第四録 「夕暮れと黒影の世界」
私はオレンジ色の空の下にいた。地平線から半分覗かせた夕日の姿は、誰もが足を止めて見惚れてしまうだろう。
凡そ数分前、自分の部屋にいた筈の七珠針南は、机の上でボロボロに崩れた砂時計を見た。それを見た私は砂時計から感じた圧迫感から逃れようと自分の部屋から飛び出した。しかし、扉を開けた先の足元には穴が開いていた。避けることもできないまま、その穴の中に落ちてしまった。気付いた時には見たことの無い世界の中にいた。かなりの高さから落ちた様な感覚を覚えている。しかし、体のあちこちを動かしてみても痛むところはなかった。
なんだか違和感を感じ体中を触る。穴に落ちる前は寝間着だった。しかし、今着ているのは寝間着ではなかった。何を着ているのか確認しようとしたが、なぜか全身が黒くなっていて、まるでシルエットを見ているような感じだった。
「……」
私は夕日を呆然と眺める。そういえば、過去に何度も何度も不思議な世界を見た。そんな世界にやって来た時に感じる不思議な感覚を思い出す。私はその感覚に懐かしいと思った。間違い無い、ここは幻想世界だ。
私は辺りを見渡した。目の前には延々と続く一本の道。その道の両端には、電柱が等間隔に整備されている。道の先には地平線が見え、そこにはオレンジ色のオーラを放つ巨大な夕日がある。その光は道、電柱、そして私自身と、あらゆるものを黒く染めていた。
「……?」
前方に人影の様な何かが見えたが、すぐに消えてしまった。今のは何だったんだろう。
私は今立っている道に沿って歩くことにした。目の前にある夕陽を眺めていると、なんだか追い掛けたくなるような気持ちが湧いてくる。
歩き続けて何分経ったんだろうと思っていると、前方から何かが見えてきた。あれはバス停だろうか。近付いて見てみると、時刻表も真っ黒で何も読み取ることができなかった。
少し歩き疲れたので、バス停の横に備え付けられていたベンチに座ることにした。すると、段々と眠気が込み上がってきた。この世界は眠るには最適な暖かさだった。私はそのベンチで眠ってしまった。
***
「ぅ、ん……あれ……?」
私は全身に伝わる振動で目を覚ました。目を開けるとそこはバスの中だった。
「どう、いうこと?」
「……お? 目が覚めたか。ベンチで眠ってたから拾っといたぜ。お前、ここがどんなに危険な場所か知ってんのか? まぁベンチで眠るって事は、どうせ知らねぇだろ?」
運転席の方から男性の声が聞こえた。バスの中を見渡すと、私とバスを運転している人しかいないことがわかった。
「あの、えっと……ここはどこですか?」
「そこからかぃ! ったくよぉ。いいか? ここはなぁ、哀愁の道っていう"自殺の名所"だ」
「哀愁の……道?」
「ここに来る連中は揃いに揃って死にに来るんだ。それで、そいつ等がこの道を走る時に絶対、"あの夕日に向かって走るんだ"とか、よくわからんことを言ってんだ。意味がわからん」
「夕日に向かって?」
「お前もそいつ等みてぇに叫んで走るんじゃねぇぞ。走ったら足がバッキバキなって動けなくなっちまうからなぁ……」
「……っ!」
「おいおい、マジになんなよ。冗談だ冗談。だが、正確には溶けちまうんだ」
「と、溶ける……?」
「あぁ、そんで最終的に黒い影になる。まぁ、お前は死ぬつもりでここにきた感じじゃねぇみたいだから、今回は特別にタダで乗せてやる。命の恩人とでも思ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
寝起きという事もあり、歩いていた場所が危険な道であることに実感が湧いていない。しかし歩いていた時、夕日のことが気になっていた。もしかして、それは危険の前触れだったのかもしれない。
「んで? 行く当てとかあんのか?」
「え、あ……。わ、わかりません……」
「わかんねぇ? そうか……じゃあ、とりあえず天秤のとこまで連れてっか……」
「天秤?」
「"月の天秤"だ。天秤に行くんにゃ、この俺のバスでしか行けねぇ。バスじゃないとこの道は進めねぇからな」
「月の天秤って、どういうところなんですか?」
「さぁな」
「……え?」
「俺はそこまでの送迎しかしねぇから、天秤の中に入った事ねぇんだ。だが、どっかで聞いた話によると、祈りを捧げる場所とかなんとか……」
