第二章「機械工場を制圧せよ!」
1.
2015年、12月。年明けも押し迫ろうというこの時期にも、ジャンクの掃討は続いていた。
もともと消耗戦で使い尽くされた感のある空飛ぶジャンクは政府の必死の努力の甲斐も相まって空から駆逐されつつあり、
無人戦闘爆撃機―スカイジャンクと呼ぶ―に地上戦力が空爆されるというリスクはほぼなくなっていた。
これを受けたジャンカーたちの奮闘もあって、
東京都があった辺りでは装甲車やアサルトスーツ無しで外を出歩いても危険が少ないと判断される程度には安全が回復しつつあった。
AIたちが学習したのか物資が尽きつつあるのかは分からないが、
今ではマンモスとダチョウの群れは開けた場所や辺鄙な場所にしか侵攻してこなくなっていた。
どうやらジャンクたちもバカではないらしい。
と言っても相変わらず車両にとって脅威となるマンモスに、歩兵や非戦闘員にとって脅威となるダチョウといったジャンクを生産、整備している工場は見付かっておらず、
常識的な一般市民は完全な安全が保証されるまで地下都市に住み続ける事を選択した。
再び地上で生活できるようになるかもしれない、という日本人の希望は現実のものとなりつつあるという見解が政府より発表され、
地下都市の住人たちは来たるべき新年にふさわしいポジティブなニュースだとその発表を歓迎していた。
「おー、わいてるわいてる!ねぇねぇけんちゃん、地上を取り戻す為に僕達も頑張らないといけないね!」
政府の発表を受け、沸き立つ地下都市の住人たちをマンションの窓から見下ろしながら、珍しく興奮した口調でエリカが言う。
「政府も自衛隊も、これでやっと地上奪還に関心を寄せてくれるようになると良いんだけどな。
と言うか、何で俺の部屋にあがり込んで言う?」
小さい頃からの付き合いになるのでこの程度の事などかわいいものだと剣十郎は理解していたが、
成人したと言ってもそれでも18歳の少年である。
青少年特有のプライバシーにまったく配慮してくれないこの幼馴染兼相棒に苦言を呈するも、そこはマイペースなエリカ様。取り付く島もない。
「ぶー、たまの休みの日くらいいいじゃん。冷たい相棒だなぁ」
「お前には青少年特有のプライバシーに考慮するとかいう心遣いとかは無いわけ?」
「僕で良ければいつだってウェルカムだよ?けんちゃんはチキンだなぁ」
豊満な胸を見せつけるかのように胸を強調して、うにょりとしなをつくるエリカ。
「ジャンカー人生、無事引退できたら考えるよ…無事に引退できたらな」
「けんちゃんはオトナだねぇ、ってけんちゃん、電話電話!」
ふたりきりの時間を切り裂くように鳴り始めた電話を指差すエリカ。液晶画面が緊急を示す赤で明滅し、画面には会社の電話番号が示されていた。
「はい、こちらジャンカー014号組。今日は非番のハズだが…え!?緊急招集?今すぐ両名とも出社せよ!?」
2.
