す結果につながってるんじゃないですかね」

「あのなあ、所詮は物だぞ。敬意なんか払っていられるか」


最悪、肖像画を燃やしても構わん。

王様は無慈悲な事を言い切る。


「じゃあ自分でおやりになればいいでしょう」

「やろうとしたらヨセフの奴に必死で止められた。あいつはまだ先王に忠誠誓ってるからなあ」

「じゃあ燃やすのは無しですね」


面倒臭い。

王様には敬意を払えと言ったが、大抵のフォールン化したモノなどは何か悪意を生み出す前に燃やしてしまった方が良いに決まっているのだが。

特に無念の内に死んだ人間の怨恨が乗り移りそうなものは。

肖像画なんてのはまさにそれだ。


「私もヨセフ殿に隔意を抱かれるのは嫌ですよ」

「それでは上手く"除霊"してくれ」

「はあ……」


諾とも否ともつかない返事をする。

そう簡単に依頼を受けてたまるか。


「なんだ、嫌なのか?」

「今回は解決できるとは限りませんので、少し」


ふうむ、と唸るアルバート王。

そもそも、私が100%依頼を受けなければならない理由などどこにもないのだ。

すっかり王室の便利屋と化している気もするから、ここで少し訂正しておかねばならん。


「じゃあ解決しろとまでは言わん。試しでやってみてくれ」

「そこまで言うなら……分かりました」


私は依頼失敗時の責任なしの確約を得てから応じる。

そうでもないとやってられん。


「しかし、"除霊"ねえ……」


言いえて妙な例えだと思いながら、私は先王の肖像画のある場所へと足を向けた。







「で、これが例の肖像画というわけですね」

「はい、燃やすのだけはご勘弁ください」


フリューテッドアーマーに身を包んだ騎士が、胸元中央の装飾を触りつつ応じる。

ヨセフ殿と会うのも久しぶりだな。


「ヨセフ殿もお嫌でしょうし、燃やしはしません。ただ、言葉に応じますかね」

「……そこらへんは誰も気味悪がって近寄っていないため、まだ試しておりませんね」


我々は肖像画を前に情報を交換し合う。

とりあえず、試してみるか。


「もしもし、先王様。聞こえておられますか。ギルドマスターのスズナリと申します」

「……」


返事なし。

ヨセフ殿にも試してもらうか。

そう思ったとき――


「……ダンジョンのギルドマスター殿が我が城に何の様だ」

「おお」


返事が返ってきた。

思わず驚嘆の声を上げる。


「フレデリック様、私です。ヨセフです、覚えていらっしゃいますか」


慌てて、ヨセフ殿が声を上げる。


「ヨセフか……もちろん覚えている。お前は生き残ったのか」

「はい、現在は騎士団長を拝命しています」


ドラゴン討伐にはヨセフ殿も参加していたのを会話で知る。

良く生き残ったものだ。


「……それでは、スズナリ殿にお聞きしたい。我が国はどの他国の手に落ちたのか」

「……はい?」

「ドラゴンによる侵略後、王族のほぼ死亡後に娘だけではどうにもならなかったであろう。この国が他国の手に落ちたのは分かっている。ヨセフが他国に就いたのも責めはせんよ」