「祈り……」
「まぁ、あそこは神聖の場所らしいからな。誰もいねぇのに誰が決めたんだか。そういや、お前さん。名前はなんていうんだ?」
「七珠針南です」
「針南? 変わった名前だな。俺は御影だ、坂時御影。短い間だが、よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
このバスは月の天秤という場所に向かうらしい。一体どういう場所なのだろう。私は月の天秤の風景を頭の中で予想しながら外の景色を眺めた。外の景色といっても、電柱しか見当たらない光景が永遠と続き、見ていてすぐに飽きてくる。
「あの……月の天秤って、あとどれ位かかるんですか?」
「あー、さっきのバス停から大体3時間ちょいか?」
(結構長い……)
「あ、ありがとうございます……」
3時間バスの中で過ごす事になりそうだ。しかし、何もする事がない。こういう時に眠れば、あっという間に3時間経つだろうか。私はそう思うと、目を閉じた。ゆらゆらと揺れる振動と共にゆっくりと意識が遠のいていく。
「おい。……ん? おーい。……眠っちまったか。そりゃあここは何もねぇからなぁ。ここよりも夢の中の方がまだ見応えがあるか……」
***
私はどこを歩いているんだろう。定期的に何かの音がする。その音は過去にも聞いたことがあった。私の足元の下から聞こえてくる。その音が鳴る度にガタンと揺れる。私は今、電車の中にいた。ここは確か、数年前に霊音と行ったあの幻想世界。この電車での出来事を思い出す。
私は壱号車の貫通扉に目を遣る。弐号車に行けばシャルナちゃんがいる。そう思い、弐号車へと向かう。車両同士を繋ぐ場所。弐号車へと続く貫通扉があった。私はその扉の小窓から弐号車の中を覗いた。しかし、その向こうで広がっていた景色は想像していたものと違った。シャルナもいなければ、印象に残っていた大きな木も、喫茶店のカウンターも無かった。そこには、思っていた光景とは余りにも異なる景色が広がっていた。その景色の中で、私は身の毛がよだつ物を見てしまった。弐号車内の中心部。そこには不気味なお墓が一基佇んでいた。その墓の前に、赤いリボンが付いた黒い帽子と、黒いセーラー服を身に着けた少女が屈んでいた。
私は恐る恐る二号車の扉を開けて中に入った。黒い少女の方へと歩こうとした時、黒い少女は立ち上がった。私は歩もうとしていた足を止めた。黒い少女の足元に置いてあった物が視界に入った。それはお墓に手向けられた一輪の白い花だった。黒い少女はこちらに振り返った。
「え……?」
黒い少女の顔を見て驚いた。その黒い少女は、私と瓜二つだった。まるで鏡を見ているような感覚だったが、鏡の様に同じ動きはしない。
「やっとこっちに来れたんだ」
黒い少女は静かにそう言う。
「何を言ってるか分からない……そのお墓は何?」
情報量の多さに混乱していた私は、一番気になっていたお墓について訊いた。
「このお墓は私のお墓。封印されちゃったから……」
「封印?」
ふとあの砂時計を思い出した。
「君はわかってるんでしょ。砂時計の事」
「……!」
「大丈夫だよ。私はもう、何もできないから……。私の事……覚えてる?」
黒い少女はそういうと、片手を見せる。すると、その片手が黒い影になった。その黒い影になった手に、既視感があった。
「いや……もしかして、あの時の……」
「そのまさかだよ。私は6年前、エレベーターの前で君を襲った影だよ」
「あの時の……!?」
私はどんどん積もっていく情報に頭の整理が追い付かなくなっていた。
「私は君の姿を模った影。私が君の前に現れた理由は、君の影になろうとしたから。影になって、やがて君を乗っ取るつもりだった。でも、あの時の幽霊が放った黒い紙に阻まれちゃった。最後の手段として、あの砂時計を君に押し付けて、それから私はずっとここにいる。……あの砂時計の事、知りたい?」
「……! 教えてください」
「今はもう壊れちゃったみたいだね。あの砂時計の正式名称は封印の時計。ありとあらゆる物を一つだけ一定期間封印する事ができる力を持っている」
「私の封印って……」
