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第十四録 「時計と修理屋の世界」

 七珠針南(ななたまはりな)雪代霊音(ゆきしろたまね)は、日が沈み始めた頃に話に区切りをつけて各々別れた。色々な情報を共有したが、幻想世界の仕組みは未だに不明だった。


 帰宅すると佐乃咲雫(さのさきしずく)がいた。雫に幻想世界に行った事を話すと驚いた顔をしていた。雫と少し会話をした後、針南は手帳に今回の幻想世界の事を書き留めて一日を終えた。


***


 翌日、トグロ町に朝日が照らされる。今日も新しい一日が始まる。


『ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ! ……』


 目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。その音を聞いた私はゆっくりと体を起こし、目覚まし時計を止める。甲高い音が消えると、より一層の静寂を感じた。


 ゆっくりと目を開けると、そこは私が良く知る自室では無かった。余りにも無機質な灰色の空間が広がっていた。


「……」


 どうやら私はまた来てしまったみたいだ。


 私はベッドごとこの世界に飛ばされたらしい。遂に私だけではなく、周囲にある物も一緒に転移するようになった。私の手には先程まで鳴り響いていた目覚まし時計があった。


 まだ寝惚けが覚めていない私は目をこすりながらベッドから出た。判る範囲で情報を把握する。現在、私は白色の寝間着を着ている。所持品は目覚まし時計のみ。それ以外に私が知る物は無かった。


 目覚まし時計を見る。どうしてここに目覚まし時計があるのだろうか。知る由もないので、取り敢えず目覚まし時計をベッドの上に置いた。


「ふぁ……ぁ」


 欠伸が一つ。私はベッドを一瞥(いちべつ)すると、この世界の散策を始める。この世界には何があるのだろうか。


「……」


挿絵(By みてみん)


 私は無言でこの世界を歩いていく。地面も空も灰色で、境界が判り辛い世界だ。そして、地面からは赤い針の様なオブジェクトが地上からいくつも生えていた。


 この世界は今までに行った幻想世界とは雰囲気が異なっていた。これまでに行った世界では自然があり、生物がいた。生命の躍動を感じることができる世界ばかりだった。しかし、この世界ではそれを感じ取ることができなかった。


 ベッドが見える範囲で歩き回ってみたが、範囲外も同じ空間が続いているようだ。私はベッドに戻り腰掛けた。視界に入った目覚まし時計を無意識に手に取る。


「……?」


 そこで私は気付いた。目覚まし時計の秒針が動いていなかった。時刻は七時十五分で止まっていた。壊れてしまったのだろうか。私は目覚まし時計の裏側に付いている蓋を外した。そこには時計のエネルギー源となる電池が無かった。


(電池って……?)


 私はその言葉に疑問を抱いたが、深く気にする事は無かった。私は目覚まし時計の蓋を付けて、ベッドの上に置いた。


 私はベッドに横になり、灰色の空を眺める。見応えの無い灰色が広がっていた。顔だけを横に向ける。赤い針が幾つもあるだけだった。それらは意味があって存在するのか、それとも無意味な物だろうか。そんな事を考えながらゆっくりと目を閉じる。ベッドに横になった状態で考え事をすると、自然と眠たくなってくる。私はそのまま眠ろうとした。


「……」


 何か音が聞こえる。それは機械が軋む音。錆びた鉄同士が(ひし)めき合う時に発するギシギシという鈍い音。そんな音が遠くから聞こえてきた。私の意識は覚醒し、ベッドから起き上がって音の鳴る方を見た。そこには人の形をした鉄の塊が、(ひと)りでに歩いていた。


「……?」


 その鉄人はただ真っ直ぐに歩き続けていた。私はベッドから降りて鉄人に近付く。


「……あの」


 私は声をかける。しかし、鉄人は依然として歩き続けていた。


「聞こえないのかな……?」


 この鉄人が歩く先に何かあるのだろうか。私は(しばら)くその鉄人を追い掛けることにした。


「……」


 どれほどの時間が経ったかは判らないが、現在まで変化はなく。ただ歩いていく鉄人を追い掛けているだけだった。ベッドも見えなくなる程遠くに来てしまった。そこまで来て、やはり追い掛けるべきでは無かったと少し後悔していた。私はどうすればいいのだろうか。目的も見えないまま鉄人に付いて行く事しかできなかった。


