金色の華。
ハロハロハロー。
今年の誕生日記念は、吸血鬼です!
それは温かな大きな大きな大きな花火のような一輪。
彼の瞳にも、その一輪の花があった。
同じ花だ。
きっと私達の運命の目印だろう。
◆◇◆
喉が軋む。呼吸をする度に、痛みが増す。牙が疼き、血を欲する。早く、早く、早く。
「喰わせろ……」
俺を封じる黒い格子を握っても、ビクともしない。ここから、出ることは許されない。
「喰わせろっ……」
灰色の壁に挟まれた牢獄で、俺は喚くしかない。
「早く喰わせろ!」
この渇きを癒す生贄を、早く喰わせろ。
俺の生贄を早く、早く、早く寄越せ!
呻いて吠えてもがき苦しんでいると、やっと生贄が来た。
ペタペタと裸足で石の廊下を駆け込んで目の前に現れたのは、純黒の羽織を着た女。髪は赤く艶めく漆黒で、腰よりも下に垂れている。
俺に喰べられるために駆けてきた女は、肩を大きく揺らして呼吸した。大きな黒い瞳に俺を映して、吐息を漏らす。
「遅れてごめんなさい! さぁ、召し上がれ!」
無邪気な笑みで、自らを差し出す。
そんな女を、俺は力を込めて怒鳴る。
「やかましい! 遊愛!」
俺の生贄ーー遊愛は、ビクリと震えるが大して気にした様子もなく、意図も簡単に牢獄の中に入ってきた。
俺は鬼。俗にいう吸血鬼。血肉に飢えて狂い、暴れていた鬼だった。俺を正気に戻したのは、黄金の力を持つ者の血。
黄金の力を持つ者は、人間。ある日その力を開花するその人間の力ーーいわゆる霊力は、強力。そして、蝶を誘う花のように、妖を引き寄せる甘美な匂いを放つ。その血肉もまた美味。黄金華と呼ばれる貴重な存在。
俺は正気でいるために、黄金華を見付け出す術を作った妖払いを生業にする氷川家に、自ら囚われることにした。黄金華を見付ける術には、黄金華を味わった俺が必要だったため、氷川家は俺と手を組んだ。
氷川家は、黄金華を俺に与える代わりに、俺に妖払いをさせた。妖の世界でも氷川の名を知らぬ者がいないほど、名が轟いた。俺は千年のも間、この牢獄に術で縛られた。黄金華を喰らい、力を吸い取った間だけ、外を自由に歩けるが、時間が来れば戻される。この術を解ける者は、もういない。術そのものが古すぎて、誰も知らないのだ。
「私が欲しくて欲しくて欲しくて堪らなかったんだよね、本当にごめんなさい。さぁさぁ! 召し上がれ、柚木」
牢獄の壁から突き出たベンチに腰を下ろすと、羽織りを剥いで首元を晒した黄金華の遊愛。喰べられることを面白がっている。どれほど、その首筋に噛み付きたい衝動に襲われているか、知りもしないで能天気だ。
「うるさい。黙っていろ」
差し出される首元を無視をして、遊愛の右手を掴む。
「本当にごめんってば。勉強して、瞑想してたら、眠っちゃって……慌てて身体清めて着替えてきたの」
「……」
遊愛は多忙だ。その力を利用しようと、氷川家が妖払いの勉強をさせている。相当な集中力と霊力を消耗をして、疲れ切って眠ってしまったのだろう。それでも、俺の食事のために駆けつけた。