「そう、君が幻想世界に転移される事を6年間封印した。君がここに来たという事は、封印が解かれたという事。つまり、君はまた幻想世界に転移される様になる」
「で、でも、そんな事、私がこの世界に転移するのも、さっきから言ってる封印も……あなたが?」
「私がやったって思ってる? ……違うよ。私は手に持っていた砂時計を渡しただけ。気付けば私の手元に砂時計はあった。でも、なぜかその砂時計が何なのかはすぐに分かった。君の幻想世界との繋がりを封印したこともその時にね。ただ、この砂時計を見たら、これは君に渡すべきだって思っただけ……」
「でも、どうして私の居場所が分かったの……?」
「君の居場所はすぐに分かったよ。君の中にある物が私を生み出したんだから」
「もう、わからないよ……」
私は考える事を諦めてしまった。
「今は知らなくても良い。でも、いつしか知る日が来る。……そろそろ時間が来たみたい」
黒い少女は手を軽く振ると、お墓の向こうへと歩いて行った。
「え? ちょっと待って!」
まだ聞きたい事が沢山あるのに!
目を開けているのに視界の外側から黒い靄がかかり始めた。その靄は視界は真っ黒に染めた。
***
「……、……」
「ん……」
私は何者かに揺さぶられていた。
「起きろ」
「ぅん、ここ……は?」
「寝ぼけてんなぁ……。ほれ、月の天秤に着いたぞ」
「……ありがとう、ございます」
私は先程見ていた夢の事ばかり考えていた。しかし、今はそれよりも、目の前の事に集中しよう。
バスの窓から外を見た。夜とは言い難いが、濃い青が濁った様な空の色。しかし、少し赤色が混じっている様にも見える。そして、丘の上に聳え建つ大きな天秤は、ぼんやりとした光を放っていた。
「まぁ、ここは唯一夕日が当たらない場所だ。つーか、まんま夕日の中だけどな。この中だったら外に出ても支障は無ぇ。俺が紹介したのもなんだが、ここは祈る事しかやる事が思いつかん。冗談半分で祈ってみるのもありだが。もし何も無かったら、このバスが再び来るまで耐える事だな。さてと、そろそろ仕事に戻らないと駄目だ」
「はい、ありがとうございます。あの、お金とかは……」
「あ? 金? タダでいいって言ったろ? ……自殺の道に金を絡めるのはどうかとは思うがねぇ」
御影は小さくそう呟いた。
「私、行きますね」
「おう、気ぃつけろ」
私は御影に頭を下げてバスから降りた。外は少し冷たい風が吹いていた。私は目の前にある大きな天秤へと向かった。
***
「さてと、戻るか……」
「私も降ります」
「んぁ? あぁ。お疲れさんでした……。お金は無かったんだっけか? じゃあ今回は払わなくていい。それより、乗って来た時から思ってたんだが……お前さん、変わってるよな。夕日の外にいた時、なんでお前の体は黒くなかったんだ?」
「……私にはわかりません」
「そうか……そうだ、お前さんちょいと」
「……?」
「お前さん、さっき降りてった客を覚えてるか? まぁ、今日はお前さんとその客しかいなかったが……」
「はぁ」
「お前さん、さっきの客と同じ雰囲気がある。さっきの客と知り合いか?」
「いえ、全然」
「そうか……」
「それより、聞きたい事があるんです。この世界から出る方法ってありますか?」
「は? この世界から出る方法? ……何言ってるかよく分からんが……ただ、丁度ここは月の天秤だ。ここには……」
「……!」
***
夕日が見えた場所では全てが黒く染まっていたが、ここでは黒く染まらないようだ。私の身体が鮮明に見ることができた。やはり服装は寝間着ではなく、青いリボンのついた白い帽子と、セーラー服を身に着けていた。これは私が普段着としてよく来ているお気に入りの私服の一つだった。
それにしても、月の天秤は想像以上に大きかった。一軒家位の大きさ、もしくはそれ以上あるだろうか。柔らかく発光する天秤は、どちらにも傾いておらず、両皿共に釣り合っていた。
私は月の天秤まで続く階段の前まで来た。月の天秤と言っているので、月を模した形なのかと思えばそうでもなく、見た目は普通の天秤だった。
「どうしよう……」
月の天秤に来たが、ここで何をすればいいか分からないままだった。そういえば、御影から聞いた話、ここは祈る事しかする事が無い場所らしい。私は天秤を一瞥した後、目を閉じた。
(元の世界に帰りたい……!)
