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フィクション世界の訪問者  作者: 時計座
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守り神のいる島

 その日の海は穏やかだった。

 潮の匂いは強いが吹く風は微風(そよかぜ)で心地よく、波もほとんどない。海を掻き分けて進む船の音とカモメの鳴き声だけが、だだっ広い大海原に響いていた。

「……そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」

 カモメの鳴き声の間を縫うように、ショータは舵を握るシアールに声をかけた。軍服の男がこんな小さな船を運転しているのは少しばかり可笑しいが、笑えるほどの心的余裕はショータにはない。

「教えるって何を?」

「どうしてマロック島に向かっているのかだ」

「ああ、そういえばまだ言ってなかったか」

 シアールは舵から手を離すと、船体後方にいるショータの方を振り返った。

「目的は二つあってね。まずひとつが、回復能力をもつと言われている契約獣」

「回復能力?」

 シアールはショータの隣で眠っている少女を指差した。ロメだ。

「その子、素人目に見てもひどい怪我だ。そんじょそこらの医師に見せるより、あの島にいると言われている契約獣の力を借りた方が早い」

「そんな契約獣がいるのか……」

 自分で書いてきた世界のはずなのに、最近知らないことが増えてきた。ショータはうつむいて親指の爪を噛んだ。

「……その契約獣がいれば、ロメは目を覚ますのか?」

 座っていたプサイが訊ねた。プサイもプサイで足に怪我を負っているのに、心配するのはロメのことばかりだ。

「目を覚ますかどうかは本人次第。ただ少なくとも、身体の傷はきれいさっぱりなくなるだろうね」

「……そうか」

 プサイはロメの黒く焼け焦げた背中を見て、少しだけ安堵の表情を見せた。

 ショータはロメの傷を見て、リヴァルスを思い出していた。彼も幼いロメを助けるために、これほどではないが背中に火傷を残していた。そしてロメもまた、プサイを助けて背中に火傷を──。

