011 - 親睦会 -
「えー、今日はお集りいただき本当に感謝しています」
「本当に感謝しなさいね」
お前は呼んでない、アリエッサ姫。
ていうか、どうせ飯食いに来ただけだろお前。
「今回は、前回のダンジョン踏破の慰労会並びに、パーティーの集まりが悪かったことを踏まえギルド員を含めて親睦会を開くことにしました」
集まりが悪かったというか、呼ぶ時間がなかったのが大きいがな。
自分で自分にツッコミを内心入れながら続ける。
「各々ギルド員がギルドの活動に興味を普段全く抱いていない、ないし私への不満を抱えているのも判っているつもりです。ですが、それでギルドの活動が停止するのは本末転倒であります。ここは皆大人になって親睦を深め合い、次の緊急依頼の際には問題なく稼働できるように新しく作った待機制度を周知――」
「断固反対!」
「反論は許しません」
以前、姫様と言い争っていたギルド員が反対の声を上げるが無視する。
前回のようなケースを防ぐために、待機制度はいるのだ絶対。
「名持ちおめでとうございます!」
「その件は忘れなさい。私は名持ちになどなっていない」
アルデール君の声。
あの野郎いつか生贄に――いや、今日だ。
この親睦会を通して姫様に紹介してやる。
今日がお前の命日だ。
「とにかく、反論は許さない。どうしても反対したければギルドマスターに立候補してください」
シーン、と静まり返る数十人のギルド員たち。
そんなに成りたくないかお前ら。
私も成りたくなかったよ。
「とにかく、これは守っていただきます。タワーシールドの事をタワシと略さない等いろいろふざけたギルド規則と違って最重要規則と考えて頂きたい」
「なんでそんなアホな規則あるのこのギルド」
いちいちうるさい姫様。
ギルド員にアホが多いからに決まってるだろ。
そんなこともわからんのかこのアホが。
「それでは親睦会を始めます!」
ヤケになった私の絶叫がギルドのエントランスを覆った。
ギルド内からは乾杯の声も上がらず、全員が黙々と飲食をしている。
誰もがさっさと飯食って帰りたいという雰囲気だ。
自分で言っておいて親睦を楽しむも何もないしな。
今回の決定は、名持ちの現役冒険者たちが交代制にせよ、一時的に街に束縛されることになる。
もちろん金は出すつもりだが、自分で獲物を狩り取ることを誇りとする彼らにとってそれは喜ばしい事でも何でもない。
各々、心の中は不満でいっぱいだろう。
「なんで今頃マンティコア殺しなんて名持ちになってんだよ」
「レッサー倒した事なかったか、ギルマス。それと比較すりゃしょぼいだろ。今更なんで」
「あれだよ、王族になる前の準備だよ」
「あー、何でもいいから名声いるのか。面倒臭いことしてんなギルマスも」
何話してる貴様ら。
噂は着実に日々悪化の一途をたどっている。
私は原因であるアルデール君の方をみて睨みつける。
彼はキラリと白い歯を見せてガッツポーズしてくれた。
本当に殺すぞ。
いや、今日がお前のある意味命日だ。
「アリエッサ姫、パントライン嬢」
ちょいちょい、と意地汚く肉の乗った皿を握りしめたまま近寄ってくるアリエッサ姫。
アレキサンダー君を抱きしめたままそれに従うパントライン嬢。
私はアレキサンダー君を解放させた後、コホンと咳をつく。
「例の婚約者候補ですが、見つかりましたよ」
「もぐもぐ。マジで!? 全然期待してなかったのに」
肉食いながら喋ってんじゃねえ。
あと姫様の期待値ゼロか。
まあ前の紹介が酷すぎたせいもあるんだろうが。
「あちらにいる黒髪短髪のイケメンです」
「ん、アルデールの事?」
「お知合いですか」
「いや、有名だから知ってるだけ。たしか吸血鬼の王族をボロ雑巾のように撲殺したんでしょ」
「そうです。謀反した、を付け加えてあげると嬉しいですが」
知ってるなら話は早い。
「アレなんてどうでしょう」
「うーん。オッサンより若いし美形だし実力もありそうだけど……」
第一印象は悪くないようだが、何かひっかかるのだろうか。
「何か生理的に合わないからヤダ」
「ぶっ殺すぞ」
全ての条件を満たした相手を紹介させておいて、それは無いだろ。
思わず首を絞めたくなるが、親睦会の最中だからなんとか止める。
「いや、仕方ないじゃない。こっちのミスを許容しそうにないタイプっていうか」
「会話したことも無いのに勝手に他人の性格を類型分けするなよ」
第一、生理的にヤダってなんだ。
一目見ただけでそんな台詞よくほざけたもんだな。
「いや、でも他人の失敗とかワガママ許容しそうなタイプ? なんとなーく違う気がしない」
「……」
そう力強く言われると、何となくそんな気もしてくる。
というか、最近になってアルデール君とよくギルド内で会話するように――生贄に捧げるために――していたのだが。
