95話
「羽ヶ崎君は……どうしてああなったの……」
「この世界の人たちには多分超絶美少年に見えてるという事を忘れちゃいけない」
……色白で華奢な美少年っていう扱いになるのかな、なんか、絶妙に不憫。
「まあ……いざとなったら針生もいるし……」
……いつでも助けられるように私、文字通り全裸待機しておいたほうがいいんだろうか?勿論ステルス状態の為だけど。
「まあ、羽ヶ崎君女嫌いだからまだホモ相手の方がマシかもな。頑張ってもらおう。ほら、次、次」
そして私はというと、テレビ扱い甚だしい。
MPを回復してから、次は『あやめ』に接続。MP消耗が早すぎるのでやっぱり音声切った。
この子は鳥海にくっつけていった子だね。さて、我が部随一のコミュニケーション能力を持つこいつは果たして。
「……普通だな」
「普通だねえ」
特にハーレムを築くでもなく、かと言ってホモに寄って来られるでもなく、和気藹々と騎士の群れに混じって何やらお話し中。
社長の時と状況は似てるけど、洗脳の恐れはないから安心だね。男女比はかなり男性が多いかな。まあ、騎士だし。
「あんまり面白くないな」
「そう言わない」
面白くないって事は安定してるって事だからね。安心できるね。元々鳥海の行動に不安な所なんて無かったけどね。
安定して騎士達と友好関係を築いて内部情報を漏らしてくれそうな人の情報を漏らしてもらう、っていうのは悪くない戦法だ。
……単純に鳥海が女性にべたべたされるの嫌がってこっちにうまく逃げたってことも考えられなくはないけども。器用だからなあ、こいつ。その位の立ち回りはできちゃうんだよね。
続いて、『もえぎ』。刈谷にくっつけた子だ。……お分かりの通り、メイドさん人形の名前は大体色で決まっている。この子は萌葱色。
……見えてきたのは、女性神官たちに囲まれつつ親切にしてもらってる刈谷。
「舞戸、やっぱり音声入れてくれ」
「へいへい」
くそー、こいつ人のMP何だと思ってやがるんだ。
「……んですよ。だから神殿の3階には何があるかよく分からないんです」
「あ、成程。やっぱり神殿って身分の差が大きいんですね」
「そうなんです。だから大司祭様なんて、お姿をお見かけした事すらない方が普通なんです」
おおお!なんか早速大司祭情報が出た!すごい!こいつ凄いぞ!
ただがっちがちになってるだけじゃなくてちゃんと情報収集してるぞ!凄い!凄い!
「そうでしたか、なんかすみません、色々聞いちゃって」
そしてこの腰の低さも女性神官たちの『あらあらうふふ』を加速させるらしい。まあ、神官という立場からすれば、困ってる人を助けようっていうのは当然のことだし、困り気味の人の方が話しやすいのかもしれない。ぐっじょぶ。
「いいんですよ。他に何かお困りのことは?」
「あ、えっとじゃあ……」
そして次々と情報を仕入れていく刈谷。凄い。これは凄い。別にギャルゲーじゃなくてもいけるじゃないか。
「舞戸、次のチャンネル」
そして遂に私はテレビというか、リモコン扱い。酷い。
次は『みかん』。角三君にくっついていった子だね。
角三君はというと相変わらず装備のお手入れタイムしてる。そして殆ど女性騎士が一方的に話してる。
「……から、騎士団長はお忙しいのだ。聖騎士を拝命した後でさえ数える程度しかお会いしていない」
「……大司祭、様、って、神殿に居なくていいんだ」
「大司祭様はお忙しいからな。王家とのつながりもあるし、何かと人と会わねばならない機会も多い。王家は自分から動こうとしないからな、結局大司祭様とその護衛の騎士団長があちらこちらへ出向かねばならないのだ」
時々相槌打ちながら聞きたいことを聞いてるあたりがやはりうまい所。
「ええと……騎士団長一人で、大丈夫?大司祭、様の護衛」
「騎士団長は強いぞ。昨日の魔王襲来のときの活躍は素晴らしかったぞ。魔王軍の将相手に一歩もひかなかったのだ。それに騎士団長は特別な装備を大司祭様から賜っているのだと聞く」