「親子……なんだな」

「……ああ」

 プサイが短く答えた。

「……ロメは炎が得意じゃない……いや、苦手なんだ。それなのに普段は虚勢張って無理して……それで自分が倒れちゃワケないのに」

「プサイ……」

「絆、ってやつかい?」

 片手を舵に戻しながらシアールが言う。

「僕にはいまいち理解できないんだよね。主従服従ならともかく、絆っていうのはどうにも分かり辛い」

「えー」

 と声を上げたのはシアールの契約獣、クシーだった。

「私とシアールちゃんの間にも絆あるよ~? 私、シアールちゃんに死ねって言われたら死ねるもん!」

「それは絆じゃない。ロメはそんなこと絶対に言わない」

 プサイがクシーを睨みつける。すると、さっきまで上機嫌だったクシーの表情が曇り、やがて無表情と化した。

 クシーの右足が、負傷したプサイの左足を踏みつける。

「ぐあぁっ!?」

「私ね、私以外の契約獣嫌いなの。生意気なあなたみたいなのは特に」

「やめとけクシー」

「はーい!」

 シアールに言われ、すぐに右足を浮かす。

 ショータはすぐにプサイのもとに駆け寄った。

「プサイ、大丈夫?」

「あ、ああ……あいつ本気で踏んできやがった……」

 シアールの左腕にひしっとくっつくクシーを恨めしげに見つめるプサイ。その視線に気づいているのかいないのか、シアールは舵を左に切りながら口を開いた。

「そんなことよりもう一つの目的の話。あの島には今、世界樹が潜んでいる」

「世界樹?」

「契約者なら聞いたことあるだろう? 国王がどうやって決まるのか」

 シアールの口から国王という言葉が出たとき、ショータは自然と身構えた。そんなことお構いなしにシアールは続ける。

「まず契約者が世界樹を見つけ出して、次に──」

 しかしその言葉は、突如吹き上がった水飛沫の音に遮られる。

 穏やかだった海が表情を変える。波が荒れ、横殴りの風が塩水をぶつけてくる。口の中にしょっぱさを感じながら、ショータはロメに覆い被さった。

「何事!?」

 船が揺れる。しっかり船体にしがみつきながら顔を上げると、海面に白い影が見えた。

 と思った次の瞬間、白い影が跳ね上がる。海水を巻き上げて天高く舞い上がったのは、全身を真っ白な皮膚に包んだクジラだった。

「白鯨……!?」

 船の頭上を飛び越えた白鯨は、海面に入水して大きな津波を立てた。船の上のショータたちに波が襲いかかる。

「おい! なんなんだあのクジラ!!」

 びしょ濡れになったカイが苛立って叫ぶ。

 クジラはまだ船の周囲を泳いでおり、時おり波を起こして船にぶつけてくる。揺れる船上でシアールが舵を切った。

「コンマだね。僕たちを敵視している」

「どうするんだ! このままじゃ船ごと沈められるぞ!」

「心配いらない。クシー」

「ジェルルッ、私の出番~」

 躍りながらクシーが甲板に出る。吹き荒ぶ潮風の中、クシーの身体が黄金色に輝いた。

 腕が触手に変わる。人型から異形へと姿を変えたクシーはその触手を海中へと伸ばした。

「やれ」

「任せて~シアールちゃん!」

 クジラの背に触手を突き立てると、クシーも海中へ飛び込んだ。

 大きな白い影を小さなピンクの影が追う。半透明の触手は海の中では見えないが、それでも両者が繋がっていることは動きを見れば明らかだった。

 苦しみもがくようにクジラが巨体をくねらせる。そのたびに波が起き、船が揺れる。触手から毒を送られているのだと、ショータは瞬間的に察した。

 毒から逃れるようにクジラが海面から飛び出した。大きな水飛沫と影が船に落ちる。見上げるとクジラの背中には、いつのまにかクシーが乗っていた。

「ジェルルルルッ☆」

 独特な笑い声を上げると、クシーの触手が震えた。次の瞬間触手が帯電し、クジラへ電気が流れていく。

 空気を潰すような甲高い悲鳴。巨体をそらせるクジラ型コンマは、感電の終了と同時に海面へ落ちた。爆発のような音と共に、今までで一番大きな波が起こる。

 迫り来る波は船を飲み込んだが、幸いにも転覆は免れた。すぐ向こうの海面には白い腹が浮かんでいる。

「ただいま~」

 海からクシーが上がってくる。びしょ濡れの髪の下に満足げな笑みを湛え、子供のようにててっとシアールのもとへ駆け寄る。

「ねえねえシアールちゃん、誉めて誉めて! 私あのコンマ殺したよ!」

「僕の契約獣ならこのくらい当然だ。そんなことより、見えてきたよ」

 シアールが前方を指差す。再び静寂を取り戻した大海原の向こうに、緑豊かな島が見える。

「あれが僕らの目的地、マロック島だ」

「マロック島……」

「港らしい港はないから、このまま砂浜に突っ込むよ」

 そう言ってシアールは舵を切った。だんだん迫り来るマロック島とその海岸。どういうつもりか船はどんどん加速している。

「プサイ! カイ! どこかに掴まって!」

