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ギルドマスターにはロクな仕事が来ない  作者: 非公開
日常業務編
15/113

015 ギルドの七不思議


「ギルドの七不思議?」

「そうよ、あるでしょ? ギルドにも」


ギルドの酒場で買ってきたらしい肉を食いながら、アリエッサ姫が言う。

肉食いに来ただけじゃなかったのか。

肉さえ与えていればこいつは大人しいんだ。

そう動物のように思い始めていた人物が、突飛な事を言い出した。


「ありますけど……何で急に」

「王宮にも七不思議ってのがあってね。割と面白かったのよ」


ね、と同意させるように背後のパントライン嬢に話しかける。

そのパントライン嬢は泥濘を甲冑全体にこびりつかせ、ゼイゼイと息を吐いていたが。

いいかげん、パントライン嬢以外にも護衛つけろよ王様。


「……王宮の門を覆う悪臭などですかね」

「それワキガの門番の事でしょう。もう解決しました」


私は冷たくパントライン嬢に答えた。


「原因知ってると面白いでしょう」


いいえ、全く。

そう冷たくあしらおうと思うが、そうしたら暴れそうだ。

相手はきかんぼうの子供なのだと思うことにして、適当に相手してやる。


「ギルドの七不思議でしたっけ? ここにいる自然に動き出すスケルトンとか」

「それ――ファウスト君は普通にアンタが操ってるだけじゃないの」

「いえ、たまに勝手に動いているときがあります」

「怖っ」


たまーに勝手に薬草茶を入れてくれるときとかあるんだよなあ。

大分フォールン化が進んでいるのかもしれない。

あれは突如「成る」パターンと、自然に成長していく2パターンがあるから。


「何のお話をしてらっしゃるのですか」

「ルル嬢」


ルル嬢が、ドアを開けて私室に入ってくる。

その手には茶菓子受けが握られていた。


「ギルドの七不思議についてだ」

「……それ、学校とかの公共施設で語られるものじゃありません? 普通」


子供たちが少年期や少女期に見る恐れを噂に加工して成る怪談話――

そこまでルル嬢が言いつのって真剣な顔をする。


「ギルマス、深刻な噂話もあります。七不思議かどうかはしりませんが」

「なにかね」


茶菓子を受け取り、ばりばりと一人で食べている姫様を見ながら。

薬草茶をズズ、とすする。


「ギルドマスターがギルド員の一部を夜な夜な毒殺しているという噂が立っています」

「何故だ!?」


思わず薬草茶を吹き出しかけた。


「あの……言い辛いのですが乾杯の言葉とともに、ひしゃげ割れるワインの音のせいかと」

「……外に聞こえてたのかアレ」


頭を抱えて、呻く。


「今後は控えるようにしよう」

「マンドラゴラの一件で、犯人を薬殺しかけたって聞いたから本当じゃないの?」


茶菓子を食い終えた姫様がいらんことを言う。

余計なことまで耳に入れてるな、この姫様。


「違います」


私は呻きを続けながら、姫様にどうやって帰ってもらおうかと考え始めた。






「で、他にはどんな不思議があるの?」

「続けるんですか、その話題」


もう帰って欲しいが、話し終えるまで帰りそうにない。

仕方ない。

ルル嬢を促して、七不思議の続きを喋らせる。


「不思議その3、ダンジョンの最奥から奇妙な唸り声がする」

「ドラゴンじゃないの?」

「ドラゴンですよ」


ドラゴンなのだが、全員がその存在を知っているわけではない。

封印を解こうとするバカがいないとも限らん。まあそこらの魔術師に解けるとは思えんが。

一応はその存在を秘匿されているのだ。その秘匿レベルは低いが。

だから七不思議のひとつだ。


「不思議その4、ダンジョン本部の受付がモフモフの犬である」

「アレキサンダー君じゃないの?」

「アレキサンダー君ですよ」


本部に来ればコボルトのアレキサンダー君だとわかるのだが、そもそもここまで来れる冒険者は中級以上だ。

