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第十一録 「異世界人との繋がり」

 私は泣き止むと、それに気付いた雫は抱擁を解いてくれた。


 雫から友達になろうと言ってくれた。嬉しいという感情が満たされる。


 すると、遠くからゼラードと岸花鈴音(きしばなりんね)がやってきた。ゼラードは私と雫の所へ来ると、私達の頭を優しく撫でた。


「二人とも、お疲れ様」


「ぁ……」


「わっ!」


 雫は背後から突然撫でられたことに驚いた。


「まさか、私がした事を針南さんにするとは……」


 ゼラードは染み染みとそう言った。


「ぇ、もしかして……ずっと見てたんですか?」


 雫の顔が赤く染まっていく。


「うん、最初から見てたよ」


「……うぅ」


 雫は恥ずかしさのあまり下を向いてしまった。


「……あ!」


 私は鈴音が首にマフラーを巻いている事に気付いた。


「マフラー、見つかったんですね!」


「はい! 教室に置いてあったのを忘れてただけでした……」


「でも、見つかって良かったです!」


「……さてと」


 ゼラードは私達の顔を一瞥する。


「無事にマフラーも見つける事ができた。そろそろ私達は元の世界に帰る方法を探さないとね」


「……そういえば、雫ちゃんって転移魔法が使える筈。それを使えば……」


 私がそう言うと、雫は頭を横に振る。


「それが、この世界では魔法が使えなくて……。私も色んな世界に行った事が有るけど、魔法が使えない世界に来たのは初めてだったから……」


「魔法が使えない以上、この世界を散策するか、又は針南さんの体質の気紛れか……」


 私達は元の世界に帰る方法を考えていた。しかし、元の世界に帰る為の手段が無く、ただただ途方に暮れるばかりだった。


「あ!」


 突然、鈴音が何かを思い出したのか、大きな声を上げた。


「あの、このタイミングで話すのもあれなんですが……」


「?」


「私、ちょっと校庭に用が……」


「校庭?」


 ゼラードが首を(かし)げる。


「花壇のお花に水をあげる時間なんです」


「あぁ、なるほどね。折角だし私達もついていこうか。多分ここにいても仕方がないし……」


「はい、大丈夫です」


「うん」


「じゃあ鈴音さん、校庭までの道案内をお願いしてもいいかな?」


「はい、ではこっちです!」


 私達は校庭へと向かった。


***


 渡り廊下から校庭へ行く事ができる。花壇には数多くの花が植えられていた。私達は校庭内を見て回る。私はゼラードと同行している一方で、雫は少し離れた位置に校庭の植物を眺めていた。雫と目が合うと、雫は恥ずかしそうに校庭の花を見ていた。


「……綺麗な校庭ですね」


「ありがとうございます。この校庭は私が担当になっているんです」


「こんなに広い校庭を、一人でやってるの?」


 ゼラードが鈴音に訊いた。


「はい! 元々お花が好きなので、この校庭を整備する時も、私が率先しています!」


「しっかりしてる。私にはできないね……」


 ゼラードは行動力のある鈴音に感心していた。


「そ、そんなことはないですよ!」


 鈴音は少し顔を赤らめる。


「いや、私はいつも自分勝手だから……」


 これまでのゼラードの行動を思い返すと、確かに自分勝手に動き回っていることが多いような気がした。


「ところで……」


「はい?」


 ゼラードが再び鈴音に尋ねる。鈴音は首を傾げる。


「この魔本陣なんだけど……」


「え? 魔法……陣?」


 ゼラードは目の前の地面に向かって指を差した。鈴音は疑問に思いながらゼラードが指差した方を見る。私もそちらを見てみる。すると、そこには見覚えのある魔法陣の痕跡があった。


