第二話「異世界の街デビュー」
更に進み、ちょっとずつ門と城壁がはっきり見えるようになってきた。
今のところ叫び声が聞こえそうな気配はない。叫び声が聞こえるのに気配などがあるのかは分からないし、分かったとしても、もし聞こえたとしても助けには行かない方針に変わりはない。
再びになるがちょっと考えてほしい。
たとえ魔法みたいな能力を使えたとしても相手は全くの未知の存在。そんな存在に突っ込んでいけるなんて有り得るだろうか?
いや、そのような主人公を馬鹿にしているわけではない。だって全ての主人公が小説のように成功しているわけではなく、裏では同じように行動して結局敵わず殺されてしまったり、行ってもすでに皆殺しされていたりしている主人公がいて、上手くいった主人公だけが真の主人公となっているだけなのかもしれないのだから。
ちなみに先ほど確認してみたが、今のところ俺に魔法を使える気配はない。
少し色々試してみたが、これではいい年した大人が恥をかいただけだ。一応周りに人の気配がないかだけは確認してやったが・・・見られていたのであれば黒歴史確定だ。
いや、そんなことよりも門と城壁だ。
俺は無駄なことを考えるのを止め、真面目にこれからどうすればいいかについて頭をめぐらす。
どう考えても日本という平和国家の一般人でしかない俺が、誰の助けも借りずに知らない土地で、しかも一人でサバイバル生活を試みるのは現実的ではない。
だからといって何の情報もないまま少しずつ迫る門と城壁、そしてその奥に存在するであろう街に突撃していいものだろうか。
不安要素はいくつかある。
ここが異世界だと仮定して、まずはこの先の街の支配者が人間ではなく、人間が奴隷などの立場であった場合。
次に人間であっても怪しい人物として受け入れられなかったり捕まってしまったりする場合。
今の格好はスーツまでとはいかないが仕事に向かう服装だから、異世界であっても過去の地球であっても異質な服装であることに間違いはない。
それに言葉。俺が話すことができるのは日本語と片言の英語だけ。
雰囲気からして過去の日本ではないだろうから相手に言葉が通じるとは考えないほうがいい。
もしここが異世界であるならば、都合よく使われている言葉が日本語だったり、魔法で意思疎通ができるようになったりしても、おかしくはないのだが。
要するに俺が言いたいことは偵察が必要なんじゃないかってことだ。
そんな技術はもちろん身につけてはいないが、幸い門の近くまで道に沿って木々が続いていて隠れることのできそうな場所ならある。
そこに一時隠れていればいくつかの情報は手に入れられるだろう。
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更に数十分ぐらいだろうか、道から少しそれた木々の合間を歩き続け門がはっきり見える場所に無事到達することができた。
まずは外観を観察してみる。
自分の価値観からすると門はかなり立派だ。日本でいくつか訪ねたことのある城の城門に引けを取らないだろう。
もっとも造りとしては西洋のもので日本のそれとは全く異なるが。
そして城壁。ここが城かどうかは分からないので外壁というのが正しいかもしれない。
高さは5メートルほどあるだろうか。素材は石だが攻められても容易に落ちる感じではない。
日本の城のように堀は存在していないが門の前は広場のような感じになっていてその広場に向かって俺が来た道を含め三本の道が合流するようになっている。
俺が来た道は門から見て正面に位置しているが、人の流れを見ると俺の来た道を通る人は皆無で、むしろ他二つの道から門の中、街へと出入りしようとする人が多く見受けられる。
そう、人。これは俺にとって最も確認したかったことで不安視していたことでもある。
門兵は人。門の出入りの管理をしているのも人。門に出入りしているのも人。
見た目では西洋人も東洋人もいるようだ。
そして出入りしているのは主に商人と農民が多い。
荷馬車のようなものに食料や金属などをのせている商人、商人に比べると格好が少し劣るが生活必需品を買うために街に出入りしていることが想像できる農民。
異世界にありがちな冒険者のような姿は今のところ確認できていない。
そんなことを考えていたときだった。
「今年の取引では大儲けできそうですね!ヴェイン様。」
「あぁ。去年は上手く内通者を送り込むことができたからな。」
「ギルドは馬鹿の集まりで安心しました。脳筋とはあいつらのことを言うのでしょう。」
「その通りだな。どうせあいつらのことだから今年大損したところで内通者の存在などに気付くことはないだろう。」
「私もそう思います。ヴェイン様に目を付けられたことがあいつらの運の尽きでしたな。」
高笑いをしてそんな話をしながら一台の商人の荷馬車が俺の横を通り過ぎる。
危ない。門のほうに集中していて存在に全く気付くことができなかった。
だが収穫はある。商人が使っていたのは日本語だった。
言葉が通じるのであれば、いくらでもやりようはあるだろう。
それにしてもきな臭い話だったな・・・
ギルドの存在にも驚きだが内通者とは穏やかではないな。巻き込まれないように今聞いた話は封印するのが良いのか。
場合によっては交渉カードとして使えるかもしれない。
ギルドはヨーロッパにも存在していたが日本語を話しているところを見ると、ここは異世界でほぼ確定だ。
それを前提にして物事を進めなければならない。
とりあえず俺は門から街に入ることに決めた。
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「少年。君は何を目的に街に入りたいんだ?見たところ売るものも持っていないようだが。身分証はあるかい?」
「まだありません。俺は冒険者になりたいんです!田舎で農業なんてやりたくない!」
「なるほど。この街では冒険者になりたい者を拒否してはならないという決まりごとがある。しかし犯罪を犯したことのあるものについては例外だ。この玉の上に両手を乗っけてくれるかな?」
「分かりました!」
「うん。どうやら犯罪歴はないようだ。今回は入門料は必要ないが次回からは冒険者カードの提示といくらかの入門料が必要となる。覚えておくと良い。」
「ありがとう!門のおっちゃん!」
以上が俺の前に並んでいた少年と門の出入りを管理している者とのやりとりだ。おっちゃんと言われて苦い顔をしていたが、俺はその気持ち痛いほど分かるぞ・・・
「次!も少年か。身分証はあるかい?」
「少年って私のことでしょうか?」
初めて会った人に敬語を使い、一人称を私にするのは大人として当然のことだ。
しかし俺が少年?童顔と言われたことは今まで一度もなかったのだが。
「そうそう。君のことだ。」
「私は少年と言える歳ではありませんが・・・」
「何を言っているんだ・・・まぁいい。身分証は持っているか?」
「いえ。田舎から出てきたので持っていません。冒険者になりたいと思って。」
「なんだ。君もさっきの少年と同じ理由か。じゃあ、この玉の上に両手を置いてくれ。」
そう言われ俺は占いで使われる水晶玉のようなものの上に両手を乗せる。
今まで犯罪を犯したことなど一度もないが、それでもこういう瞬間は緊張するものだ。
「うん。犯罪歴はないようだ。君は冒険者になりたいんだったな。ではまず冒険者ギルドに行って身分証を作るといい。」
「ありがとうございます!」
「よし!ではようこそノースサイドシティへ!」
俺はお礼を言ってから門をくぐり街に入る。
この街はノースサイドシティと言うのか。
そして冒険者ギルド。
ただの日本人が戦えるとは思えないが、ここは異世界。
少し期待してしまうのは仕方がないことではないだろうか。




