94話
目が覚めたら実験室。畳んで置いておいたはずの布団が敷かれてて、そこで何故か寝てた。
「起きたか」
「今何時ッ!?」
「11時半」
他の人全員神殿に行っちゃったので暇している鈴本は私まで寝ちゃったので1人寂しくソリティアやってたらしい。ごめん。
「他の人から連絡は?」
「社長曰く、普通に溶け込んだ、とのことだ。角三君と鳥海は騎士枠、羽ヶ崎君と社長は魔術師枠、刈谷が神官枠で、加鳥は射手枠で採用されたらしい。とにかく傭兵だの冒険者が多いみたいでな、神殿は今人で溢れかえっているとか言ってた」
「お昼ご飯は?」
「向こうで出るらしい。というか、住み込みだと。まあそうだよな。魔王はいつ襲ってくるか分からないんだから」
となると、暫くは私と鈴本と針生で3人かな。
「針生はそろそろ一旦帰りたいって言ってたぞ。迎えに行ってくれるか?」
そりゃ、影に居る忍者にご飯は出ないわな。出たら怖い。
ちなみに、針生の影渡り、フロアをまたぐ移動ができないらしい。ちょっと縛りが複雑怪奇らしいのでこれはよくわからん、としか言いようがない。
「じゃあお昼ご飯は3人前かな。何か食べたいものある?」
「いや、特にない」
全国のお母さん方が「何でもいいが一番困るのよ!」って言うのがよく分かるぜチクショー。
針生が連れて行ったみなもの視界を借りて『転移』タクシー往復便。
針生を連れて帰ってきました。
「ただいまー。舞戸さん、ご飯何?」
「まだ決まってないんだけど、何食べたい?」
「え、じゃあ炒飯」
うん。作り甲斐があっていいねいいね。……しかし、問題は鍋振れるかなんだよなあ。
「できたよー」
3人分だと鍋振るのがぎりぎりできないので2種類作って1.5人前ずつ作った。
くっそ、筋肉!筋肉欲しい!もっと筋肉を!もっと力を!我に力をっ!
……まあ、少量ずつ作った方がぱらぱらに作れるしね。うん、良い事もあるよ。うん。筋肉はあるに越したことはないけど。
「やっぱり発音するとハーチャン、文字にするとチャハーンかなー」
「ポイントはやはり最初と最後の文字、それからアクセントの位置のズレか」
「何の話だね」
「ハーチャンとチャハーンのどちらがよりチャーハンに近いか」
なべて世はことも無し。
炒飯食べてたら社長から連絡が入った。
『早速角三君がやりました。高位の女性聖騎士といいかんじです。『共有』封じみたいな特殊なスキルや道具は持っていないみたいなので、今晩の『共有』被害者は彼女かもしれません。さくらに接続してくれれば見えます』
うおっ!?早くね!?そんなにすぐそんな話になって……ああ、いいのか。相手が騎士、即ち戦闘職という事は、お互い装備の話とかスキルの話とかになってもおかしくは無いもんね。
ちなみに、さくらをはじめとして数体のメイドさん人形がそれぞれのメンバーの荷物に紛れている。
必要な時にはステルスにして確認ができるから、普段は荷物に紛れさせてぶち込んであっても問題ない。
ずっと監視してるのは流石にプライバシー的にまずいので、一応皆さんには『見られたくない時はメイドさん人形のメイド標準装備を頭から目の上に移動させて目隠しにしておいてくれ』と言ってある。
さくらは社長についていった子なので、社長が今ちょうど角三君を見るのにちょうどいい位置に居るということなんだろう。
『ちなみに俺の戦闘スタイルは伏せてあるんですが』
そりゃそうだ。社長と加鳥は戦闘スタイル=本人みたいなものなんだから、ばれたらアウトでしょうよ。
『良い訓練になりますね。前回の戦いでは一対一に問題性があることが分かりましたから。ちょうどいいんでここで少し鍛えていくことにします。次の連絡は夕方以降です。それじゃあ』
それで切れちゃった。向こうも忙しいみたいだね。それにしてもやっぱり向上心があるな、社長。素晴らしい事だ。個人的には『向上心の無い奴は馬鹿だ』っていうのは完全正答では無いと思ってるんだけど、まあ、普通の場合は無いよりあった方がいいよね。