御影の言っていた通りに祈ってみる。しかし、何かが起きる気配は無い。もしかしたら、少し時間を置けば何かが起きたりするだろうかと考えた。結局その場で足踏みをする状態だった。
「やっぱり、何も……」
私は何もできないことを悟り、諦めようとした。
「ちょっといいかな?」
しかし、突然背後から声が聞こえた。
私は後ろを振り向くと、そこには同じ位の背丈の少女がいた。その特徴的な姿に私は少し驚く。雨も降っていないのに、雨合羽を身に着けていた。その防雨フードの中から私を覗いていた。
「君ってどこから来たの?」
「……ぁ」
私は少し戸惑った。それもそうだろう。いきなり声をかけられては、どこから来たのかを訪ねてくるのだから。
私は名前から出身地まで包み隠さず全て話す事にした。そして今ここに置かれている状況も。
「へぇ~、針南さん、こことは違う世界の人なんだ。……私と同じだね」
「……え?」
違う世界の人であると言ったのに対し、私と同じであると言葉を返した事に違和感を覚えた。
「あ、自己紹介をしないと……。私は佐乃咲雫。いろんな異世界に飛び込んでる普通、ではないか……ちょっとヘンテコな女の子だよ。私もこことは違う世界から来たんだ」
「違う世界から……」
雫は私と同じく、違う世界からやって来たらしい。
「え、えっと……」
「ところで、針南さんがさっき言ってた説明だと、ここは幻想世界っていう場所で、そこには行ける人と行けない人がいるんだよね。でもこの世界、私は普通に来れたよ?」
もしかして、佐乃咲雫もまた、幻想世界に行くことができる体質を持っているのだろうか。
「それと、針南さんは帰りたいんだよね。元の世界に」
雫は続けてそう言った。
「え……。はい、帰りたいです……」
「じゃあ、そこの天秤、一緒に乗ってみない?」
「……え?」
雫はそう言うと、私の手を掴んだ。
「だーかーらー。乗るの! 私と一緒に!」
「えぇ!? ち、ちょっと!」
雫は私の手を掴んだ瞬間、天秤の方へ駆け出した。私は勢いにつられて走る。
「思いっきりが大事! 行くよー! せーのっ!」
「……!」
雫に手を引かれたまま、天秤の左の皿に飛び乗った。皿に乗った直後、先程まで釣り合っていた天秤は私達が乗った事で傾き始めた。
この時、この丘の中心部に大きな窪み状である事を知った。天秤はその窪みにすっぽりと入っていた。先程まで見ていた天秤は全体の一部分だった。私達を乗せた皿はゆっくりと丘の窪みの中へと入っていく。丘の中に入ると、そこには石で囲まれた広い空間が広がっていた。
ガタンッ!