 そんな時だった。


「……え?」


 突然、鉄人が歩くのを止めた。片足が浮いた状態で動きが止まった鉄人はバランスを崩して倒れてしまった。


「……ど、どうしよう」


 取り残されてしまった。鉄人が歩く先に新しい何かがあるかもしれないという期待は、たった今砕け散ってしまった。やはり付いて行くべきじゃなかったと後悔の溜息を吐こうとした。


「わぁ!!!!!」


「ひゃあ!?」


 突然背後から大きな声がした。その声に私は驚いた。私は声の主がいる方を見た。そこには一人の男性が笑みを浮かべて立っていた。


「いや〜! すまないすまない! 久しぶりの心を持った存在だったので、驚かしたくなってしまった! ハッハッハ!」


 痩せ型の白髪混じりの男性が笑いながら話す。所々黒い汚れが目立つ白い実験服を着ていた。私は困惑しながら言葉を返す。


「あの、誰ですか……?」


「おお、これは失敬! 私はシェグ、機械(いじ)りのプロだ!」


「機械……弄り?」


「おうとも! 壊れた機械があれば私にお任せって奴だ!」


「壊れた機械……」


 私は瞬時に倒れている鉄人の方を見る。


「もしかして、これ……ですか?」


「如何にも。そいつが機械だ」


「機械……」


 度々出てくる機械という単語に一瞬理解が遅れるが、この鉄人が機械であるという認識はできた。なぜ機械だと理解できたのだろう。普段から使っている言葉の一部はよくよく考えてみると、何故その言葉はそう呼ばれているのかが解らない時がある。先程も、電池という言葉が自然と出てきたが、私は電池というものを見たことが無い。しかし、電池の使用用途は把握していた。一体どこで得た知識なのだろうか。


 この件は深く考えると混乱しそうになるので、これ以上考える事は止めた。元の世界に戻ったら考える事にしよう。私は知らない言葉関連の情報を振り払おうと、頭を左右に振った。


「どうした? ゴミでも引っ付いたか?」


 シェグが私にそう言った。ゴミは勿論付いていない。多分、私が頭を左右に振る動作を見ての発言だろう。


「……違います」


 すぐに否定した。


「そうか」


 シェグは返事をして、倒れた鉄人を担ぎ上げる。鉄人はぐったりしていて、再び動き出す気配は無かった。


「それ……どうするんですか……?」


「弄る」


「治すんですか?」


「いや、分解する」


「え、分解しちゃうんですか……?」


「……まぁ中身をちらっと見るだけだ。見た事が無い機械だからな」


「え? これ、シェグさんが作った機械じゃ無いんですか?」


「私はこんな精巧なもん作れん。機械を弄る者としては、こいつがどういう原理で動いてるか、気になるだろ?」


「え、ま、まぁ……」


 正直、あまり共感できなかった。


「んで? お前はどうすんだ?」


「私は……行く当てが無くて……その、付いて行ってもいいですか?」


 シェグは少し唸った。


「そうか、なら付いてこい」


 シェグは鉄人を抱えて歩きながらそう言った。


「ありがとうございます……」


 私はシェグの後に付いて行った。


***


 数十分が経過した所で、正面に一つの建物が見えてきた。周りが灰色に対して、その建物は一際目立つ白い建物だった。


「着いたぞ」


「シェグさんの家ですか?」


「……まぁ、そんなとこだ」


 シェグは扉を足で押し開けた。


「入れ」


「お邪魔します……わぁ……」


 家の中に入って一番に思った事は、機械の部品が至る所に散らばっている事だった。部屋の隅には木箱が幾つも置いてあり、その中には機械や機械の部品が沢山入っていた。


 シェグは担いでいた鉄人を部屋の中心にあった丁度良い大きさの台座の上に寝かせた。シェグは棚の方へ行き、何かを取り出した。それは手提(てさ)げ付きの工具箱だった。


「それは、何ですか?」


「これか? こいつは私の自慢の解体道具達だ。今からこいつらでさっき拾った機械を解体するんだ。だから、解体してる時に部品とかが飛んでいくかもしれん。お前がもし見たいと言うなら、少し離れて見た方がいい。そこらへんに椅子があるから、そこに座ってな」