折角だからさくらと『共有』してみる。
見てみると、ほう、確かに。角三君が剣のお手入れしてる横で女性騎士が何か話している。あ、もしやこの人、鳥海と戦ってたうちの1人じゃないかな?多分倒された方の。
成程、流石神官の総本山。回復魔法ならお手の物、って事か。この様子だと膝にレーザーを受けてしまった3人も無事かもしれないね。
それにしても、角三君、がっちがち。女性慣れしてないっていうレベルじゃない。
そのおかげか、女性騎士の方に警戒心が無いのが怪我の功名なんだけども。
……さくらにちょっと視点を変えてもらえば、やはりというか女性神官に話しかけられてがっちがちになっている刈谷が見えた。
こっちも『新参者に親切にしてあげよう』な雰囲気なのでまさか情報収集されてるとは思われていないだろうけど……こんなのでこいつら今後の人生大丈夫なんだろうか。
いや、私が心配することでもないんだけどさ、こう……見ていて、凄く、不安になるぞ。こいつらのコミニュケーション能力。
……私も人の事言えないんだけどさあ……。
お昼食べ終わって針生を神殿へタクシーしたら、ひたすら『誘惑』装備の着替えを縫う。他のは着替えが既にあったんだけど、『誘惑』装備だけはちょっと生産が間に合ってなかったので今作ってる。後で針生に渡して皆さんに届けてもらう予定。
そしてソリティアにも飽きたらしい鈴本、恐ろしい事を言いだした。
「舞戸」
「ん?」
「誰かのメイドさん人形に接続してパス開いておいてくれないか、暇だ」
「……は?」
「いや、だからパス開いて」
……そういえば、ハントルが寝落ちする前言ってたな。『あ、開いてる』と。
……よし。多分、違う。違うとも。思い返せばあの時とかもそんな感じしたけど多分そんなことは無かった。無かったに決まってるけど、一応、一応、念の為確認は、しておかないといけない。
「もしかして私と君って、パス繋がってたりする?」
「お前気づいてなかったの!?」
……よ、よし!まだ!まだセーフだ!問題はここからだ!
「で、それ、パス開いてたりすると、私の頭の中だだ漏れになったり」
「ああ、してたことあったな。お前が風邪ひいた時とか」
「私通してケトラミとかハントルとかと話できたり」
「するな」
……アウト……!
落ち込んでいたら「いいから見せてくれ、気になる」とせっつかれたので、試行錯誤して開けました。
今まで無意識にやっちゃってた事を意識して行うっていうのは割と難しかった。
というか、何故パスが……いや、想像はつくけど。
あれだろ、つまり、グラスの中身の云々。
「ところで羽ヶ崎君も」
「パス繋がってるよな」
あ、うん、やっぱり?
頭の中身だだ漏れてたって全裸見られてたっていうよりも数倍恥ずかしいよね。
なんというか、この一言に尽きる。
……消えてしまいたい……。
落ち込んだりもしたけれど私は元気だということにしよう。します。させてください。
どうしようもないので諦めてメイドさん人形達に接続して横流ししながら私は縫い物を続けるよ。
……と思ったらいきなり横に居た鈴本が盛大に吹いたのでメイドさん人形の方に意識を集中させる。
接続先は『あさぎ』。羽ヶ崎君機だね。
見えてきたのは、羽ヶ崎君、なんだけど、様子がおかしい。
あさぎをステルスにして周りをもうちょっと良く見てみると、杖を構えた女性術士が複数人。
何をどうやってこうなったのかは全く分からないけど、女性術士たちに壁際に追い詰められて警戒心むき出しの獣のような威嚇をするしかない羽ヶ崎君。
衣服に乱れがあるから多分あの女性術士たちに剥かれかけたんだろうなあ。
成程、術士の女性はアクティブなんだな。頑張れ。
「まさか羽ヶ崎君がこんな状態になるとはな……」
鈴本には結構衝撃だったらしい。まあ、そりゃそうだね。私も割とびっくりしてるよ。