すると、私達が乗っていた皿が限界まで傾いた。限界まで傾いた所で、天秤の動きが止まった。皿は地面に降りれる高さまで下がっていた。私達が皿から降りると、重りが無くなった皿は上へと上昇ていった。
「ね? 思い切りでしょ?」
「あの……なんでここに何かがあるって分かったんですか? それに、こんなこと、していいんですか?」
「実はね、針南さんが乗ってきたバスに一緒に乗ってたんだよ。それで、私も降りようとしたら運転手さんが、『あの客を帰してやってくれ』って言ってきて、願いが叶う隠し通路を教えてくれたんだよ」
「御影さんが?」
「そう。でもなんで運転手さん、この事を知ってたんだろう?」
「私にも分からないです……」
広い空間の中に、奥まで続くトンネルがあった。その向こうから白い光が見えた。
「まぁ、いいじゃん!あのトンネルの先、行ってみよ!」
「は、はい……」
私達はトンネルの中を歩く。私達の足音がトンネル中に響き渡る。
「さっきはいきなり走らせちゃってごめんね」
「あ、大丈夫です……」
「……」
「……」
「私、君の世界の事も知りたいな」
雫は突然そう言ってきた。突然手を掴んで一緒に飛び乗った事がまだ頭から離れていないのに、雫はもう次の話題を作っていた。なんとも、奇想天外な人だ。
「答えられる所だったら……」
「じゃあ、針南さんの住んでる世界って魔法とかあるの?」
「あ、あります。私は殆ど使えませんけど……」
「そうなんだ! 私の世界にも魔法あるよ! 違いとかあるのかな?」
「どうなんだろう……」
魔法の違いは確かに気になる。
話しているうちに、段々と話題に集中することができるようになってきた。色々話をしたところで、そ私はこれまで話をした中から気になった事を訊いた。
「そういえばさっき、色んな世界に飛び込んでるって言ってましたよね。色んな世界ってどうやって行ってるんですか? それに、どうして色んな世界に行ってるんですか?」
「あぁ、私は転移魔法を使ってるんだ。別の世界に行く理由は……旅をしてると言えば良いのかな……」
「旅、ですか?」
「うん! 沢山の世界を旅して思い出を作るの。折角覚えた転移魔法があるのに、全然使わないのは勿体無いし、色んな世界を見てみたかったから」
転移魔法。私とはまた違った方法。私の様に自分の意志ではどうにもならないまま転移されるのとは違って、雫は自分の意志で別の世界に行くことができるのは、少し羨ましさがあった。それに、私は今まで幻想世界に行く事を旅として捉えたことがなかった。
「……ふふ」
幻想世界に行く事に対する認識の違いに、少し面白いと思った。不意に笑みが零れた。
「針南さん、初めて笑った」
「えっ! そ、そうですか?」
指摘されると少し恥ずかしくなってきた。
会話しているうちに、トンネルの出口に近付いてきた。
「もうすぐ外に出るみたい!」
「そうですね……」
「この先は何があるんだろう。楽しみだね!」
「……はい!」
雫が隣でこの先に何があるのかも分からないのに楽しげに歩いていた。
私はこの世界に来て今までの幻想世界に関係する記憶を全てを思い出した。私は6年間、幻想世界に行く事の無い平凡な日常を過ごしていた。毎日同じ時間に起き、同じ時間に歩き、同じ時間に眠る。決まった時間に同じ行動の日々。短くて長い6年間は同じ事を繰り返す機械の様だった。良い意味で平穏な日々。悪い意味ではつまらない日々だった。
しかし、久しぶりに幻想世界に来て、私はやっぱり幻想世界が大好きなんだと思った。いつ転移されるかは分からないし、行先も分からない。何が起こるかも分からない世界。不安も伴っているが、それがまた面白いと思わせる。色々な幻想世界に行ってみたいと思った。雫の言っていた旅をするという表現に、私も旅がしたいのかもしれない。
頭の中で幻想世界に対する思いを巡らせていた私は、雫と共に白い光に包まれてトンネルを抜けた。