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ノン カピスコ・彼女の卵

作者: 天野 涙

私の人生に足りないのは子供。

優しい夫、きれいな家。看護師と言うやりがいのある仕事。

しかし子供だけが足りなかった。

それが足りないばかりに、義母に厭味を言われ、私は焦っていた。

夫の実家は、由緒ある家柄で、絶系は許されない。


その上、卵巣に欠陥がみつかり、

妊娠が困難であることがわかったのだ。

夫は『仕方ないよ。』と言ってはくれるが、私は諦めきれなかった。


そんな時、由美にばったり会ったのだ。

駅前のスーパー、久しぶりだった。彼女は小学生の子供と一緒。

噂では離婚し、実家近くに母子で暮らしてると聞いた。

色白の美人で、男子にも人気があったのだ。

久々に会った由美は、少しやつれてはいるが、きれい。


『あら、久しぶり。』由美は屈託なく笑い、私に近付いてきた。

私はつい、話を聞いてもらいたくて、由美を家に招き入れたのだ。


『へえ〜、それは深刻ね。』

由美は、同情したように言う。傍らには息子の健太が、ヨーグルトを食べていた。

家につくなり、『ママ、お腹が空いた〜。』と言うので、

冷蔵庫にあった買い置きの物をあげたのである。


(なんかイヤな子)そう思った。

でも子供だから、仕方がない。そう思うことにしたのだ。


『じゃあ、私の卵子あげてもいいわよ。』と唐突に由美が言い出す。


彼女の卵子と夫の精子を体外受精させて、私の子宮に戻せばいい・・由美はそう言った。


私には女の姉妹がいない。知らない誰かの卵子の提供を受けるよりは

美人で、優等生だった由美の卵子をもらう・・・それはいい考えかもしれない。

そう話がまとまると、夫にも承諾を得て、由美の卵子の提供で

私達は体外受精をしたのだ。


その間、彼女に何かお礼をと思っていると、由美は

『うちの子を、私が帰宅するまで 預かってくれるだけでいいわ。

その方が、私も安心だし・・・』と控えめに笑ったのだ。


しかし、実際は週4回は、彼女の帰宅が遅く 

息子の健太は うちで夕食を食べることになり、何ともやりきれない思いがした。


おまけに、お風呂まで 夫とはいる始末。

夫は帰宅すると、健太を膝に抱いたりしたのだ。


由美はと言えば、悪びれる風もなく、その都度口だけは

申し訳なさそうにしていた。そして何やら、最近はふっくらとしてきたのである。


しかし・・・肝心の体外受精は 度々失敗に終わる。

私は、正直イラだっていた。


そしてある日、つい由美に言ってしまう。


『また、失敗してしまったわ。』と


由美は一瞬眼を見開き、キツい口調で言った。


『何?ソレは、私の卵子のせいだと言いたいの?』


あまりの口調に、私は少したじろぐ。

『いえ・・・ごめんなさい。つい言ってしまって悪かったわ。』


『だいたい、あなた、卵子だけでなく、ハタケそのものも欠陥なんじゃない?』

『・・・・』

『私は、簡単に出来たわよ。あなたのご主人の子供。』

『え?』

『お義母サンも喜んでくれたわ。孫を早くみたいって。』

『・・・・???』

『子供も産めない嫁なんていらないって。体外受精なんて、かったるいことやめて、

 ご主人も、私に直の方が気持ちいいし、楽じゃない。』


もう、私の居場所はなくなっていた・・・。









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― 新着の感想 ―
[一言] 怖い!短い中に、うまく怖さが凝縮されてますね。
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