「は、はい」


 私は金属の椅子を見つけたが、その椅子は脚が一本無かった。座れない事は無いが、明らかにバランスが悪いだろう。


「この椅子、脚が無いんですが……」


「あぁ、それじゃない。その隣のやつだ」


 私は隣を見る。そこには、到底椅子とは思えない、四角い物体があった。鉄の塊……だろうか。


「もしかして、これ……ですか?」


「あぁ、その椅子が壊れたから、昔見つけた鉄の箱が今の椅子だ」


 私はその鉄塊に腰掛けた。寝間着越しでも冷たい感触が伝わった。


「うし、じゃあ始めるか……」


 シェグは箱の中から道具を幾つか取り出した。


「さて、こいつはどこから外せれるのかな〜?」


 カチャカチャと鉄同士が当たる音が聞こえてくる。


 何もせず、ただ座っているだけの自分に嫌気が差した。


「あの……私に何かできる事ってありますか?」


「……んぁ? そうだな……じゃあ、そこら辺に落ちてるもんを(まと)めといてくれ」


「わかりました……!」


 私は床に落ちている機械のパーツらしき物の整理を始めた。形状が似ていたパーツを仕分けていき、それぞれを一箇所に纏めていく。数は多いものの、形の種類はそれ程多くは無かった。短時間で部屋の半分を整理した。


「……何だこいつは、どうなってんだ……?」


 シェグの手が止まる。


「何かあったんですか?」


「こいつを見れば解る」


 私は鉄人を見た。鉄人の腹部が開かれており、中身が見える状態となっていた。そこには無数の歯車が嵌め込まれていた。


「……」


 余りにも精巧な構造に言葉が出なかった。


「こいつぁ、バラバラにするには勿体ねぇなぁ……」


 シェグは暫く観察した後、外していた腹部の蓋部分を手に取り、開かれていた所に嵌め込んだ。鉄人は元通りの姿になった。やはり鉄人は動かぬ(まま)だった。シェグは鉄人の機械いじりを終えると一息吐いた。


「ふぅ……良いもん見れたが……私自身、なんだか物足りねぇなぁ……」


 シェグはそう言いながら室内を漁り始めた。


「……ふん、どいつもこいつも弄り倒したもんばっかじゃねぇか。何処かにねぇかなぁ……弄れるもんは……」


 シェグは弄れそうな機械をガチャガチャと探していた。


「……ぁ」


 私は弄れる物に心当たりがあった。ベッドの上に置いてきた目覚まし時計だ。


「あの……シェグさん……」


「んぁ?」


「機械……私、心当たりがあります」


「おぉ! 本当か!? 是非持ってきてくれ!」


「ただ……この部屋の中には無いんです……」


「おー……外にあるのか?」


「はい」


「そうか、だったら……」


 シェグは室内の隅に置いてある箱の中に手を突っ込む。何かしらの使用用途がありそうな機械が沢山入っている所に手を突っ込むのは見ていて痛々しく思った。痛く無いのだろうか。やがてシェグは一つの機械を取り出し、それを渡してきた。その機械は赤いボタンが一つ付いているだけというシンプルな見た目だった。