 咄嗟に二人に叫び、自身はロメを守る。島の緑がより巨大なものに見えたとき、波とは違う衝撃が船を襲った。

「ぐっ!」

 衝撃のあとに尾を引く震動。船底が砂の上を滑っているのだと理解するのに時間は必要なかった。

 数秒の震動のあと、船は陸に半分ほど乗り上げて停止した。

 ショータはゆっくり顔を上げた。

「二人とも、大丈夫?」

「私はなんとか……」

「チッ……荒い操縦しやがって」

「無事なんだからいいだろう。さ、降りるよ」

 シアールが砂浜に飛び降りる。続いてクシーも飛び降りると、触手を伸ばしてショータたち四人を船から降ろした。

「ジェルル? ロメちゃんまだ起きないの?」

「……ああ。傷が深いのかもね」

 それだけ応え、ショータはロメを背負った。そのときだ。

 陸の方から多数の男たちが現れた。簡素な木製の武器を手にした総勢十数人の男たちは、あっという間にショータたちを取り囲む。

 カイが戦闘態勢を取る。爪の先から海水が滴った。

「なんだこいつら!」

「ダメだカイ! 手を出さないで!」

 カイを制しつつショータも彼らと距離を取る。隣でシアールが冷静に呟いた。

「ここの島民だろう。よそ者の僕らを警戒している、ってところかな」

「そりゃ、砂浜に船で突っ込めば警戒もされるでしょうね!」

 左足をかばいながらプサイが皮肉気味に言った。すぐ後ろは波打ち際だ。

 男たちが口々に叫ぶ。

「クジラ様を倒したのか!」「何者だこいつら!」

 木製の斧がギラつけば、ショータはロメを背負ったまま一歩下がるしかなかった。

 男たちが形作る半円が少しずつ狭まる。足首が波に浸かるところまで下がったショータは、この窮地をどう退けるか思考を巡らせた。

「お前さんたち……サクリΦスか」

 そのときだ。半円の一部が開き、向こうから一人の老人が杖をつきながら姿を現した。

 ちぢれた髪は白く、顔は皺だらけ。相当高齢であることが窺えるその男は、ショータたちを見ると眉根を寄せ、皺だらけの顔にさらに皺を増やした。

「こんな辺境の島に、テロリストが何の用だ」

「そんな怖い顔しないでよご老人。ただでさえしわくちゃな顔なんだから」

 シアールのその言葉に周囲の男たちがさらに殺気立つ。ショータは咄嗟に声を上げた。

「待ってください! 僕たちはただ──」

「その娘」

「……はい?」

 老人がショータを指差していた。否、正確には、ショータが背負うロメを指差していた。

「怪我をしているのか」

「は……はい」

「……そこのお前さんもか」

 続けて老人はプサイを指差した。

「左足をかばっている」

「ええ……まあ」

「……仕方あるまい」

 そう言うと老人は背を向けた。

「ついてこい」

「それじゃ遠慮なく」

 さも当然のように歩き出すシアールに、老人は振り返りピシャリと言い放つ。

「お前さんじゃない。そこの少年と娘、そして」

 ショータ、ロメに続けてプサイを指差す。

「お前さんだけだ。お前たち、残りの三人を見張っていろ」

「はいっ!」と男たちが威勢のいい返事をする。

 ショータは少し戸惑いながらも、プサイと目を合わせた。行くしかない、とその瞳は語っていた。

「……カイ。くれぐれも暴れないでよ」

「……わぁったよ」

 念のためカイに釘を刺してから、プサイと共に老人の後についていく。

 森の中の道らしき場所に足を踏み入れたとき、ショータはふと左側に視線を感じてそちらを見た。木の陰に隠れるようにして、紫色の髪の男の子がこちらを見ていた。

「お前さんたち、クジラ様を倒したのか」

 不意に前を歩く老人に訊かれ、ショータはどう応えたものか迷った。

「ええと……僕らというか、僕たちをここに連れてきたやつが」

「仲間じゃないのか?」

「とんでもない。訳あって一緒に行動してますけど、あんな奴らと仲間なんてごめんです」

 あんな奴ら、とはシアールとクシーを指して言ったのだが、もしかするとカイも含めて解釈されてしまうかもしれない、と言ってから気づく。

「あ、一応黒服のやつは仲間なんですけど──」

「この島には守り神様がいてな」

 老人は唐突に語りだした。ショータは開きかけた口を閉じた。

「お前さんらが遭遇した白鯨はその守り神様の遣いでな。島に邪な者が近づくと排除しようとする」

「だからいきなり僕たちに……」

「コンマだが、村の者たちにとっては神聖な生き物だったんだ。クジラ様と崇め称えるほどにはな。それをああも簡単に倒されるとは……」

「なんか……すいません」

「謝るでない。仲間じゃないんだろう?」

「はい……」

 老人の話はそこで終わり、それからしばらくは無言で道を進んだ。やがて開けた場所に辿り着く。そこは木々がない代わりに、木造の小さな家がいくつも点在する、いわゆる村だった。