街でたむろしている初級冒険者には噂の種になるのだろうな。

だから、これも七不思議のひとつだ。


「つまんない不思議ばっかねー。真相知ってると」

「真相知ってると面白いといったのはどこのどなたですか」


思わずツッコミを入れる。

あと三つはなんだったっけか。

正直、七不思議の存在は知っていても詳しくは知らない。

ルル嬢を再度促す。


「不思議その5、王家の姫様がダンジョン最奥のギルド内に散見される」

「それってそんなに不思議な事かしら?」

「十分不思議な事と思われます」


お前王宮の飯が嫌で、ギルドに肉食いに来てるだけだもんな。

不思議でも何でもない。


「これは……残念ながらギルマスと姫様が婚約者だからと解釈されてます」

「勘弁してくれ」

「同意見だわ」


ルル嬢が眉をひそめて言った言葉に、二人して同意する。


「不思議その6、タワーシールドの事をタワシと略するとギルマスに制裁される」

「それ嘘だぞ。先代が酷くその言い方を嫌ってただけだ」

「ていうか、アンタはどうでもいいのね」


先代がこだわってたからどうでもよくないが、正直アホな規則だとは思う。


「最後の不思議、ギルマスが仕事を投げ出さないのは何故か」

「先代との約束だ! 好きでこんなに仕事してると思うなよ!?」


ルル嬢に言い返す。

別にルル嬢が悪いわけではないが、そう思うならギルド員も、もっと協力的になれよ。


「それが最後の不思議? ギルドの七不思議ってイマイチね」

「だったら王宮の七不思議って……いえ、聞きたくないです」

「聞きなさいよ」


15歳にしては豊満な胸を張り、アリエッサ姫が叫んだ。


「今から、王宮の七不思議を発表するわ!」


私はもうどうでもよいから帰って欲しかった。







「王宮の不思議その1は言ったわね。それでは不思議その2から、パントライン!」

「はい、姫様」


パントライン嬢はアレキサンダー君がいないのを不満そうにしながら、命令に応じる。


「不思議その2、怪奇、王宮の堀でくつろぐ白い大ワニ」

「普通に侵入者防止対策じゃないか?」

「いや、それが誰に聞いても知らないのよね。私、たまにご飯投げ入れてるんだけど」


いつ住み着いたのかしら。

んー、と悩むアリエッサ姫だが、答えは簡単だ。

多分大きくなったワニが飼えなくなったから堀に放しただけのペット廃棄だろ。


「不思議その3,怪奇、血の涙を流す先王の肖像画」

「アリエッサ姫のせいだろ」

「はい、姫様が奔放なせいかと」

「怪奇現象に理由を求めないでよ!?」


孫がこれなら先王も血涙流すわ。

これで原因は判明した。

次行ってみよう。


「不思議その4、モフモフの亜人の採用枠が王家にない」

「当たり前でしょ。他種族に内規は明かせないでしょうに。別にコボルト国民じゃないし」

「ギルドにはいるのに……」


悔しそうに呻くパントライン嬢。

ギルドには明かされて困る秘密などない。

というか亜人は増やしたいくらいだ。

最近はこの国も、亜人の冒険者も珍しくないしな……。

リザードマンとかギルド員の事務方に欲しいなあ。

私は爬虫類も好きだ。

レッサードラゴン以外は。

アイツだけは二度と会いたくない。


「不思議その5、アルバート王に側室が存在しない」

「不思議な事か?」

「不思議よ。お母さまがなくなって15年独り身よ」


本当なら、何人も側室がいても不思議じゃないのにね。

特に、子供は私一人しかいないわけだし。

アリエッサ姫はそういうが、男の純情というのはそう言ったものだろう。

アルバート王に、少しだけ好意を寄せる。


「不思議その6、王様が仕事から逃げ出さない」

「逃げられたら困るだろう。国が亡ぶぞ」

「でもお父様、本気で王様業嫌がってるのよね」

「そういわれてもな……」


アルバート王がこの国の王になったときは、本当に国が滅びかけていたと聞いた。