言葉を返さず、俺は遊愛の肌を撫でる。手首に、脈を感じた。親指で撫でつけてから、舌を這わせる。脈打つそこから、力を吸い上げた。肌の味は、甘い。噛みちぎれば果汁のように甘い血が溢れるだろう。想像するだけで興奮した。噛みつくことを堪えて、ただ吸い付く。これだけでも、十分。
呼吸を乱しながらも、遊愛の右手を握り締めてもたれる。
「吸血鬼は首に噛みつくのが鉄板なのに、いつも手とか腕だよね。柚木は。首に吸い付くって、やっぱり欲しくて堪らない! って感じがする」
本当にやかましい女。
そんな遊愛は、暇している左手で俺の頭を撫でた。髪を整えるような優しい手つき。
「柚木ってば、素直じゃないよね。そういうのってね、ツンデレって言うんだよ。知ってたー?」
うるさい女。
満腹感に似たものを覚えて、手首から口を離す。余韻に浸って、凭れたままでいた。遊愛はこの時だけ、口を閉じる。どんな顔をしているかは、背を向けているから知りはしない。
「戯言をいつまでも、やかましいぞ。俺に喰われているというのに能天気にもほどがある。お前は俺の生贄なんだぞ、理解しろ」
「はいはい。私は柚木のものです」
「理解している態度ではないぞ!」
いい加減に受け流すかのような相槌をする遊愛を叱りつけるが、効果があるようには思えなかった。着物の下で、足をブラブラと揺らしている。呆れてため息をつきながら、反対側の壁のベンチに腰を下ろす。
呑気な女だ。
鬼に捕まったというのに。
鬼に囚われたというのに。
年に一度、黄金華を見付ける術を使う。黄金華を味わった俺と、氷川家の当主と協力をして、花火を打ち上げる。日本のどこからでも、その花火は見えるという。ただし、目にするのは、黄金華の者だけ。そして、黄金華はそれを目にしたことをきっかけに、能力を開花させる。
見付け出した黄金華の女を、氷川家は養女として迎えいれた。遊愛という名も、現当主が与えた名前だ。俺のように牢獄に閉じ込められたも同然だというのに、この女は喜んだ。
初めて会った時は、現当主の背にひっついて泣きじゃくっていた。現当主が言うには今まで居場所がなかったため、必要とされたことが嬉しくて涙したのだ。俺には理解のできない涙の理由だった。
それから、初めて目を合わせた遊愛は、泣くことをピタリとやめた。覗き込むように近付いて「目の中に花がある」と初めて俺に声かけた。
黄金華の遊愛の目には、俺の目の中に花があるように視えるらしい。幾度も黄金華と会っては見送ったのだが、初めて言われた。
遊愛だけが、特別おかしいだけなのかもしれない。
妖払いも、大抵は俺だけで十分片付けられる。にも関わらず、遊愛は積極的に妖払いの術式を学んだ。遊愛がいるだけで悪い妖が寄ってくる。必要なのは逃さない結界を張るくらいなもの。それもその辺の妖払い人でこと足りる。
遊愛は覚えも筋も良く、当主はそのまま学ばせた。利用できるだけ利用するのだ。俺のように。今までの黄金華のように、朽ちるその時まで。
「お前が眠りこけるほど、励む必要なんてないのだぞ。俺に喰われれば十分だ」
「私を心配してくれてありがとう! 柚木」
「そう言っていないだろう!」
「大丈夫。次はちゃんと柚木が叫ぶ前に、召し上がれって言えるように早く来るね!」
「お前は術よりも先に理解力を磨け!!」
なんて能天気な女なんだ!