確かにそういう性格の節が見られた。
善良ではあるが、やや完璧主義の気がある。
姫様、直感のスキルでもあるのか。
「そんな人と私が結婚生活を成し遂げられると思う?」
「思いません」
力強く、思います、と言ってやりたいところだが無理だ。
私の努力は無駄となった。
肩の力を脱力させ、頭を両手で抱える。
「まあ、そう気を落とさず次の人を気楽に探してよ」
「何余裕ぶっこいてんですか。市井の噂を聞いてないんですか!?」
「もういい加減オッサンの婚約者扱いも慣れたわ。ちゃんとしたのが見つかるまでは、虫よけになって丁度いいわ」
「……」
こっちは良くない。
私は姫様から離れ、アレキサンダー君をパントライン嬢に返し、黙って歩いていく。
一途、アルデール君の方へと。
アルデール君はそれに破顔した様子で出迎える。
「どうでしたギルマス殿。私の貴族への推挙は叶いそうですか」
「この役立たずが!」
「何故急に罵倒を!?」
私は驚愕の声を上げるアルデール君を完全に無視しながら、役立たずの生贄に酷く舌打ちした。
「まあ役立たずなのはいいとして、吟遊ギルドに何をしたのかね」
「何をしたも何も、ありのままの活躍を話して吟遊詩人に謳わせただけですよ」
ギルマス殿の活躍を。
そう誇らしげに言うアルデール君。
生贄にもならんし、本当にロクな事せんなコイツ。
「君、今度ギルドマスターを一時代理したまえ」
「何故そんな面倒なことを!?」
「煩い、これは罰だ」
何の罰ですか!?と叫ぶアルデール君を無視し、私はギルド内を見回す。
本日は慰労を兼ねているのだ。アルデール君に構う理由は無い。
マリー嬢とルル嬢はどこだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
二人は丁度エントランスの真ん中で挨拶を交わしあっていた。
「……」
「……」
そして、続かない――二人の会話。
なんだかぎこちない空気で、混ざりたくない。
「スズナリ殿、逃げないでくださいね」
マリー嬢が視線も合わせずに声をかけてくる。
どうやら逃亡は不可能なようだ。
「こんにちは、先日はダンジョン踏破に協力いただきありがとうございました」
「いえ、王様からの命令でもありましたのでお気になさらず」
マリー嬢はくい、とワイングラスを口元に傾けた後、一息でそれを飲み干す。
「ルル嬢も、何時ものことだがお疲れ様」
「私も仕事ですので。お気になさらずに」
ルル嬢も、まるで対抗する様にしてワインを一気に飲み干した。
「それで、慰労会という事ですが、二次会はどこに行きましょう。私の家なんてどうです」
マリー嬢が中身の入ったワイングラスを私に渡してくる。
私は二人のマネをするわけではないが――それを一息で飲み干した。
「二次会は遠慮しておきます。後片付けが残っておりますので」
「それ、ギルドマスターの仕事なんですか」
「アレキサンダー君だけに任せるわけにもいきませんので」
もっとも、アレキサンダー君が動けば、ギルド員みんなが勝手に手伝うから手間はかからんが。
モフモフ好き多いなギルド員。
やはり亜人の文官の割合をギルドで増やすべきだ。時代はグローバル化なのだ。
そんな事を考えながら、私はマリー嬢が王宮魔術師長であることを思い出す。
「マリー嬢は、姫様の婚約者候補は配下から探していないのですか」
「魔術師ですか? 私より弱いのしかいない時点で無いです。騎士団からは、ヨセフ団長殿が必死に探してるみたいですが……」
仰ぐようにして手をひらひらとさせるマリー嬢。
その顔は諦めに近い。
ぽん、と私の肩を一叩きして呟く。
「最悪は側姫として嫁ぎますので、そのあたりよろしくお願いします」
「よろしくないです」
私はマリー嬢の視線をまっすぐ見つめて真剣に答える。
ルル嬢は私の背後に立ち、ゆっくりと大きなため息を吐いた。
状況は悪化している。
もう一度言おう、状況は悪化している。
「はあ」
ギルド内の片づけを終え、ため息をつく。
結局アルデール君の生贄作戦は失敗に終わった。
しかもそのアルデール君の仕業で名持ちになってしまったし。
「まあマンティコア程度ならそこまでの名声も得まい」
そう思うが、市井の民にモンスターの強さなどわからん。
吟遊ギルドにアルデール君が幾ら金を弾んだかによって状況は変わるな。
「いっそ、吟遊ギルドに悪評でもばら撒くように頼むか」
自分の悪評を――金まで払って。
そのバカバカしい考えを振り払いながら、私は閉口する。
「とにかく、次の候補だ」
今日は親睦会――待機命令のためと言い張って、ギルド員全員を集めて若手のギルド員の調査もした。
アルデール君以外にも若手の実力者はいる。
姫様への生贄の残弾はまだあるのだ……
私はニヤリと笑いながら、集めた資料をまとめ上げる事にした。
了