「…日米共同作戦に参加、ですって!?」
「そうだ。君たち2人には工場への突入部隊に参加してもらう事になる」
取り急ぎ出頭した2人に作戦部長が重々しい口調で告げた。
マンモスを生産、整備している工場と思わしき場所が旧神奈川県の工場地帯で発見され、
それに対する強襲制圧作戦が明日日米共同で行われるとのことで、非番のジャンカーも総動員して攻撃にあたるとの事だった。
「マンモスの工場でしょう?アサルトスーツはマンモスの使う30mm弾に耐えられるように出来ていませんよ?」
特攻は嫌だ、と顔に文字を貼り付けた剣十郎が作戦部長に問う。
「政府の連中もバカではない。防衛省からの情報によると、工場内部に侵入者迎撃用の火器類は備え付けられていないとのことだ」
「どうだか。設計段階の図面なんてカビの生えた情報を鵜呑みにしてると、痛い目に遭うかもしれないよ?」
あくまでも冷静に言い返す作戦部長に、腕組みしながらエリカが言った。
「図面の真偽は行って見ない限り分からない。これが日本人の今後を左右する作戦になる…とにかく作戦は明朝開始される。両名とも、生還を期して攻撃にあたって欲しい」
作戦部の扉が閉じられると同時に、エリカが口を開いた。
「まるで僕たち特攻隊員みたいだね」
「成否は神のみぞ知る、か…ジャンカーになる前に生命保険に入って遺言書いてて正解だったな」
重い口調でお互い苦い笑顔を交わす。
「でもこの作戦が成功したら、マンモスは稼働中のモノを除いて一網打尽に出来る。さっき政府広報が言ってた地上で暮らすってことが可能になる。
夢が夢でなくなるんだ。それってジャンカー冥利に尽きるじゃない?それに僕が行くんだから…いや、何でもない」
「…?まぁそうだな。完全無人の工場なら、少人数で強襲制圧というのも納得がいく。でも何で俺たちなんだ?強襲制圧なら実績のない俺たちより適任者が居るだろう?」
それを聞いたエリカが苦笑しながら、
「けーんちゃん。討伐数だけ見てて、僕達の被弾率見てないでしょ。自分で言うのもなんだけど、被弾率の低さなら僕達東京のジャンカーの中でもトップクラスだよ?」
「そうなのか?」
「そうだよ〜ん。まぁ大半は僕のおかげなんだけどね!」
僕って偉いでしょ、と胸を張るエリカ。
「俺は俺たちの今後が心配になってきたよ。重大任務を押し付けられたりするようにならないだろうな?」
コンビの今後を心配する剣十郎の問いに、エリカはさぁね、とだけ言って背を向けた。
3.
明朝、無人となって久しい工場地帯。太陽が昇ると同時に戦列をなした自走砲、自走式ロケット弾発射機が一斉に火を噴いた。
着弾と同時に日米のアサルトスーツ部隊が侵攻を開始した。
「うひゃあ!自走砲にMLRSなんて貴重品を出してくるなんて、こりゃホントのホントに総力戦だね!」
地表をホバー機能で滑走しながらエリカが言った。
「これでハズレだったら日本には大打撃だな。神様仏様イエス様、今回行く所がマンモス製造工場でありますように!」
陽気な声で無線に割り込んできたのは臨時編成で突入部隊に抜擢された、アメリカ海兵隊のウィリアム=ストライダー伍長だ。
「ザコには構うな!ムーブムーブムーブ!」
迎撃に出てきたダチョウのセンサーを高周波ブレードで斬り飛ばし、剣十郎が叫ぶ。
「やるねぇティーンエージャー!ジャンカー辞めたらアメリカ人になれよ!いい仕事紹介するぜ?」
「悪いが間に合ってる。俺は畳の上で死ぬって決めてるんでね!」
「無駄話に精を出している暇があったら全速力で前進しろ!」
マンモスのジャイロのみを破壊して蹴倒しながら檄を飛ばすのは、突入部隊隊長の土方春馬だ。
「こんな時だけ偉そうにしないでよね!」
「危険な事は民間に丸投げして、手柄は独占か。流石はお役人様だけあるな!」
「地上の安全確保より、空の浄化が先だ!誰のおかげで貴様らジャンカーたちが活動できているか、あとで思い知らせてやる!」
「お三方、文句を言うのは仕事が終わってからだ。工場内に侵入するぞ!」
地上にあった建物は跡形もなく吹き飛ばされ、穴の開いたシャッターと明滅する赤い誘導灯が見えてくる。
4体のアサルトスーツは勢い良くその中に飛び込んでいった。
退路を断つべく後方から迫ったマンモスは軍隊アリのように群がる後続のアサルトスーツたちに阻まれ、30mm機関砲が突入部隊に向けて放たれる事はなかった。
4.