魔王軍の将って、つまり角三君の事である。これはキツイ。
「あ、えと……その、装備って」
しどろもどろになりながらだけどこれが標準だと思われてるのか、女性騎士は特に怪しむでもなく話をつづけた。
「大司祭様直々に賜った、『失われた恩恵』付きの外套は炎を一切通さないと聞く。そして、何より騎士団長に任命されたときに元騎士団長から譲られたというアミュレットだな。ありとあらゆる魔から心を強固に保つ力があるらしい。この神殿でそれを手にすることができるのは騎士団長と司祭長と大司祭様だけなのだ」
ほー……それ、絶対に『共有』の妨げになるよね。うん。ということは、司祭長と騎士団長と大司祭は少なくとも装備を剥がないと『共有』できないってことになるのか。
「ええと、そういうの、えっと、そういう効果がある装備って……君、とかはもらえないの?」
滅茶苦茶しどろもどろな所も女性騎士的にはオールOKらしい。優しい笑顔で応対している。まあ気持ちは分からんでもないよ。
「当然だ。私のような若造が頂けるものではないからな。神殿に古くから伝わるそのアミュレットは3つしか無い。そのアミュレットが役職の証明となるのだから」
お、これもまたいい情報。つまり、そのアミュレットを装備している人が居たら大司祭、司祭長、騎士団長のどれか、ってことだね!
「……じゃあそういうのは自力で習得するしかない、のかな」
「自力で?……ああ、そういった魔法の習得、という事か。神殿にはそもそも魔が少ないからな、修練するのも一苦労だと思うが……その、なんだ、その……さ、探せば誘惑に勝てるよう修練に付き合ってくれる者はいると思うぞ!」
隣で鈴本が吹いた。私も吹いた。これはフラグだーっ!
しかし。
「……うーん、と、それは大丈夫、かな……」
へし折ったーっ!
な、なんてことを!なんてことをするんだ角三君!なんてことを!せ、折角のフラグを!
「そ、そうか……」
「ええと……俺、剣の練習したいんだけど、練習できる所知らない?」
なんとなく居心地が悪くなってきたのか、角三君が剣を持って立ち上がると、女性騎士もつられて立ち上がった。
「あ、ああ、それなら我ら聖騎士の修練場が丁度いいだろう。あそこなら人もあまり来ない。聖騎士しか出入りできぬからな」
「え、それじゃあ俺」
「何、聖騎士の同伴ならば咎められやしない。……その、だから、私とご一緒してもらう事になるが、構わないか?」
ここでちらり、と、女性騎士の上目遣いだーっ!これはいい!これはいいものだ!
「んーと……うん、じゃあ、よろしくお願い、します」
相変わらず居心地は悪そうだけども、それも女性騎士には照れているかのように受け取られたらしい。女性騎士の顔がぱっと明るくなると、角三君を連れてどこかへ行ってしまった。慌ててみかんを角三君の荷物入れに入れてからステルス解除。
……うーん、こっちは中々いい情報源を手に入れちゃったらしいなあ。
けど、女性騎士も大司祭の行方は知ら無さそうなんだよな。……まあ、芋蔓式に辿っていけばいいか。
大司祭の行方を知っていそうな騎士団長は恐らく『共有』を妨害するアミュレットを装備している。だからそれを剥いでからじゃないと『共有』できない。だからこのアミュレットの情報がもっとほしいね。
そして、相手は騎士団長。きっと装備が無くても私の1人や2人は捻り殺せちゃうんだろうから……細心の注意が必要だ。
うーん、まだまだ情報は断片的だぞ。さて、どうなることやら……。
因みに鈴本的には今の角三君サイドは割と見ていて楽しかった模様。うん、まあ、分からんでもない。
ラストは加鳥かな。いつも通り加鳥にくっついていった『とこよ』の視界を借りると、お花畑。
……お花、畑。