肖像画が血涙を流している原因は――ただの誤解によるものか。


「王様、我がアポロニア王国は他国の手に落ちてなどいません。その後も継続しています」

「なんだと!? どうやって……」

「アルバートなる冒険者がドラゴンを殺して、その後娘さんである王妃と結婚されてますね」

「アルバートというと、あの冒険者のアルバートか?」


アルバート王自身はドラゴンを殺す前から有名だから、どうやら先王も知っていた様だ。


「あのアルバートです」

「毒に苦しんで、最後にはモンスターを食らって生き延びたあのアルバート?」

「そのアルバートで間違いありませんね」


変な方向で先王に覚えられていた様だが。


「そうか……まさかドラゴンを殺し得るほどの力量とは思いもよらなかったが。国は継続したのか」

「ええ、お孫さんもおられますよ」

「アリエッサ姫は、王妃にとてもよく似てらっしゃいます」


ヨセフ殿――それは余計な事だ。


「そうか、そうか……」

「先王――フレデリック様、疑念も晴れましたらどうか、神の御許へと。魂の旅路に寄り道は行けませぬ」


私が何とかフォローし、話の方向を変えようとするが。


「スズナリ殿、君の言う通りだがその前に――」


ヨセフ殿も失敗した、という顔をし、私に謝罪の目線をくれるが――

時、すでに遅し。


「一度だけ、孫に会ってみたい」


言わせてしまった、その言葉を。








「ヨセフ殿……」

「誠に申し訳ありません。スズナリ殿」

「いえ、孫がいるなんて話した私も悪かったです」


ヨセフ殿は平身低頭で詫びてくるが、もはやどうにもならん。

連れてくるしかない。アリエッサ姫を。


「ここは姫様に演技をお頼みして」

「……」


私は丁度廊下にいたアリエッサ姫に視線をやる。

何か狩猟でもしていたのか、腰のメイスは血まみれだ。


「ひゅーん」


そして声で擬音を出しながら、鳩の死体を投げていた。

廊下から見える堀から、それを上手にキャッチする白い大ワニ。

パントライン嬢の拍手が廊下に響き渡る。


「鳩の死体を笑顔で投げてる姫様に、何の演技が出来るっていうんだ……」

「……」


ヨセフ殿は黙り込んだ。

先王には残念だが、もうこのまま連れて行くしかない。

私は姫様とパントライン嬢に声を掛けた。







「肖像画って先王――お爺様が結局憑依してたの?」

「ええ、フレデリック王の魂が無念で彷徨っているうちに乗り移ったようですね」


私は姫様に今までの経緯を説明する。


「で、会いたがってるって? それは別にいいけど……」


腰元の血まみれメイスが気になるのか、それを外して廊下に置く。

良かった。さすがにそのままで行くつもりはないか。


「失望させてもしらないわよ」

「無念が晴れる程度には失望させないようお願いします」


私はただ頼み込むしかない。

そうこう話している間に、肖像画の前にたどり着く。


「お爺様、元気ー!」


その第一台詞はないだろう。

元気なわけあるか、死んでんだよ。

コイツ全然人の話聞いてねえ。


「……おお、君がアリエッサか。確かに娘に似てる」

「ふふん、お母さまに似てるって言われるのが一番の自慢ですわ」

「そうか、そうか……」


肖像画が涙を流す。


「本当に……本当によく似ている」


今度は血の涙ではない。ただの喜びの涙だ。


「今年で……幾つになるのかね」

「今は15,もうすぐ16ですわ」


この様子なら、黙って見守っているのが一番いいのかもしれない。

私は人心地つきながら、ただ様子を見守ろうと――


「そうか……婚約者がいてもいい歳だな」

「そうですわね」


して、余計な会話に発展したのを見て頭を痛めた。


「……相手はもう見つかったのかね」

「暫定ですが、後ろにいるスズナリ殿ですわ」

「……いささか、年齢が離れすぎてやしないかね」


話がこっちに飛んできた。

肖像画の眼がギョロリとこちらを睨む。


「他国への威圧と、王様業を両方こなせる候補が少ないのですよね」

「なるほど……力の時代というわけか」


肖像画の目玉だけ移動するの止めてくれないかな。

正直怖い。


「スズナリ殿。ウチの娘を不幸にしたら、いつだって祟ってでてやるからな」

「……はい」


私は会話に合わせるしかない。

肖像画のフレデリック殿はその後、ヨセフやアリエッサ姫と二・三時間の会話の後。

――本来行くべき、魂の旅路に旅立っていった。








王宮。

いつもの赤い絨毯を敷き詰めた王の間で、ヨセフからの報告を聞く。


「それでは、またあのギルマスはうまい事片付けたと」

「私もフレデリック様に御会いする事ができ、もう心残りもなくなりましたよ」


随分と年老いたことを言う。

アルバートはまだ現役の騎士団長にそんな感想を寄せた。


「まだお前には娘がいるだろう。それを片付けねばな」

「パントラインの奴は、できれば側姫としてスズナリ殿に……」

「お前もか」


最近、その類の嘆願が貴族から多い。

まるで、スズナリとアリエッサの結婚が本決まりになったかのようにだ。


「お前から見ても、スズナリは”買い”とみるべきか」

「姫様と結婚しないのなら、パントラインとそのまま結婚させたいほどに」

「ふむ」


普段、娘の事を言わないヨセフがここまで押す。

まあ、それも判る気がするが。


「性格は温厚、娘にも対応できて、問題解決能力もあるか……」

「王様として仰ぎ仕えるに、十分に値する方かと」


ふむ。

と一頷きして、同意する。

確かに仕える方はあれぐらいが楽だろう。

ダンジョンマスターとしての経験もあり、婚約者候補では突出している。

騎士団でも候補を募ったが、正直イマイチな連中ばかりだ。

だが。


「アリエッサの気持ちはどうなのだ?」

「最初は本気で嫌がっていたようですが……最近はそうでもなさそうで」

「ネックは年齢だけのようだからな」


娘の心境の変化に、笑いながら答える。

まあ、俺も煽りはしたが、こうも変わるとは。


「やはり、自分の自由行動を受け入れてくれる相手というのがポイントなのでは?」

「なるほど」


ヨセフの指摘を拝聴しながら、会話を続ける。

俺は決断した。


「それならば、もうアイツ以外にいないな」

「それでよろしいかと」


この国の未来も左右すること。

そう簡単には決められない。

だがそれは、俺に決定権があることだ。

俺の腹はこれで決まった。

あとは娘の行動を待つのみだ。

アルバートはそう考えながら、今日の美酒に酔いしれた。








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