 家の中や陰からこちらを覗く者はいても、堂々と村を歩く者はいなかった。閑散とした村を横切り、一つの家屋へと向かう。

「みな、クジラ様がやられたことに恐れおののいている。あまり刺激はしないでくれ」

 老人はそう言い、家屋の扉を開けた。

 机と椅子と、簡素なベッドがあるだけの質素な空間だ。老人は振り向くとショータに向かって言う。

「その子を寝かせろ」

「は、はい」

 言われるがままロメをベッドに寝かせる。すると老人は彼女の背中に手をかざし、顔をしかめた。

「ひどい傷だ……どうしてこうなった?」

 その問いに応えたのはプサイだった。

「爆発に巻き込まれたんです。そこで私をかばって、背中にもろに爆風を……」

「なるほどな……」

 老人は椅子に腰かけると、プサイにも座るよう促した。

 プサイはロメが眠るベッドの端に腰を下ろす。

「左足、見せてみろ」

「はい」

 素直に左足を差し出すプサイ。老人は足に触れ、間接の動き方などを確認した。

「お前さんは特に問題はない。無理をせずに安静にしていればすぐに治るだろう。だが、問題はこの子だ」

 老人はロメに視線を移す。

「安静は大前提として、それでも傷が完治するかどうか……」

「そんなっ!」

 勢いよくプサイが立ち上がる。たちまち「うっ」と呻いて左足をかばった。

「安静と言っただろう。……この子の傷はイオタ様じゃないと治せないかもしれない」

「イオタ様……契約獣ですか?」

 ショータが訊く。老人はうなずいた。

「契約獣であり、この島の守り神様だ。どんな傷も癒す力をお持ちだが、滅多にお姿を現さない。それに今回のクジラ様の一件で、警戒心を強めておられるやも……」

「そんな……どうにかできないんですか?」

「……どうにもできない。それが現実だ」

 プサイは膝から崩れ落ちた。眠るロメの手を涙ながらに取る。

「ごめん……私が不甲斐ないばっかりに……」

「プサイ……」

 それは違う、と声をかけてあげたかった。

 プサイがラザロに捕らえられたのは、倒れる枯巨木からロメを助けたからだ。つまり二人はお互いを庇いあったのだ。自分の身のことなど後回しにして。

 ショータはそっとプサイの背中に手を添えた。君のせいじゃない、と伝わるように。

「じいちゃん、大変だ!」

 子供の声がして、扉が勢いよく開け放たれた。見ると先ほどの紫髪の少年が扉の前で息を切らせていた。

「どうしたネロ?」

「海岸にいたやつら、みんなを倒してどっか行っちゃったんだ!」

「なんだって!」

 ショータは反射的に家を飛び出した。村を横切って海岸の方向へ全力でひた走る。

 少しして海岸が見えてきた。そこに倒れる十数人の男たちと、それをただ見ているカイ。

「大丈夫ですか!?」

 ショータは一番近くに倒れていた男に声をかけた。男はゆっくり顔を上げると、苦しげに話し出した。

「あの触手女にやられた……身体が動かない……」

 痺れ毒。ショータの頭の中にすぐにそれが浮かんだ。

「奴ら、どこに向かったか分かりますか?」

「森の……森の奥に入っていった……」

 男は震える指先で一つの方向を指差した。より木々が生い茂る、道らしき道もない方角だ。

 ショータは立ち上がると、ただ突っ立っているカイに詰め寄った。

「カイ! どうして止めなかった!?」

「どうして俺に敵意を向けるやつを助けなきゃいけない?」

「どうしてって……シアールを野放しにしていいはずないだろ!」

「暴れるなと言ったのはお前だろ!」

 カイに突き飛ばされ、ショータは砂浜に尻餅をついた。そこへプサイが怪我を押して駆け寄ってくる。

「大丈夫かショータ!」

「うん……」

 ショータは自力で立ち上がると、プサイの後ろからやって来ていた老人に向き直った。

「ご老人」

「ファクラだ。ファクラ・グランド」

「ファクラさん。ロメとプサイをよろしくお願いします」

「お前さんはどうするつもりだ?」

「奴らを追います。絶対に何か良からぬことを企んでる……」

 視線をカイに向け、告げる。

「行くよ。あいつらを連れ戻さなきゃ」

「ぶっ倒しても文句ねぇか?」

「……時と場合によっては」

「待ってショータ!」

 プサイだ。怪我をした左足をかばいながら一歩前に出る。

「私も連れていって! あいつらが何かしようとしてるのなら、見過ごさない!」

「ハッ! そんな足じゃ足手まといだ」

 カイが嘲笑う。ショータはそれを止め、プサイの目を見る。

「プサイはロメの近くにいてあげて。目を覚ましたとき、一番に見たいのはプサイの顔だと思うから」

「………………わかった」

「ファクラさん、頼みます」

 ショータが頭を下げると、ファクラは一つ頷いた。

「行こう」

 カイを従え、ショータは道なき森に踏み込んだ。

 道はないと言えど、既に人が一度通った後。獣道のような軌跡は存在していた。それをたどって前へ進む。

「……嫌な匂いがこびりついてやがる」

 カイが呟いた。

「やっぱりそういうのわかるんだ」

「あのクラゲ野郎の匂いが強いな……チッ、不愉快だ」

「……なんだろう、あれ」

 前方に何か細長いものが落ちていた。近づいて見てみると、それは千切れた植物の蔦だった。

 森なのだから蔦があること自体は何らおかしくない。しかし問題なのは、千切れ落ちている蔦や(いばら)が異様に多いことだ。

「あいつらの仕業かな」

「なんのためにだ?」

「それはわかんないけど……」

 そうショータが呟いたときだ。森がざわめいた。

 最初は小さなざわめきだったが、それは少しずつ大きくなり、やがてあちこちの木が揺れ出す。

 突如、右前方からうねる何かが飛び出してきた。クシーの触手かとも思ったが違う。それは植物の蔦だった。

 明らかにショータに狙いを定めている。一瞬反応が遅れたショータはパラドックスを抜刀し損ねた。