地上で決死の攻防戦が繰り広げられている一方、突入に成功した突入部隊は、終わりのないように見える螺旋状のスロープを下っていた。
スロープは地上の騒乱など無かったかのようにシンと静まり返り、行く手を阻むマンモスやダチョウの姿もない。
「…不気味だね。こうまであっさりと人間様の侵入を許してくれるなんてさ」
「防衛省の出してきた図面が正確だったってことか?お役所とジャンクたちの几帳面さには頭が下がるぜ」
「ここまでほぼ消耗なしできてる。たぶん工場内に侵入者迎撃用の火器もないと思う」
「そらみたことか。やはり我々の情報は正しかったのだ!」
珍しく緊張感を含んだエリカの声に鼻を鳴らして、土方が答えた。
「図面によると、地下50mの位置に工場と輸送用エレベータがあるはずだ。マンモスの鈍重さを考えたら、このスロープを登るよりエレベータを使った方が遥かに効率がいい」
「侵入者を防ぐためのシャッターがあるんじゃないの?」
「いや、完全無人で運用される都合上、開閉に時間のかかるシャッター類はないはずだ。マンモスの部品や弾薬を運んでいる無人トラックの邪魔になるからな。
警戒しなきゃならんのを挙げるとしたら最前列にいるマンモスの機関砲とミサイルの類だ。それさえも最小限度だろう。爆風であちらサンも被害を被るし、そんな愚行は犯さんだろうよ」
「懐に入られてしまった時点で奴らの負けって訳か…機密保持の為に工場ごと自爆されたりはしないんだろうな?」
「それもないだろう。防衛省の説明によると、関東でマンモスを製造している工場はここしかない。
アメリカなら事情は違ってくるだろうが、ここは資源小国日本だ。限られた資源を最小限度の消耗で最大の生産効率にもっていくのがロボット兵器製造における日本独自の工夫だからな」
人類が地上の工場の維持管理を放棄して久しいのに大半の地上施設が整備が行き届いていて健在なのは、無人化された工場で機械が機械の部品を造っている証左だ、
と土方は断定口調で言ってスロープを下っていく。
「隊長、目的地は?」
「施設中心部のセントラルコンピュータルームが制圧目標だ。我々はそこを制圧してマンモスどもを造り、整備補給している工場のみならず、奴らの輸送経路も止める」
年長者でもあるせいか、責任を滲ませる声で土方は言い、更に加速をかける。
「何にせよ、我々は与えられた任務に忠実に働かねばならんのだ。貴様らも―っと、着いたぞ!」
不意に視界がひらけ、機械が機械を造り、保守管理し、関東各地に送り込んでいる工場が姿をあらわした。
そこには見渡す限り、マンモスの群れが鎮座ましましていた。
人の手からは失われて久しい精緻さで機械が機械を組み立て、整備し、補給されていく。
「ここが…目的地…ッ!散開!」
土方が横っ飛びしたその刹那、彼を射界に収めたマンモスの機関砲が火を噴き、直前まで彼が居た位置に叩き込まれる。
30mm機関砲弾が叩き込まれ、コンクリート製の床が障子紙のように吹き飛ばされていく。
「固まるな!ジグザグに走行して中央電算室に行くんだ!同士討ちを気にして奴らも動きにくいはずだ!」
「了解!」
林立するマンモスの足と足の間をすり抜けながら、土方が司令を下す。
了解の返事が精一杯の3体が、整備待ちのマンモスたちや製造中のマンモスたちの間を塗って走る。
立ち止まったり、無線に返事をしていようものなら一瞬でハチの巣になってしまうのは分かりきったことなので、皆が皆回避に専念していた。
「マンモスの機関砲は無限に撃てる訳じゃないからな!いつかは弾切れになる!それまで回避し続けるんだ!」
土方が無線を飛ばすが、返事を返してくるものはいない。
ジグザグに走行しながら目的地を目指す、というのは言うほど簡単なことではない。
蛇行した分だけ速度が落ちるのは理の当然と言えた。
それに、マンモスたちを遮蔽物にして進むのにも限度がある。
不幸なことに、中央電算室に通じる通路には遮蔽物に出来るようなものはなかった。
意を決して最大戦速で突っ込む4体のアサルトスーツを追うようにして弾痕が刻まれていく。
最初に死の奔流に飲み込まれたのは最後尾にいた伍長のスーツだった。
