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第1話 夢、そして朝

「……………で、………………、…す…………」

少女の声が小さく聞こえるのだ。小さく、小さく…。決して小さいからといってその声に力が無いのではない。しかし、その声には何か変わったオーラが漂う。説明はできない不気味な…。

しかし、少年はどうする事も出来ない。ただその声を聞くだけ。聞くだけなのである…。

なぜかって?彼は動けないのだ。何かよく分からない空間。暗いしなんだか生臭い。逃れたい。早くここから…。ふと、もしかしたら自分だけではなくこの声も束縛から逃れたいのであろうかと考える。

「………な……、……………で、み……な……」

声は大きくなった。こちらに近付いたというのが正しいのだろうか。声は近付く。次第に。

「み……………、…すてないで………」

見捨てないで、そう少年には聞こえた。声の主を見てみたい。しかし、動けない。動きたいのだが動けない。原因はわからない。本当は少年が怖いだけなのかもしれない。体が竦んでいるのかもしれない。更に声が大きくなる。

「み、すてないで………」

はっきり聞こえた。間違いなくそう聞こえた。ああやはりか。やはりそう言っているのかと…。

なぜだかみとすの間が空いているような…気がしないでも無い。

「身、捨てないでぇ……!!」

狂気。あの不気味なオーラは狂気だった。察した。しかしなぜそんな狂気的な言葉が聞こえる?分からない。分からなかった。何をしたんだ自分は。

「あの肉まだ腐ってないのよぉ…♪」

おいおい。食う気か。恐ろしい。本当に恐ろしい。体に旋律が走る。するとガタンという音と共に天井に穴が開いた。いや天井が「ひらいた」のだ。一瞬明るく目が眩んだがまた次の瞬間、そこにはとても美しい、そして狂気的な笑みがいっぱいに広がった…。





………朝である。少年は夢を見た。今にも食べられる夢。悪魔の夢。

「はぁ……はぁ……」

彼は笑った。安堵の笑いである。

「あ…あはははは…」

どこかぎこちないがこれが今彼にできる精一杯の笑いであった。

彼の名前は塩上裕しおがみゆう。職業は高校生だ。顔は結構いいので、割とモテる気がしないでも無い。それ以外にこれといった特徴はない。

「何だよ…、夢かよ…」

やけにリアルで生々しい。朝から気分が悪い。だが所詮は夢。改めて考えてなんだかアホらしくなってきた。

「てか何だよ、身、捨てないでって。そんな言い方する奴いねーよ…」

落ち着いた。現実逃避に見えなくもないが…、夢だからいいや。そう言い聞かせることで彼はそんな考えをぶっ飛ばした。

「裕!何やってるの!早く起きなさい!」

母だ。母の声というのは落ち着く。面白いものだ。

「今行くよー!」

大きい声で言った。裕は階段を降りる。彼の部屋は2階にあるから当然と言えば当然である。さっさと顔を洗い歯を磨く。そして台所だ。

「あーお兄ちゃん、おはよう。」

彼には妹がいる。しずくという名である。

「おう、おはよう」

兄妹仲は悪くない、と思う。

「早く食べなさい。遅刻するわよ?」

母に言われて時計を見る。7時30分。まだ余裕で間に合うと思うが…

「ごちそうさま。じゃ、行こうかな」

雫は中学生だ。中学は近いのでもうちょっとのんびりしてもいいと思うが、既に朝ご飯を食べ終わり学校に行くようだ。

「いってらっしゃい」

母が言う。続けて裕も

「いってらー」

「いってきまーす」

そういうと玄関へ向かって歩いていった。

「姉さんと父さんは?」

「お姉ちゃんは今日は有休らしいわ。お父さんは今日早めに出勤して片付ける仕事があるとかで弁当持たずに出て行ったわよ。馬鹿ねえ…」

「まあ父さんはどっかで食べてくるだろうし大丈夫だよ。それより余った弁当どうすんだよ。」

「…え?ああ、そうねえ…お兄ちゃんが2つとも食べてもいいのよ?」

「いや、そんなに腹に入んないから…」

母の弁当はやけにでかい。1.5人前、いや1.8位はあるか?

「食べるで思い出したけどさっき、人に喰われかける夢見たんだけどさぁ…」

「何よ、朝から気持ち悪い話するわね」

「いや、気になったからさ。話さないとすっきりしなくて…」

「正夢にならないといいわね」

「冗談きついぜ…」

「ほら、そろそろ時間があれよ?」

「うお!いけね!さっきまで余裕と思ってたのに!」

「だから遅れるっていったのよ」

母はすごい。そこまで読んでいるなんて。

「じゃ、行ってきまーす!」

気を付けなさい!遠目、いや遠耳に声が聞こえた。



この日、裕は一匹の猫と出会うことになる…。

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