「外で迷ったらこいつを使ってくれ」


「これは……?」


「そのボタンを押せば、こいつがお前の居場所を教えてくれる」


 そう言って、もう一つの機械を見せる。それは画面だけが付いている機械だった。


「わぁ、凄いですね……」


「……はずだ」


 シェグは目を逸らして言った。今の一言で信憑性が半減した。


「はず……ですか……」


「まぁ、流石に作動しないって事は無いだろうから、心配することは無い」


「……本当ですか?」


 私は半信半疑で訊く。


「あぁ、私は機械いじりのプロだぞ?」


 この機械の信頼度は高くはなかったが、無いよりはましだと思い、胸ポケットにしまった。


「……ありがとうございます。それじゃあ行ってきますね」


「おう、どんな機械が来るか楽しみにしようじゃないか」


 私はシェグの家から出て、再び広い空間を歩く。


***


 シンプルな世界がいかに不気味で落ち着かない世界かが解る。風も無ければ光も無い。暖かいとも寒いとも言えない気温。ここまで無機質な世界は初めてかもしれない。


 私は感覚的に結構歩いたなと思っていた。もしかして迷っているのではないかという嫌な予感がした。私は先程貰った赤いボタンを寝間着の胸ポケットの中に入れていた。私は赤いボタンを取り出し、押すか押さないかという葛藤が脳内で繰り広げられようとしていた。


「……あ」


 私が歩く先に見覚えのあるベッドが見えた。あれは私が転移して一番最初にいた場所だった。どうやらボタンを押すまでもなかったようだ。私は持っていた赤いボタンを再び胸ポケットに仕舞った。


 私はベッドに駆け寄った。


「……あった!」


 ベッドの上に置いてあった目覚まし時計を見つけた。鞄がない為、私はその儘持ち運ぶ。無事に回収できたので、シェグの家へ戻ろうと振り返った。


「あー……」


 これが同じ光景が永遠と続く事の弊害。道を覚えられない。私はこのまま移動しようとすると確実に迷ってしまうと察した。使い時は今だろうと、胸ポケットから赤いボタンを取り出した。


「ちゃんと動いてくれるかな……」


 シェグの言っていた事が脳裏を過る。果たしてこのボタンは作動するのだろうか。私は赤いボタンを押した。


『ピー』


「……」


 元々沈黙だったこの世界が更に凍てつくような感覚に襲われる。


「え……」


 私は一人戸惑った。本当にシェグの所に伝わっているのだろうか。私は疑心暗鬼になりながら辺りをきょろきょろと見回した。


 取り敢えず私はベッドに腰掛け、シェグが来る事を信じて待つことにした。


「……」


「……」


「……っ」


 無音の空間が静かに私を襲う。落ち着きが無くなりキョロキョロと見回す仕草が増えてきた。徐々に感じてくる恐怖心を私はどこまで耐えれるのだろうか。そんな需要の無い我慢試しを始めようとした。