それからしばらく見ていたら、遂に堪忍袋の緒が切れたらしい羽ヶ崎君が水魔法を展開して逃げ出した。
ゼロ距離で打ったもんだから巻き添え食って自爆もしてて、頭から水被った状態になっている。
そして暫く視線を彷徨わせてから、はた、と何かに気付いたようにすぐにどこかへ足早に去っていってしまった。
……ええと。
「鈴本君、解説をお願いします」
「『お掃除』係を探したけどいなかった、って事じゃないのか?多分それを無意識に当てにしてゼロ距離水鉄砲やらかしたんだろう」
……なんか、ごめん。
「で、多分着替えに行ったんじゃないのか?着替えは持ってるんだし心配しなくても大丈夫だろ」
……。
気を取り直して今度はさくら、つまり社長視点。
見えたのは社長、と、それを囲む男女問わずの人だかり。女性の方が比率が高いけど、男性もいる。
流石に『演技だと思えばいける』と豪語していただけあって、なんか……こう、別人のようである。
「社長ってこんな笑い方するんだな、違和感が凄い」
「なんか爽やかだよね。違和感が凄い」
社長は何やら爽やかな笑顔を浮かべながら延々と何かを話していて、周りの人は熱心にそれを聞いている、と。
社長の表情と言い、人だらけな所といい、人々が社長の話聞いて逃げない所といい、違和感だらけ。
……いや、熱心に聞いてる人と熱心に聞いてるふりをしている人が居るんだろうけど。
実は、音声まで拾う事もできるんだけども、鈴本に垂れ流しする時に音声まで入れると負荷がかかりすぎるのでさっきから映像だけ拾って流してる。奇妙な感覚だね、どうも。
「社長は……これは、洗脳でもしてるのか」
やりかねない。否定できない。なぜなら社長だから。
さっきのが気になったので、もう一度羽ヶ崎君の『あさぎ』に視点変更。そしてすぐに俯いてもらった。
羽ヶ崎君、着替え中だった。ちゃんとメイド頭装備を目にずらしてからにしてって言ったのにしてなかったんだからお前が悪い。けど一応憚っておくよ、うん。
……ここはどうやら寝泊り用に貸し出されてる部屋の中みたいだ。只、やっぱりというか他人と相部屋らしい。神殿がいくら広くてもこの数の傭兵を雇ってたら部屋が足りなくなるのは当然だもんね。うん。
「舞戸、羽ヶ崎君映さないならせめて音声入れてくれ、よく分からない」
……さっきからホントに鈴本の暇つぶしの為のテレビ扱い……いや、テレビのアンテナ扱いされてるぞ、私。音声を入れて負荷がかかるのは私なんだけどな。
……しょうがないから音声も接続した。
「……ったよな。よくそんな細い躰であんな魔法打てるな」
相部屋になったらしい人が何か話しかけてる所かな?こっそりそっちの方を見てみたら、魔術師っぽい、けど結構ガタイのいいおにーさんがいらっしゃいました。この世界では魔術師もムキムキじゃないといけないのか?
「まるで女みてえじゃねえの。しかし、躰もだが、アンタ肌白いな。……北の方の出身か?」
しかしそんな事ばっか言ってると知らんぞ、羽ヶ崎君そろそろ怒るぞ。よりによって羽ヶ崎君の地雷ばっか踏み抜きやがって……。
「それにしても、背丈と骨格が多少アレだけどよ、正直」
「さっきからさあ」
また堪忍袋の緒が切れたらしい羽ヶ崎君、ついに術士っぽいおにーさんの台詞を遮った。
その声は果てしなく、冷たい。が。
「……何、人の事じろじろ見てんの?ヘンタイ」
……おにーさんの方はというと、一向に気にしないどころか、少し眉を上げてヒュウ、と口笛を吹いてみせた。
「いいね、その表情。嫌いじゃねえぜ?」
……隣で鈴本が盛大に吹いた。そして笑い出した。この笑い、誰が止められようか。いや、誰にも止められまい。
……羽ヶ崎君には悪いけど、あれは……あのおにーさんにとっては……『ご褒美』だぞ、うん。
ちなみにそのおにーさんは鳩尾に氷の弾丸くらって沈められた。南無。