ドラゴンと、それで力を弱めて以後の他国からの侵略で。

ドラゴン殺しというたった一人で国家のパワーバランスを崩す存在が王位に就いたせいで、それも解決したのだが。


「最後の不思議、王様が、姫様を無理やりギルマスと結婚させないのは何故か」

「何故かって言われても、娘をこんなオッサンと無理に結婚させたくないでしょう普通」

「……」


姫様は何故か黙って、俺の方をジーと見つめる。


「何か?」

「何でもないわ。ただ、お父様からのアンタの評価の低さも間違ってる気がしてね」

「評価、不当に低いかな?」


そりゃドラゴン殺しから見たらレッサー殺しなんて評価低いだろう。

そこのところは諦めるしかない。

というか、実際は偏屈な姫様を煽る目的のように思えるが、そこは口に出さない。


「ていうか、私良く知らないけどレッサードラゴンてどれくらい強いの?」

「100mを1秒で走り、ミスリルでできた鎧も噛み千切る牙を持ち、動いているものは食うためでもないのに何でもかみ砕く。毒は通じず、酸も通じず、火炎も通じず、爆発も通じない鱗を持つ生き物。ちなみに、私は遭遇して呪文を唱えようとした一秒後に両手を噛み千切られました」


ひらひらと諸手を上げる。

そこに異常はない。生物魔法の使い手で本当に良かった。


「……どうやって殺したの?」

「……それは冒険者の秘密です。ちなみに、ドラゴンは呼吸も必要としなくなるのがヒントでしょうか」

「レッサードラゴンは息をするのね。酸欠死させた?」

「そういうことです。ドラゴンは呼吸しない代わりに炎を吐きますが」


更に、レッサーより全面的に強さがスケールアップする。

私の事より、王様はどうやってドラゴンを殺したんだ?

未だにわけがわからん。他国にとっては絶対に敵に回したくない恐怖の存在だ。

単純に「ただ強いから」と考えた方が精神的によさそうだが。

私は姫様がギャーギャー騒ぐのを聞きながら、深い思考に脳を落としていった。






王宮の寝室。

ダンジョンでの汚れを落とした後、護衛役のパントラインと一緒に床に就く。


「やっぱり、お父様の評価は低すぎるわ」

「まだ言っているんですか、姫様」


両手を頭の後ろにやり、胸を張る。

アリエッサは今日の事を思い出し、スズナリ自身も自分の評価を低く見ているなと思った。


「父さまが凄すぎるのかしら。それともスズナリが謙遜気味なのかしら」

「その両方かと」


但し、王様はそこまでギルマス殿を低く見てないように思いますが。

そうパントラインは呟く。


「そうかしら?」

「試しに結婚したいと仰っては? すぐにオーケーが出るはずですよ」

「年齢に差があるって言ってるでしょ」

「それ以外の問題は?」


薄明りの中、隣のパントラインが私の瞳を見つめる。

少し意地悪そうな、茶化した顔だった。


「特になし。……性格は合うわね、認めるわ。あっちはどう思ってるか知らないけど」

「ギルマスには――スズナリ殿には好きな方がおられますからね」

「先代のギルマスだっけ、もう行方不明みたいなもんでしょ?」

「そうらしいですね」

「死んだ人間は追いかけれないわ」


私は亡き母親の事を思う。

――15年たっても父親に忘れられないような。

そんな恋がしたかった。

でも私の相手は30過ぎのオッサン。


「あと10年若ければ……いや、せめて5年」

「何だかんだ言って、そこまでこだわるなら、もう好きなんだと思いますが」

「パントライン、うるさい」


私は今大事なことを考えているのだから。

実際、この国の未来も左右することなのだから。

そう簡単には決められない。


「まあ、まだ時間はあるわ」


そこまで急ぐ必要はない。

だからと言って、マンティコア以上の討伐ができる男が騎士団にいるだろうか?

私は疑問に思いながら、瞳を閉じ、眠ることにした。





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