一瞬にしてモノ言わぬ残骸と化した伍長を悼む時間すら、3体には無かった。
「伍長ッ!」
「振り向くな!ムーブムーブムーブ!目標はすぐそこだ!飛び込めぇ!」
殿を務めていた土方が中央電算室に飛び込んだと同時に弾が切れたのか、はたまた中央電脳に攻撃できないようにプログラムされているのか、
先ほどまで濁流のように機関砲弾を吐き出していた砲身がイヤイヤをするように左右に揺れるが、一向に砲弾が放たれる事はなかった。
「フゥー、これでひと安心だな。あとはこの電脳をどうやって料理するかだ。まずは自爆装置の有無を調べてくれ」
「了解。やっと僕の出番だね。今から調べますよ〜っと」
待ってました、とばかりにエリカが中央電脳にアクセスを試みる。
「ねぇねぇ隊長さん。情報収集の優先順位はどうするの?自爆装置の有無が先?」
「自爆装置の有無の確定が最優先だ。あとは任せる」
中央電脳にアクセスしながらエリカの問いに、土方が周辺を警戒しながら答える。
「しかしココはデカいなぁ。甲子園球場何個分の広さだ?」
「けーんちゃん…そこに感心してる場合?」
「関東各地にマンモスを送り込んでいる工場だ、見渡す限りジャンクの山だろうさ」
剣十郎も土方同様に周辺を警戒しながら、エリカの報告をひたすら待つことおよそ10分は過ぎただろうか。
「ぱんぱかぱ〜ん!自爆装置の解除に成功したよ〜。セキュリティも止まったから、もう自由に動いて大丈夫だよ〜。
隊長さん、これからどうする?まずはマンモス製造を止める?それとも輸送を止める?」
「でかした!…まずはマンモス新規製造の停止だな。次に補給と整備を滞らせて、最後に輸送を止める」
「アイアイ、了解っと。けんちゃんはネットワークを調べて。たぶんココはダチョウ工場とも繋がっているから、情報収集しておいてよ。
地上に戻ったら成果として公表しないといけないんだし」
「俺もか?言っておくが、俺情報処理は得意じゃないぞ?」
「データを洗いざらい持っていくだけだから、通信ケーブルを繋げば大丈夫だよ〜」
通信ケーブルを手首部分から引き出してポートに繋ぎ『全資料、複写』と中央電脳に命じながら、剣十郎が答える。
「繋いだぞ!ってえらい膨大だな!?この中から工場の位置を割り出すのは半端じゃなく労力がかかると思うぞ」
ヘルメットのモニターウィンドウに開いた画面には、膨大なデータがアサルトスーツ側の記録装置に流れ込んくる様子が映し出されていた。
「そこは解析班のお仕事だから僕たちが気にしなくてもいいと思うよ〜。当面の間気にしないといけないのは、中央電脳の自己消滅だね〜。
消滅されたら情報収集出来なくなる訳だし、いろいろ面倒だよ〜」
「で、ジャンカーの女の方。マンモスの新規製造停止はできたのか?」
心なしか浮足立ちながら土方が問うてくる。
「新規製造は滞りなく停止しましたよっと。今は整備と補給の停止にかかっている最中だよ〜。あと10分もすれば完了すると思う〜。
しかしこの中央電脳を設計した人は天才だねぇ。このインターフェイスを遺していた辺り、まるで戦後を見越していたように思えちゃうよ。
一度でいいから天才の頭の中をのぞいてみたいな〜」
「残念ながら、それは機密事項だ。もっとも、設計した人間はもうこの世に居ないだろうがな」
人の手が触れたことの方が少ないであろうコンソールを撫でながら、土方が言う。
「アハハ、そうだろうね〜。まぁ今いる人類の数を考えたら当然かも〜」
カンラカンラと脳天気にエリカが返す。
「貴様ぁ、今の人類の数がどれだけ減ったか分かっていっているのか?」
「全世界で約12億人だっけ?僕よく分かんないけど」
悲劇だね〜。でも日本人は被害が少なくてよかったじゃん、と悲壮感を感じさせない声でエリカが答える。
「キサマぁ!?」
「あーもう、うるさいなぁ。死んだ人間より生きている人間の方を問題にしようよ。この指先が狂って中央電脳が機嫌を損ねたらオジサンのせいだからね〜?」
殴りかかる寸前の土方に、エリカが無慈悲に宣告する。
その声は確かに、自分たちジャンカーが主人公で、自衛官であるアンタは脇役なのだ、と。そう言下に告げているように剣十郎には聞こえた。