 再び辺りを見渡した。背後を見て私は硬直した。そこには変な体勢のシェグがいた。


「あ……」


「ぁ、あの……」


「……くそ、後もう少しで驚かせたのに……んんっ!」


 シェグは咳払いをした。


「ほらどうした、見つけたんだろ? 機械を見せろ……」


「……え? ……あ、これです」


 私は手に持っていた目覚まし時計をシェグに渡した。


「ほぅ……」


 シェグは目覚まし時計を凝視した後、その場で座り込み、実験服の懐から幾つかの道具と機械のパーツを取り出し、地面に並べた。


「……え、ここでするんですか?」


「あぁ、早く弄りたいからな」


 シェグは目覚まし時計を分解していく。


「これもなんだか変わったもんだな……」


「これは目覚まし時計っていって……」


「目覚まし時計? なんだそりゃ?」


「えと……設定した時間に……音がなる時計……です」


 私は即興で説明することが苦手だった為、時々行き詰まりながらもシェグに説明した。


「……そうか」


 シェグはそれだけ言って、目覚まし時計を弄っていく。その後も無言と唸り声を交互にあげながら作業していた。やがて、分解されていた目覚まし時計は元の姿に戻っていった。


「……まぁ、これでいいかどうかわからんが……」


 元通りになった目覚まし時計を受け取った。


「……ありがとうございます」


「まぁ、さっきのよりかは大分楽に弄れたよ」


 シェグが一息吐いて道具と機械のパーツを懐に入れて立ち上がった。


「ふぅ……これからどうするかな」


「私……帰りたいんです」


「帰る?」


「はい、元の世界に……」


「……まぁ、そうだろうと薄々思ってはいたが……」


「え……」


「お前さんが持ってきたその機械はこの世界のものじゃない。一発で分かる」


「……機械を見ただけで分かるんですか?」


「今までどれだけの機械を見てきたか……そんぐらい、直ぐに分かるさ」


「……」


 私は一拍置いて再びシェグに話しかけた。


「……帰り方がわからないんです」


「帰り方……か……私にはわかんねぇな。機械以外のもんは……」


「……」


「……」


「お前さんが元の世界に帰るとなると……また私は一人になる……か」


「……え?」


「話が聞きたいか?」


「……はい」


「いいだろう。……何年か前、私には仲間がいた。機械弄りをする仲間がいた。ただ、気付けば仲間の姿は何処にも居なかった。初めは何とも思わなかったが、段々寂しさを感じてきてな……。機械弄りをする度に、あいつの事を思い出すんだ……」


「そんな事が……」


「まぁ、あいつもあいつで頑張ってると思うがな。なんせ、私よりも機械弄りのセンスがあったからな……」


 シェグは微笑しながらそう言うと伸びをした。


「さてと、私も家に帰るか。おい、お前さん」


「はい……?」


「お前さんに渡したいものがある」


「え……? 渡したいもの?」


 シェグは懐から一つの機械を渡してきた。それは中心に四角い画面、その下に小さなボタンが二つある機械だった。


「まぁ、暇な時でいい。右のボタンを押せば俺の所に声が届く。左のボタンを押せば、その画面にこの世界が映る」


「……そんな事ができるんですか?」


 私が元の世界にいてもこの機械を使えばシェグに声が届き、この世界の様子を見る事ができるのだろうか。


「分からん。だからこそ試すんだ。できなかったら、また弄れば良い」


「……」


 私はその機械を受け取った。片手に目覚まし時計、もう片手に受け取った機械。両手に機械を持っていた。


『ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ! ……』


 突然、目覚まし時計が世界を響かせる。瞬間、視界が歪み始める。


「これは……」


(あれ……なにこれ……)


 シェグが驚きの表情を浮かべていた。私は声を発する事ができなくなっていた。


(だめ……声も出ない……何も見えない……)


 視界がどんどん揺らいでいく。最早、何が何だかわからなくなっていた。やがて視界は真っ暗になり、目覚まし時計の甲高い音だけが鳴り響いていた。


***


「……」


 再び一人となった実験服を着た男性は灰色の空を眺める。少女はベッドと共に消えた。男性は何も思わず、家に帰った。


 家に着くと相変わらず動かぬ儘の鉄人が台の上で横たわっていた。男性は鉄人を一瞥すると、木箱の中に手を突っ込んで、そこから一つの機械を取り出した。それは先程少女に渡した機械と同じ形の機械だった。男性はその機械の左のボタンを押した。結果、向こうの世界の映像は映らなかった。男性は微笑した。


「私もまだまだだよな……」


 男性は小さく呟くと、懐から道具を取り出した。


***


『ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ! ……』


 目覚まし時計の音が聞こえる。ゆっくりと目を開けた。外の明るさと光の色合いで、時刻が朝であると分かった。


「……ん」


 私はゆっくりと体を起こした。私は手に何かを持っていた。


「これは……」


 寝起きで頭が回っていない。私はそれを理解するまでに少し時間がかかった。


「シェグ……さんの」


 私は先程まで幻想世界にいた。そこでシェグという男性から機械を受け取った。


「……」


 私はその機械を少し眺めた後、無意識に左ボタンを押した。しかし、何も起きなかった。


「……やっぱり」


 やはり、機械は作動しなかった。デル=レートから幻想世界の様子を見る事はできなかった。


 私は半分残念に思いながら、その機械を目覚まし時計の隣に置いた。


「針南さん、おはよう〜」


 私の部屋の扉が開いたと共に、聞き慣れた声が聞こえてきた。私は声がした方を向く。そこには、私が通うレフォイア魔法学校の制服を着た佐乃咲雫(さのさきしずく)がいた。

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