「何ですか、これ。誰かのいたずらでしょうか……」


「これって……」


 私は魔法陣を見て思い出した。


「ゼラードさん。この魔法陣、私達が転移した時の……」


「そうだね、覚えておいて良かった……」


「え、それでは、この魔法陣に乗れば元の世界に戻ることができるんですか?」


 鈴音がゼラードに訊いた。


「……あからさま」


「え?」


「確かに魔法陣は転移した時のものと同じ模様だけど……。でも、こんなにあっさり見つかるものなのかな……」


 魔法陣がこんなに簡単に見つけれるなんて、あまりにも都合が良すぎる。何か罠でも仕掛けられているかもしれないとゼラードは怪しんでいた。


「針南さん、その魔法陣の上に立ってみてほしいんだけど……」


 魔法陣の上に乗ることで、何か起こるのではないかと考えたゼラードは私にそう提案した。


「……はい、わかりました」


 仮に罠だった場合のことを考えると少し怖い。そう思いながらその魔法陣の所に両足を乗せた。


「何も起こらない……?」


「……いや、針南さん、魔法陣をよく見て!」


 私はゼラードに言われて魔法陣を見た。魔法陣の痕跡が柔く光り始めていた。


「雫さん!!」


 ゼラードはすぐに雫を呼んだ。雫は小走りで私達の所へやって来た。


「どうしたんですか……って、これは……」


「……!?」


 雫が来たと同時に魔法陣が起動し始めた。痕跡だったものは一つの魔法陣として形成される。魔法陣は少しずつ拡大していく。


「多分私達もこの中に入った方が良い! 雫さん、入ろう!」


「え!?」


「これはきっと転移魔法陣に違いない。これで元の世界に戻れるかもしれない!」


「……かもしれないって、うわぁ!」


「……」


 ゼラードが雫の手を引いて魔法陣の中に入ってきた。鈴音は呆然とこちらを眺めていた。私は鈴音に声を掛けた。


「鈴音さん!」


「……ぁ」


「多分、ここでお別れになるかもしれません!」


「……」


 鈴音は無言のままこちらを見ている。別れを言いたくはないが、再びこの世界に来れるかどうかわからない。


 すると、鈴音がゆっくりとこちらへ歩いてきた。その足は止まらず、魔法陣の中まで入ってきた。


「針南さん」


 鈴音が魔法陣に入ったと同時に、光が一層強まる。


「危ないです! 魔法陣から出ないと……」


 私が忠告した時だった。鈴音は首に巻いていたものを折り畳んで、それを私の方へ差し出した。


「これ、受け取ってくれませんか?」


「え……。でも、このマフラーは……」


 鈴音はこのマフラーで心の平穏を保っていた。それを私に渡すという事は、鈴音の心の平穏を保つ手段が無くなるという事だった。私は差し出してきたマフラーを掴んだものの、受け取るべきなのだろうかと悩んでいた。


「あ、鈴音さん!」


 鈴音はマフラーを押し付けて、急いで魔法陣から出ると、振り返って私達の方を見た。


「私はもう、大丈夫です! 私の事、忘れないでくださいね!」


 鈴音がそう言った瞬間、魔法陣の光が私達を包み込んだ。その際に見えた鈴音の顔は笑顔だった。


***


 目を覚まして一番最初に見えたのは、私の家である魔法研究所だった。


「私の家……」


 隣を見ると、雫とゼラードも一緒にいた。どうやら、無事に元の世界に帰ってくる事ができたようだ。


 私は鈴音から受け取った赤色のマフラーを持っていた。一緒にいたという証だった。


「……はっ」


 私は一息ついてその場で座り込んだ。今になって疲労が襲ってきたようだ。


「大丈夫?」


 雫がしゃがんで気遣ってくれた。


「ぁ……。うん、大丈夫だよ。ありがとう……」


 私はその場でもう一度立ち上がった。


「……うぐっ!?」


 突然、ゼラードが口元を押さえた。


「ど、どうしたんですか!?」


 ゼラードの顔色がどんどん悪くなる。


「魔力がっ……うっぷ!」


「針南さん! 洗面所に連れて行こう!」


「は、はい!」


 私と雫はゼラードを支えながら、魔法研究所の洗面所へと向かった。どうやら、魔力のない世界から帰ってきた事で、魔力の体内循環が再び活動を始めたそうだ。ゼラードはその影響で暫く動けなかった。


***


 異世界から来た人達は無事に帰ることができたのだろうか。私は魔法陣のあった場所を眺めていた。そこにはもう魔法陣の痕跡は無くなっていた。私はその辺りを手で(さす)っていた。


 私は深呼吸をすると、再び植物に水をやろうとした。しかし、私は校舎の外壁に映っていた人影を見つけた。そこには、外壁にもたれかかっている少女がいた。


 私はその少女に安否を問おうとした。しかし、その少女を見て目を疑った。身に着けていた服は、この学校の制服だった。しかし、所々に切り裂かれている痕跡があった。


 私は近寄りその少女の顔を見て驚いた。この少女は私と瓜二つの姿だった。私はその少女に触れた。その瞬間、少女は私の方を見て微笑んだ。


「ョ……かっ……タ。これで……わ、たしも……救われた……」


 少女は私にそう言うと動かなくなった。その表情はとても穏やかだった。やがて黒い影となり、私の目の前から完全に消滅した。


「……」


 夕暮れの空を眺める。オレンジ色に澄み渡った空はいつも以上に綺麗だった。


 私は異世界との繋がりを忘れない。夕日に照らされたペンダントは一層(きら)びやかに光っていた。私はペンダントを握り締めて、ポケットの中に入れた。また会えるといいな。と小さく呟いて、花壇の花達に水をやった。

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