「ハイ、輸送リニアの停止完了っと。隊長さん、これでしたいことは全部かな?」
剣十郎が中央電脳から全ての情報を複写し終わると同時に、コンソールに向かいっぱなしだったエリカが振り返って土方に言った。
「ああ、そうだな。この忌々しいジャンクどもが停止したっていうなら、あとはお前らジャンカーの仕事だ」
輸送用レールに吊り下げられたマンモスたちを眼下に見下ろしながら、土方が嘆息混じりに言った。
「じゃあ僕らは僕らの仕事にとりかかろうか。これだけ大規模な工場の中央電脳とその蓄積データだ、持って帰ったらきっと会社も喜んでくれるハズだよ。
てなわけで、中央電脳よ、コアチップを自己摘出せよ!っと!」
エリカがキーボードのエンターキーを押すと、無機質な人口音声が了解と返し、コアチップが抜き出されてくる。
「うひゃー、やっぱり大きいねぇ!これを売るだけでも一生遊んで暮らせそうな金額で売れるんじゃないかな?」
「残念だが、エリカ。若隠居は好きじゃない。ジャンカー生活は当分の間続くぞ」
「チェ、けんちゃんは変な所でマジメさんだなぁ。大任務が一段落したんだからもっと喜ぼうよ?ホラホラ、バンザーイ!」
万歳三唱、とばかりにエリカが両手を挙げる。
「まぁ確かに、大任務に成功したんだ。万歳三唱くらいしてもバチは当たらんな」
お互い無傷とはいかなかったが、と言って土方がバンザイのポーズをして返す。
「ホラホラ、けんちゃんもバンザイ!」
剣十郎は降参してバンザイをした。
5.
3体のアサルトスーツが地表に無事に戻ってきたのと入れ替わるように、日米合同軍がなだれ込むように工場に踏み込む。
彼らが目にしたのは、甲子園球場が軽く10個は入るであろう広大な地下工場と、機能停止したマンモスの大群だった。
一部のマンモスはリフトに乗ったまま、駄々をこねる幼児のように前進しようとしては壁にぶつかって押し戻されるという無駄な行為を延々としていたが、
処理班の手によって速やかに無力化されるのがオチであった。
こうして関東圏にマンモスを送り込んでいる工場は無力化され、人類の手に取り戻された。
あとは出撃しているマンモスが補給と整備に戻ってくるのを待って叩くか、自己診断モードに入るのを待って処理するだけである。
いや、供給を断った今となっては補給に戻ってくるのを待つまでもなく、残りを殲滅すればいいのではないかと言う向きもあったりで、
直接的に喩えると、卵が先か鶏が先か、みたいな話になっていた。
尚、突入部隊が回収したコアチップに蓄積されたデータとネットワークの解析により、ダチョウの工場も近傍に存在することが明らかになっていた。
突入作戦が自衛隊によって行われるとのことで、剣十郎たちはまた自分たちが駆り出されるのではないかと懸念したが、
ダチョウに搭載されている7.62mm機関銃弾ではアサルトスーツの装甲を突破できないので、金のかかるジャンカー達の出番は無かった。
「自衛隊もやるね〜。弱い者に強いのは流石お役所って感じだけど」
政府広報を見ながらエリカが振り返って言う。
長い黒髪がふわりと舞い、剣十郎に甘い香りを感じさせる。
「彼らを侮っているといつの間にか追い越されるぞ?彼等の練度の高さはこの前の作戦で分かったじゃないか」
「たかが一歩、されど一歩だよ。このアドバンテージは大きいと思うな〜。常に一歩先行く僕らには勝てないよ〜」
「勝ち負けの問題なのか?共同歩調をとった方が特になるじゃないか」
「けんちゃんは甘いね〜。ダダあまだよ〜。そんなだから自衛官にバカにされるんだよ」
「生憎だが、バカにされて傷付くようなプライドなんか持ち合わせちゃいない。生きているという事がジャンカーの持っている最大の武器なんだ。
生きているから信用が付いて回る。死人に命を預けるバカはいない」
「ふーん、そういう考えもあるんだ。なら僕も頑張らないといけないね。死んじゃったら何も出来なくなるし」
「そうだよ、生きているから信頼され、仕事も回ってくるんだ。信用第一がジャンカーのモットーだぞ?」
「ハイハイ、分かりましたよ〜っと。んじゃけんちゃん、またね!」
バタン、と扉が閉じられると、剣十郎はやれやれとばかりにため息をつくのだった。