「しゃがめ人間!」

 怒鳴るカイの声に合わせ膝を曲げる。ショータの頭上でカイの爪が閃き、蔦を八つ裂きにした。

 ぼとぼとと落ちる刻まれた蔦。それらはもとからあった蔦や茨の残骸と混ざって、どれだか分からなくなってしまった。

「なんなんだ今のは……」

「この森自体が俺たちの侵入を拒んでる。そういうことだろ」

「そんなことあるの?」

「あるないじゃない。現実そうとしか思えねえだろ。そんなことに頭使う暇があるなら剣を抜け。まだ来るぞ」

 カイに言われ、パラドックスを抜刀する。いまだに森はざわめき、こちらを敵視する気配に溢れている。

 前方では無数の蔦や茨、さらには木の根までもがうごめいている。

 先手を打ったのは植物の方だった。蔦や木の根が一斉にショータたちめがけて伸びてくる。

「ネイド!」

 魔法を剣にかけて風の刃を打ち出す。カイも両手の爪を使い、接近する植物を切り刻んでいた。

 そうしながら隙を見ては前進する。しかしきりがない。

「おい人間、敵は植物だ。いっそ炎魔法で燃やした方が早いんじゃないか?」

「バカ! そんなことしたら森全部が燃えかねない!」

 だからこそショータは魔法の使用には冷静だった。一番被害の少なそうな風魔法を選んだのもそういう理由があってこそ。

 しかし真っ当に相手していたのではきりがない。ショータは腕輪に触れて光を灯すと、氷魔法の呪文を口ずさんだ。

「イアス!」

 魔力を両の剣に込め、地面に突き立てる。たちまち地面は凍りつき、冷気が広がっていく。

 攻撃を仕掛けていた植物もあっという間に凍りついた。一気に森の気温が下がる。

「なるほどな。こんな使い方もあるのか」

「感心してる場合じゃないよカイ。長くはもたない、早く行こう」

 地面から剣を抜き、凍りついた植物の間をすり抜ける。

 先に進んでも、それ以降は植物の襲来はなかった。幸いととらえるべきか、嵐の前の静けさととらえるべきか、ショータは図りかねていた。

 しばらく走ったとき、それは前方に現れた。

「おい、前!」

 カイが叫ぶまでもなく、ショータも気づいている。軍服の背中が見えたのだ。

「シアール!!」

 原の底から声を出す。しかしシアールは振り返らず、ずっと目の前の巨木を見上げていた。

「ああ、ついに見つけた……見てごらんよショータくん。これこそが……」

 シアールが見上げているのは差し渡し十メートルはありそうな巨木だ。樹皮は一点の荒れもなくすべすべしていて美しく、上部に生い茂る緑も健康的ないい色をしている。

 両手を広げ、シアールが叫んだ。

「これこそが世界樹、ユグドラシル! この樹を殺すことで、僕の計画は完遂される!」

「なんだって……!」

 再び森がざわめき始める。世界樹の左右から蔦や茨、木の根が現れる。その数は次々と増え、道中ショータたちを襲ったそれの約三倍に膨れ上がった。

「あくまで抵抗するか」

「まさかあの植物は世界樹が操ってるのか!?」

「そうだよ。僕に殺されまいと必死に抗っているんだ」

 そうのたまうシアールに木の根が襲いかかる。そのままやられてしまえ、とショータは心の中で思ったが、シアールは余裕をもった足さばきで攻撃をかわした。

 そしてそれ以降、ショータはそんなことを思う余裕をなくした。植物がショータやカイも標的にとらえたのだ。

 かわしたり切ったりしながらショータは叫ぶ。

「教えろシアール! 世界樹を殺すってどういうことだ! そもそも世界樹ってなんなんだ!」

「おや、知らなかったのか。いいよ、教えてあげよう」

 植物の隙間を縫うような器用な動きを見せるシアール。その動きを続けながらシアールは語り始めた。

「世界樹とはこの国、契約国フレイランの国王を決めるための存在だ。契約者が自らのパートナーである契約獣を世界樹に差し出すことで、王たる資格を得る」

「差し出す……!?」

「簡単に言えば食わせるんだ。世界樹に契約獣を取り込ませる」

「なっ……」

 ショータは一瞬足を止めてしまった。その隙を逃さず多数の蔦がショータに迫る。

「ボーッとすんな!!」

 カイが怒号と共に爪を振るう。ショータに触れかけていた蔦は全てバラバラに切り裂かれた。

「ご、ごめん!」

「呑気に話なんてすんな! 言ったろ! お前に死なれちゃ困るんだよ!」

「う、うん」

 そうは言うものの、ショータはシアールの話の続きが気になっていた。一瞬だけシアールに視線を向けると、彼は再び語り始めた。

「さっきの続きだ。国王が死ねば世界樹は次の国王を求めて、必ずどこかに現れる。それがこのマロック島だったわけだ。そして、世界樹を殺せばもう次の国王は生まれない。それが僕の完璧な作戦の全容さ」

「そんなことはさせない!」

 蔦を切り裂くと、ショータは身体を反転させシアールに向かって駆け出した。パラドックスを振り上げる。

 しかし振り上げた腕ごと、クシーの触手に捕らえられてしまう。

「仲間割れしてる場合じゃないよショータちゃん? この蔦なんとかしないと」

「僕はお前たちを仲間だなんて思ったことは一度もない……!」

 触手を振り払い、迫っていた蔦を斬り伏せる。一度シアールから距離を取ると、一旦は自分を襲う植物に集中する。

「イアス!」

 氷魔法を発動させ、先程と同様の手順で植物を凍りづけにする。

 それを見ていたシアールが興味深そうに頷いた。

「なるほど、範囲攻撃か。その発想はなかった」

 足首の腕輪を蹴り、光を灯す。次にシアールの口から告げられた呪文に、ショータは目を見開いた。

「──クロープス」

 爆発魔法。少なからず炎を発するその策は森の中では禁じ手。最悪の選択だった。

 橙色の魔方陣が浮かぶ。位置は世界樹の真正面。ショータは即座に察した。

──世界樹ごと吹き飛ばすつもりか!