ほとほと呆れて、またため息を吐く。
「別に無理はしていないんだよ? それにね、今の私が好きなんだぁ。ここにいる自分が好きだし、妖払いを学ぶ自分が好きだし、黄金華の自分が好きだよ」
にっこりと遊愛は笑って見せた。まだ少女の幼さが残る笑み。
ここに来るまでの、居場所のなかった自分が、嫌いだったらしい。
「ありがとう、私を見付けてくれて。柚木」
俺のせいで捕まったのに、俺のせいで囚われているのに、こいつは笑う。籠の中でも自由に飛び回れる小鳥のよう。不可解な女。
「……無理をしていないというなら、眠りこけることはないだろうが。馬鹿め」
「あ、それは……つい休憩の時にせがんだ妖達と遊んじゃって、それで疲れちゃったんだぁ」
ケロッと白状した遊愛。そっぽを向いた俺は、ギロリと睨み付ける。
妖達とは、この屋敷に住む者達のことを指す。氷川家に従属している者達のことだ。
「あの馬鹿猫どもめ! 俺の食事を邪魔するとは何様だ!」
「まぁまぁ、嫉妬しないで」
「嫉妬ではない! ふざけるのもいい加減にしろ! 出るぞ!」
黄金華から力を吸い取った俺は、自ら牢獄から出ることが出来る。せいぜい日が昇るまでの時間だ。欲張ると、遊愛が牢獄から歩いて出られなくなる。
遊愛の手を掴んで引っ張り立たせた拍子に、帯の飾り物が音を鳴らした。鈴だ。見慣れない飾り。
「……それは、なんだ?」
「ん? あ、これ今日当主様にもらったのー!」
自慢するように遊愛は笑顔で答えた。
「……へぇー」
「嫉妬したの? もう言ってもいいんだよ。俺のもの以外はつけるな!! って!」
「やかましい!!」
またもや嫉妬したと言う遊愛を引っ張って、廊下を進む。
「柚木にもらったピアスつけてるよー」
毎日つけていることは知っている。見ればわかるだろう。欲しいと騒ぐから、買ってやっただけのこと。報酬に金をもらっていたから、使ってみた。遊愛の耳には、三日月の耳飾り。耳たぶからはみ出て金に煌めく。
うるさい、と一蹴して地下を出た。
氷川家の大きな屋敷の中。木目の廊下を歩いて、気配を頼りに襖を開けて突き進む。中庭が見える大広間にたどり着けば、そこには数多の妖が集まっていた。
「遊愛様、柚木様。こんばんはでございますにゃ」
猫の妖が真っ先に挨拶をして、遊愛の足元に寄り添う。二本の後ろ足で立って、甚平を着た大人の猫。青灰色。力のない人間には、ただの猫にしか視えないらしい。
「こんばんは、蘭々(らんらん)」
遊愛は膝をつくと、猫の妖・蘭々を撫でた。
俺は気持ちよさそうに目を閉じて、にやけた顔をする蘭々の首根を摘まみ上げる。
「オイコラ、貴様ら。遊愛を疲れさせおって、貴様らの遊び相手ではないのだぞ」
「ひいっ! 申し訳ありません!」
俺に怖がって謝る蘭々。だが、テクテクと目玉頭の妖が遊愛に近寄る。小枝のような腕に抱えるのは、缶。
「缶を見つけてきました、遊愛様。明日は缶蹴りをしましょう」
「いいよー」
「言っているそばからっ!」
遊ぶことを承諾する遊愛に、頭にくる。
「大丈夫だってー! 明日は遅れないから!」
「そういう問題ではない!」
「私が好きすぎて心配なんだね、わかってるわかってる」
「やかましい! 違う!」
なにを言っても無駄なようで、頭を抱えた。
遊愛はどうも手のかかる黄金華だ。
「はぁ……もういい。妖払いに行くぞ」
遊愛の手を引っ張って廊下に出れば、出会した。
現当主とその付き人達が歩いてくる。現当主は羽織を引きずりながら、遊愛に笑いかけた。
「行くのかい? 気を付けてね」
「はい。当主様」
遊愛も笑い返しては、俺を壁側に押しやって道を譲る。
俺はただ現当主を睨みつけてやった。
すると、引きずる羽織を見て遊愛は、猫のように飛びつく。付き人達は驚くが、現当主だけはクスクスと笑う。