見た所神殿の広い広い中庭の一角、っていう所なのかな。日溜りにお花畑、そして小鳥や小動物が何故か加鳥の周りにたかっており、実に平和な光景。その中で加鳥はのんびり、実に触るのが久しぶりであろう弓の手入れをしている。
触るのが久しぶりなもんだから色々ガタが来てるみたいだ。うん、まあ、君は光学兵器に鞍替えして久しいものね。
そしてそれを少し遠巻きに眺める女性たち。射手だけじゃなくて術士っぽい人とか、戦士っぽい人とか、割と種類はバラバラ。多分中庭の散策中にうっかりこの奇跡の光景を見つけちゃったんじゃないかと推測。
あまりにものどかで俗世離れした光景に踏み入るにも躊躇われ、といった所かな。
「ちょっと、アンタ行ってきなさいよ」
「え、ええっ!?む、無理よ、私なんかっ!」
見れば、オーディエンスの女性たちの中の何人かはせっつき合っている模様。まあ、この中で近づいていく勇気は出にくそうだなあ。
そして加鳥は罪なことにそれらオーディエンスに気付かない。或いは、気づいてないふりしてるのか。
「きゃっ!」
しかし沈黙は破られる。ついに押し出されたらしい女性が数歩、加鳥に近づく。
女性の軽い悲鳴と動作で、矢鱈と集まっていた小鳥や小動物たちは一斉に逃げていってしまう。これには流石に加鳥も気づかざるを得ないので、女性と目が合う事になる。
……そして、沈黙の後、先に声を出したのは加鳥だった。
「あ、ごめんなさい。ここ、使う?退くからちょっと待」
隣で鈴本が「違う!そうじゃない!」とか叫んでてうるさい。気持ちは分かるけど。
「ちちち違うんです!あ、あの、そうじゃなくて、その」
女性の方はテンパっちゃってもう顔から湯気が出そうな感じである。かわええのう。
……そして、やっと、加鳥が動いた!
「もしかして、射手?」
その女性は確かに、背には矢筒、手には弓という出で立ちだね。
「は、はい!あ、あのっ、あの、もし、もしご迷惑でなければッ、弓で勝負しませんかっ!?」
そしてその女性はそれを好機、とばかりに、半分混乱気味に、加鳥に弓で勝負を持ちかけるという。いいぞ、いいぞ、その調子だ!オーディエンスも歓声を上げる。
「うん、いいよ。どうやって勝負する?」
加鳥も笑顔でのった所で、やっと女性の方も落ち着いてきたらしい。
「それぞれ自分の腕をみせられるようなパフォーマンスを1つ、ということでどうでしょう?」
勝負というよりは、相手の腕を見たい、って事……あ、違うか。相手のちょっといいとこ見てみたい!って奴なのか、これは。
「うん、じゃあそれでいこうか」
「では先行は私で」
言うや否や、女性は弓に矢をつがえて美しいフォームで引き絞り、矢を放った。その矢は違うことなく近くの木に生っていた木の実を射貫き、地面へ落とす。
成程、自信があるから落ち着けたのね。
女性は木の実を貫いた矢を拾い上げると、加鳥に渡した。……おお、木の実のど真ん中射貫いてる。
「じゃあ次は僕の番でいいかな?」
加鳥も薄く笑みを浮かべながら、手近なところにあった大ぶりな花を一輪摘み取った。
そしてそれを空中へ投げると、風魔法を使って空へ舞い上げる。そこで素早く弓を構え、笑みを消し鋭い視線を空へ向けたかと思うと、鋭く矢を放つ。
矢は殆ど真上へ飛び、やがて風魔法に支えられながら花弁と一緒にゆったり落ちてきた。
「はい」
加鳥が拾った花びらを女性に渡すと、女性は唖然としてしまった。
それもそのはず、花弁は6枚とも、矢で射ぬかれて穴が空いていたのだから。
……このパフォーマンスの効果は絶大で、加鳥はあとからあとから押し寄せる女性射手達と弓の訓練をする羽目になったのだけれど、そのおかげで色々な情報も手に入ったようなので正にグッジョブというところかね。
そういや、夕方に全員がうまく一人になれるように工夫して『交信』のお時間、っていう打ち合わせだったんだけど……こいつら、上手く一人になれるんだろうか?
皆さんの努力と工夫と運に期待。