「やめっ──!」

 言葉尻は爆音にかき消され、ショータ自身にも聞こえなかった。

 世界樹に爆発が襲いかかる。黒煙が立ち上ぼり、植物の動きが止まる。

 ショータはたっぷり嫌悪を込めた瞳を向けた。

「……シアール!!」

「……ダメか」

 シアールが呟いた。ほどなくして黒煙が晴れる。

 驚くことに、世界樹には傷ひとつついていなかった。シアールが悔しげに顔を歪める。

「それなりに力込めたんだけどね。この程度じゃ無理か」

「ねえねえシアールちゃん。私が世界樹に取り込まれて、シアールちゃんが国王になるのはダメなの? そうすればこの国はサクリΦスの思いのままじゃん」

「ダメだ。僕は王になんかなる気はないし、ボスも許してくれないだろう」

「うーん、確かに」

 シアールとクシーが話しているのを横に、ショータは世界樹に近い位置の木々を見ていた。

 燃えているのだ。しかも一本ではない。恐らく先程の爆発で着火してしまったのだろう。

 ショータは駆け出した。燃える木々を射程に入れるために。

「ククア!」

 魔方陣を作り、そこから水を出す。しかし炎の勢いの方が強く、全く消火にならない。

「なら……イアス!」

 この日三度目の使用。突き立てた剣を中心に冷気を広げる、氷魔法の応用。

 だがしかし、それも失敗に終わった。炎に近づいた瞬間、冷気が消えてしまうのだ。

「くっ……」

 唇を噛む。その間にも炎はどんどんと燃え広がっていく。

 煙が濃くなる。ショータが咳き込み始めたそのときだ。

 地震のように地面が揺れた。何事かと視線を回せば、巨大な世界樹がうごめいていた。

「な、何!?」

 世界樹がどんどんとその背丈を低くしていく。否、地中に沈んでいっている。

「逃げるつもりか……!」

 シアールが再び腕輪を蹴った。

「クロープス!」

「やめろ! これ以上被害が広がったら──!」

 魔方陣が浮かび、世界樹に向けて空気が震えるほどの大爆発が起こる。

 黒煙を払いたくても、風魔法を使えば火の手を助けてしまう。ショータは自然と視界が晴れるのを待つしかなかった。

 ようやく視界が晴れる。世界樹があったその場所は、木一本たりともない更地と化していた。

「逃したか……まあいい。帰るよクシー」

「おい待て!」

 何事もなかったかのように踵を返すシアールの肩を、ショータは怒りと共に掴んだ。

「森をこんなにしといて帰る? ふざけるな! 消火を手伝え!」

「悪いけど、森がどうなろうと僕の知ったこっちゃない。それよりも火に飲まれて死なないよう、ここを脱するのが最優先目標だ」

「誰のせいでこうなってると思ってる!」

「誰のせいでもいいだろう。さ、そろそろ離してくれ。それとも……」

「ここで私と戦いたいの? ショータちゃん」

 冷たい触手がショータの頬を撫でた。背中を嫌な感覚が駆け抜ける。

「クシー……!」

「ショータちゃんも、カイちゃんも、早いところ逃げた方がいいと思うなぁ。この火の手だもん、どっちにしろ消火は無理だよ」

「こいつ……!!」

 パラドックスを振りかざす。しかしそれを止めたのは意外にもカイだった。

「やめろ人間! 癪だが、このクラゲ野郎の言う通りだ。ここにいたら死ぬぞ」

「カイまで……」

「俺は力ずくでもお前をつれて戻るぞ」

 カイに言われ、ショータは言葉を失くした。

 周りを見る。すでに四方八方が燃えている。ギリギリ逃げ道は残っているが、そこもいつ燃え始めるか分からない。

 理性と感情を天秤にかけた結果、ショータは理性的な判断を下した。逃げるなら早い方がいい。

「……わかったよ」

 そこからはただ、来た道をひたすら戻るだけ。道が燃えていても小火(ぼや)程度なら魔法で消し、ただただ海岸を目指して走った。

 そして木々が晴れる。それと同時に潮風が頬を撫でる。

 海岸に戻ってきたのだ。倒れた男たちはもういない。誰もいない砂浜で、ショータは振り返った。

 黒煙と真っ赤な火の粉が空を染めていた。ここまで逃げてくる間にも火の手は予想以上のペースで森に広がっていた。

「何事だ!」

 声がして振り向くとファクラがいた。杖をつきながら懸命に駆けてきている。

「ファクラさん! 実は森が──」

 ショータは現状をなるべく手短に説明した。その間、だんだんとファクラの顔が恐ろしくなっていくのには気がついていた。

「なんてことを……」

 ファクラがシアールを睨む。しかしシアールはどこ吹く風だ。