俺は遊愛の首根を掴んで、引き剥がした。
現当主一行は、そのまま廊下を進んだ。
「何をやっている」
「羽織の下に何かいた」
「はぁ?」
「いつも遊んでくれるの」
遊愛曰く猫じゃらしで弄ばれる猫のように、羽織の下から何かが出てきたのだという。式神か何かだろう。
氷川の当主とあろう者が、何を遊んでいるのだ。
「あー、また妬いている?」
「阿呆!」
「素直じゃないなぁ」
俺を笑う遊愛に構うことはやめてーー疲れるだけだからーースタスタと廊下を進んで屋敷を出た。
離れた公園で狩りを行う。公園の中心にいる黄金華である遊愛の甘美な匂いに誘われて、妖が一つ現れる。
遊愛は細い指先で印を結び、呪文を囁く。
「結界!」
そして、公園全体に結界を張る。これで、妖が逃げられない。俺の出番だ。
邪に満ちた妖は、空を飛び逃げようとしたが、結界に弾かれて戻ってくる。
そやつを爪で切り裂こうとした時だ。
札が飛んできて、宙にいた俺は間一髪避ける。
妖は札をくらい、消滅した。
「貴様っ……また!!」
着地した俺はギロリと睨んだ。
その先には、白い着物を着た青年。瀬野家の妖払いだ。
「黄金華、遊愛様。こんばんは」
「こんばんは、瀬野さん。あの、私達の獲物でしたのに……」
瀬野は俺を無視して、遊愛を敬うように頭を下げて挨拶した。遊愛は困った顔をして言う。
「そうだ、俺達の獲物だ! 毎回横取りをするな!」
「柚鬼が鈍いのが悪いのだろう?」
「鈍いだと!?」
「そうだ、遊愛様。氷川家もこんな鬼もお捨てになって、僕の元に来ませんか?」
「お前などに遊愛を渡すものか!」
柚鬼。それは俺の古い呼び名だ。
柚木。それは俺の新しい名だ。遊愛が付けた。
そんな遊愛を、他の妖払いが欲しがるのも無理はない。黄金華という特異体質の上、妖払いの腕も優れている。
「私のために争わないで!!」
遊愛が半分笑いながら、声を上げた。冗談を言っている。
「こんな時まで喧しいぞ!」
「言ってみたかったの」
「遊愛!」
少し離れた場所に立つ遊愛に、怒声を上げてしまう。いつものことだ。
「やれやれ。女性に対してそう怒鳴るなんて、いただけない。遊愛様、やはりこちらの方がいいですよ」
瀬野は遊愛に手を差し出す。そんな手を取らせてたまるものか。
「今日という今日は許さんぞ! 瀬野!!」
「では決着をつけましょう」
「え? あ。二人とも本気で争わないで!」
遊愛の制止も聞かずに、俺と瀬野は戦いを始める。
瀬野の術式を振り払う。弾き飛ばす。
「ねぇ! やめてってば!!」
遊愛の声は、無視だ。
この邪魔者を排除するまで、やめてたまるか。
「この程度の術! 俺を封じることも出来んぞ!!」
「っ」
放たれる札を、爪で引き裂く。
瀬野など、まだまだ未熟者だ。俺の足元にも及ばない。
「鬼め! 封じてやる!!」
瀬野が躍起になって、封じの術を放った。
それを弾く。だが、矛先を誤った。
弾いた先には、遊愛。気付いた時には遅かった。
遊愛は倒れる。
「っ! 遊愛!!」
咄嗟に駆け寄るが、遊愛に意識はなかった。
揺さぶっても、起きない。
「おい! 遊愛!!」
「遊愛様っ!!」
「遊愛に触るな!! 噛み殺すぞ!!」
瀬野が伸ばした手を払い、遊愛を抱えて屋敷に戻った。
遊愛に命の別状はない。しかし、封じの術が効いて、遊愛の目は視えなくなった。視えなくなったのは、妖達のことだ。霊力が封じられて、視ることが出来なくなったという。だが、それも一時的なものだ。早くて一日、遅くても数日中には封じも解けるらしい。
瀬野家が正式に謝罪をしたらしいが、俺は牢獄にいて聞きもしなかった。瀬野の頭を引き千切ってやりたかったが、俺は一人牢獄で過ごす。時間が過ぎていく。