「……やっぱり僕、森に戻って消火してきます!」

「やめろ人間! 自殺行為だぞ!」

「それでも行かなくちゃ! 消火らしい消火ができるのは魔法使える僕しかいないんだ!」

「っざけんな! テメーに死なれちゃ困ると何度言わせる!!」

「それでも!!」

 ショータとカイの口論を、一つの轟音が遮った。

 なんの音かすぐにはわからなかった。しかし続いて、ピチャ、と頬に水滴が落ちる。

「……まさか!」

 ファクラが振り返る。つられてショータも後ろを見ると、海から巨大な水飛沫が上がっていた。

 いや、それを飛沫と呼ぶにはあまりにも大きい。まるで海の水そのものが天に押し上げられたかのような、もしくは重力が逆立ちしたかのような光景だった。

「なんだあれ……」

 ショータが呟いたとき、天に上がった水が一斉に降り注いだ。

 どんな大雨よりも派手な海水雨は、その場の全員を巻き込み──恐らく村をも巻き込んで──森の火事を一瞬でかき消した。

「ずぶ濡れ~!! シアールちゃん、なに今の!?」

「どうやら現れたみたいだ」

 シアールが首を上向ける。そこには、ゆっくりと地上に降りてくる女性の姿があった。

 長い銀髪を風に揺らし、額に宝石らしき煌めく石を備えている。人間ではないことは一目で理解できた。

「イオタ様……」

 ファクラが呟いた。それから膝をつき、胸の前で両手を組み合わせ頭を垂れる。

「あれが守り神……」

 イオタと呼ばれた女性はショータたちの前に舞い降りた。険しい顔をして。

「そなたか。森に火を放ったのは」

「ち、違います! 僕はただ──」

「僕だよ」

 シアールだ。まるで自分は悪いことをなにもしていないかのような態度でいる。

「ようやくお目にかかれたよ、イオタ様。あなたも僕のターゲットの一人だからね」

「お前、まだ何か企んで……」

「クシー、黙らせろ」

「はーい!」

 伸びてきたクシーの触手が、ショータの肩口に刺さる。直後、身体が痺れる感覚。

「ちょっとそこで見ててね~、ジェルッ」

「くそ……シアール……」

 身体が動かない。膝をついたショータはシアールを睨み上げた。

「さて、うるさいやつは止めたし……クシー、イオタを殺せ」

「わかってるよ~シアールちゃん!!」

 イオタに向けてクシーが触手を伸ばす。しかしイオタはそこを一歩も動こうとしない。代わりに腕を一本、動かすだけ。

 その動作に呼応するように、イオタの背後の海が不思議な動きを見せた。

 水が大きな腕の形を成し、触手からイオタを守ったのだ。そのままクシーを握ると砂浜に叩きつける。

「くはっ……!」

「なるほど、厄介な力をお持ちだ」

 シアールは腕輪を蹴り、右手を前に掲げた。

 それと同時に、イオタも左手を掲げた。

 シアールが口ずさむ。

「クロープス」

 爆発魔法が来る、とショータは身構えた。しかしいつまで経とうと橙色の魔方陣は現れない。

 シアールは両目を見開いていた。自分の手の平を何度も見て、もう一度「クロープス!」と呪文を言う。

 しかし何度やっても結果は同じだった。魔方陣は現れないし、当然爆発も起きない。

「なぜだ……君の仕業か」

 イオタを睨む。

 美しい銀髪を風に流し、契約獣は涼しい顔で応えた。

「そなたの魔力を吸い取らせてもらった。しばらく魔法は使えん」

「なに……!?」

「ククア」

 イオタは水魔法の呪文を唱えた。シアールの頭上に群青色の魔方陣が浮かび、そこから大量の水が濁流のように吐き出される。

「ぐあっ!」

 短い悲鳴と共にシアールの身体は水に押し潰された。落下した大量の水は勢いよく四方へ広がり、ショータの視界を奪う。

 やがて水が引いたとき、そこではずぶ濡れのシアールが地に這っていた。隣に倒れるクシーも人間態に戻っている。

「ククククク……」

 シアールは笑っていた。その姿がいやに不気味で、ショータは腕に鳥肌が立つのを感じた。

「予想以上の力だよ、守り神。僕とクシーだけで君を殺すのは難しそうだ」

「余は死なん。この島の守り神として、そなたらには屈しない」

「ご立派なことで……ここは一度撤退した方が良さそうだ」

 シアールは立ち上がると、傍らに倒れているクシーの頭を爪先で蹴った。

「起きろクシー。引くぞ」

「はーい!」

 身体に反動をつけてクシーが飛び起きる。一足早く歩き出していたシアールの後を追う形で、二人は海岸から姿を消した。