翌日、ペタペタという足音が聞こえてきた。誰のものか、俺にはわかる。
裸足の、三日月の耳飾りをつけた遊愛だ。
「……」
黒い格子の向こう側にいる遊愛に笑みはない。
不思議そうに、格子の中を覗いている。
「柚木、いる?」
「……」
いるに決まっているだろう。お前を喰わねば、牢獄から出ることが叶わないのだから。
俺は何も答えなかった。視えない遊愛に、俺の声も届かないのだ。
「お邪魔しまーす」
遊愛は容易く牢獄に入ってきては、俺の向かい合うように座った。俺がいつもこっちの壁側に座っていることを知っているからだろう。こちらに視線を向けてくる。
「屋敷の中、妖でいっぱいだったのに、今はガランってして誰もいなくて静まり返ってるの。寂しい」
視えもしないし、気配も感じない遊愛が、一方的に話す。「あ、猫の蘭々は見たけどね」と付け加える。
格子の外にはついてきたであろう藍々率いる小さな妖達がいた。心配そうに見つめている妖達を、手を振って追い払う。無駄だ。遊愛はお前達も、俺も視えない。
「治るかなー……治るといいな。治るって言われたけど、不安」
素足をバタバタ揺らして、遊愛はぼやく。
「これが普通の人間が視ている世界で、私の以前の世界で…………君達だけがいない」
そう。それが本来のお前の世界なのだ。
それを変えたのが、俺だ。
普通に戻れた感想はどうだ?
「あなたが視えない世界にいる自分なんて、好きになれないよ……」
「……」
鬼に捕まったというのに。
鬼に囚われたというのに。
なんて馬鹿な華なんだ。
「好きだよ、柚木」
俺の方を向いて、微笑んだ。
「言うな……」
耐えきれずに、俺は口を開く。
「好き、大好き」
「言うなって!」
「いつまでも柚木のそばにいたい」
「言うな馬鹿! 俺が視えていないくせに! いつか俺の前から消えるくせに!! 今も声が聞こえていないくせに!!」
俺が声を上げようとも、目の前の遊愛はビクリともしない。
「俺よりも先にっ…………言うなっ馬鹿!!」
遊愛が、涙を落とした。溢れる涙を掌で拭いながらも、泣きじゃくる。その遊愛の頭を掴んだ。
「俺を視ろよ」
決して目は合わない。
「いつもみたいに花が見えるって言えよっ」
俺の目の中に花が見えるって言えよ。
「俺を……いつまでも視ていてくれよ……」
そっと抱き締めても、遊愛にはこの温もりを届けられない。それでも抱き締めた。
芳醇な香りに満ちる。しなやかな髪が触れる。肌から温かさが伝わる。
でも、俺の全てが遊愛には伝わらない。
もどかしくて堪らなかった。
暫くの間、泣きじゃくった遊愛だったが、やがてその場に丸くなり眠ってしまう。俺は着ていた純黒の羽織をかけてやった。
「大切にするといい」
そこで聞こえてきたのは、氷川家の現当主の声。
「限られた時間しかないのだから」
「……っ」
俺達を見下ろして、ただ告げる。
俺は何も言い返せなかった。
「彼女自身を、大切にするんだ」
助言と説教を含んだ言葉。
それだけを告げて、現当主は去っていった。
わかっている。
そうするしかないのだ。もう、拒むのはやめよう。
夜になった頃だろう。喉が渇いたからそう思う。
「……ん」
遊愛がたじろいで、起きた。
大きな黒い瞳が、俺を見つめる。そして微笑んだ。
その瞳に俺が映っていることは、なんとなくわかった。
遊愛は起き上がると、俺の膝に乗る。そして俺に凭れた。そんな遊愛を、俺は優しく抱き締めた。
「俺も想っている」
そう告げて、額に口付けを落とす。
遊愛はクスッと小さく笑って、俺の腰に腕を回した。
「知ってる」
今なら、温もりが伝わる。俺の何もかもが、伝わった。
敵わないと思い知る。
限りある命のお前を愛そう。
end
20170804