 脅威は去った。だというのにショータはその場から動くことができなかった。

「……圧倒的だな」

 カイが呟く。その通りだった。

 海を自在に操る力を有し、そのうえ魔法も扱える。しかも戦闘中、イオタは一歩たりとも動いていない。

 化物じみた力だった。これにさらに回復能力まであるというのだから、この契約獣の真の力は計り知れない。

「……そうだ、回復!」

 ハッと思いだし、ショータはイオタに駆け寄った。

「イオタさん! お願いがあるんだ!」

「こら! 無礼者!」

 ファクラの声を無視し、ショータはイオタに懇願する。

「僕の仲間が重傷なんだ! もうイオタさんじゃないと治せない……お願いだ、力を貸してくれ」

「…………」

 イオタはじっとショータの瞳を見ていた。しばらく無言を貫いていたが、やがて口を開く。

「……よかろう。その仲間のもとへ案内せよ」

 顔が晴れるのがショータ自身にも分かった。振り返ってファクラにアイコンタクトを送ると、杖をついて立ち上がった彼はイオタに一礼してから踵を返した。

「こちらです」

 濡れた道を確かな足取りで歩く。数分して村に辿り着くと、村民たちは皆、湿った地面に膝をついて両手を組み合わせ、頭を垂れていた。ファクラがしていたのと同じポーズだ。

 ファクラは一軒の家屋の扉を開けた。その奥ではロメとプサイが休んでいる。

「ショータ? その人は……?」

「イオタさん。この島の守り神」

「仲間というのはこの者か?」

 イオタはベッドに横たわるロメを見て言った。ショータは首肯する。

 ロメをうつ伏せに寝かせると、イオタはその真っ黒な火傷に手をかざした。手から淡い光が波紋状に広がり、火傷の痕を薄くしていく。

「すごい……」

 プサイが呟いた。その頃にはもう、ロメの背中は傷ひとつ無くなっていた。

「この者の傷は治した。しばらくすれば目も覚ますだろう。ついでだ」

 イオタはプサイの左足に触れた。足を光が包み、そして手を離す。

「そなたの怪我も治しておいた。もうどこも痛くあるまい」

 プサイは左足をぐるぐる回してみて、顔を驚嘆の色に染めた。

「本当だ、治ってる……あんたすごいな!」

「余は海に帰る。もう二度と争いを起こすでないぞ」

「あ、待って!」

 家屋を出ていこうとするイオタをプサイが呼び止めた。

「ありがとな、ロメを助けてくれて。あんたは私たちの大恩人だよ」

「…………そうか」

 それだけ残して、今度こそイオタは外へ出ていった。

「まさかイオタ様がお見えになるとは……」

 ファクラが椅子に腰かけた。

「これは奇跡にも近い。いや奇跡だ。もう二度とは起きないと思った方がいい」

「はい」

「……お前さんたち、今日はここに泊まっていけ。この子のことが心配だろう」

「え……いいんですか」

「構わん。どうせこの家にはわし一人だ」

「ありがとうごさいます」

 ショータとプサイは同時に頭を下げた。

「ほら、カイも──」

 と振り返って、またカイの姿がないことに気づく。

「あいつ、また勝手にどこかに……」

「好きにさせればいい。私たちはファクラさんのご厚意に預かろう」

 結局、ファクラの家にはショータとプサイ、ロメが泊まることになった。一人暮らしには広い家だが、四人では少々手狭で、二つ目のベッドではファクラが寝て、ショータとプサイは床で眠りにつくことになった。それでも場所を貸してもらえているだけ、ありがたかった。



 翌日の朝、ロメは普通に目を覚ました。朝起きるのは常識だとでも言うように、何の前触れもなく、さも当たり前のように。

 ショータとプサイが朝食の手伝いをしていたときのことだった。ベッドから毛布が落ちる音がして振り向けば、ロメが上体を起こしてこちらを見ていた。

 その瞬間、時が止まったような感覚を覚えた。プサイの瞳にはじわじわと涙が滲み、ショータは持っていた木製の器を落としそうになった。

「ロメ!」

 妹の名を呼び、プサイが彼女に抱きつく。強く強く、もう二度と離さないかのように。

「ごめんねロメ! 私をかばって大ケガを……でももう大丈夫だ、イオタが治してくれたんだよ……」

 だんだんと涙声になっていく。つられてショータも目頭に熱を感じた。

 しかしその熱は、ロメの一言で一瞬で冷えることになる。

「あの…………どなたですか?」

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